聞き手・文/REIJINSHA GALLERYスタッフ
深い青紫の滲む背景の中に佇む人物。その輪郭は儚く、荒い絵具の海に吞まれてしまいそうだ。
2025年春に武蔵野美術大学の学部課程を卒業した水野遥介。6月20日(金)からREIJINSHA GALLERYにて開催されるグループ展「FIRST CONTACT」へ参加する彼に、同ギャラリースタッフがインタビューをおこなった。
◆制作で浮かびあがる自己

《boundary》2025年 油彩/キャンバス 259.0×194.0cm
──今年春に開催された卒業制作展では優秀賞を受賞されたとのこと、おめでとうございます。
ありがとうございます。
──優秀賞受賞が知らされたときはどんなお気持ちでしたか?
知らされた直後はもちろん嬉しさもありましたが、場所が違えば得られる評価も違うので、ムサビ(武蔵野美術大学)だからいただけた評価だと思っています。加えて学部3年の頃から扱う画布※についての模索を今に至るまで続けているので、作品に対してというよりは、そこに至るまでの試行錯誤や一連の取り組み全体含めていただいた評価だと思っています。
※絵画の土台となる布

出展作品《depersonalizationⅠ》2024年 油彩/キャンバス、パネル 45.5×38.0cm
──卒業制作のうち「depersonalizationⅠ」は本展でも展示されますね。
裸の人物がかがんでいるミステリアスな場面から想像が膨らみますが、水野さんとしてはどのようなテーマで描かれたのでしょうか?
この作品はアパートに友人が遊びに来た際に、その生活の様子を収めた動画を資料として制作したものになります。客観的に自分たちの生活の様子を見てみると、映像にうつる自分の姿に、どこか他人を見るような距離感や違和感を覚えました。「自分なのに自分ではない」「自分である何かを取り去られたような感覚」こうした自己の輪郭のゆがみをテーマに制作しました。
──ご自身がモデルとなって描かれた作品だったのですね。
水野さんの作品は混じりあう紫や青の色合いも印象的ですが、色彩について意識されていることはありますか?
普段から人物を描くことが多いのですが「生々しさ」や「グロテスクさ」を強調したいわけではないので、暖色や血色感を与えるような色味はあまり使わなくなりました。今は青や紫が扱いやすく使っているのですが、今後色味が変化していく可能性は大いにあるかと思います。
──学部課程の4年間で制作に対する気持ちの変化などはありましたか?
もともと細密に描写するような絵を描いていて、色彩も固有色が多かったです。ただ、描いていくうちに「リアル」ってなんだろうと考えるようになって、固定された形や意味を持つものが実は何一つないように感じはじめました。その存在の揺らぎのようなものが自分の感じるリアリティになり、自然と表現も変化していきました。
気持ちの変化でいうと、ただ絵を描くことが好きで自分一人で始めたことに、ギャラリーの方やキュレーター、画集や展示で見ていたような作家の方々など、想像もしなかった人たちが少しずつ関わってくださるようになり、その変化を年々強く実感しています。その一方で、自分の作品が多くの目に触れるようになるにつれて、プレッシャーを感じることも増えてきましたね(笑)。

《課題作品》2020年 油彩/キャンバス 91.0×72.7cm
◆美術との出会い
──絵を描かれるようになったきっかけはありますか?
幼少期から絵を描いたり、工作したりするのが好きでした。もともと祖父が美術に関心のある人だったこともあり、昔から美術館や博物館に行く機会はそれなりにあったかと思います。当時の自分からしたら連れまわされているような感覚だったかもしれませんが(笑)。周りから色んな刺激を受ける環境があったことと、好きに描いたり作ったりさせてくれる家庭だったことが大きかったかと思います。
──小さい頃から美術に触れていらっしゃったのですね。現在も制作においてさまざまなジャンルのものに触れておられるかと思いますが、インスピレーションの源は何でしょうか?
制作の工程として写真も撮りますが、動画を撮ることが多いです。具体的な目的を持たずに撮ることも多々あります。それを資料として描くこともありますし、そこからヒントを得て新しくモチーフを組み直して、また再び撮影してを繰り返しながら資料作りをしていきます。エスキース※はデジタル上でおこなうので、撮影したものをコラージュしながら描きたい要素や構成を少しずつ固めていきます。
※構想を練るための下絵やスケッチ、素描
──影響をうけたアーティストはいますか?
学部の頃からよく見ていたのはSophie Jodoinですね。彼女も人物をよく描いているのですが、グレートーンの色彩と、タッチやストロークがとても好きです。
──インクの滲みや掠れが人体表現と融合したような作風のアーティストですね。
改めて拝見すると、たしかに水野さんの作品とのつながりが感じられてとても興味深いです。
◆今後の制作に向けて

