ギャラリー

関西ギャラリーめぐり Vol.4 
Gallery Nomart(大阪)

 

関西ギャラリーめぐりの第4回目では、大阪メトロ中央線「深江橋」駅から徒歩約5分の場所にあるGallery Nomartノマルを訪れた。

ギャラリー内の様子

ギャラリー内の様子
天井が高く、音が反響する造り

Gallery Nomartは、1989年に「版画工房ノマルエディション」としてスタートを切った。そのコンセプトは、「SENSES COMPLEXー五感を超えて、感覚が交差・拡散する地点」。
“感覚が交差・拡散する地点”とは、どのような意味なのか。代表の林聡はやしさとしに尋ねた。

林:人間の感覚は、視覚、聴覚、味覚……全ての感覚が交わっているということ。純粋に視覚だけのものって存在しないし、音楽を聴いていてもその時に見ている風景だったり……そういうのが根本的な考えにあるんですよね。

“創造とはすべての感覚が関連し合っている”という、林の基本的な考え方は、創立当初の規模を広げ、現在は、現代美術・前衛音楽・デザインなど、多岐にわたる領域で活動する現在のNomartにつながっている。

林:美術以外にもデザインセクション、音楽セクション、ギャラリーセクションってあるんですけど、それぞれ独立はしているけれども一体化しているという考え方なんです。

その言葉の通り、ほとんどの展覧会では会期中にライブを開催しているのだという。美術、そして音楽が交わる場所を作り、訪れた人が広義のアートを“経験する”ことを目指しているからだ。

取材時開催中の榎忠「Pumise」展の様子

取材時開催中の榎忠「Pumice」展の様子

なぜ、このような場所が生まれたのか。
そう尋ねると、国立国際美術館で1988年に開催されていた展覧会「現代アメリカ版画の断面・作家と工房」を観たことがきっかけだという。

その展覧会では、ロサンゼルスのGemini G.E.L.という版画工房の成果が展示され、アメリカ版画における作家と工房の関わり方とその意義を改めて考えさせられるものだったという。Gemini G.E.L.の制作物は、他の工房と一線を画す前衛的なものばかりで、林は心を掴まれた。

林:その展覧会で一番面白かったのが、“publish”する(“作品を出版する”)と書いてあったこと。
本は出版するって言うけど、“作品を出版”って、なんか引っかかりがあって。
より、美術作品が身近になったり、広がったり、普及したり……というふうに繋がるキーワードのような気がして。

この展覧会を機に林は、日本でも前衛的な版画工房を立ち上げようと志す。そして1年間の準備期間を経て、1989年版画工房ノマルエディションがスタートした。
名前の由来は「Nomad(ノマド/遊牧民)」+「Art 」。「定住せずにあらゆることにチャレンジしていくという姿勢」を表した造語だという。

代表・林の作業場


──作り手であること

何と言っても特徴的なのが、Nomartはギャラリーとしてだけではなく、作り手としても活動し続けていること。「作るということが根底にある」と林が語るように、デザインや出版、展覧会に至るまで、作家と共同で作り上げている。作家がアトリエで作品を作ることはあっても、最初にコンセプトを共有し合い、ギャラリーと作家の両者で展覧会の方向性を決めていく。

このようなギャラリーは、日本にはほとんど存在しない。しかし、作家とともに展覧会や作品のアイディアを出し合い、構想を練ることで、“名作”が誕生することもある。
あの名和晃平の代表作「PixCell」シリーズも、生まれたのはここ、Nomartだった。さらに「PixCell」というタイトルを命名したのも林だという。
コンセプトから、作品のプロトタイプ制作まで、あらゆることをともに作り上げる。それがNomartのポリシーだ。
取材では、版画工房や最新の機材が揃っているデザインオフィスなど、ギャラリー以外の場所も十分に見学した。ものづくりが好きな人なら誰もがワクワクする、そんな空間だった。

