聞き手・文/REIJINSHA GALLERYスタッフ
2025年7月11日(金)から、REIJINSHA GALLERYでは初となる個展「光を象る為に溜めた人と術、手」を開催する芹澤美咲。個展を目前に控えた彼女に、同ギャラリースタッフが展示や制作への想いを聞いた。
◆描くという行為

《現せ身》 2025年
──今回がREIJINSHA GALLERYでは初めての個展開催となります。会期スタートまで残り僅かとなりましたが、今はどのようなお気持ちですか?
いよいよだなぁと、わくわくと不安が入り混じっている気持ちです。その一方で今描いている絵がとてもよいので、これが会場の空間にあるところを早く見たくて楽しみな気持ちも大きいです。そのためには仕上げを頑張らなくては!と思っています(笑)。
──作品の完成が楽しみですね。芹澤さんの作品には人とのやりとりの中で感じた気持ちや、自身の中に生まれた揺らぎのようなものがリアルに表現されているように感じます。
ありがとうございます。
私にとって描くという行為は、自分という存在を確かめ、向き合い、そして受容していくために重要です。そして“ 展く”こと、つまり作品を他者に見てもらうことは、当然ですが自分の出来事だけで留まらないことを意味します。芹澤美咲という一個人の感受や揺らぎも、私がこの社会や環境の中で生きているからこそ生まれるものです。
私が描くときには、そうした揺らぎや気づきの過程を、できる限りそのままに留めていくようにしています。自分自身の在り方や、他者や社会との関係の中で感じる違和感や願いを、戸惑いながらも正直に画面に置いていくような感覚です。
──芹澤さんにとって、作品を発表すること、他者に観てもらうことにはどのような意味があるのでしょうか?
作品を見てもらうことには、自分の感受していることや考えていることを露呈する怖さもありますが、それ以上に自分自身や社会、そして世界へ正直な姿勢を示すことができる悦びのようなものを感じています。他者とともに生きていることを、静かに分かち合える尊さも、そこにあるのだと思います。
描くことは楽しいけれど、それだけでは完結しない。それは「私」というものが既に私の身一つで完結しないことと似ていると思いました。そして、身体の個別性を持っているという共通性が私たちにはあります。今この同時代を生きている人たちと、実存を確認し合うことで、もう少し居心地のよいところが自分の中にも、世界にも見つかることを願っています。
そして私の描いた絵を通して、観る人自身が、自分の中にある感覚や記憶、感情の揺れをたどってみたり、いつもの景色をほんの少し違う目で見つめ直してみたり──そんな時間が生まれたなら、とても嬉しく思います。
◆素材と対話しながら

本展に向けた小作品の制作風景
──芹澤さんは油彩だけでなく、さまざまな素材や技法を使って表現をされています。制作において大切にしている感覚や発見はありますか?
私は油絵具の透明感や発色のよさ、のびの良さゆえに描いていて心地よいところが好きです。光沢もきれいで乾燥が遅いので感覚的に色を選びとっていく私としては、画面の上で混色することによって全体の空気感が馴染んでいく感じが描きやすい理由の一つだと思います。また、乾いた後には透明性を活かしてレイヤーのように色を重ねていけるため、奥行きや深みのある色彩を生み出すことができます。さまざまな素材に定着し、褪色しにくく保存性にも優れているところも、時間を超えて遺っていく絵を描く上でとても大切な要素だと感じています。
そんな油絵具の魅力を軸にしながらも、選ぶ素材や支持体との色々な対話から新たな可能性が生まれるのを楽しんでいるうちに、自然と表現の幅が広がってきました。
平面や立体のように区切らず、相補的で多様な素材とのやりとりを積み重ねていくことは、作品そのものの魅力を深めてくれるだけでなく、私自身の気づきや問いを広めてくれます。
どのような表現媒体であっても、共通して私が制作において大切にしているのは、瞬間性や、今ここに在る、という感覚なのかもしれません。気になった素材は躊躇わず購入し、まず手元に置いて眺めるということはよくしています(笑)。
──まずは買ってみる。幅広い素材や表現技法は行動力が実を結んだ結果だったのですね。ところで、日々どのような瞬間に「描きたい」「残したい」と感じるのでしょうか?
いい空気の中に身があるときでしょうか。たとえば、夕陽の落ちゆく土手を歩いているときや、静かな自然の中で自分の呼吸がよく聞こえてくるような瞬間とか、綺麗なオオミズアオを見つけたときなど。身がすっと律されるような感覚があると、なにか描きたくなる感じがあります。

