聞き手・文/REIJINSHA GALLERYスタッフ

《大菊 2021》2021年 油彩/パネル 53.0×45.5cm
2025年3月14日(金)からREIJINSHA GALLERYで6回目の個展「Yin Yang」を開催する、油画家・目黒礼子。近年話題となった書籍の装画を担当したことで、その名を知った方も多いだろう。
これまで一貫して骸骨や花、昆虫をモチーフに描き続けてきた彼女の現在地と進化について、同ギャラリースタッフが話を聞いた。
◆小説『ツミデミック』との出会い
──初めてグループ展にご出展いただいた2012年から数えると長いお付き合いになりますが、2023年発売の一穂ミチさんの小説『ツミデミック』の装画に目黒さんの作品が使用されたことは、大きな出来事でしたね。
表紙に採用された「大菊 2021」という作品は、自分の中でも特に自信作だったので、一穂ミチ先生の本の装画に選ばれたと知ったときは本当に嬉しく、発売日が待ち遠しかったです。実際に書店を巡ると、どこでも一番目立つ場所に菊の花の表紙が並んでいて、その光景にとても感動しました。
──そして、同作が2024年に第171回直木賞を受賞しました。
そうなんです!重版を重ねるごとに帯の文言が変わり、「犯罪小説集」から「直木賞候補作」、そして「直木賞受賞作」へと進化していくのを目にするたびに、嬉しさとともに実感が湧いてきました。さらに、直木賞の受賞パーティーでは一穂ミチ先生ご本人と直接お話しする機会にも恵まれ、大変光栄でした。この一連の経験は、作家としても貴重なものになりました。
── 私も『ツミデミック』を拝読しましたが、全編に漂う死の香りと表紙に咲く大輪の菊の花がリンクしていて、とても印象的でした。直木賞作品に携わったことで、何か反響はありましたか?
まず、多くの知人や友人、親戚が驚き、とても喜んでくれました。私自身が受賞したわけではありませんが、「おめでとう!」というお祝いのメッセージをたくさんいただき、とても嬉しかったです。また、今回の表紙の絵を見た方々から、「次の展示が楽しみです!」という声をたくさんいただき、作品への関心が高まっていることを実感しました。さらに、SNSのフォロワーも増え、多くの方に自分の作品を知ってもらうきっかけにもなりましたね。
◆骸骨に宿る、力と希望

《紅き杯、白き祈り》2025年 油彩/パネル 22.0×27.3 cm
── 目黒さんが一貫して描いてこられたモチーフとしては、花以外にも昆虫や骸骨がありますが、目黒さんの描く骸骨からは不思議と「死」や「恐怖」といったネガティブな印象を受けません。なぜでしょうか?
骸骨というと一般的に死を連想させるため、恐怖や悲壮感を感じる方も多いかもしれませんが、私が描く骸骨にはそのようなネガティブなイメージを持たないでほしいという思いがあります。
私は、死は悲しみや終わりの象徴ではなく、その次の世界への始まりだと考えていますし、生命が終わること自体を恐れるのではなく、むしろその先にあるものに希望を感じています。そういった想いを反映しているからこそ、私の描く骸骨には、温かみや穏やかさがあるのだと思います。
──モチーフ以外にも、目黒さんの個展では毎回200号(259.0 x 194.0 cm)の大作を展示されており、それが印象に残っている方も多いと思います。こういった大作を描くことにはどのような魅力や苦労がありますか?

目黒のアトリエ。
2mを超える大作にも対応したイーゼルが鎮座する。
大作を描くことの魅力は、なによりもスケール感です。キャンバスが大きい分、細かい表現から大胆な構図まで、自由にのびのびと描くことができます。また、見る人を作品の世界に引き込む力が強くなるのも、大作ならではの魅力だと思います。
一方で、苦労する点も多くあります。まず、制作にはかなりの時間と体力が必要です。特に200号のような大きな作品になると、細部まで納得のいく表現を追求するのに根気がいります。また、絵のバランスを取ることも難しく、全体を俯瞰しながら調整を重ねる作業が続きます。
それでも、大きな作品ならではの完成したときの達成感は格別です。作品のスケール感や迫力をぜひ間近で感じていただければと思います。
──尚、今回も同等の大作をご出展いただけるとのこと。あの癖になるような迫力は、ぜひたくさんの方々に体験していただきたいですね!
◆終わらない夢 ー 個展「Ying Yang」について

