会場:静岡市美術館 | 会期:7/26(金)〜9/23(月・祝) |
ティントレット、ヴァン・ダイクから
モネ、ルノワール、シャガールまで
1983年に東京都八王子市に開館した東京富士美術館は、国内外で制作された幅広い時代の絵画・版画・彫刻・写真・陶磁等を約3万点収蔵している。特にその西洋絵画コレクションは、16世紀のイタリア・ルネサンスから20世紀の近現代美術までを網羅し、国内屈指の充実度を誇るものだ。この展覧会では、同館の所蔵品から選りすぐられた80点余の西洋絵画が展覧される。
西洋では、伝統的に神話画や宗教画が高尚な絵画ジャンルとして重視されたが、近代になると斬新な絵画主題の開拓や、造形表現そのものの革新へと画家たちの関心が移っていった。モネ、ルノワール、ゴッホ、シャガールといった人気画家のほか、ティントレット、ヴァン・ダイク、クロード・ロランら古典的巨匠(オールド・マスター)の名画を通して、西洋絵画400年の歴史を堪能してほしい。
展示構成
第Ⅰ部 絵画の「ジャンル」と「ランクづけ」
絵画には肖像画、静物画、風景画といったさまざまな「ジャンル」があるが、この第Ⅰ部では「ジャンル」が重要な意味合いを持った16世紀から19世紀までの絵画作品に光が当てられる。
西洋では伝統的に「ジャンル」に序列が設けられていた。最も高尚な「ジャンル」とされたのは聖書や神話、史実に取材した歴史画。その下に身分の高い人々を表した肖像画、庶民の暮らしを主題とする風俗画、田舎や都市の景観を描いた風景画が続き、静止したモチーフを描く静物画が最下位に位置づけられたのだ。こうした考え方の根底には、芸術を精神的な活動として職人的な手仕事と区別し、教養や構想力が求められる絵画主題を尊ぶ、イタリア・ルネサンス以降の芸術観があった。さらに17世紀のフランス王立絵画彫刻アカデミー(美術教育機関)において、「ジャンル」の序列はよりいっそう重要性を増していくようになる。
Ⅰ-1. 歴史画:神話、物語、歴史を描く 〜絵画の最高位〜
歴史画は、文字通り歴史的な主題を取り上げた作品だけでなく、広く「何かを物語る絵画」を指す。この「ジャンル」に含まれるものは、聖書に取材した宗教画、古代ギリシャ・ローマ神話を描いた神話画、抽象的な概念を表した寓意画、古典文学や伝説を描いた作品などだ。
Ⅰ-2. 肖像画:王侯貴族から市民階級へ 〜あるべき姿/あるがままの姿〜
肖像画の起源は古代エジプトにまでさかのぼり、他の「ジャンル」より長い歴史を持っている。16世紀から17世紀にかけて、王侯貴族や裕福な市民がこぞって肖像画を注文し、権力や社会的地位、富の象徴としての機能を果たすようになった。
Ⅰ-3. 風俗画:市井の生活へのまなざし
庶民の日常生活を描いた風俗画は、17世紀に市民社会が形成されたオランダで盛んに描かれた。また、18世紀のイギリスで誕生する「ファンシー・ピクチャー」は、愛らしい衣装を身にまとう子どもを主題とし、風俗画と肖像画の性質を併せ持つものだ。
Ⅰ-4. 風景画:「背景」から純粋な風景へ 〜自然と都市〜
風景描写は、長らく人物モチーフの背後を飾る副次的な存在とみなされていたが、17世紀のオランダでは、風景そのものに主眼を据えた作品が盛んに描かれるようになる。さらに18世紀以降、ヴェドゥータ(都市景観画)や廃墟画など、風景主題はいっそうの広がりを見せていった。
Ⅰ-5. 静物画:動かぬ生命、死せる自然
静物画とは、果物や花、食器など静止したモチーフを描いた作品のことを指す。17世紀のオランダとフランドルで大いに発展し、次第にフランスにも流入していった。個々のモチーフには、はかなさや死、富、虚栄といった象徴的な含意を伴うこともある。
第Ⅱ部 激動の近現代 ー「決まり事」の無い世界
第Ⅱ部では19世紀から20世紀に光を当て、この時期の美術界を主導したフランスの動向を主軸に据えつつ、主題(描かれた内容)と造形(描き方の特徴)の両面から近代絵画の革新性についてひもとかれる。
18世紀後半から19世紀初頭にかけて、フランスでは古代ギリシャ・ローマ美術やルネサンスを規範として、普遍的な理想美を追求する新古典主義が主流を成していた。一方、その反動として誕生したロマン主義は、画家の感受性や個性を重んじ、独創的な芸術表現の開拓を促した。以降、レアリスム(写実主義)、印象主義、象徴主義、フォーヴィスム、キュビスム、エコール・ド・パリ、シュルレアリスムといった多様な画派が、次々と前衛的な絵画表現を生み出し、「ジャンル」にまつわる従来の価値観や、美術の「決まり事」を塗り替えていったのである。
Ⅱ-1.「物語」の変質
近代には、新たな絵画主題が数多く開拓される。ロマン主義においては、異国の人々や風景、同時代の事件など、それまで絵画化されることの少なかったモチーフが人気を博した。続いて台頭したレアリスムの画家たちは、農民や労働者など身近な現実のモチーフを理想化することなく描くようになる。その後、現実をありのままに写し取る作画姿勢は印象派へと受け継がれるが、彼らは眼前の風景の中でも、うつろいゆく光や雲といったつかの間の「現象」を活写することに注力した。さらに20世紀に入ると、夢や無意識下の世界を表すシュルレアリスムをはじめとして、非現実の世界を描く動きが広がりを見せていく。
Ⅱ-2. 造形の革新
ルネサンス以降、画家たちの関心は、絵画という二次元平面の中に三次元の現実世界を再現することにあった。遠近法や明暗法による立体表現、写真のような滑らかな絵肌が好まれたのもこのためである。しかし、近代になると、そうした現実の再現よりも、色彩や形態、筆触といった造形的な要素そのものに主眼が据えられるようになっていく。特に筆触は重要な表現手段となり、例えば印象派の画家たちは戸外のまばゆい光を描くべく、絵具をパレットで混ぜずに、原色に近い色味の小さな筆触をキャンバス上に並べる手法を用いた。また、空間表現においても、平面的な画面構成が好んで取り入れられたり、異なる視点から捉えた複数のモチーフを取り込む「多視点」の構図が生み出されたりと、さまざまな表現の可能性が探求されていったのだ。
関連イベント
学芸員によるスライドトーク
日時:8月24日(土)、9月7日(土) いずれも14:00〜
会場:静岡市美術館多目的室
参加料:無料
定員:各回70名(予定)
※当日10:30より整理券を配布、定員になり次第配布終了。
※画像は全て 東京富士美術館蔵 Ⓒ東京富士美術館イメージアーカイブ/DNPartcom
[information]
珠玉の東京富士美術館コレクション 西洋絵画の400年
・会期 7月26日(金)〜9月23日(月・祝)
・会場 静岡市美術館
・住所 静岡市葵区紺屋町17-1 葵タワー3階
・時間 10:00〜19:00(展示室への入場は閉館の30分前まで)
・休館日 月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日は休館)、8月13日(火)は臨時開館
・観覧料 一般1,400円、大高生・70歳以上1,000円、中学生以下無料
※障がい者手帳等をご持参の方および必要な付添の方原則1名は無料
・TEL 054-273-1515(代表)
・URL https://shizubi.jp