《口が退化しても》2025年
とはいえ、電車の中やちょっとした時など、日常的にドローイングをしています。仮に少し思い悩んでいるときや悲しいことがあったときにも、線を引いてそれが紙に残っていくことで「そのときの自分」が無かったことにならない気がするのです。うまく言えないけれど、描くことで報われるというか……どんな気持ちも、私も、確かにそこにあったんだと、自分自身にちゃんと示すような行為かもしれません。そしてそれらは未来の私が見たときに、これまでちゃんと自分自身を生きてきたことの証になるように思えます。
◆表現の歩みと、ことばの力

初個展の会場風景
──これまでグループ展や自主企画での個展、公募展への出展など、積極的に発表を重ねてこられました。こうした発表活動をおこなう中で印象に残っている体験があれば教えてください。
やはり、2022年にhaco -art brewing gallery-で開催した初個展「じぶんの覺えかた」が印象に残っています。
それまで絵を描くこと自体を楽しんでおこなってきましたが、ここで初めて自分一人で空間をつくりあげるということをしてみて、自分で自分の居場所をつくるような、幼い頃に秘密基地をつくったような感覚に近い安心感を覚えました。この個展をきっかけに画面一つをつくりあげるだけでなく、現場で空気感をつくっていくという更なる表現の広がりを実感し、作家活動を続けていく一つのきっかけとなっていると思います。
──芹澤さんといえば、作品タイトルや展覧会タイトルにいつも独自のセンスが感じられます。言語表現について意識していることはありますか?
最近は発音したくなるような語感の心地よさを考えるのが楽しく、特に展覧会のタイトルは歌詞を考えるときのようにローマ字に変換しながら考えることが多いです。

ノートに書かれたメモ
作品のタイトルについては、絵を描き終えてからしばらくして、当時の日記や雑記を読み返しつつ考えることが多いです。描いている時は線や色の選択はほとんど感覚に任せていますが、そのような過程を経ることで、そのとき自分がどのようなことを見て、感じ、考えていたのかなど、ひいては自分自身を構成する要素への認識を深めることができていると感じます。
絵は基本的に視覚を通じて成り立つ表現ですが、内包する感覚は視覚だけではない広く深いものだと思うため、観る人が絵に浸透していくきっかけとして、言語表現はひとつのキーポイントになっていると感じています。
私は常に紙とペンを持ち歩いていて、なにかちょっとした曖昧なことでも感じたことを書き留めるうちに、自分がどのように外界を捉えているのかが見えてきて、安心を覚えます。また、夜は寝る前に日記を書いています。本当に大事なことを見失わないために、そうした時間や自分という瞬間の蓄積を物理的に見返すことができることは、これからを生きていく私の為にもなっています。日記を続けるこつはhave toと思わないことです。皆さんもぜひ!
◆光を象るということ

