
第16回創造する伝統賞授与式の様子(Naoyuki MANABE GAGAKU Ensemble)
1993 年に設立された日本文化藝術財団は「創造する伝統」をテーマに掲げ、日本の伝統文化と現代芸術の保護や育成、復興を図るとともに、新しい文化の創造を目的とする活動を続けてきた。その定款によると、同財団は以下のような事業に取り組んでいる。
(1)日本の伝統文化及び現代芸術の分野における優秀な新人及び文化・芸術の研究者に対する助成
(2)日本の伝統文化及び現代芸術の分野で著しく貢献している者に対する顕彰
(3)芸術系大学等に在学する学生及びその他の学生に対する奨学金の給付
(4)日本の伝統文化及び現代芸術を、不特定多数の人々に提供するための文化・芸術活動の実施
(5)文化・芸術の交流を通じて国際社会の相互理解を促進する事業
(6)その他この法人の目的を達成するために必要な事業
同財団の事業として特に知られているのが、助成顕彰事業の「創造する伝統賞」と育英事業の「日本文化藝術奨学金」である。2024年11月に第16回「創造する伝統賞」の受賞者2組、2024年度「日本文化藝術奨学金」受給者14名が決定。今年2月13日には東京元赤坂の明治記念館でそれぞれの授賞式、授与式がおこなわれた。
創造する伝統賞
「創造する伝統賞」は、日本の伝統文化や現代芸術の分野において、著しい貢献をしているにも関わらずその存在や活動が広く一般に知られていない、または、活動実績がありさらなる飛躍が期待される実技者、研究者、技能者を顕彰することを目的としたもので、日本の文化・芸術にかかわるあらゆる分野を対象としている。美術分野の過去の受賞者には、宮永愛子(第1回)、島袋道浩(第2回)、三瀬夏之介(第5回)、須田悦弘(第7回)、風間サチコ(第8回)などが名を連ねてきた。
そして今回、栄えある「創造する伝統賞」を受賞したのは、ガラス工芸作家の佐藤静恵と、雅楽演奏団体Naoyuki MANABE GAGAKU Ensembleである。

壇上に並ぶ第16回「創造する伝統賞」受賞者2組
佐藤 静恵

活動についてプレゼンをおこなう佐藤静恵
▪️プロフィール
1983年埼玉県生まれ。2006年に多摩美術大学美術学部工芸学科ガラス専攻を卒業後、中学校美術教諭などを経て大学院に進学し、シドニー大学シドニーカレッジオブアート スタジオアートコース(オーストラリア)に留学。滞在中、日本と欧米におけるガラス造形の違いに興味を持ったことをきっかけに、現代工芸の研究をおこなう。2015年に筑波大学大学院 人間総合科学研究科博士前期課程芸術専攻を修了後、ガラス工房に勤務しながら技法研究を続け、現在の制作スタイルに至る。金沢卯辰山工芸工房における研修を経て、2023年より金沢星稜大学人間科学部の講師を務めながら精力的に制作・発表活動をおこなう。2024年4月に東京藝術大学大学院に進学し、現在博士号取得を目指している。
公式ホームページ https://silentgrace616.wixsite.com/shizue-sato-glass
Instagram https://www.instagram.com/seaje616/
▪️選評
如何なる創作活動においても、その最も重要な評価基準は「独自性」であろう。殊に如何にして作られたかわからない作品の独自性はまずもって強力である。佐藤静恵のガラス作品にはその力があり、その一方でガラスでなければ出来ない表現であろう事も垣間見せる巧さがある。また、佐藤の論文や留学の活動等から見られる、地理的、歴史的見地からも自身を分析する客観性は、作品同様に評価されるべきであろう。そうした裏付けから、過去作から現在の作品への変化には正しい進化と反省を感じる事ができる。制作に拘泥するだけではなく、自身の様々な活動の統合は、後進の表現者達の指針となるであろう正確さ、丁寧さを兼ね備えている。それはまさに創造と伝統のあるべき一つの姿なのではなかろうか。(池内務)

