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ONE DOJIMA PROJECT Art Gallery

水都大阪のシンボルともいえる堂島・中之島エリアがいま、アートの街として注目を集めている。今年2月に開館した大阪中之島美術館をはじめ、国立国際美術館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪市中央公会堂、大阪府立中之島図書館、こども本の森 中之島など、このエリアには個性的な美術館や文化施設が点在しているだけでなく、アートフェアなどのイベントも積極的に開催されているのだ。

ONE DOJIMA 模型 プロジェクションマッピングの様子

「Brillia Tower 堂島」ゲストサロンに展示された「ONE DOJIMA」の模型

そんな堂島で、世界有数のラグジュアリーホテル「Four Seasons Hotel」と、高級マンション「Brillia Tower 堂島」が一体となった超高層複合タワー「ONE DOJIMA」の開発が進行している。
この「ONE DOJIMA PROJECT」は、東京建物株式会社の「アートを通じた街づくりに貢献する」という想いから、「旅とアート」をコンセプトとして2020年8月1日に着工。2024年の開業を目指すものだ。

Brillia Tower 堂島 コンセプトショールーム 画像

Brillia Tower 堂島 コンセプトショールーム

建物は高さ約195メートル(地上49階建て)、延床面積は約8.2万平方メートルと、大阪市内でも有数の規模を誇る。ビルの4〜27階、38〜49階を住宅フロアとする「Brillia Tower 堂島」(総戸数463戸)は、建物自体をアート作品と捉えたタワーレジデンス。

リュウ・ジャンファ《Collected Letters》

リュウ・ジャンファ《Collected Letters》2021 Porcelain
Brillia Tower Dojima Guest Salon

美術評論家・キュレーターの南條史生(森美術館特別顧問)がアート監修を務め、マンションの共用部各所に国内外のトップアーティストたちの作品、およそ50点が展示されるという。この「ONE DOJIMA」敷地屋外に設置が予定されているパブリックアートのひとつを、大阪市出身の彫刻家で、世界的に注目される名和晃平が手掛けることになった。

ONE DOJIMA PROJECT Art Gallery

名和の作品が「ONE DOJIMA」に設置されることを記念した展覧会「ONE DOJIMA PROJECT Art Gallery」が6月3日(金)〜6月5日(日)の3日間限定でおこなわれ、名和晃平の映像作品《Tornscape》が一般公開された。

名和晃平 Tornscape (二条城)画像

名和晃平《Tornscape》2019 dimensions variable
photo: Nobutada OMOTE | Sandwich exhibition “Throughout Time : The Sense of Beauty”, Nijo-jo, Kyoto, Japan, 2019

《Tornscape》は、プログラマー・白木良、音楽家・原摩利彦とのコラボレーション作品。2019年には、二条城 二の丸御殿台所を会場として4.5×20メートルで公開された。名和は「二条城という場所の文脈に対してどう答えるべきか」という点に苦心したという。

この作品では、プログラマーの白木良が、コンピューターの仮想空間の中に、無数の粒子が存在する状態を作り出した。風や光を当てた粒子のひとつひとつが動き出し、それらがぶつかり合うことで融合したり化学変化が起きたりする設定がなされているという。そのイメージは決して同じパターンを繰り返すことはない。

スクリーンに写し出された映像は、一見泡が蠢いているように見えるが、目を凝らすと泡よりもより細かな粒子の運動が見て取れる。それは細胞が分裂や増殖、消滅を繰り返しているようにも思えた。生命の誕生や世界の始まりを連想させるような白い光に溢れていたスクリーンは、次第にその様相を赤や黒を主としたイメージに変化させていく。

災厄と疫病に見舞われた約800年前の随筆、鴨長明の『方丈記』を参照したという本作は、コロナ禍や戦争に晒される今日の時代と共鳴している。
一般公開は、東京建物が特別協賛するエリア・アートイベント「ART WALK 堂島/中之島」の開催に合わせ、「Brillia Tower 堂島」ゲストサロンにて実施。会場内には、名和の平面作品も展示された。

名和晃平 ONE DOJIMA PROJECT Art Gallery 展示風景

名和晃平 ONE DOJIMA PROJECT Art Gallery 展示風景

また、一般公開に先駆けメディア向けに催されたプレスプレビューでは、ダンスカンパニーであるネザーランド・ダンス・シアター(NDT)の60周年記念公演として名和と振付師ダミアン・ジャレ、映像作家ラヒ・レズヴァニによる協働で制作された、パフォーミングアートの映像作品《Mist》が特別上映された。

《MIST》 ©Rahi Rezvani

《Mist》 ©Rahi Rezvani

名和はこの作品の制作にあたり、ダンサーたちに「霧を演出の一部として見るのではなく、霧や水という存在と自分の体との関係を、眼をつぶった状態で把握をするような、“自分の体が植物になったような気持ち”で関わってほしい」と伝えたそうだ。
《Mist》では、霧がダンサーたちの体を包み込み、流動するその流れが大河のように見える。ときに絡み合い、ときに広がって大きなシルエットを形づくりながら踊る人間の体は、いまにも芽吹こうと活動する木の幹や葉、あるいは隆起する山を思わせた。50分にも及ぶ演技でダンサーの筋肉は酷使されているはずだが、その静と動を合わせたパフォーマンスだけでなく、霧の流れを少しも乱さない息遣いまでもが美しい作品だった。

南條史生×名和晃平トークセッション “堂島の街とアート”