《工 - ことづけ》2024年
──本展のタイトル「光を象るために溜めた陽と術、手」に込めた想いを教えてください。
「光を象るために溜めた陽と術、手」という言葉にしていくときに、これまで考えてきた、自己や他者の認知や自覚について、海や言葉との関係、身体の歪みのことなども振り返りながら、改めて"見ること"と"遺すこと"の意志と過程について考えていました。
私たちは光があるためにすべてのものを認知することができます。しかしそれは、どこまでどのように"本当"であるのかは分からない。私たちが持っているのは、今この景色を見ている「眼」という身体の個別性だけだからです。だからこそ、象るということ、記録しようとする行為には、自分の認識を確かめる、または具現化して他者に聞くなどの為に意義があり続けていると考えています。光はいつもそうした行為の側にあって、分からないものを目に見え、触れられるものとして実在させることで、私たちを安心させてくれます。
そして象られ記録されてきたものからは、素材に触れた人の手の跡や意志、また素材を扱ってきた人の街や文化や歴史をみることができます。本展のはがきに使用している「工 - ことづけ」という作品は、"天と地をつなぐのが人間の術である"という漢字の成り立ちの一説から着想を得ています。
きっと私は、なにか新しいことを言っているわけではないのですが、分かりやすく太陽の光が見せてくれるものを正直に捉えることができたら、"本当"だと信じられるものが見つけやすくなるかもしれない。そして自分が望むことにもう少し気付いてあげられるようになるかもしれない。そのように信じながら、この展示をつくっています。会場に掲示するテキストもぜひお読みください。
──今回の展示で特に注目してほしいポイントはありますか?
今回は「光を象る」というタイトルにちなみ、光そのものが画面に関わる技法「サイアノタイプ※」を応用した作品にも取り組みました。単に視覚的に“見える”ということだけではなく、光によって「遺されていくもの」について改めて考えながら制作しています。
また、生きることと同じようにいつか終わりがあるということを、夏という季節は強く感じさせてくれます。その中で、「今、ここにいる」という感覚を確かめるようにして、私は手を動かしました。
この時期の、身が延びるような身体感覚に沿ったストロークや、茹だる陽射しの下で見出す色彩などに目を留めていただけましたら嬉しく思います。
※鉄塩を用いて深い青色の像を定着させる写真技法で、19世紀に発明された。紫外線に反応して現像される特徴がある。

サイアノタイプ参考画像
◆これからに向けて
──今後取り組んでみたいテーマや表現はありますか?
正直に言えば、まだ今回の展示の中にいる感覚が強く、今後に向けてのことはあまり考えられていないのですが、今まで扱ってきた光と影のことや透明性、多様な素材、そして象形文字のような原初的なかたちなどには引き続き強く惹かれています。
また、ずっと気になり続けているのは身体のことです。幼い頃にほんの少しだけ習っていたバレエを思い出して最近レッスン体験に行ってみたのですが、外から見るととても軽やかで静かな動きの中に、実は膨大な筋肉の働きや集中があることがとても面白く感じました。
日々の生活の中で食事をつくったり、花を生けたり、誰かと話したり、お風呂で歌ったり、絵の前に立ち続けたりする自分の身体にも、耳を澄ますと確かに色々なものがうごめいている感覚があります。
これからも、私が「私である」と実感できるように、感情や身体感覚、物事の選択に注目しながら、表現を続けていきたいと思っています。主題や表現の幅、深さは、いつの日かやってみたかったことにそっと、少しずつ手や足を延ばすような、骨の間に空気を通していくような、そんなやり方で広がっていく気がしています。

──作家活動における目標をお聞かせください。
表現を通して人と自然、人と人との関係に小さな変化が生まれるような場やきっかけをつくることができたら嬉しいな、と思っています。前述の「作品を他者に見てもらうことにはどのような意味があるか」というトピックと少し重複してしまいますが、社会正義を求める世界の中でも個々人の幸福を保持し、皆が"私"が"私"である意義を感じられる日々を過ごせる世というのが、私の理想のひとつとしてあります。だからまずは、私自身が自分を隅々まで……社会と適応しない自分の側面も殺さずに生きることを大切にしたいと考えています。
そうした姿勢やその表れが、波紋のようにほんの少しずつ静かに滲んで、やがてもっとやわらかく居心地のよい世界へとつながっていくことを心から願っています。
──最後に、本展をご覧になる皆様へメッセージをお願いいたします。
ご多忙の中、そして暑さ厳しき折柄、脚をお運びいただき誠にありがとうございます。作品は、完成してからもご覧いただく方々と出会っていくことでまた新たな景色を持ち含みはじめます。皆さまとの出会いの中でどんな風が通っていくのか、とても楽しみにしております。
忙しない日々を生きる中で、自分自身の呼吸ができるような静かなひとときとなれば幸いでございます。どうぞごゆっくりとご高覧くださいませ。
「光を象る為に溜めた人と術、手」は、REIJINSHA GALLERYで7月11日(金)から始まる。
[Profile]