《Interface vol.11》 2022 ※メトロポリタン美術館アジアンアートコレクション収蔵
Naoyuki MANABE GAGAKU Ensemble

活動についてのプレゼンをおこなうNaoyuki MANABE GAGAKU Ensemble代表の真鍋尚之
▪️プロフィール
雅楽演奏家の真鍋尚之の呼びかけにより、東京藝術大学・國學院大学・天理大学で雅楽を学んだ優秀な若手演奏家を集め、千年以上の歴史を持つ日本の伝統音楽である雅楽を世界に伝え、理解を図る事を目的に2020年9月結成。宮内庁式部職楽部・歴代首席楽長から雅楽全般に及ぶ指導を受けながら共演することで伝統の研鑽を重ね、コロナ禍の野外での演奏を通して空間を演出する演奏を展開。「伝統」と「前衛」という全く相対する両者を双方向から深く掘り下げ、別々の流れであった活動を一元化する試みを続けている。
公式ホームページ https://sho-manabe.net/detail/nmge/
X(旧Twitter) https://x.com/ManabeGagaku
▪️メンバー
笙:真鍋尚之、豊剛秋、永井大志、青木総喜、川上彩子、豊英秋(特別講師)
篳篥:本多恵昭、三浦元則、國本淑恵、春日るり子
笛:太田豊、藤脇亮、岩﨑達也、纐纈拓也
▪️選評
雅楽演奏家の真鍋尚之主宰の雅楽アンサンブルで、世界に雅楽の伝統を発信すべく2020年設立された。宮内庁式部職楽部元首席楽長、豊英秋の弟子として長年古典を学び研鑽を積んだ真鍋は、雅楽の伝統的な奏法「退吹」に着目し、その考えを応用した「退舞」、笛や篳篥の「木霊吹」など新たな様式を作り出し、伝統に基づいた新しい雅楽の可能性を鮮烈に提示した。真鍋はこの活動を、従来のように外部作曲家に委嘱した作品を演奏するのではなく、雅楽の内側から「伝統」と「前衛」という別々の活動を一元化する試みだと述べる。「西洋的視点の前衛作品ではなく、雅楽の伝統の延長線上に位置づける」作品の創造活動を行う当アンサンブルが、「創造する伝統」の活動であることは間違いないであろう。(茂手木潔子)

ARTS for the future!(文化庁)杉田劇場公演 舞楽《五常楽》 2021年
日本文化藝術奨学金
日本文化藝術財団では、芸術系大学で学ぶ者への奨学金給付事業をおこなっている。その中で「日本文化藝術奨学金」は対象を大学院生とし、より優れた技量・才能・将来性を評価し支援するもの。真摯に芸術に取り組み、将来の日本の文化・芸術の担い手となるであろう学生を支えようという奨学金だ。2023年度までの28回で計137名の学生に奨学金が与えられており、今回そこに14名の奨学生が新たに加わった。
2024年度「日本文化藝術奨学金」の受給者として選ばれたのは、石黒光、戸田創史、渋谷和史、野村俊介、山中春海、劉常民、角田笑香、藤原彩芽、矢部もなみ、鷲見友佑、衣笠恭平、大谷花、井上直哉、喜納祥子の14名。それぞれ50万円の奨学金(返済不要)が支払われることになった。

壇上に並ぶ2024年度「日本文化藝術奨学金」の受給者たち
石黒 光
▪️プロフィール
東北芸術工科大学
大学院 芸術工学研究科 芸術文化専攻 絵画研究領域(長沢明ゼミ)修士課程1年
私はマルセル・デュシャンが提唱した「アンフラマンス」という造語を、「精神界と物質 界の狭間にある気配」と再解釈し、絵画制作を行なっている。皮膚感覚、或いは染み付く記億から図像を手繰り寄せ、画面に痣をつくるように絵具を沈着させ、描く。何を描くかに着眼するのではなく、画面と私とで内緒話を繰り返した果てに現れる関係性の暗号を生み出したい。
▪️選評
人間が生まれ、そして死ぬまでの過程の中で問い続けてきた存在への疑問と抱き続けてきた希望を、観察と画材のやり取りを通して表現し続けよう、という強い意思を感じた。生の儚さと強靭さを表現する画面のマチエールにも惹きつけられた。様々な表現方法に挑む挑戦する姿勢も好ましく、今後の発展に期待している。(杉浦 幸子)

