アーティスト

うえだあやみインタビュー
──作家の存在が溶け込む、何気ない日常風景

《視線の指先》 

《視線の指先》 162.0×130.3cm 2022年 キャンバス/油彩
(FACE展2023 審査員特別賞受賞作品)

 

今年の2月18日から約1ヶ月間、SOMPO美術館で開催されていたFACE展2023。世界で評価される作家を見出し支援することを目的としたこのFACE展は今回で11回目を迎え、幅広い世代から作品を募る公募コンクールとして認知されている。今年は1,064点から81点が入選、9点が受賞した。
その狭き門をくぐり抜けた受賞者の一人が、うえだあやみ。
審査員特別賞を受賞したうえだは、東京・日本橋のREIJINSHA GALLERYで12月8日から開催される「FACE選抜作家小品展 2023」にも出展する。百兵衛編集部ではそんなうえだにインタビューをおこない、作品が生まれる瞬間についての話を聞いた。
日常の風景を切り取ったようなうえだの作品は、どのようなプロセスを経て、どのようにかたち作られているのだろうか。

《遠くでひかる/視線のゆびさき#10》

《遠くでひかる/視線のゆびさき#10》 27.3×22.0cm 2022年 キャンバス/油彩

「自分がその場にいて見ていた場所」を描く

──インスピレーションの源は何ですか?

作品のモチーフにもなっている自分で撮影した写真ですかね。
写実的という意味ではないですが、わりと元の写真をそのまま、手を加え過ぎずに描いているつもりです。自分の想像を形にする制作というよりも、自分の目を通して色や形を選び取る制作をしています。

 

──写真はうえださんの制作にとって重要なのですね。
どのような時に、どのような場所を撮影するのでしょうか?

普段歩いているときに気になった風景をよく写真に撮っています。
よく立ち止まるのは、ショーウィンドウのガラスや窓に自分の姿が反射している場に出会うときです。録音した自分の声に違和感があるように、ふだん外から見ることのない自分の姿に出会ってしまうと、違和感というか、ハッとしてしまいます。
でも窓やガラスには自分の姿だけじゃなく、自分の後ろの風景や奥にある風景が重なっていて、色んなものが透けて見えたり、見えなかったりしている。その中に自分の姿が溶け込んでいるのがおもしろいです。
「自分がその場にいて見ていた場所」を描くことを大事にしています。

 

──うえださんの存在が溶け込んでいるという点で、ある種の「自画像」のように感じます。

私が見た視線の景色という意味ではセルフポートレイトかも、と思うこともあります。
ですが、見た人に私の姿を探したり意識したりしてほしいわけではなく、むしろ私の姿が見えない、けど風景に人の形がいるかもしれないし、いないかもしれない、ということを大切にしたいです。

 

──実際に描いていく時のプロセスについて教えてください。制作はどのようにおこなうのでしょうか?

基本的には写真を撮影し、ドローイングを繰り返した後、油絵で描くというプロセスで絵を描いています。
ドローイングはダーマトグラフを使ったモノクロのドローイングと、カラージェッソで色を塗っておいた画用紙に透明水彩を使ったドローイングを描きます。油絵を描く際にはそれらのドローイングを見えるところに置きつつ、また元の写真をスマートフォンで見ながら描いています。昔は印刷した写真を見ながら描いていたこともあったのですが、今のプロセスで描くようになってからはスマートフォンを使っています。

《遠くでひかる/視線のゆびさき#12》

《遠くでひかる/視線のゆびさき#12》 91.0×72.7cm 2023年 キャンバス/油彩

 

「制作を続けていく希望」になったFACE展2023

──作品を描き始めたきっかけは何ですか?

小学生のときから休み時間にイラストを描いているような子どもでした。イラストを描いて友達と交流するのが楽しかったのだと思います。
そういえば、小学2年生の時に授業で描いた絵で特選をもらいました。今思えばそれが嬉しくて自信が持てたのかもしれません。でもそのあとはずっと賞とは無縁でした。
中学3年生で高校受験をする際に、普通科以外に行きたいと思って初めてデッサンをしました。受験のためでもあったけれど中学で熱中できることがあまりなかったので、熱心に打ち込むことができるものを見つけて楽しかったです。

 

──FACE展では審査員特別賞を受賞されましたが、その一報を聞いた時の率直なお気持ちを教えてください。

全然想像していなかったので、どうしよう!?という感じで、サイトで公表されるまで信じられませんでした。
大学を卒業してなかなか大作を描く余裕がなく、仕事を変えて制作に時間が取れるようになったから描けた作品だったので、それを評価されたことが何より嬉しかったですし、制作を続けていく希望にもなりました。
初めて見ていただく人にも作品を目に留めてもらえる機会が増えた気がするので、それが嬉しかったです。
ただ、そういった社会的な評価には関係なく、ずっと作品を見てくれている人は変わらず見てくれるのでそれもありがたいなと思います。

 

「私の絵の、私以外の感想が知りたいです」

「季節の変わり目、風のすきま」展示風景

「季節の変わり目、風のすきま」展示風景 2023年
撮影:オカモトアユミ

 

──個展「季節の変わり目、風のすきま」は、京都の銭湯「源湯」の中2階にある独特なギャラリー「氵」(さんずい)でおこなわれたそうですね。
空間構成など、展示に関して意識した点はありましたか?

