アーティスト

柴田梓インタビュー
──狼の中に人を見る

聞き手・文/REIJINSHA GALLERYスタッフ

《月夜の歩》

《月夜の歩》2025年 岩絵具、水干絵具、箔/和紙、パネル 100.0×80.3cm

 

東北芸術工科大学在学中から狼の姿を描き続けている、日本画家・柴田梓。幻想的で神々しさすらも感じさせる彼女の作品は、動物好きのみならず多くの人々を惹きつけてやまない。
REIJINSHA GALLERYで5回目となる個展が2025年4月11日(金)から始まるのに合わせ、制作の裏側やモチーフである狼への想いについて、ギャラリースタッフが話を聞いた。

 

◆狼と15年

《狼》2013年 岩絵具、水干絵具/和紙、パネル 75.0×215.0cm 個人蔵
※初めて狼の姿を描いた作品

 

── そもそもの質問にはなりますが、日本画を専攻されたのはなぜでしょうか?

とにかく絵を描きたかったので、予備校在籍中から日本画科か油画科に目標を絞っていました。その時点では日本画も油絵もほとんど描いたことがなかったので、受験課題の作例を見て直感で日本画にしたという感じです。そのため、初めて日本画材を使用して制作をしたのは大学入学後なのですが、結果的に絵具の質感や色合いが気に入り、やりたい表現にも合っていると思えたので良かったです。

 

── 初めて狼をモチーフとして描いたのが、大学3年時でしたね。
大学時代から数えると今年で15年近く狼を描いておられることなりますが、これだけ長い間彼らの姿を描き続けてこられたのには、どのような理由があるのでしょうか?

まず、イヌ科の動物がなぜか好きなんです。おそらく生まれつき好きなのかなと思います。
一番古い記憶で具体的に好きだと言えるものが『名犬ラッシー』の絵本なのですが、この絵本をきっかけに、犬は賢く勇敢で、人の味方になってくれる存在である、ということを固く信じるようになりました。この考えに加えて、狼を良い存在として捉える日本の狼信仰を知ったとき、強く惹きつけられました。

 

── 狼を描くことの魅力と、難しさについてお聞かせください。

狼の魅力でもあり難しさでもあるのですが、彼らが持つ特徴に「側面の多さ」があります。信仰の対象としての狼、憎しみの対象としての狼、生態学の立場から見た狼、人間にとって最も親しみ深い動物「犬」を通して見る狼…。世界中で良い捉え方と悪い捉え方をされているのは、人間と狼の縁の深さの表れなのだろうと思います。私はそのどの面も心に留めてはいるのですが、それをどのように、どれくらい画面に表せばいいのか、常に迷います。むしろ、意図的に画面に現す必要があるのかどうかという疑問すらあり、現状、少し滲み出る程度に意識したテーマが一枚一枚にあるという感じです。

 

── 狼を描くうえで、こだわりはありますか?

強いこだわりは特にありません。
私が一番気になっていることは、「狼は人から色々な見方をされてきた」という事実そのものなので、私自身が狼の描き方や捉え方を固定し過ぎるのはあまり良くないと思っています。

 

◆個展について

《戯れ》2025年 岩絵具、水干絵具、箔/和紙、パネル 45.5×33.3cm

 

── 2019年に受けられたインタビューの中で、狼に対して「好きというよりも畏敬や悲しみの感情の方が強い」という旨のコメントをされていました。現在はどのように感じておられますか?

正直、そんなことを言っていたっけ!という感じですが…(笑)

 

── 本当です!活字で残っています!(笑)

当時は世の中にある狼にまつわる話をたくさん読み漁っていて、その影響を強く受けていたんでしょうね。その時と比べると気持ちがフラットになった気がします。
最近は他の仕事や制作頻度が増えたことから、外の情報を得るより自分の内面に意識を向けることが多くなっていたので、狼に人のような内面性を見出すような感覚がありました。その感覚があればあるほど、狼の謎めいた部分、知覚できない部分が色濃くなっていくような気がします。

 

── また、本展の作品を拝見すると、メインタイトルである「-戯-」にふさわしく、狼たちが楽しげに遊んでいる様子を描いた作品が多い印象を受けます。より神秘的な雰囲気を纏った作品が多かったこれまでと比べて、何か心境の変化があったのでしょうか?

先ほどの話と通じる部分ではあるのですが、狼の中に人間と共通する感情や表情を見出した作品がいつもよりは多いかもしれません。心境の変化というより、制作した期間の環境、たまたまその時に考えていたことなどが影響していると思います。

 

── そんな本展の見どころを教えてください。

そうですね…やはり「表情」でしょうか。
一生懸命には描きましたので、何か感じていただけたら嬉しいですね。

 

── 表情と言えば、以前お話ししていた中で「作中の狼の表情は描いている時の描き手の心境と逆になる」というお話を伺ったことがありました。本展の狼たちを描いている際はいかがでしたか?