《虚の秘密は私のみぞ知る》 2024
戸田 創史
▪️プロフィール
東北芸術工科大学
大学院 芸術工学研究科 芸術文化専攻 絵画研究領域(長沢明ゼミ)修士課程1年
私は、その土地の当事者ではないからこそ発見できる本質があるはずだと考えている。世界中のさまざまな場所でドローイングをして、景色を見た時の感動と、忘れてしまう感覚の間にそれを作り出せるのではないか。「観光客」という視点から「距離感」と「関係性」について研究と制作を進め、こんにちの私たちが見たい景色を模索している。
Instagram https://www.instagram.com/soushi_td/
X(旧Twitter) https://x.com/soushitoda/
▪️選評
戸田は豪雪地帯である東北の米沢で生まれた。在学中から山形を拠点に、北は北海道、南は 沖縄までを旅し、そこでの経験や影響は感受性の強い彼の喜びのままに画面に定着される。初期は運動神経に任せるように色や形の乱舞する画面構成を進めていたが、その地域の成り立ちや抑圧された歴史にある時気づく。観光客としての身軽さで全国各地を飛び回りながら、今後は海外も含めた文化混淆絵画の可能性を追求して欲しい。(三瀬 夏之介)

《濠太剌利・悉尼巡礼・真夏の雪編》 2024
渋谷 和史
▪️プロフィール
多摩美術大学
大学院美術研究科 デザイン専攻 情報デザイン領域 メディア芸術・プログラム修士課程1年
2021年頃よりAIを用いて作品を制作してきた私は、高度な画像生成技術や自然言 語処理技術が登場した2022年以降、AIに対する過剰反応は芸術の可能性を閉ざすと考える。芸術運動とは「ここに新しい芸術がある」と宣言することであり、機械学習という技術の中にはまだ見ぬ芸術があるはずだ。私は小さなAIを制作してAIの存在について再考するという研究制作を展開していく。
公式ホームページ https://shibushibuya.com
Instagram https://www.instagram.com/ico.kaz/
X(旧Twitter) ttps://x.com/ico_kaz
▪️選評
来る日も来る日も昆虫のように羽音を響かせるドローンのトップアタックで無数の若者が鉄塊の中で落命する。水平と垂直が反転し、テクノロジー の非対称性が現実化された今、果たしてメディアアートはその甘美なノスタルジアに守られていて良いのだろうか。優れて挑発的で批評的な彼の作品は、 アートの世界では斬新であるかもしれないが、現実を刻一刻と弾き出すYouTubeに汚染され続ける我々に届く可能性は低い。だからこそ、アートに不可視の次のフェーズにテクノロジーの力を誘い出し、相転移させる不気味な作品を彼には期待したい。(椿 昇)

Installation《自然現象のようなもの》 2023
野村 俊介
▪️プロフィール
東京藝術大学
大学院 美術研究科 工芸専攻 陶芸分野 修士課程1年
私は主に陶芸素材を駆使して、昆虫や甲殻類など外骨格の生き物をモチーフに作品を制作している。中でも力を入れているのは独自の釉薬の研究や陶と金属を組み合わせて焼成する新技法の開拓だ。陶芸でここまでできるのかと思えるような造形の繊細さやリアリティ、釉薬が見せる色彩や質感の面白さなどを最大限に引き出し、見るものを驚かせ感動を与える作品を制作することが私の目標である。
▪️選評
野村氏は陶芸素材を用いて、昆虫や甲殻類などの生物を主題に立体作品を制作する。いわゆる超絶技巧的な作品ですでに複数の賞を受賞するなど、活躍が目覚ましい。現在、釉薬の研究と陶と金属を組み合わせて焼成する新技法の開拓を行っているが、まだ修士1年という若さで、画廊に所属し作品を販売したり、オンラインショップを開設したりといった「プロ意識」がすでにあり、将来性が期待できるため受給に値すると思われる。(近藤 健一)

