コラム

わたしの気になる作家たち
No.16

ーちょっと異色の若手作家たちー

最近日本画の美人画や写実系の油彩画が人気でたくさんの作家が登場しているが、そんな中で今回は流行とはちょっと距離を置いたような異色の作家に注目し紹介する。

一人目は千坂ちさか尚義なおよし。京都の作家である彼の作品を初めて見たのは2023年の東京のデパートで開催された八犬堂企画の「いい芽ふくら芽展」。各作家が自分のエリアに小品を数点展示する中で、彼は自分のコーナー全体を一つの舞台としてそこに作品を展示していて、古画的な作品にも注目して1点購入した。そんな彼は会期終了後に八犬堂賞を受賞した。

千坂尚義《銀杏に井守図》

千坂尚義《銀杏に井守図》

彼は日本画の技法、特に平安~室町にかけての大和絵、水墨画に重きを置いて作品制作しているというが、「メインで制作しているのは『色織いろおり』という自作の物語の絵巻物。掛軸など他の作品も色織の中の人物や書等を元に描いています。色織の世界観は日本のアニミズムに重きを置いており、情緒豊かに物語や絵画を描き出すことで、生きることへの四苦八苦、人の心に寄り添える作品を目指しています」とのこと。

千坂尚義《紅白図》

千坂尚義《紅白図》

千坂 尚義 Naoyoshi Chisaka
1994年 京都府出身
成安造形大学美術領域日本画コース卒業
[賞歴]
2017年「第3回 石本正 日本画大賞展」大賞(浜田市立石正美術館/島根県)
2020年「成安造形大学卒業制作展」優秀賞
2023年「いい芽ふくら芽 in TOKYO 2023」八犬堂賞(大丸東京店)
[個展]
2022年「都に臙脂」(Social Kitchen/京都)
2023年「迷宮と舞踏会」(ATELIER MAY/京都)

二人目は新埜あらの康平。彼の作品を銀座の某画廊で見たときは、絵に横文字をうまく配置したPOPな色彩による現代風のポスターのようなデザイン性に注目した。日本画出身だが、東京を拠点にジャンルを問わずグループ展や個展で積極的に発表し、多様な公募展への入選や受賞も数多い。

新埜康平《Silver bullet #1》

新埜康平《Silver bullet #1》

「ストリートカルチャーや映画の影響を受け、仮名の人物や情景、日々の生活に根差した等身大のイメージをモチーフに制作。余白やタギング(文字)の画面構成等、様々な絵画的要素を取り入れ、日本画×ストリートをテーマに作品を制作しています。基本画材として膠や和紙、胡粉や顔料などを使い、古典的な日本画の技法である滲みやたらし込みなど素材の特異性を使いながら描いています。素材の特性など先人が残してくれた伝統的な絵画表現に現代的なアプローチを加え新たな表現をしていきたいと考えています」と抱負を語る。

新埜康平《once a day》

新埜康平《once a day》

新埜 康平 Kohei Arano
東京都出身
武蔵野美術大学通信日本画表現コース卒業
[賞歴]
2020年「第16回 世界絵画大賞展」サムトレーディング賞(協賛社賞)
2021年「第17回 世界絵画大賞展」ミューズ賞(協賛社賞)
2021年「3331 ART FAIR」コレクター・プライズ 授与
2022年「Independent Tokyo 2022」審査員特別賞
2023年「Independent Tokyo 2023」小山登美夫賞
[個展]
2020年「暦-skit-」(Art Space kimura ASK?Ⓟ/東京)
2021年「SILENT FILM」(Gallery b.TOKYO/東京)
2022年「Kohei Arano Solo Exhibition」(GALLERY AND LINKS81/東京)※’23年も開催
2023年「ミックステープ」(Gallery TK2/東京)
2023年「Kohei Arano Solo Exhibition」(3LFTN apartment/東京)
他、グループ展多数参加