南條史生(左)と名和晃平(右)によるトークセッションの様子

南條史生(左)と名和晃平(右)によるトークセッションの様子

プレスプレビューでおこなわれたトークセッションでは「堂島の街とアート」をテーマに、パブリックアートや居住空間のアートについても話が及んだ。
司会者からパブリックアートが街や社会に与える影響について問われると、名和は「物体としてそこに存在するものを、どう読み取ったり解釈したりするのか、それが見る方に委ねられる。そういう面白さがパブリックアートにはあると思います。街や都市の中にアートが自然に染み出して、そこを行き交う人々の中にも常にアートの種みたいなものがあって、それが発芽して出てきているような現れ方が今の時代なのかなと思います」と答え、南條は「観客を広めていく一つの大きなきっかけ」になるだとうと語った。

トークセッション登壇中の南條史生

続いて、大阪中之島・堂島エリアに対する期待について、南條は「大阪にアートのプロジェクトやイベントが、最近明らかに増えてきています。大阪中之島美術館という市の美術館と、国立国際美術館、二つの大きい美術館があることで、すごく状況が変わってきたという気もします。それから、「ONE DOJIMA PROJECT」のようなパブリックアートが生活の中にある状況、これも人々のアートに対する見方を変えていくだろうと思います」と回答。

トークセッション登壇中の名和晃平

一方、名和は次のように話した。「子どもたちが普段歩くところにアートがあると、『こういうものが存在して良いんだ』ということがインプットされると思うんです。アートは、そうして世代をまたがって、文化や表現する勇気、表現する精神の旅や、精神の自由さみたいなものが残されていくひとつのメディアなのではないかと思います」

さらに名和は、「僕たちは建築の計画にも携わることがあって、日本の家屋とか公共的な空間の設計段階で、アートをどういうふうに空間に取り入れるかは凄く大事な問題だと思うんです。特にこうした集合住宅や高層マンションを、アートを前提として計画するのは素晴らしいことだと思います。日本って海外に比べても凄く美大が多いし、アートを志している若者がたくさんいるので、そういう方々にもチャンスを与えたり、そこで育つ家族がアートと向き合って時間・人生を過ごすのは素晴らしいことだなと思います」と述べた。

南條史生(左)、名和晃平(右)

《ONE DOJIMA》に設置される彼のパブリックアートは、2024年5月に公開予定だ。

「2025年日本国際博覧会」の開催を控え、これからより活発になるであろう大阪のアートシーンから目が離せない。大阪・梅田に本拠地を構える百兵衛ONLINE編集部としても、引き続き動向を追っていきたい。

 

南條史生

南條 史生 Fumio Nanjo
「ONE DOJIMA PROJECT」アート監修
慶應義塾大学経済学部、文学部哲学科美学美術史学専攻にて学位取得後、1978年国際交流基金、1986年ICAナゴヤ ディレクター等を経て、2002年森美術館開設に関わる。
2006年同館館長、2020年より同館特別顧問。
国際的には、1997年ヴェネツィア・ビエンナーレ、2001年横浜トリエンナーレ、2006年シンガポール・ビエンナーレ、2016年茨城県北芸術祭、2017年ホノルル・ビエンナーレ等の初代ディレクターを歴任。

名和晃平

名和 晃平 Kohei Nawa
彫刻家/Sandwich Inc. 代表/京都芸術大学教授
1975年生まれ。京都を拠点に活動。
2003年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士課程彫刻専攻修了。
2009年「Sandwich」を創設。
感覚に接続するインターフェイスとして、彫刻の「表皮」に着目し、セル(細胞・粒)という概念を機軸として2002年に情報化時代を象徴する《PixCell》を発表。生命と宇宙、感性とテクノロジーの関係をテーマに、重力で描くペインティング《Direction》やシリコーンオイルが空間に降り注ぐ《Force》、液面に現れる泡とグリッドの《Biomatrix》、そして泡そのものが巨大なボリュームに成長する《Foam》など、彫刻の定義を柔軟に解釈し、鑑賞者に素材の物性がひらかれてくるような知覚体験を生み出してきた。
近年では、アートパビリオン《洸庭》など、建築のプロジェクトも手がける。
2015年以降、ベルギーの振付師/ダンサーのダミアン・ジャレとの協働によるパフォーマンス作品《VESSEL》を国内外で公演中。2018年にフランス・ルーヴル美術館 ピラミッド内に彫刻作品《Throne》を特別展示。

 

■「ONE DOJIMA PROJECT」概要
・所在地:大阪市北区堂島二丁目17-5
・交通:JR「大阪」駅徒歩9分、Osaka Metro四つ橋線「西梅田」駅徒歩4分、JR東西線「北新地」駅徒歩5分、京阪電鉄京阪中之島線「渡辺橋」駅徒歩5分、阪神電鉄阪神本線「大阪梅田」駅徒歩9分、Osaka Metro御堂筋線「梅田」駅徒歩12分
・施設構成:住宅フロア4階~27階、38階~49階、ホテルフロア28階~37階
・事業主:東京建物株式会社、Hotel Properties Limited
・施工:株式会社竹中工務店
・設計:株式会社日建設計
・URL https://www.bt-dojima.com/

[information]
ONE DOJIMA PROJECT Art Gallery
※このイベントは終了しています。
・開催日時 2022年6月3日(金)~6月5日(日)
・場所 Brillia Tower 堂島 ゲストサロン(大阪府大阪市北区西天満二丁目7-2)
・主催 東京建物株式会社
・企画協力 株式会社ウェルウッド、エヌ・アンド・エー株式会社
・内容 名和晃平氏映像作品《Tornscape》の公開、名和晃平氏平面作品の公開
・URL https://www.bt-dojima.com/creater/