《スカラベ》 2023
山中 春海
▪️プロフィール
東京藝術大学
大学院 映像研究科 メディア映像専攻 修士課程1年
現代社会における、アイデンティティのあり方に対する葛藤への問題意識を出発点に、格差や人種、民族、性といった、あらゆる社会問題をテーマに映像や写真メディアを用い、作品を発表している。近年では、福島県夜ノ森をリサーチした写真技法フォトグラムの制作を中心に行なっている。
▪️選評
活動実績を拝見した時に、現代社会を批評的に思考しながら、表現を通して非常に自覚的に、かつ、真摯に自己と社会の接合部分に向き合ってきたプロセスを確認できた。絵画、写真、動画、さまざまなメディアを試していることも、彼女の場合は非常にポジティブに捉えられる。非線形なキャリアに作家として生きていく覚悟が見え、奨学金の授与が想像を超える飛躍を生む可能性を感じている。(杉浦 幸子)

gelatin silver print《Quadrilateral》 2024
劉常民
▪️プロフィール
東京藝術大学
大学院 美術研究科 文化財保存専攻 保存彫刻研究室 博士課程1年
本研究は、本山慈恩寺三重塔(山形県)安置の木造大日如来坐像(茨城県小山寺旧蔵)の科学調査を通して制作工程を推定し、同像の美術史・技法史的位置付けを試みるもので、さらに原本像に近い材料と技法、構造などで再現する模刻制作を実際に行い、13世紀後半における東国の仏像の構造技法と造形の特徴について理解を深める。また、現状不詳である制作者に関する考察を進めていきたい。
▪️選評
本研究は丁寧な模刻制作を通して、日本彫 刻史上において最盛期と位置付けられる鎌倉時代の仏像彫刻の表面加飾に迫るものである。研究対象は日本の地方に位置する仏像ではあるが、その研究成果は文化財保存修復領域全般へと寄与する可能性が秘められている。また、当時中国からの影響を受けた技法材料の研究を日本で深めることは、留学生としての劉という存在が文化財修復を通して、中国文化と日本文化の関係性を新たに紐解く大きな挑戦となることと思い、強く推薦した。(三瀬 夏之介)

木造大日如来坐像(左:オリジナル、右:模刻)
角田 笑香
▪️プロフィール
武蔵野美術大学
大学院 造形研究科 美術専攻 油絵コース 修士課程1年
絵画の鑑賞者は社会という枠組みの中で生きている人間である。私は、絵画は視覚 芸術であり、造形性を重視されるべきであると考えており、人間によって絵画が社会と結びつけられて「読まれる」ことに疑問を持っている。人のイメージは、画面に入れるとそれだけで造形に注視させることが難しくなる。難しいと思うから、完成したら見たことない絵が見れるかもしれないと期待している。
Instagram https://www.instagram.com/tsunoda_emika/
▪️選評
平面という二次元の中に、動きと時間という四次元要素を持ち込む。人を描きながら人を描いていない。これまでの絵画表現とはまた異なる様相を見せる作品群が興味深い。出願理由も明確で、一つの制作が次の制作を生むという連関するプロセスを視覚的に実感できる表現者であることから、奨学金を授与することでどのような変化が生まれるのか見てみたいと思った。(杉浦 幸子)

《blue scarf》 202
藤原 彩芽
▪️プロフィール
武蔵野美術大学
大学院 造形研究科 美術専攻 油絵コース 修士課程1年
私は実際に私が見たものと私が体や心で感じたものを区別することなく相反する要 素でも同じ画面に描くことで、私の世界の見え方や様々な種類の欲、その向こうにあってほしい私が安心できる居場所を表現しようとしていると思う。出会う人や読書によって独創性を深めながら私の世界が広がっている方向を制作で確かめ、世界や大切な人と一緒に生きていけるようにしたい。
Instagram https://www.instagram.com/ayameeelife/
▪️選評
審査においてデータであるポートフォリオから熱量を感じることは少ない。それが藤原のものにはあった。生きるために描く、いや、より良く生きたいから描くんだろうなという圧倒的な欲望と失望を持った根っからのペインターなんだと思う。世界と溶け合っていたあの安心する故郷はいつも温かい。でも、生きれば生きるほどそこから遠ざかっていく。世界はまだまだ広い。絵筆一本持って様々な旅を続けていってほしい。(三瀬 夏之介)

