アーティスト

萩原亜美インタビュー 
頭の中の映画を描く

萩原亜美《SCENE 18 EYES》

SCENE 18 EYES2023年 油彩/紙 23.0×25.5cm

VRの複合アート施設「Gates The Virtual Art City」で、2022年1月に開催された「第1回 Gates Art Competition」。この人物部門において、応募総数441点の中から見事グランプリに輝いたのが萩原亜美だ。同年3月には、カンヌ国際映画祭パルムドール賞候補 審査員賞受賞など数々の受賞歴を持つグザヴィエ・ドラン監督をモデルに描いた油彩画がなんと本人の目に留まり、直接購入のオファーが届いた。モチーフ単体を描く以外にも、2021年からは映画のストーリーボードに着想を得た手法も加わり、その作品の魅力は海を超えて人々を魅了している。

2023年8月25日から9月8日まで、REIJINSHA GALLERYで個展「Palm-Sized Stories」を開催する彼女に、出展作品やインスピレーションの源について尋ねた。

萩原亜美《EVAN HERE》22.7×15.8cm

《“EVAN HERE”2023年 油彩/キャンバス 15.8×22.7cm

個展「Palm-Sized Stories」制作エピソード

──今回の個展のテーマは日本語で「手のひらサイズの物語」という意味になりますが、なぜこのタイトルにしたのでしょうか?

今回の展示では手をモチーフとした作品が多いことも理由の一つですが、短編や情景のごく一場面を切り取ったような作品を中心に制作したので、手のひらサイズに収まるくらいの物語という意を込めて「Palm-Sized Stories」と題しました。1点1点を気楽にご鑑賞いただけたら嬉しいです。

──展示構成に特別な仕掛けや、世界観の設定はありますか?

F120号の作品『YELLOW CIRCLE』とそれに追随する小作品群以外に、作品間での特別な意味や仕掛けはありません。出展作品の中には共通点があるものや、似たような温度感や視点で制作したものもありますが、観ていただいた方が自発的にそれぞれの解答や物語を導き出してほしいと考えています。

──今回の出展作品を制作する中で、特にどのようなところを意識しましたか?

作品の主題に応じてどのような描画表現が適しているかを丁寧に見極めることを意識しています。
私は所謂 “絵柄”というものをあえて統一していません。 絵柄の統一によって、頭の中で思い描いていた構成や空気感を忠実に再現できる可能性が奪われるように思えるからです。
以前は絵柄を統一すべきなのか葛藤した時期がありました。しかし、画面に向き合った瞬間、たった一つしかない描画スタイルのスイッチを入れることは同時にそれ以外の表現やアイデンティティを殺すこととなり、非常に窮屈に感じました。具象でも抽象でもその中間でも、自分が持ちうる全ての表現が好きです。
描画表現をスポットライトとして例えるなら、たった一つのライトではなく、複数ある中でどの位置のライトをつけるべきか、どのような光の加減や色を当てるべきか、どうしたらこの構想が輝くのかを第一に考えて制作しています。

──個展では作品をデザインに使用した洋服も販売予定とのことですが、ファッションアイテムに適した作品の選出にこだわりはありますか?

完成後、この絵画を洋服にしたいかどうかを判断するにあたり、実際に発注してみたりシュミレーションしています。傾向としては具象的で落ち着いた絵画より、色彩豊かでダイナミックな筆致を用いた作品が洋服に映えるので、大きなストロークや粗さを残した作品を選ぶ傾向にあります。

映画のワンシーンを思わせる、物語性を重視した作品

──映画のストーリーボードに着想を得て作品を制作し始めたのは2021年からだそうですが、作家として活動し始めた2020年と比べて制作に対する考え方に変化はありましたか?

自分では特に大きな変化はないと考えています。
一枚絵であっても、以前から画面の情報に背景や物語性を積極的に持たせていたように感じます。それこそ文字情報を落とし込むこともしていたので、画面を羅列したり既存のフォーマットに当てはめるようになった以外に、あまり制作に対する考え方に変化はありません。
ただ、不明瞭にしていた部分を描画によって明瞭にする必要が出てきました。より背景・物語に具体性が増し、自分の表現したい世界の解像度を上げ、しっかりと把握する段階があり、それは今までの制作にはなかったとても新鮮な体験でした。

萩原亜美《星火燎原》

《星火燎原》2023年 油彩/キャンバス 24.2×41.0cm

──もっとも影響を受けた映画・監督について教えてください。

一つに絞りきれませんが最初の大きな影響で言うと、幼少期に観たスティーヴン・スピルバーグの『E.T.』(1982年)です。母曰く、当時VHSのテープが擦り切れるほど毎日観ていたそうです。
本格的に感性に訴えかけられるような影響を受けたのは、高校生の頃に出会ったグザヴィエ・ドランの『トム・アット・ザ・ファーム』でした。今までに観たことないような芸術性に溢れ、力強い表現力と才能に見入り、映画が持つ無限の可能性を目の当たりにしました。
その後、最も衝撃を受けた作品『ファイト・クラブ』の監督デヴィッド・フィンチャーにも多大な影響を受けています。
現在はドラン監督作をはじめ、チャーリー・カウフマン、ヨルゴス・ランティモス、スタンリー・キューブリックの作品のような、アーティスティックで後を引く、深みのある映画に最も大きな影響を受けています。

──映画のほかにもインスピレーションの源になっているものはありますか?

