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2011年10月11日発行「美術屋・百兵衛」No.19より
海外アーティスト・インタビュー vol.2

芸術の都・パリ。かつてこの地は世界の文化、特にアートの中心地であった。18世紀末から19世紀初めにかけて新古典主義が画壇を席巻し、19世紀前半にはロマン主義や写実主義が隆盛を迎え、19世紀後半には印象派、象徴派、ポスト印象派など様々な芸術潮流が花開いた。その後もフォーヴィスム、キュビスム、アール・ヌーヴォー、アール・デコ、シュルレアリスムなどが次々と勃興したが、第二次世界大戦後に冷戦構造の中でアメリカ合衆国が世界の中心となり、フランスの文化的な地位は相対的に低下。しかし、パリには長い歴史と伝統がある。この街では、今も多くの実力派アーティストがしのぎを削っているのだ。現代フランス美術界での活躍が顕著なアーティストのインタビューとその作品から、パリの空に今も吹き続けるフランス美術の麗しい風が、どんなに魅力的なものかを探ってみたい。
ヴィヴィアンヌ・ギベ氏の写真1

海外アーティスト・インタビュー vol.2
フランス芸術家協会(ル・サロン)会長 ヴィヴィアンヌ・ギベ
Viviane Guybet

Viviane Guybet《Suzanne》画像

Viviane Guybet《Suzanne》

──あなたの作品には女性像が多いようですが、何か理由があるのですか?
ギベ「答えは簡単です。それは、女性の身体の方が美しいから。それに、男性像の需要はあまり多くありませんから(笑)」

──彫刻を教えていらっしゃるそうですね。
ギベ「ええ。生徒も女性がほとんどです。そこでもやはり男性モデルは人気がなく、モデルにするのは女性ばかりです」

Viviane Guybet《Virine》画像

Viviane Guybet《Victrine》

──作品制作に当たって、外面と内面のどちらをより重要だと考えていらっしゃいますか?
ギベ「どちらも大切ですね。特にフォルムにこだわっている訳ではないのですが、古代ローマの壺を思わせる女性のふくよかな腰のラインは好きです。一方、内面から滲み出るものは、観る人が勝手に感じ取ってくれれば良いというスタンスです。私の場合、作品を創っている時は完全に無意識の状態。何を表現しようかなどとは考えていません」

Viviane Guybet《Le Turban》画像

Viviane Guybet《Le Turban》

──あなたにとっての作品、彫刻作品とは何でしょうか?
ギベ「私は〝人生の袋の中身が、作品になる〟と考えています。つまり、私の彫刻には私の人生が反映されているのです。当然、作品制作には技術も必要です。テクニックのボキャブラリーとも言うべきものが。小説家が物語を書く際に語彙が必要なように」

Viviane Guybet《Cosi Fan tutte》画像

Viviane Guybet《Cosi Fan tutte》

──それはあなたが経験から学んだことでしょうか?
ギベ「ええ。それに私がかつて、ある版画家から教えられたことでもあります。以前版画(メゾチント)を手がけ始めた頃、『あなたはボキャブラリーなしで物語を書こうとしている』と指摘されたことがあるんです」

Viviane Guybet《La Mêche》画像

Viviane Guybet《La Mêche》


古代ギリシアやローマ時代を
思わせる均整のとれたその彫刻は、
正確なデッサンから生まれる

──女性像が多いせいか、あなたの作品からは柔らかさや軽やかさが感じられますが、ご自分ではどう考えておられますか?
ギベ「一瞥しただけでは、そう感じられても仕方ないかもしれません。ただ私自身は、よく観るとふんわりとした柔らかさの中にも確固たる強さを兼ね備えたギリシア彫刻のようなものを表現したいと考えているんです。人は常に変化する生き物なので、将来はこの考えも変わるかもしれませんが、今は古代ギリシア的な美しさに憧れていますし、目標にもしています」

Viviane Guybet《Dimanche après-midi, rue de Seine》画像

Viviane Guybet《Dimanche après-midi, rue de Seine》

──あなた自身の作品は、どちらかと言えば古典的ですが、現代彫刻に関してはどう考えていらっしゃいます?
ギベ「現代彫刻の先駆者のひとり、ジャコメッティは好きですね。彼の作品の特徴である、針金のように極端に細く、長く引き伸ばされた人物表現。これは、自分の目に映るものを、彼が〝見たまま〟に表現しようとした結果です」

──興味深いですね。ところで、彫刻家のキャリアを積んで、あなたの作風は変化しましたか?
ギベ「年を重ねるにつれてキャパシティが広がったのか、こだわりはなくなってきましたね。ただ、〝人間〟を創りたいという想いは、以前と変わりません」

ヴィヴィアンヌ・ギベ氏の写真2profile
1940年マルセイユ市(フランス)生まれ。パリ市主催アトリエ・ボザールで、デッサンと彫刻を学ぶ。1992年テーラー財団よりサンドーズ賞受賞。1997年シャルル・エロン賞受賞。1999年フランス芸術家協会(ル・サロン)名誉メダル受賞。2003年テーラー財団よりマルフレ・グレック賞受賞。2010年フランス芸術家協会会長に就任。パリの大規模な展覧会や、その他の地域で開催される展覧会に精力的に出展。ざらついた粗い表面と官能的なフォルムが特徴の彼女の彫刻作品は、人間の感情までも巧みに表現しており、美術関係者からの評価が非常に高い。ル・サロンの会長に就いた今もなお、芸術の都パリで今後の活躍が最も注目されているアーティストの一人である。

※この記事は2011年10月11日に発行した雑誌「美術屋・百兵衛」No.19の記事を再掲載したものです。

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