《道の様子4》 2024
矢部 もなみ
▪️プロフィール
武蔵野美術大学
大学院 造形研究科 美術専攻 彫刻コース 修士課程1年
私が主に制作で扱っている、木という素材は日本で仏像が作られるようになって以降、彫刻と共に時代を渡ってきた素材だ。目の前の物質を彫ったり、削ったり、転がしたりする行為は、時に時代遅れであるように感じるほど、世界は目まぐるしく動き続けているが、私は目の前の丸太にしがみ付いて、現代に自身の彫刻を発信していきたい。修了後は、海外も含め、より視野を広くし発展させたい。
Instagram https://www.instagram.com/monami__y
▪️選評
日本において木彫を選択した時点で、鎌倉の仏師たちの力強いノミの勢いに立ち向かうと同時に、西欧が築き上げた彫刻の歴史を批評的に乗り越えるというかすかな宿命を分担する。しかしその作品群は、彫刻という閉じた存在を意識的に現代空間との接続に開放しつつ、高度の抽象性も担保して私の不安を払拭する。まだキャリアをスターしたばかりとはいえ、力感あふれる技術と愛情を木肌に刻み、かつ言語の批評的介入を誘う無垢の罠も装填済み。今後の活躍を期待したい。(椿 昇)

《Un cheval, seul, au loin》 2024
鷲見 友佑
▪️プロフィール
武蔵野美術大学
大学院 造形研究科 博士後期課程 造形芸術専攻 博士後期課程1年
幼い頃からの強い変身願望を原動力に、立体や映像の制作、文章の執筆を通じて、自らが生きる時代の「変身」の可能性を模索している。特に、姿態が変化するのみならず、「変身」する主体が現実から非現実的ともいえる異なる場や状況へと運び移されることに着目している。現在は「彫刻と変身」をテーマに、戦後日本の彫刻家・向井良吉(1918〜2010)を中心に研究をおこなっている。
公式ホームページhttps://yusukewashimi.com/
Instagram https://www.instagram.com/yusukewashimi
X(旧Twitter) https://x.com/yusukewashimi
▪️選評
活動実績から、日常的・人工的な素材との密なやり取りから、想像を超える、現実と全く異なる位相を空間に表出させる造形力・空間認知力の高さを感じた。また、「彫刻と変身」という研究テー マを巡るトークシリーズを企画・実施する、多角的に研究にアプローチしようとする貪欲な姿勢に惹かれた。奨学金を受給することで、制作・論考の両面から研究により強く挑むことを期待している。(杉浦 幸子)

映像《CONTENA》 2024
衣笠 恭平
▪️プロフィール
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション学府 建築都市文化専攻 Y-GSA 修士課程1年
風景の共同性から自然と人間の関係を再編する:私たちは、同じ風景をその場にいる人たちと共有しているという感覚を持つことがある。都市の多くが近代化によって均質にならされた現代において、“風景を介した共同性”を建築や都市のスケールまで落とし込むことでその共通意識を恒常的に顕在化させ、人々のつながりを強化し、 共同性の醸成に繋げ、互いを認識し繋がり合う理想郷を目指す。
▪️選評
建築とは何かを日本の風土の中で誠実に追い求める姿勢がそこかしこに伺えて心が温まる。同時に高齢化して第一次産業の担い手を失う日本の美しい地方へ、生業が産んだ自然環境から派生したようなオーガニックな住まいを配する洗練された手腕に敬服する。自己顕示の土木構造物を都市の暴力装置として実体化するという十字架を背負わざるを得ない建築家という職能に対し、命と自然環境を守る生業として新しい職能を創造しているようにも感じる。私のスタジオのある奥能登復興にも、彼のビジョンと実践が必ず必要とされるに違いない。(椿 昇)