三人目は雪寧ゆきやすアキラ。京都を拠点に東京、関西で毎年、年に2〜3回の展示を行っている。彼の作品を最初に見たのは京都だったと思うが、作品より彼の風貌やファッションが気になり、何か主張のある作家だなと感じていた。そんなこともあり2022年の「山本冬彦が選ぶ若手作家小品展Ⅷ」枝香庵に参加してもらった。
彼の作風は日本の美意識を軸に、日本文化、死生観、宗教観などを日本的なモチーフを引用して作品に込めていて、箔や墨、油絵具、水干絵具などを有効に使用している。

雪寧アキラ《月夜桜》

雪寧アキラ《月夜桜》

「学生時代は油画を専攻していましたが、もともと日本の伝統文化に強い興味を持っていたので独学で日本画の技法を学び、主に箔や墨、油絵具、水干絵具などを使用します。日本画と油画の素材、技法を併用しながら制作しています。特に『絵画の余白』『生と死』『もののあはれ』『時間と光の移ろい』『循環』などを主なテーマに日本絵画について模索していきます」という。

雪寧アキラ《墨椿》

雪寧アキラ《墨椿》

雪寧 アキラ Akira Yukiyasu
岡山県出身
京都芸術大学美術工芸学科油画コース卒業
[個展]
2021年「三千世界の鴉を殺し、主と添い寝がしてみたい。」(ライト商會三条店/京都)※'22年「psykhēの標本」開催
2021年「間とゆらぎ」(現代文化茶論 ○間-MA-/京都)※'22年「空蝉の雫」、'23年「月夜の鴉」開催
[グループ展]
2021年「初春の会 -同時開催 社員共作の会-」(京呉服ゑり善/京都)
2021年「和を以て貴しと為す展」 (かわうそ画廊/東京)
2022年「冬の0号展」「秋の0号展」(ZINE gallery/京都)※'23年「一期一絵展」開催
2022年「山本冬彦が選ぶ若手作家小品展Ⅷ」(ギャラリー枝香庵/東京)
2023年「京阪神藝大在卒生 グループ展Vol.2」(阪神百貨店梅田本店/大阪)
2023年「墨の草木」(ギャラリー胡々湾/京都)
2023年「京都・Young Art Meet」(JR京都伊勢丹/京都)
その他展示多数

四人目は伊藤乃愛のえ。彼女を知ったのは三重県のコレクターさんからで、地元の高校生で注目した作家がいるということを聞いたからだ。その後、武蔵野美術大学油絵学科へ進学したとのこと。早速ネットで調べたところ卒業後も東京在住ということで、三重のコレクターさんと3人で銀座で会うことになった。ネットで作品を何点か見たが作風は高校時代のシュールな作品とは全く違い、油絵学科卒業とは思えぬ古い日本画や書のような作品で実物を見たくて当日現物を持ってきてもらった。

伊藤乃愛《瓢鮎図》

伊藤乃愛《瓢鮎図》

「絵画を中心に、近年は針金や陶芸による立体作品も制作している。制作は、文字を書き、モチーフとなるものを作ることから始め、素材は板に和紙、膠、鉛筆と油絵具、岩絵具などを併用している。言葉は世界を表し、私たちの認識を規定する(フランス語では蝶と蛾を区別せずどちらもpapillonであるように)ものでもあるが、その縁を触ることができないか模索している。現在は、言葉として持つ意味と、文字がものとして持っている要素がぶつかることで起こるずれを観察しているところだ」と語る。

伊藤乃愛《47字の誦文》

伊藤乃愛《47字の誦文》

伊藤 乃愛 Noe Ito
三重県出身
2019年 個展「ぶつかり」(三重画廊/三重)
2019年 グループ展「あおぞらDEアート」(東京スクエアガーデン/東京)
2000年 武蔵野美術大学油絵学科卒業
2022年 グループ展「曖昧な境界」

 

山本 冬彦
保険会社勤務などのサラリーマン生活を40余年続けた間、趣味として毎週末銀座・京橋界隈のギャラリー巡りをし、その時々の若手作家を購入し続けたサラリーマンコレクター。2012年放送大学学園・理事を最後に退官し現在は銀座に隠居。2010年佐藤美術館で「山本冬彦コレクション展:サラリーマンコレクター30年の軌跡」を開催。著書『週末はギャラリーめぐり』(筑摩新書)。

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