ストーリーボードは日本の漫画にも通ずる感覚があるように思います。そういう点で、映画だけでなく漫画やドラマを観るときにも見せ方やカット等からインスピレーションを受けています。
また、ソーシャルメディアでは世界中のペインターと繋がることができ、コミュニティの中で互いにインスピレーションを与え合っているように感じます。
哲学や心理学、言語学、宇宙科学等にも興味があるので、作品の主題やタイトルは専門用語や専門知識からヒントを得ることが多いです。今回出展したF120号の作品のタイトル『YELLOW CIRCLE』 はゲーテの色彩論から影響を受けています。

《YELLOW CIRCLE》作品1部分参考画像

《YELLOW CIRCLE》2023年 油彩/キャンバス 130.3×194.0cm(部分)

──近年は個展以外にも、SNSや動画サイトなど、様々な媒体で作品を発表する作家が増えています。
作品の見せ方や発表の仕方について意識していることはありますか?

継続的に発表することを意識するようになりました。
普段、InstagramやTwitterで作品を掲載していますが、身近な人や活動を応援してくださる人、遠い世界の人々、人生で絶対に交わることはないだろうと思っていた著名人ともコミュニケーションを取ることができる、そんな機会を与えてくれたのがSNSでした。
アーティストとSNSは切っても切り離せない生活に根ざしたツールのため、なにかしら作り続けていること・作家として息をしていることをまず人に知ってもらうことが必要だと考えています。
私自身まだ投稿に苦手意識がありますが、掲載作品が増えていく毎に次第に見てくださる方や繋がる人の数も比例したように感じます。とりあえず発表してみることが重要かもしれません。

──今後描きたい人物はいますか? また、今後の目標や展示予定などを教えてください。

友人を描きたいと思っています。何枚か素材を撮り溜めているので、今年12月に東急プラザ銀座で開催する個展に向けて、新作を何点か制作できたらと思っています。
ずっと練っている構想も書き起こして具現化したいのと、今後は技術的な面でも研究と練習を重ね、描画力を突き詰めていきたいと考えています。

萩原亜美《Bruno Vista》

Bruno Vista2023年 油彩/紙 31.0×23.0cm

以前のインタビューで自身の制作に関して、「いつか映画を撮りたいという願望と、絵を描きたいという願望の二つを合わせ、“絵画の中で映画を撮ろう”と考えました」と語った萩原。豊かなインスピレーションに支えられた彼女の奥深い作品世界は、今後ますます多くの人を魅了することだろう。

萩原亜美の過去のインタビュー記事はこちら

アーティストインタビュー・萩原亜美 Gates Art Competition – 人物部門 -グランプリ受賞作家

[Profile]
萩原 亜美 Ami Hagiwara
1998年
静岡県生まれ
2019年
グループ展「Bijo展」(ASAGI ARTS/東京)
個展「Deep Psyche」(清水港湾博物館フェルケール博物館/静岡)
2020年
静岡大学アート&マネジメントコース卒業
めぐるりアート静岡 2020「箱の生活+」“Life in the Boxes Plus”
(東静岡アート&スポーツ/ヒロバ コンテナ・アートベース内ギャラリー及び外壁)
2022年
第1回Gates Art Competition人物部門 グランプリ受賞(Gates The Virtual Art City)
Gates Art Competition グランプリ受賞作家展 –萩原 亜美–(Gates The Virtual Art City)
2023年
個展「Palm-Sized Stories」(REIJINSHA GALLERY/東京)

現在、静岡県にて制作

[展示予定]
2023年12月12日(火)〜12月17日(日) 個展/Art Gallery 東急プラザ銀座

Twitter @OscarSolanum
Instagram ami.storyboard

[information]
萩原亜美 Palm-Sized Stories
・会期 2023年8月25日(金)~9月8日(金)
・会場 REIJINSHA GALLERY
・住所 東京都中央区日本橋本町3-4-6 ニューカワイビル 1F
・電話 03-5255-3030
・時間 12:00〜19:00(最終日は17:00まで)
・休廊日 日曜、月曜、祝日
・URL https://www.reijinshagallery.com