設計作品《蜜柑に生きるものたちへ》模型 2024
大谷 花
▪️プロフィール
京都市立芸術大学
大学院 美術研究科 総合デザイン専攻 修士課程1年
図面や模型などで検討を重ねる建築設計課題をする傍ら、実空間を作り、そこで空間体験を行うことによってその場所のあり方について考察することに関心がある。現在は空間における「心地よさ」や「余白」をテーマとして、主にインスタレーション作品を用いて空間に対する問いを立てる制作を行う中で、住宅や公共空間などの実際に使用する人が居る空間や建築に再度発展させることを試みている。
Instagram https://www.instagram.com/0hana_sun
▪️選評
大谷氏はサイトスペシフィックな大型インス タレーション作品を卒業展で発表し、賞を受賞するなど、すでに一定の評価を得ている。現在は「心地良さ」や「余白」といったテーマについて研究し、作品の規模を拡大しつつ建築に発展させる試みを行っているが、海外での活動なども含めた長期的な視野をもち制作に取り組んでいる姿勢は、将来性が期待できるため受給に値すると思われる。(近藤 健一)

インスタレーション《ーー ー・・・ ・・・ー てんとせんとま》 2024
井上 直哉
▪️プロフィール
広島市立大学
大学院 芸術学研究科 総合造形芸術専攻 油絵B研究室 博士課程2年
言葉にしがたい感覚や空想を、より純度を高くして絵画で表現するにはどうしたらいいのかをいつも考えている。今は絵画を層構造物として見つめ、技法を工夫することや、文章と併せることが、その純度を高める糸口であるような気がしている。
▪️選評
井上氏は白昼夢や郷愁といった感覚や、民俗学や妖精学の視点を取り入れて研究を行い、絵画作品を制作するという独自の活動を行っている。現在、「存在しない楽器」をテーマにした新作品群と「子守唄」をテーマにした絵本の制作に着手しているが、「ボローニャ国際絵本原画展」に応募したり、水彩・岩絵具・油彩など様々な顔料を使った作品制作に挑戦したりと、活動計画が非常に具体的であり、着実な成果が期待できるため受給に値すると思われる。(近藤 健一)

《ララバイ・ラプソディー》(部分・全体) 2023
喜納 祥子
▪️プロフィール
沖縄県立芸術大学
大学院 造形芸術研究科 環境造形専攻 修士課程1年
学部の卒業制作で森林の絵を描いたところ、沖縄独自の植生が現れ、県外の植生との差異を体感、自分の日常の一部が独特の文化であるという自覚と複雑な感情が芽生えた。同様に社会で起きている問題に対しても、自己と他者の意見や感覚の違いに複雑な感情を抱く。その感覚を平面に表現する上で、水性や油性、日本画や油画と呼び分けられる画材のできるだけ多くを使って一つの画面にしたい。
Instagram https://www.instagram.com/sck_kina/
▪️選評
喜納氏は自身の出身地で活動拠点である沖 縄の自然や身の回りの事象を主題に平面作品を制作する。日常の一部が独特の文化であることに気づき、その違和感や複雑な感情を制作に繋げているという。沖縄を中心に着実に活動を行うが、今回、顔料の素材研究を行い新たな作品群の制作に着手する計画があり、この新たな取り組みを支援することは意義深いと思われる。(近藤 健一)

《碕に向かう》 2023
今回の受賞者、受給者の中から、今後さらに大きな栄誉を得る者がきっと現れるはずだ。「創造する伝統賞」「日本文化藝術奨学金」をきっかけにして大きく羽ばたいていくであろう彼らの活躍に期待したい。

奨学生を代表して謝辞を述べる鷲見友佑
[問い合わせ先]
公益財団法人 日本文化藝術財団 事務局
TEL 03-6434-5546
FAX 03-6434-5547
E-mail jimukyoku@jp-artsfdn.org
URL http://jp-artsfdn.org