版画工房の中の様子

名作が多数生まれてきた版画工房の様子

創造性あふれる林のことを、まるで一人のアーティストのように感じたが、

林:アーティストとはまた違うんです、コラボレーターだと思っています。

と言う。また、その言葉に対して、Nomartのディレクターであり、ピアニストとしても活動する今中規子いまなかのりこは、

「私が横で見てて思うのは、アーティストを作るアーティストかなという気がしています」

と、話した。デザイナー、ギャラリスト、アーティストなど、肩書きは林にとってはもはや無用なのかもしれない。

取材時開催中の榎忠「Pumise」展の様子

榎忠「Pumice」展では広々とした空間を生かした展示。
作品に囲まれるような体験をした。

版画の枠を越えた実験的なプロジェクトや企画展をおこない、様々なメディアを駆使する作家たちとともに、新作・新シリーズを次々に生み出してきたNomart。
今後、どのような展開を構想しているのだろうか。

林:まだまだアイディアが尽きない。進行中の新作などもまだまだあるんです。
うちは売れるものをやろうという姿勢は一切ない。面白いもの、面白いと思えるもの、一番フレッシュなもの、一番先端のアイディア……それを実現していきたいので。

版画工房の中の様子

制作の跡を至るところで見ることができる版画工房

創業から30年以上が経つがNomartの活動は留まるところを知らない。既存のギャラリーや出版社などの枠に当てはまらない創造を実現し続けている。
今後もここでは、あらゆるジャンルが交わり、広がり、一つの生きもののようなアートが生まれていくことだろう。

黒宮 菜菜「鳥を抱いて船に乗る」

黒宮菜菜 “船に乗る #2”

黒宮菜菜 《船に乗る #2》 2022, coutesy of Gallery Nomart

10月1日からは黒宮菜菜による展覧会が開催される。
黒宮は2019年の大原美術館の若手作家支援事業「ARKO」招聘と同館での作品発表、2020年3月に開催されたVOCA展への参加(佳作賞受賞)など、近年着実に評価を高めている画家だ。

彼女の作品は、主に人物がモチーフとして描かれる。液状に溶いた油絵具による油彩作品と、重ねた和紙に染料を滲ませて描く紙作品、2つの技法を使い分けて制作しているという。
描かれた境界が曖昧で幻想的なイメージは、見る人の想像力を喚起させ、曖昧であるが故に、より強い印象を脳裏に焼き付ける。また絵具が流れた痕跡は、美しくも儚い様々な移ろいを想起させる。

2020年にNomartで開催された展覧会では、新しいイメージの展開として、自身で考えた物語の1シーンを切り取って描いた新シリーズを発表。実在する小説を題材にしたそれまでの作品から、黒宮の描きたいテーマにより近づき、見る人の想像力が一層掻き立てられる魅力ある展示となった。
今展では、日本の古墳時代にまでさかのぼり、実際にあったであろう史実を元に、当時の人たちの死生観や自然との関わりに着目。時空を超えて人間の根源的な本性を探る作品を展開する。さらに、“油がもたらした絵具の流動性”に加え、“蜜蝋による物質の封印”という新たな表現が現れているという。

[information]
黒宮 菜菜「鳥を抱いて船に乗る」
・会場 Gallery Nomart
・会期 10月1日(土)〜10月29日(土)
・入場料 無料
◎関連音楽ライブ「Bird」
・会場 Gallery Nomart
・日時 10月15日(土)19:30開場、19:45開始
・料金 前売り券3,000円、当日券3,500円 ※予約制
・出演 K2(草深公秀)、sara(.es / piano)
詳細は下記公式ウェブサイトを参照

[information]
Gallery Nomart
・住所 大阪市城東区永田3-5-22
・時間 13:00〜19:00
・休廊日 日曜・祝日、お盆、年末年始の期間
・TEL 06-6964-2323
・URL https://www.nomart.co.jp

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