ギャラリー

関西ギャラリーめぐり Vol.5 
MON Gallery and Wine Bar(京都)

 

関西ギャラリーめぐりの第5回目は、今年1月にオープンしたばかりの「MON Gallery and Wine Bar」(以下、MON)へ。場所は京都市内にある三条会商店から少し外れた住宅街。民家がひしめく京都らしい路地を進むと、MONは現れる。

このギャラリーは、ファインアートだけでない多彩な品々を取り揃えており、まるで「Cabinet of curiosities(驚異の部屋)」*のような場所だ。なんと言っても特徴的なのが、上質なナチュラルワインを楽しむことのできるワインバーが併設していること。魅力あふれる要素が満載だ。

MONを立ち上げたのは株式会社エコノシスデザインという京都のデザイン会社。彼らが手掛けるデザイン媒体はウェブやパッケージなど多岐にわたり、そこには企業や店舗も含まれる。つまり、より本質的なデザインとも言える、ブランディングだ。ブランディングは、いわば顧客の店づくりの手伝いをする仕事。デザイナーとして長らくその仕事に携わってきた同社代表の中尾光孝氏は、MONの運営で経験を活かしていくという。

築50年の建物にリノベーションを施したこの場所は、もともと、塗装業者が所有していたもので、1階が倉庫、2階から上が社員寮だったそうだ。危険物を保管するために使われていた1階の、コンクリートで固められた倉庫には天窓が設けられており、爆発が起きた際に爆風を上に逃がすよう設計されている。中尾氏はこの天窓を「香港の街みたい」だと思ったという。リノベーション後はコンクリートの無機質な空間に、天然木を取り入れることでギャラリーの空間にやわらかな印象を与えた。

*Cabinet of curiosities(驚異の部屋):15世紀から18世紀にかけてヨーロッパで作られていた、様々な品を集めた博物陳列室で、イタリアの諸侯や有力貴族の間で作られたことに始まる。Wunderkammer(ヴンダーカンマー、ブンダーカマー/ドイツ語)などと呼ばれることもある。今日の博物館の前身となった。

TILE KIOSK(下段)
岐阜県多治見地区の窯元に眠っていたデッドストックや長い間作り続けられているものから新しく生まれたもの、時には、実験的に作られた希少なプロトタイプなど、色や形、サイズ、年代も実にさまざまなタイルをセレクトしているTILE KIOSKのタイル。

デザイナーの立場から「良いもの」を発信してみたい

──なぜこの場所を作ろうと思ったのでしょうか?
中尾光孝(以下、中尾):デザイン会社として、ブランディング、つまりお客様の企業・サービスのお手伝いをしてきました。ブランディングは、僕たちデザイナーの仕事が終わってからの「その先」が大事なんです。だから、僕自身が自分の店を続けていくことで、いろいろな感覚が身に付くと思いました。デザインというのは、デザイナーが何者かということを発信するものではなく、お客さまが何かを発信する為のもの。自分たちが「いいな」と思っているものや、作家性・キャラクター性は優先しません。だから、それを出せるメディアや場所が必要だと感じていました。そうすることで、新しい人との出会いや出来事が生まれるんじゃないかと、ずっと考えていたんです。

シグリッド・カロン(壁面)、Pull Push Products.(左)、Oy(右)の作品やプロダクト

■シグリッド・カロン
1969年生まれ、オランダ・ティルブルク在住。ティルブルグ芸術大学でテキスタイルデザインを専攻し、デザイン業界で長年経験を積んだ後、2005年以降完全に芸術性に重点を置く視覚芸術家。
作品制作においては直感、遊び心、かつ合理性を重視し、自分を取り巻く日常の物事からインスピレーションを得ている。2002年、佐賀県のクリエイティブレジデンス有田(CRA)で3ヶ月間滞在。
Pull Push Products.プルプッシュプロダクツ
京都鳴滝のスタジオを拠点に素材とストーリーをモノ作りのコンセプトとし、使うときの楽しさや触れたときの質感を大切にしたアイテムを、コレクションにまとめて発表している。手仕事の中で生まれる繊細さや緩やかさを大切に考え、作り手の温度が伝わる製品を提案している。
Oyオイ
Oyは、オランダで出会った大植あきこと、吉行良平の2人によるレーベル。アクセサリー/日常品の制作販売を行なう。それぞれのアイテムに加え、「道具」をテーマに共同のプロジェクトをリリース。二人の拠点である大阪の、工場や職人の元へ自転車で通い素材の観察・試行を行なうことをスタートとしてプロジェクトを進めている。