出展作品《slumberⅠ》2025年 油彩/キャンバス 33.3×33.3cm
──大学院に進学されたとのことですが、大学院ではどういったテーマを探求する予定ですか?
引き続き存在の不確かさや曖昧さといったテーマを基に制作したいと思っています。最近は人形やマネキンといったものを新しくモチーフとして扱えないかと模索しているところです。
──どのような表現が生まれるか、とても楽しみです。
では、今後の作家活動において挑戦したいことや目標がありましたら教えてください。
今後は、作品の形式や展示のあり方にもさらに幅を持たせていきたいと考えています。しばらくは絵画制作を続けると思いますが、継続して作品のクオリティを維持できるようになったら、平面にとどまらず、空間的な要素や映像・記録メディアなども交えながら、「見ること」や「存在の境界」に関する問いをより立体的に探求したいです。また、いずれは海外でも展示や発表を行い、異なる文化的背景の中で作品がどのように受けとられるかを体感してみたいと思っています。
──最後に、本展へお越しになる方々へ、作品の見どころ等メッセージをお願いします。
本展はREIJINSHA GALLERYで初めて展示する作家たちによるグループ展です。さまざまな背景や視点を持つ作家たちのアプローチの違いを、ぜひ会場で直接ご覧ください。
私は「存在の揺らぎ」や「視覚の不確かさ」をテーマに絵画を制作しています。断片的なイメージが連なりながら構成される画面の中で、見る人の感覚や記憶と交差する瞬間が生まれたら嬉しいです。
制作活動を続け、より多角的にテーマを追及していきたいという水野。その深い洞察の眼差しがどのように展開していくのか、今後も目が離せない。
[Profile]
水野 遥介 Yosuke Mizuno
2002年
千葉県生まれ
2023年
進級制作展諏訪敦賞受賞
余人(Uptown Koenji Gallery/東京)
柏木健作・水野遥介二人展(武蔵野美術大学/東京)
2024年
serendipity(room_412/東京)
水野遥介・野上真希二人展「泳ぎつづける夢」(武蔵野美術大学/東京)
2025年
2024年度武蔵野美術大学卒業・修了制作展優秀賞受賞(武蔵野美術大学/東京)
2024年度第48回東京五美術大学連合卒業・修了制作展(国立新美術館/東京)
現在、東京都にて制作
武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース在学中
<メディア>
映画「ブルーピリオド」劇中絵画制作
・Instagram:@yo_suke0214
・X:@yosuke96508832
2025年の展示情報
「2024年度武蔵野美術大学卒業・修了制作優秀作品展」
会期:2025年7月3日(木)~8月3日(日)
会場:武蔵野美術大学美術館図書館
個展
会期:2025年7月15日(火)~8月4日(月)
会場:京都蔦屋書店
「武蔵野美術大学諏訪敦研究室展」
会期:2025年9月27日(土)~10月19日(日)
会場:長亭GALLERY

[information]
FIRST CONTACT
・会期 2025年6月20日(金)〜7月4日(金)
・会場 REIJINSHA GALLERY
・住所 東京都中央区日本橋本町3-4-6 ニューカワイビル1F
・電話 03-5255-3030
・時間 12:00〜19:00(最終日は17:00まで)
・休廊日 日曜、月曜
・URL https://linktr.ee/reijinshagallery