ギャラリー

関西ギャラリーめぐり Vol.1 
千總ギャラリー(京都)

会場
千總ギャラリー
会期
3/3(木)〜4/3(日)

2022年3月3日、京友禅の老舗である株式会社千總の本店2階の千總ギャラリーに、現代アートを展示する新しいスペース〈gallery2〉がスタートした。ARTISTS' FAIR KYOTO 2022のサテライト会場でもあるこの場は、どのような思いで開かれたのだろうか。

1555年、千總は京都烏丸三条で法衣装束商として創業。
以後、ものづくりの過程で生まれたものや、ものづくりのために集められたものを受け継ぎ、今日では重要文化財2点を含む美術工芸品や歴史資料など、約20,000点を所蔵するに至った。

[重要文化財] 保津川図 円山応挙筆 [重要文化財] 保津川図 円山応挙筆

[重要文化財] 円山応挙《保津川図》 / 屏風 八曲一双 / 紙本墨画著色 / 1795(寛政7)年 / 各154.5×483.0 cm

大津唐崎図 岸竹堂筆 大津唐崎図 岸竹堂筆

岸竹堂《大津唐崎図》 / 屏風 八曲一双 / 紙本墨画淡彩 / 1875(明治8)年頃 / 各158.0×422.0 cm

 

一般に公開されることのなかったこれらの所蔵品を広く紹介するため、1989(平成元)年、本社ビルの創設とともに“美と出会える場”として開設したのが千總ギャラリーだ。
〈gallery1〉では、長い歴史を持つ所蔵品を通して、千總の歴史、過去から現代につながる美意識を紹介している。さらに、美を未来に向けて生み出すなど、ブランドの創造性を伝える場として現代アートを披露するスペース〈gallery2〉が今年誕生した。

──「伝統とは、守ることではなく創ること」という代々の教え

創業から江戸時代までは法衣装束商として、織物を生産し公卿や寺院に調進する商いをおこなっていた千總。明治時代からは友禅染に主軸を移し、日本画家に下絵やデザインを依頼し、岸竹堂をはじめとする京都画壇の画家たちのパトロンとしてアートを支えた。天鵞絨ビロード友禅や刺繍絵画など、工芸の技術を使って当時としては新しい美術品を生み出し世に送り出していったのだ。その根底には、アートと工芸を融合させて新しいものを創造していこうというスピリットがある。〈gallery2〉には、ジャンルやカテゴリーを問わない幅広い現代アートとの出会いを提供する場にしたいという同社の思いが込められている。そのコンセプトは、工芸とアート、伝統と創造、過去・現在・未来などが交差する場をつくり、様々な人が美と出会うことだ。
〈gallery2〉で現代のアートを、〈gallery1〉で歴史の中で蓄積された作品を観ることができる千總ギャラリー。取材に訪れた3月4日は、1階の店舗に大正時代の雛人形が飾られており、ギャラリーだけでなく店のしつらえからも日本の伝統や京の風俗が感じられた。現代のアート作品を取り扱うギャラリーは多いが、過去と現在を対比させながら、あるいは両者の共通点を見出しながら、未来に通じる新しい発見を得られることがこのギャラリーの特徴ではないだろうか。

ARTISTS' FAIR KYOTO 2022「alter in form – 変容」展

美術屋・百兵衛 ONLINEで2月28日にも紹介した「ARTISTS' FAIR KYOTO 2022」のサテライト会場として、3月3日から4月3日まで〈gallery2〉では池田光弘、山田康平、松田ハルよるグループ展「alter in form – 変容」が開催されている。
千總ギャラリーの今年の年間のテーマである「外と内」。これは本展のディレクションを担当した池田の「自らの内側と外側の世界との接触から想像性が生み出される」という制作のプロセスに通ずるものがある。池田は人物などの具象的な表現から、抽象的な表現まで幅広く手がけており、本展の出品作は、ちょうどその中間にある作品。池田が「外と内」の関係性を構成するにあたり、似たようなプロセスを踏む二人が選ばれた。

この展覧会のディレクションについて [池田 光弘]

Mitsuhiro Ikeda《double scenery》2022/oil on canvas/1200×1780mm

Mitsuhiro Ikeda《double scenery》2022/oil on canvas/1200×1780mm

池田光弘 左から 《untitled(drawing no.36)》2020、《untitled(drawing no.11)》2020、《untitled(drawing no.12)》2020

Mitsuhiro Ikeda
《untitled (drawing no.36)》2020、《untitled (drawing no.11)》2020、《untitled (drawing no.12)》2020

