聞き手・文/REIJINSHA GALLERYスタッフ
2026年1月30日(金)からREIJINSHA GALLERYで開催される「黒木リン展 ハザマの世界」。つけペンの多様な線によって静謐な幻想世界を生み出す画家・黒木リンによる、同所では5回目となる個展だ。
彼女の制作の裏側をより深く、そして今後の展望も探るべく、ギャラリースタッフが話を聞いた。
◆『ハザマの世界』を描き続けて

《HAZAMA-56 Plains Zebra》2025年 墨、アクリル/和紙、パネル 41.0×31.8cm
── お久しぶりです! 今回はREIJINSHA GALLERYではちょうど2年ぶりの個展ですね。ご自身の作品や創作活動について、前回から何か変化はありましたか?
特に変わらず、今もHAZAMAシリーズを描き続けています(笑)
──今回の個展タイトル「ハザマの世界」は、独自の想像世界である『ハザマ』を描いて来られた黒木さんとしては原点回帰ともいえるタイトルです。
2018年に地元の新潟県で同タイトルの個展をしたことがあるのですが、REIJINSHA GALLERYさんでは今回で5回目、節目の個展ということもあり、変わらず描き続けている『ハザマの世界』をそのままタイトルにしました。
── 黒木さんは実際に訪れた場所をモチーフとして描かれますが、今回の出展作品中に描いた中で、特に印象に残っている場所はありますか?

《HAZAMA-58 Gemsbok》2025年 墨、アクリル/和紙、パネル 53.0×33.3cm
オリックスという動物を描いた「HAZAMA-58 Gemsbok」ですね。前回の個展で東京に来た際に足を運んだ場所です。早朝に神社へと参拝に行く道すがら、パシャパシャとスマホで写真を撮りました。ギャラリーからも近い日本橋本町3丁目のあたりなので、個展に来られる方はそちらにも足を運んでみていただきたいです。
◆創造性を育んだ雪国の冬
──黒木さんは新潟を拠点に制作をされていますが、作品制作において新潟という環境から受けている影響はありますか?
受けていると思いますね。色のない世界の方が落ち着くという感覚は、雪国に生まれていなければなかったかもしれません。家も木も空さえも、見える何もかもが雪に覆われた、あたり一面真っ白な新潟の冬。空気は澄み切っていて音も心地よく無音。そんな新潟の冬が好きです。
新潟の冬は色が少ない。空は白や灰色が多いんです。私の周りでは、雨や雪が降っていなければ「晴れている」と表現しますが、わかってくださる方はいるだろうか……。
──あ、私も新潟出身なのでよくわかります! 新潟の冬は雪の白と曇天の灰色、モノトーンの世界ですよね。

新潟の冬景色(ギャラリースタッフ撮影)
私の描く『ハザマの世界』は寒くも暑くもない無音無臭、時間も存在しません。感覚が制限されている場所として描いています。「感覚が制限されている」という部分に私は心地良さを感じるのですが、そこに新潟の冬が凝縮されているような気がしますね。
──作品制作において影響を受けている人物や作品はありますか?
いろいろな作品や人物から影響を受けていると思います。特別意識しているものはありませんが、大げさではなく日々見聞きし感じること全てから様々な影響を受けとっていますね。それが時に苦しくなってしまうこともあるのですが。
◆つけペンという名の相棒

黒木リンのInstagramでは、制作過程を動画で見ることができる。ペンの音にも注目だ。
──描き手として感じておられるつけペンの魅力はなんでしょうか?
1本のペンと、自分の手加減で、色も質感も表現できることでしょうか。
太い線も細い線も、はっきりした線もかすれた線も、同じつけペンで描いています。ペン先が削れてきたら新しいペン先に交換しますが、使っているペン先は日光の丸ペン1種類だけです。
部分的にアクリル絵の具で色を入れることもありますが、線で表現している生きものの毛並みの柔らかさや硬さ、肌の質感、新しい柱なのか、朽ちた柱なのか……そういった描き分けを1本のペンでできるところが最大の魅力且つ、腕の見せ所なのかなと思います。
──以前制作工程を拝見した際に、つけペンでの制作はひたすら線を画面上に重ねていく非常に地道で根気のいる作業なのだとわかりました。それを続けておられる中で、つらさを感じることはないのでしょうか?
眼精疲労と肩こりのつらさはあります(笑)こまめに体を動かしたり長時間集中し続けないなど対策していますが、片頭痛で寝込むこともあり、なかなかつらいです。
一方で、描くことそのものへのつらさはなくなりましたね。地道にコツコツと線を重ねる作業が楽しいし、出来上がっていく過程も楽しいので。今の描き方やスタイルが、性に合っているのだと思います。
──以前のインタビューにて、黒木さんは元々漫画家を目指しておられたと伺いました。当時はどのような漫画を描かれていたのでしょうか?
少年漫画を描いていました。バディものでアクション漫画でしたね。漫画雑誌の編集者の方にお世話になった時期もありましたが、受賞歴はなく、持ち込みではいつも「絵が下手だ」と言われていました。今ではいい思い出です。

当時の漫画原稿。黒木は今も大切に保管している。
──漫画は絵と物語を同時に構築する必要のある分野なので、黒木さんも元来物語を作ることがお好きなのではないかと思うのですが、この『ハザマ』シリーズではあえてそういった要素が排除されているように感じます。なぜでしょうか?
物語という要素を排除しようと思って作品を描いたことはないですが、言われてみれば排除しているのかもしれないですね。
『ハザマの世界』に心を置くことは私にとって刺激の多い現実に生きながら、その現実から離れ、安らげる時間でもあります。だからこそ、そこに物語は必要ないのです。静寂だけど、どこか違和感を感じ、でもそれが私にとっては心地いい。そんな自分と生きものだけの空間を、HAZAMAシリーズで描きたいと思っています。
◆この先に描く世界