旅するように「面白い」に出会う

──「いいな」と思うもの、というのは具体的にどんなものなのでしょうか?
中尾:個人的な趣味を起点にしているので、選んだものにそれが反映されています。ただ、単純に「かわいい」というようなものよりは、何かしらの意味があったり、本質的な何かがあるものが好きなんだな、と自分で思います。

──確かに、店内を見てみると幅広いジャンルの珍しいものがたくさんありますね。
中尾:アートにこだわらず、プロダクト、骨董、デザインや写真など、全てをフラットに扱っています。
もともと旅が好きで、外国に行く度に骨董品などを買っていたのですが、偶然、見たことのない面白いものによく出会うんです。MONを、そういう出会いの場所にしていきたいです。

──何かに偶然出会えるというのは、この場所自体が旅のようですね。また、路地裏に面白い店がある、京都という土地とも親和性を感じます。
中尾:
確かにそうですね。商店街から外れたところをたまたま歩いていたらMONがあたり、ワインバーだと思ったらその手前にギャラリーがあって何かと出会ったり、あるいはその逆も、まさに自由な旅のように偶然発見してもらいたいです。

旅するようにワインに出会う

──MONで提供するワインへのこだわりを聞かせてください。
中尾:ワインバーを併設したのは、自分がワインが好きだから、というのもありますが、ギャラリーだけではなく気楽に訪れてもらえる場所にしたかったからです。
ワインは、他のお酒と違って葡萄だけで作ることができるものですが、ワインと一口に言っても、ここにあるのは添加物の入っていないナチュラルワイン。大量生産のワインと違って、ナチュラルワインは「今年はおいしい」どころか、ボトルによっても味が変わったりして、複雑で面白いんですよ。一期一会のような。旅やお店のコンセプトとも一緒だと思ってます。

──ワインは難しそうだと思ってしまうのですが……。
中尾:そんなことない、とてもカジュアルですよ。高いと美味しい訳ではないですし、「これおいしいな」っていう、それだけで良いと思いますしそういうお店です。たくさんの産地のワインがあるので、いろいろなワインと出会ってほしいと思います。

前菜やおつまみはもちろん、自家製のパン、パスタ、ピザなどのワインに合う食事も提供している。

開催中の企画展
菊地匠「左手の庭」

菊地匠の作品

MONでは5月13日から29日まで、MONのギャラリースペースで菊地匠「左手の庭」が開催中。東京藝術大学でには日本画を専攻していた菊地は、コットンでできた水彩紙に岩絵具を用い、一度つけた絵具を拭うという手法で作品を描いている。
ぜひその目で見ていただきたい。

[information]
菊地匠「左手の庭」
・会場 MON Gallery / Shop
・会期 5月13日(土)~5月29日(月)
・作家在廊日  5月13日、14日、15日、28日、29日

──鑑賞を楽しんだ後はワインをゆっくりいただこう
[information]
MON Wine Bar

・18:00〜26:00(火・水曜日定休)
・TEL 070-1186-1534
・MAIL wine@mon.kyoto
・Instagram https://www.instagram.com/mon.wine/

[information]
MON Gallery and Wine Bar
・住所 京都府京都市中京区上一文字町285
・時間  14:00〜20:00
・休廊日 火・水曜日
・TEL 070-1182-2087
・MAIL gallery@mon.kyoto
・URL https://mon.kyoto
・Instagram https://www.instagram.com/mon.kyoto/

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