池田光弘
今回の「alter in form – 変容」というタイトルにあるように、それぞれ具体的に絵を描くきっかけがあり、それをいかに変容させ定着させているかがテーマとしてあります。ある程度再現性を留めた具象的な表現からそれを抽象化させていく表現まで、そのグラデーションが見えると思います。
私自身、現実的なものを受け取り、それを自分の中で消化して最終的にアウトプットするとき、作品によって抽象化の過程にあるグラデーションの様々なポイントを選択し表現しています。
この3人はそれぞれ別のプロセスを踏みながらも、そのプロセス自体が生み出す新たな想像性によって、きっかけとなった世界を再び変容させようとしているのではないかと考えています。

 

山田康平《Untitled》2022

山田康平《Untitled》2022

山田康平
もともと山をシリーズで描いていたのですが、そこからモティーフに縛られることに限界を感じて、その時から抽象的な画面づくりを目指していました。モティーフに縛られるよりも、この四角い画面の中でどういう絵画構成をするかという方にどんどん興味が移っていき、画面を黒い線で分断した絵になっていきました。
刷毛を動かすことに、画面を隠す意識があります。画面のファーストインプレッションは、キャンバスを平らにした状態でオイルを流して、染み込ませてから筆で描く。するとキャンバスを立てた時に絵具が流れたり、滲みができたりします。その絵具がレイヤーの一層目になるのですが、そこを隠すように、画面全体を覆うように刷毛を動かして画面を作っていく行為から私の制作は始まっています。

 

松田ハル《Picasso》2022

松田ハル《Picasso》2022

松田ハル《Duchamp》2022

松田ハル《Duchamp》2022

松田ハル
自分はVRを使って絵画や彫刻などを3D上で組み合わせて、それをシルクスクリーンをして出力し、平面として版画作品を制作しています。この作品(《Duchamp》)の場合は、マルセル・デュシャンの『階段を降りる裸体No.2』という油絵のオマージュです。また、自分の描いたVRドローイングの線や、左上の一部などは身体を3Dスキャンしたものです。白い平面の下地に白い絵の具で盛り上げると、キャンバスにインクを刷る時に溝にはインクが落ちないので凸面にしか色が乗らないんです。だからその部分は残像みたいに見えます。それは意図されたミスのようなものです。また意図しないミスもより絵画表現として効いていると思います。現実に出力する瞬間にエラーが起こり、イメージを「変換」するという意識が曖昧になっていったり、完璧ではなくなっていく。そういった行為が面白いと思っています。

 

千總ギャリー2

〈gallery2〉のオープン時期が「ARTISTS' FAIR KYOTO 2022」の会期と重なったこともあり、より多くの人に存在を知ってもらえるよう、サテライト会場としての参加を決めたという。会期初日から多くの人が足を運んでいるようで、ギャラリースタッフはこれまでとは違った層も来場すると話した。
今後は歴史、職人技、アートなどを多角的な切り口で体験できるイベントも開催される予定だ。例えば、アーティストトークやワークショップなど、作品を観たり所有したりするためだけでなく、様々な楽しみ方ができる場となるに違いない。

■「alter in form – 変容」
・会場 千總ギャラリー〈gallery2〉
・会期 2022年3月3日(木)〜4月3日(日)
・入場料 無料

 

小袖の裏事情

魅力的な色柄があしらわれた小袖には、裏側にも柄がほどこされているものがある。江戸時代中期以降、生活様式の変化とともに着物の着方も変わっていった。帯の幅が太くなるにしたがって、小袖全体にあらわされていた模様が段々と少なく、かつ裾や袂の方に下がるようになり、さらには裏側に移行した。
この展覧会では、普段は目にする機会の少ない裏側にほどこされた模様に注目し、柄の配置などが移り変わってゆく様子が、千總所蔵の小袖によって紹介される。女性たちの装いを彩ってきた小袖、その裏側を覗いてみよう。

千總ギャラリー1

千總ギャラリー1

■小袖の裏事情
・会場 千總ギャラリー〈gallery1〉
・会期 2022年3月3日(木)~5月23日(月)
・入場料 無料

[information]
千總ギャラリー
・住所 京都市中京区三条通烏丸西入御倉町80
・電話 075-253-1555
・時間 11:00〜18:00(千總本店の営業時間に準ずる)
・定休日 火曜、水曜(年末年始を除く)
・URL https://www.chiso.co.jp/honten/gallery/
※詳細は株式会社千總公式ホームページをご覧ください