「氵」は、大きな窓が印象的なギャラリーでした。絵を飾っている間から犬を散歩している人も見えて、他のギャラリーではなかなか味わえない良さがありました。
窓は制作のモチーフとしても扱うことがあるので、絵を描くときに私が見ている距離やすきまを、もう一度絵と一緒に見せられるような展示空間がつくりたいなと思いました。
絵と絵の間を単に「間」として見せるのではなく、絵があって壁があってまた絵に続いている、という絵も壁もすべて続きとして見せたくて、展示構成をしました。

 

──この場所ならではの成果や感じたことを教えてください。

銭湯に来たお客さんがふらっとギャラリーをのぞいてくれるのが嬉しかったです。
子どもが何度も階段を往復して覗いてくれたり、私のいない間に芳名帳に絵を描いてくれていたり。私が絵を見せているから、見てくれた人も絵を描き残してくれたのかもと思うと嬉しいですね。
大人になって言葉じゃないコミュニケーションをおこなう機会がなかなかないので、こういったささやかなやりとりが嬉しいです。

 

《歩くくらいの速さで#2》 

《歩くくらいの速さで#2》 27.3x22.0cm 2023年 油彩/キャンバス

 

──日本橋・REIJINSHA GALLERYでおこなわれる「FACE選抜作家小品展 2023」に出展される作品『歩くくらいの速さで#2』について教えてください。
この作品はよりシンプルにまとめられているように感じましたが、他の作品と差別化を図ったものなのでしょうか?

いえ。特別そんなことはなく普段通り制作したつもりです。大作と小作で描き方が違い、絵の密度が変わるのでそう見えるのかもしれません。
あとは、普段空が見えている構図をあまり描かないからかもしれません。空の色を強めに塗ってしまうとそこが空にしか見えなくなってしまうので、あまり塗りません。絵を見ていくうちにだんだん空間が見えてくる、ここに植木鉢のようなものがあるかもしれない?と、形が見えたり見えてこなくなったりする絵にしたいです。あまり描き込みすぎずに空間が見えてくるところを見つけたいなと思っていつも制作しています。

 

──作品を鑑賞される方にどのようなことを伝えたいですか?

私の伝えたいことを汲み取るように鑑賞するというより、その人の目に見えたことを書き残したり伝えたりしてくださると嬉しいです。
私は、私の絵の、私以外の感想が知りたいです。

 

──今後、新たに挑戦したいことはありますか?

今は大きい作品を描いていきたいです。関西、関東に限らず色んな場所で作品を見てもらえるようにしたいなと思ってます。

《ゆびさきから遠く#8》

《ゆびさきから遠く#8》 45.5×53.0cm 2023年 キャンバス/油彩

 

今回のインタビューで分かったのは、うえだあやみは軽やかに、深遠な内容を描き切るアーティストだということ。うえだの深い眼差しによって描かれた絵画は、鑑賞者に想像を促し、鏡のようにその内面を写し出す。

REIJINSHA GALLERYでの展覧会「FACE選抜作家小品展 2023」は12月8日(金)からスタート。ぜひこの機会に鑑賞していただきたい。

[Profile]
うえだあやみ
Ueda Ayami

1995年
京都府生まれ
2018年
成安造形大学芸術学部芸術学科 美術領域洋画コース 卒業
2019年
成安造形大学芸術学部芸術学科 美術領域洋画コース 研究生 修了
______________________
2017年
京展(京都市美術館/京都)
第35回上野の森美術館大賞展(上野の森美術館/東京)
個展「空としろのあいだ」(成安造形大学ギャラリーキューブ/滋賀)
2019年
「明日の私がここにいることを想像する/架空の身体」(芸宿/金沢)
「CAVE」(gallery TOWED/東京)
2020年
「EPIC PAINTERS Vol.7」(THE blank GALLERY/東京)
2021年
個展「空白にふれて海面が光る」(RISE GALLERY/東京)
2022年
「密室、風通しの良い窓、ぎこちないモンタージュ」(名古屋市民ギャラリー矢田/愛知)
2023年
「FACE展2023」(森谷佳永審査員特別賞、SOMPO美術館/東京)
「植木鉢のある風景II」(ギャラリーモーニング/京都)
個展「季節の変わり目、風のすきま」(氵/京都)
「Dimensions II」(Whitestone Gallery銀座新館/東京)
・Instagram @natsuno_hn
・URL https://ayamiueda.wixsite.com/natsunohn

[information]
FACE選抜作家小品展2023
・会期 2023年12月8日(金)~12月22日(金)
・会場 REIJINSHA GALLERY
・住所 東京都中央区日本橋本町3-4-6 ニューカワイビル 1F
・電話 03-5255-3030
・時間 12:00〜19:00(最終日は17:00まで)
・休廊日 日曜、月曜、祝日
・URL https://linktr.ee/reijinshagallery