《Yin Yang》2024年 油彩/キャンバス 259.0×194.0 cm
──今回の個展タイトル「Yin Yang」には、どのような意味があるのでしょうか?
「Yin Yang」は、中国の「陰陽」という考え方からきています。これは、光と影、静と動など反対のものがどちらも大切で、おたがいに助け合いながら成り立っているという意味があります。
私の作品では、「生と死のつながり」も大きなテーマのひとつです。多くの人は死後の世界を暗くて怖いものと考えがちですが、先述したとおり、私はそこに楽しさや安らぎがあると思っています。前回の個展以降、その考えをより強く意識するようになり、「彼岸と此岸」や「陰と陽」といったテーマを表現に取り入れました。
このタイトルには、「死は終わりではなく、新しい世界へと続くものであり、その世界は楽しく穏やかで、美しいものかもしれない」という思いを込めています。作品を通して、そうした世界の広がりやバランスを感じてもらえたら嬉しいです。
──前回の個展以降、意識に変化があったとのことですが、作品制作においてはいかがですか?
「陰と陽」といった対照的な要素を意識的に取り入れるようになったことで、作品の持つ世界観やメッセージがより明確になり、観る人にとっても解釈しやすくなったのではないかと感じています。作品を通じて伝えたいことに変わりはありませんが、新たな視点を加えることで、表現の幅が広がったように思います。
──それでは、本展の見どころを教えてください。
今回の出展作品も油彩が中心となりますが、小作品ではさまざまな素材を組み合わせたミクストメディアにも挑戦しています。特に、実験的なアプローチとしてアクリルや箔、ヴィトラーユ、クラッキングメディウム、さび塗料など、多様な材料を取り入れて制作しました。それぞれの素材が生み出す質感や表情の変化を楽しんでいただけると思います。技法や使用している素材について気になることがあれば、ぜひ会期中にお気軽にご質問ください!

《Yin Yang ー陰陽の標本ー》2025年 ヴィトラーユ、アクリル/パネル 33.3×33.3 cm
──ご来場になる皆様にメッセージをお願いします。
個展「Yin Yang」にご興味をお持ちいただき、ありがとうございます。
本展では、骸骨や花といったモチーフを通じて「陰」と「陽」、そして「生」と「死」という相反する要素の調和を探ります。骸骨は死の象徴でありながらも生命の痕跡であり、花は美しく咲き誇る一方でやがて朽ちる存在です。これらの対極的な要素を組み合わせることで、儚さの中にある永遠や、終わりの中にある新たな始まりを表現しています。
作品に込められた想いや、それぞれの作品が持つ物語を自由に感じ取っていただきながら、ご自身の視点で「生と死のあわい」に思いを巡らせていただければ幸いです。
──最後にお聞きします。今後新たに挑戦したいことはありますか?
骸骨の魅力から離れることはないと思いますが、今後は新たに抽象的な表現にも挑戦したいと考えています。具象的なモチーフを扱ってきましたが、これからは形や色の抽象的な組み合わせを深め、表現の幅を広げていきたいと思っています。
また、デジタルアートや立体など、今まで手がけたことのない素材や技法にも挑戦し、さらなる表現の可能性を追及していきたいです。
飽くなき探求心で進化し続ける目黒礼子。その圧倒的な画力と世界観は、鑑賞を“体験”にまで引き上げてくれることだろう。
「目黒礼子 Yin Yang」は、REIJINSHA GALLERYで3月14日(金)から始まる。
[Profile]
目黒 礼子 Reiko Meguro
1972年
東京都生まれ
1997年
女子美術大学大学院修了
2006年
トーキョーワンダーウォール公募2006トーキョーワンダーウォール賞受賞(東京都現代美術館)
2008年
第17回青木繁記念大賞展(郡山市立美術館/福島)
2011年
LIONCEAUX PLUS Vol.4(日本橋三越本店/東京)
2013年
錨をあげて独立美術の新しい潮流(神田日勝記念美術館/北海道)
2014年
第9回前田寛治大賞展推薦(倉吉博物館/鳥取)
Sensations 17絹谷幸二と17人の仲間たち(日本橋三越本店/東京)
2016年
50の顔 Vol.2(REIJINSHA GALLERY/東京)
2017年
個展「実験室」(REIJINSHA GALLERY/東京)※’15年開催
2019年
個展「party」(REIJINSHA GALLERY/東京)
2021年
個展(GALLERY33 SOUTH/東京)
個展「骸骨と花」(REIJINSHA GALLERY/東京)
2022年
ミニヨン展(日動画廊/東京)※’21年出展
2023年
個展「CARNIVAL」(REIJINSHA GALLERY/東京)
個展「CARNIVAL 2nd」(Art Gallery TOKYU PLAZA GINZA/東京)
2024年
第91回独立展(国立新美術館/東京)
※’95年より毎年出展、’07年新人賞、’08年佳作賞、’09年損保ジャパン美術財団奨励賞、’10年奨励賞、’11年独立賞受賞、’12年会員推挙
2025年
個展「Yin Yang」(REIJINSHA GALLERY/東京)
現在、東京都にて制作
独立美術協会会員
日本美術家連盟会員
<出版物>
都筑道夫「絶対残酷博覧会」装丁(河出書房新社)
一穂ミチ「ツミデミック」装丁(光文社出版)第171回直木賞受賞
・Instagram @meguromegurou
・X meguromegurou
・公式WEBサイト megurou.com

[Information]
目黒礼子 Yin Yang
・会期 2025年3月14日(金)~3月28日(金)
・会場 REIJINSHA GALLERY
・住所 東京都中央区日本橋本町3-4-6 ニューカワイビル 1F
・電話 03-5255-3030
・時間 12:00~19:00(最終日は17:00まで)
・休廊 日曜、月曜 ※3月20日(木・祝)開廊
・URL https://linktr.ee/reijinshagallery