ギャラリー

ギャラリーめぐり Vol.6 
ギャラリーヤマキファインアート(神戸)

 

第6回目の「関西ギャラリーめぐり」では、当企画初の神戸市へ。訪れたのは、JR元町駅から徒歩2分ほどの、活気ある商店街の中の「ギャラリーヤマキファインアート」だ。

「神戸の中心という立地を活かし、美術と一般のコミュニケーション向上を目指す」というコンセプトのもと、2006年にオープンしたこのギャラリーの魅力は、錚々たる著名作家の作品を所蔵・展示していること。戦後作家の「具体」松谷武判や元永定正をはじめ、「もの派」の小清水漸や狗巻賢二、そして同時代のフランスでの芸術運動「シュポール/シュルファス」*を主軸に歴史的に重要な作家の作品を紹介し続けている。美術館などで見られる作家の作品を間近で鑑賞することができる。
作品の多くは、オーナーの山木加奈子が作家と直接関係を構築し、展覧会を開催している。特に日本の戦後の作家たちとは、美術評論家・中原祐介(1931-2011)との出会いがきっかけで関係が生まれたという。そのエピソードの一つひとつに、美術史上で重要な人物の名前が挙がった。
また、国内の若手作家のコレクションにも力を入れており、展覧会ごとに趣を異にする質の高い作品が楽しめる。

ルイ・カーヌの作品(部分)

*「シュポール/シュルファス」(Support/Surface)
「支持体/表面」という意味の、1960年代末のフランスで起こった芸術動向。1968年の五月革命を背景に、南仏地方を主な舞台として伝統的な絵画の枠組みを解体しながら、物質的な表現へと向かっていった。

歴史ある作品を“今”の視点で伝えていく

先述したような1960年代の美術作品は、「現代美術」を表す英語「Contemporary Art」の本来の意味である「同時代美術」とは言えない。だからと言って、当時の価値観のまま作品を紹介し続けていても、若い世代の鑑賞者が楽しめないというのが、ギャラリーヤマキファインアートの考え。同時代的な感性で作品を伝えることを大切にしていると言う。

取材時に開催されていた展覧会「COLLECTION: COLOR DROPS/ルイ・カーヌ」がその好例だ。ルイ・カーヌは、「シュポール/シュルファス」の代表作家。アルミニウムやグラスファイバーの網に樹脂で彩色を施すなどの作品は力強い存在感を放ち、今なお新鮮な驚きを観る者に与える。そして作品は、作家の元を離れてからも完成せず、新しい解釈を伴いながら熟成されることがあるのだと気付かされるのだ。

展覧会の様子

 

カーヌをはじめとする巨匠が築いてきた美術史の系譜の上には、今を生きる若手作家がいる。そのことをギャラリーヤマキファインアートでは意識的に捉え、さまざまな作品を紹介し、コレクションしてきた。幅広い作家層を、幅広い鑑賞者に紹介することで、より多くの人間に美術の魅力を伝えていく。

現代美術の普及をするのが自分の役割

現在、海外のアートフェアにも出展するなど、幅広く活動をしているギャラリーヤマキファインアート。実店舗に訪れる人を待つばかりではなく、ギャラリーが外に飛び出して美術との出会いを届けている。

このギャラリーの開廊に踏み切ったオーナー・山木加奈子だが、若い頃は画家を夢見ていた。
画家になるべくパリに留学した際、縁あって出会った画家がルイ・カーヌ。
山木はカーヌの助手のような立場で働きながら絵を描く日々を過ごすうちに、日本とはかけ離れたエネルギッシュなフランスの美術界に圧倒されたと言う。そこで初めて、「現代美術を普及するのが自分の役割」だと感じたそうだ。

カーヌの元で働くこと8年。パリから刺激を受けて帰国した山木は、美術館の広報スタッフとして働きはじめ、日本の美術界の動向を目の当たりにした。そこでは、現代人に古い作品の魅力を伝えるための工夫をせずに展示することが多く感じたと言う。そしてより一層、自身が主体となって美術を日本で普及させていきたいとの思いを募らせた。

 

日本に良い作品を残したい

海外への発信だけでなく、国内の美術館に作品を託すなどの取り組みも、このギャラリーの特徴の一つ。恒久的に保存され、定期的に公開される機会があるため、国内への働きかけも積極的におこなっている。
それは、日本の良い作品が散逸してしまうことを危惧しているからだ。海外アートフェアで日本の作家の作品が好評を得るのは喜ばしい反面、国内に作品が残らないのは寂しい。

しかし、日本の美術界はやはり、海外に比べまだ発展途上にある。そこで、その活性化のために、国内外での活動が必須であることも事実。課題は山積しているが、地道に“今”の視点で作品を紹介していくこと、そして若い作家を発掘・マネージメントしていくことが、日本の美術界を発展させる第一歩であると、同ギャラリーは考えている。

展覧会情報
ABSTRACTION‐絵画の可能性‐

ギャラリーヤマキファインアートでは、若手アーティストを紹介する企画第1弾として、30代~50代前半の作家3名による岸田久弥、森本絵利、中村成秀による展覧会「ABSTRACTION‐絵画の可能性‐」が開催される。

彼らにとって絵画制作は、それぞれの「現実」に迫るための方法。それは単純に目の前の対象を描き写すという古典的な絵画制作ではなく、現代に氾濫する多様な価値観やタブーを消化しながら、現実に対する眼差しを内在化させる行為だ。
その作品は、個別の空間や時間、さらには個人的な事象をテーマとしながらも、しかし決して独りよがりでない絵画の可能性と表現の広がりを感じさせるもの。
絵画という他者との対話が行われる場に注ぎ続ける彼らのエネルギーと、未来の可能性を感じさせる作品を、ぜひ会場で観てほしい。

・会場 ギャラリーヤマキファインアート
・会期 9月7日(木)〜10月7日(土)

◎出展作家によるトークイベント
日時:9月23日(土・祝)16:00より90分程度
作家:岸田久弥、森本絵利、中村成秀
司会:アートライター 小吹隆文
場所:ギャラリーヤマキファインアート
入場:無料
定員:30名(予約制)
<予約申込先および記載内容>
メール:info@gyfa.co.jp
電話:078-391-1666
件名:「9月23日トークイベント申込」
内容:氏名、人数、連絡先(メールアドレス、携帯番号)

展覧会情報
林勇気、ブノワ・ブロワザによる映像作品展(タイトル未定)

林勇気《永遠に溶けない氷があるとして》画像

林勇気
《永遠に溶けない氷があるとして》(映像作品の一部)

ブノワ・ブロワザ《Psychotopia(サイコトピア)》画像

ブノワ・ブロワザ
《Psychotopia(サイコトピア)》(映像作品の一部)

・会場 ギャラリーヤマキファインアート
・会期 11月23日(木・祝)〜12月27日(水)

[information]
ギャラリーヤマキファインアート
・住所 兵庫県神戸市中央区元町通3-9-5
・時間 11:00〜13:00、14:00〜18:00
・休廊日 日、月、火曜日
・TEL 078-391-1666
・URL https://gyfa.co.jp