芹澤 美咲 Misaki Serizawa
2002年
埼玉県生まれ
2020年
深夜の美術展vol.22(大協渋谷ビル/東京)
2022年
個展「じぶんの覺えかた」(haco-art brewing gallery-/東京)
第18回世界絵画大賞展2022(東京都美術館)
芹澤美咲・亀井つき葉 二人展「さくつけと涵養、返礼」(Hifive Gallery/埼玉)
GEISAI#21(東京ビッグサイト)
2023年
FACE 2023(SOMPO美術館/東京)※’22年出展
個展「ひとりとひと」(haco-art brewing gallery-/東京)
三人展「ためつすがめつ」(Gallery soil/埼玉)
空間彩添 -50㎝四方の空間で、生活に彩りを添える。-(aL Base/東京)
個展「words to sea」小屋+kop×芹澤美咲(KOGANEI ART SPOT シャトー2F/東京)
Center line art festival Tokyo 2023中央線芸術祭(SOCOLA武蔵小金井クロス/東京)
UP AND COMERS Vol.2(+ART GALLERY/東京)
ART & DISCO party at Saitama Asaka(アパルトマン朝霞/埼玉)
OverWhelm(THE blank GALLERY/東京)
FACE選抜作家小品展2023(REIJINSHA GALLERY/東京)
2024年
Another side of Winter Il ~楽しい時 Fun Time~(River Coffee & Gallery/東京)
第72回東京学芸大学美術科学部大学院卒業・修了制作展(東京学芸大学)
Dalston group exhibition -part 6-(Gallery Dalston/東京)
第70回五芸祭金沢大会(金沢美術工芸大学/石川)
Shirokane June(Art Gallery Shirokane 6c/東京)
舞踏会(KOGANEI ART SPOT シャトー2F/東京)
ドローイング展「絵と絵が出会う場所」(Art Gallery Shirokane 6c/東京)
藝祭2024(東京藝術大学)
30の顔2024(REIJINSHA GALLERY/東京)
窓をあけて、裏白がみえて、(gallery TOWED/東京)
ちょっと寄り道しませんか vol.3(Gallely 10[TOH]/東京)
取手藝祭2024(東京藝術大学取手キャンパス/茨城)
個展「鏡を立てる、骨盤を立てる、私を歩く」(Art Space銀河101/東京)
2025年
flat(Gallery Valeur/愛知)
三人展「話したいことがあるの」(Art Gallery Shirokane 6c/東京)
「脈白」淡路島滞在制作成果発表展(ooc tokyo office)
卵vol.3 -胎動-(王城ビル/東京)
Face -表情から読み解く-(Gallery Dalston/東京)
ドン・キホーテによろしくChasing Windmills : Regurds to Don Quixote(藝大アートプラザ/東京)
個展「光を象るために溜めた陽と術、手」(REIJINSHA GALLERY/東京)
現在、埼玉県にて制作
・Instagram @sha_n_misaki
・X @sya_n_misaki
2025年の展示情報
グループ展「eyes」
会期:8月6日(水)~8月19日(火)
会場:大丸東京店(丸の内)/MEDEL GALLERY SHU企画
芹澤美咲・NIBB 二人展「守るとか、自分が正気で居るために」
会期:9月5日(金)〜9月7日(日)
会場:東京藝術大学 上野キャンパス ※藝祭内で出展
Hikariba芸術祭2025
会期:9月13日(土)
会場:埼玉会館(さいたま市)
グループ展
会期:10月11日(土)〜10月24日(金)
会場:木之庄企畫(東京・京橋)
個展
会期:10月28日(火)〜11月3日(月)
会場:Art Gallery 東急プラザ銀座

[information]
芹澤美咲 光を象るために溜めた陽と術、手
・会期 7月11日(金)~7月26日(土)
・会場 REIJINSHA GALLERY
・住所 東京都中央区日本橋本町3-4-6 ニューカワイビル1F
・電話 03-5255-3030
・時間 12:00〜19:00(最終日は17:00まで)
・休廊日 日曜、月曜
・URL https://linktr.ee/reijinshagallery