《HAZAMA-59 Asian small-otter》2025年 墨、アクリル/和紙、パネル 18.0×18.0cm
──REIJINSHA GALLERYでは5回目の個展ということで、アーティストとしても順調にキャリアを重ねておられますが、ご自身ではどのように感じておられますか?
まず5回も個展をやらせていただけていることに感謝しかありません。
ギャラリーの方はもちろん、何年も前から変わらず作品を見てくださる方や購入してくれる方がいるから、今まで画家として名乗り、活動してこれました。本当にありがとうございます。
私の作品はつけペンによるペン画ですが、まだあまり知られていない技法のため「鉛筆画ですか?」と聞かれることもあります。私自身もまだまだ知名度が高いとは言えないので、つけペン画というジャンルがあることを広く知ってもらえるよう、今後も精進していきたいですね。
──現在関心を持っていることや、今後描きたいモチーフなどはありますか?
岩絵具で作品を描いてみたいです。今のような線での表現ではなく、絵具での面での表現、絵具を盛って描くやり方を試してみたいなと考えています。
どんなものができるかな。抽象画的な表現もやりたいですね。
──これまでの黒木さんのイメージには無かったような作品が観れそうですね!
最後に、会場へお越しになる皆様へメッセージをお願いいたします。
個展では画集も販売します。今までも折に触れ語ってきましたが、黒木リンのいう『ハザマの世界』とはなにか、どんな世界なのか、どうしたら『ハザマの世界』を覗けるのかなどについても、絵と絵の間にゆっくりと語るように言葉を載せました。ぜひお手に取って、より深く作品を楽しんでいただけたら幸いです。
いつも観に来てくださる方、久しぶりに観に行ってみようと思ってくださった方、このインタビューではじめて黒木を知ってくださった方、『ハザマの世界』での出会いを楽しんでください。
これまでにない挑戦と展望を語った黒木リン。今回の個展は彼女のキャリアにおいてひとつの転換点となることだろう。
「黒木リン展 ハザマの世界」は、1月30日(金)からいよいよ始まる。
[Profile]

黒木リン Rin Kuroki
1987年 新潟県生まれ
2015年
個展「マボロシノカゲ」(ギャラリーたまごの工房/東京)
個展「マボロシノカゲ」(JAM GALLERY蔵/新潟)
2016年
個展「色のない動物たちの肖像画」(屋根裏ギャラリーめばちこ/東京)
2018年
個展「ハザマの世界」(ギャラリー蔵織/新潟)
DORADO受賞作家展2018(DORADO GALLERY/東京)
REIJINSHA GALLERY`S EYE Vol.1(REIJINSHA GALLERY/東京)
2019年
個展「いつか どこかの ハザマで」(REIJINSHA GALLERY/東京)
第1回ドラード芸術祭(DORADO GALLERY/東京)
2020年
個展「ハザマへの扉」(REIJINSHA GALLERY/東京)
0号展(羊画廊/新潟)
2021年
マスクdeアート展(羊画廊/新潟)
2022年
個展「わたしのハザマ あなたのハザマ」(REIJINSHA GALLERY/東京)
新潟の風景展(羊画廊/新潟)
2023年
個展「白と線に色をそえて」(Gallery Blau Katze/大阪)
第13回小さな絵の大博覧会(DORADO GALLERY/東京)※’18年出展
Art Show FLOWER展 Ⅺ(羊画廊/新潟)※’18、’20、’22年出展
第13回小さな絵の大博覧会受賞作家展(DORADO GALLERY/東京)
2024年
個展「ハザマとジカン」(REIJINSHA GALLERY/東京)
個展「ハザマとジカン 2nd」(Art Gallery TOKYU PLAZA GINZA/東京)
ポスカサイズのアート展(DORADO GALLERY/東京)
第14回創作表現者展審査員特別賞、北見隆・選賞、山田五郎賞受賞(DORADO GALLERY/東京)※’17年山本冬彦賞受賞、’20年特別オーディエンス賞受賞、’22年出展
2025年
新春・短冊アート展(DORADO GALLERY/東京)
猫猫展Ⅴ(羊画廊/新潟)※’24年出展
EAST&WESTサイドストーリー(DORADO GALLERY/東京、Gallery Blau Katze/大阪)※’22年出展
第14回創作表現者受賞作家展(DORADO GALLERY/東京)※’21年出展
個展「黒木リン展」(DORADO GALLERY/東京)
2026年
個展「ハザマの世界」(REIJINSHA GALLERY/東京)
現在、新潟県にて制作
【掲載歴】
2020年「月刊美術8月号」(実業之日本社)作品とコメント掲載
2023年「にいがた市民文学 第26号」(「にいがた市民文学」運営委員会)表紙、裏表紙に作品掲載
公式サイト http://blackxgiraffe.com/
Instagram @rin_kuroki_
Facebook @blackxgiraffe

[information]
黒木リン展 ハザマの世界
・会期 1月30日(金)~2月13日(金)
・会場 REIJINSHA GALLERY
・住所 東京都中央区日本橋本町3-4-6 ニューカワイビル1F
・電話 03-5255-3030
・時間 12:00〜19:00(最終日は17:00まで)
・休廊日 日曜、月曜
・URL https://linktr.ee/reijinshagallery