今回は逆になることは無かったです。個人的な強い感情が入ること自体がなく、素直に描けた気がします。印象に残っている作品は、タイトルに「unknown」が入っている、顔が見えにくい作品のシリーズです。
40号の連作や仔狼など、顔や画面全体の表情を明確に描いたものは、親近感や人間性を感じながら描いたのですが、それらを描いたからには顔が見えにくいものも一緒に展示したいと思いました。一つの方向から見た狼のみの展示に未完成さを感じるのかもしれません。今思うと、以前描いていた狼の脚のみを描いた作品も、そういった理由で必要を感じていたのかもしれません。

 

◆本物の狼

《仔狼 #6》

《仔狼 #6》2025年 岩絵具、水干絵具/和紙、パネル 19.0×27.3cm

 

── 今年はニホンオオカミが最後に目撃されてから、ちょうど120年になるそうです。偶然にも同じ年の個展開催に際して、何か特別な想いはありますか?

実を言うとあまり特別なことは思っていません。私にとってニホンオオカミは最初から、生きているとも死んでいるともつかない曖昧な存在だからかもしれません。
これは完全に持論になってしまうのですが、かつて人が「狼を見た」と言った場合、それが犬または犬と狼の混血である可能性は高かったと思います。ただ、遺伝子の上でそれが本物の狼では無かったとしても、誰かが「狼を見た」と言い、彼らの心の中に信仰心や畏怖といった感情を残したのであれば、それもまた「役割」という意味で本物の狼であったのだと思うんです。私が意識の上で犬と狼を近しく感じ、その境界線にこだわりが無いのにはそういった理由があります。

 

── 昔話における河童や鬼、龍といったものたちが、自然現象や理解しえない存在のメタファーとして生まれたとする説を踏まえると、柴田さんのおっしゃった「本物の狼」の定義も十分納得できるものだと思います。
今後描きたい作品はありますか?

実物大もしくは、実物より大きい狼をまた描きたいです。今回は小さめの作品が多かったので、より存在感の強い作品にチャレンジしたいですね。

 

── 最後に、今後の作家としての目標をお聞かせください。

目標といいますか、理想は死ぬまで制作を続けることです。
大学を卒業して今年で9年になりますが、ここまで制作し続けてこられたのは本当に有り難いことだと思います。全て私の周りで支えてくださる方々や、活動を応援してくださる方々のおかげなので、感謝を忘れず、作品制作に向き合い続けたいです。

 

どんなに長く向き合おうと、尽きることなく狼の新たな一面に出会うと語る柴田梓。それは彼女自身の深い精神性や変化の現れでもあるのだろう。
美しくも恐ろしく、時に愛らしい表情を見せる狼たちが集う「柴田梓 -戯-」は、REIJINSHA GALLERYで4月11日(金)から始まる。

 

[Profile]
柴田 梓 Azusa Shibata
1989年
神奈川県生まれ
2014年
秋山由佳・柴田梓二人展「脈脈展」(数寄和ギャラリー/東京)
第6回トリエンナーレ豊橋星野眞吾賞展(豊橋市美術博物館/愛知)
小松久美子・柴田梓二人展(アートスペース羅針盤/東京)
もふもふ展(フリュウ・ギャラリー/東京)
2015年
next(REIJINSHA GALLERY/東京)
dadacha(銀座スルガ台画廊/東京)
2016年
東北芸術工科大学大学院日本画研究領域修了
柴田梓・足立絵美二人展「柴田狼と足立猫」(REIJINSHA GALLERY/東京)
第3回未来展(日動画廊/東京)
2017年
東北芸術工科大学アートウォーク「小松久美子・柴田梓展」(アートスペース羅針盤/東京)
2018年
個展「ノノカミ」(REIJINSHA GALLERY/東京)
想像された狼たち展(武蔵御嶽神社神楽殿/東京)
2019年
TUAD ART-LINKS 2019(新宿高島屋10F美術画廊/東京)
東北のいぶき(銀座スルガ台画廊/東京)
Seed山種美術館日本画アワード2019(山種美術館/東京)
個展「ノノカミ」(REIJINSHA GALLERY/東京)
2020年
猫会議2020(REIJINSHA GALLERY/東京)
2021年
個展「ソラヤマイヌ」(REIJINSHA GALLERY/東京)
HIKARI展(シバヤマアートギャラリー/東京)
2022年
Spirit展(大丸東京店10F美術画廊)
サマーアートフェア2022(大丸東京店10F美術画廊)
2023年
INFINITY 柴田梓・片野莉乃・玉井祥子三人展(そごう千葉店7F美術画廊)
個展「森に隣る」(REIJINSHA GALLERY/東京)
想像された狼たち展(武蔵御嶽神社神楽殿/東京)
個展「森に隣る 2nd」(Art Gallery TOKYU PLAZA GINZA/東京)
2024年
ART ART TOKYO 2024 第3弾「Ongoing:現代アートの今」(大丸東京店)
LUPI(Dazio Grande/スイス)
2025年
個展「-戯-」(REIJINSHA GALLERY/東京)
現在、神奈川県で制作
・Instagram:@azu_sa_shibata
・X:@shibazu1201
・Facebook: https://www.facebook.com/azusaeve
・その他webサイト: https://azusa31811.wixsite.com/azusashibata

[Information]
柴田梓 - たわむれ -
・会期 4月11日(金)~4月26日(土)
・会場 REIJINSHA GALLERY
・住所 東京都中央区日本橋本町3-4-6 ニューカワイビル 1F
・電話 03-5255-3030
・時間 12:00~19:00(最終日は17:00まで)
・休廊  日曜、月曜
・URL https://linktr.ee/reijinshagallery