ギャラリー

関西ギャラリーめぐり Vol.3 
TEZUKAYAMA GALLERY(大阪)

 

第3回目となる〈関西ギャラリーめぐり〉。今回訪れたのは、TEZUKAYAMA GALLERY(大阪・南堀江)だ。
大阪・帝塚山で、その地の名を冠したギャラリーが誕生したのは1992年のこと。その後2010年3月には南堀江へ移転した。
当初はアメリカ、ヨーロッパ、アジアの現代作家を取り扱っていたが、近年では日本の若手作家を中心に紹介しているほか、国内外のアートフェアにも参加するなど、活動の幅を広げている。

TEZUKAYAMA 1画像

アートの仕事って面白い

TEZUKAYAMA GALLERYは、オーナーの松尾良一氏がバブル崩壊直後にスタートさせた。空き物件を見つけ、1ヶ月ほどで準備したという。アートがビジネスになるとはほとんどの人が想像しなかった時代、なぜ松尾氏は開廊を決意したのか。

「アートの仕事って面白いと思ったんですよ、ビジネスとして面白いなって。美術って、キャンバスと絵の具はみんなおんなじやのに何億とかの価格がついたりするのすごいなって。モノや人によって価値判断が違ってて、ほかには考えられへん世界やなと。それから、自分にとって知識として必要なものが膨大にあって、それを追求していく面白さみたいなものもあった」と、当時を振り返った。

開廊当初はセカンダリー(二次市場:オークションなどで作品を手に入れ、販売する)ギャラリーだった。しかし、海外のアートフェアに足を運んだことで、まだ知られていない作家をプロモーションすることに魅力を感じ、2008年から本格的にプライマリー(一次市場:ギャラリーオーナーが作品の値段を決める)ギャラリーとして活動している。
「セカンダリーは世の中ですでに評価されている作品を扱うから、自分の審美眼がある意味、ユルいっていうか……。自分でモノをしっかり観るという意識が弱い。でも自分で作家を見せていくっていうことは、良いと思うモノを良いでしょって見せて、それがちゃんと反応されて、試されているような感覚」と、松尾氏は微笑んだ。

ふたつの空間があるギャラリー

TEZUKAYAMA GALLERYには、主に企画展をおこなう「Main Gallery」と、コレクション作品なども展示する「Viewing Room」のふたつの空間がある。それが画廊としての大きな特徴の一つといえるだろう。

TEZUKAYAMA 2画像

取材時にMain Galleryでおこなっていた門田光雅個展「SUPER PRISM」

 

TEZUKAYAMA 3画像

取材時にViewing Roomでは企画展「Gallery Collection 1960-1990s」が開催され、
壁には遠藤利克、菅木志雄らの作品が並んでいた

Viewing Roomで展示されるコレクションは、松尾氏が若い頃から少しずつ集めた作品。
「今回展示している作品は比較的前から持っているものが多いですよ。帝塚山から南堀江に移ったのが2010年で、そのときはMain Galleryだけだったんですけど、コレクションを見せたいなぁという思いもあって……。それでMain Galleryとは全然違う雰囲気で、コレクションルームくらいの感じでViewing Roomを始めようかなと。お客さんに、コレクションする面白さとかを感じてもらおうと思って。お客さんが来たらなんやこれ、とか言って話もすごく弾むし」

その会話がきっかけでコレクターになったという人もいるのだそう。
「初めて買いましたとか報告されると嬉しいですよ、買ったのがウチじゃなくても。作品を初めて買うのって、自分の中ですごく勇気も出して買ってるわけですよ。だけど自分で買うことで得る“良さ”というか、“感動”というか……。家に飾って毎日見ていてすごい癒されてますとかってよく言われるんですよね。やってよかったなって思うし」

 

DM画像取材時には「Gallery Collection 1960-1990s」展が開催されていたViewing Roomだが、6月24日(金)から7月23日(土)までは企画展もおこなわれている。
アーティストの山下耕平がキュレーションする、『中景: ActⅢ「岩は木のことを知らなかった。」』は、東京と大阪、距離を隔てた2つのギャラリーで同時開催される、4名のアーティストによる展覧会だ。東京のLEESAYA(下目黒)では山下耕平と須賀悠介、TEZUKAYAMA GALLERYでは二藤建人と川田知志という組み合わせ。4名のアーティストが遠景と近景のあいだにある「中景ちゅうけい」という極めて曖昧で不明瞭な概念を起点としながら、それぞれの解釈で作品に転換し、1つの展覧会を作り上げる試みだという。

さらにMain Galleryでは、彫刻家・築山有城の個展『Exhibition 2022』も同会期で開催中。
TEZUKAYAMA GALLERYでは10年間に渡って築山の新作を毎年発表する「Exhibition Project」を、2017年からスタートさせた。同プロジェクトの6回目にあたる今展では、ステンレススチールを用いた作品群を展観している。

TsukiyamaDM画像

どちらも企画そのものに、際立った個性を感じる展覧会だ。ぜひ会場で鑑賞していただきたい。

ART OSAKAとの関わり

TEZUKAYAMA GALLERYスタッフは多数のアートフェアの運営にも関わっている。

その最たるものが今年で20回目となるアートフェア「ART OSAKA」。オーナーの松尾氏は長年にわたり、このフェアの実行委員の一人として、運営に携わっている。ART OSAKAは以前はホテル型のフェアであったが、コロナ禍の影響で、昨年から、会場を大阪・中之島の中央公会堂に移した。今年は、さらに大阪・北加賀屋にあるクリエイティブセンター大阪(名村造船所跡地)を加え、2会場で開催される。

同フェアの北加賀屋への展開は、“今”、その必要性を感じたことが契機となっていると、松尾氏は語る。

これまで、ART OSAKAでは会場の制約もあって大型立体作品が展示される機会は少なかった。しかし、運営陣は海外のアートフェアのように日本でも大型作品が売買され、アーティストが活躍しやすい環境を作りたいと考えてきた。そこで、近年ようやく改善されてきた日本の“今”のアートシーンで、大型作品に特化したフェアの開催に至ったのだという。

「日本のアートの環境は昔に比べたらだいぶ良くなっていて、新しいコレクターも現れて、アートを受け入れる空気感みたいなのがあるから、今やらんといつやるんや、と。大きい作品にフォーカスしたフェアというのをやりたかった。この、フェアっていうのに意味がある。例えば美術館のデカいスペースで展示するのは美術館の仕事として必要やけど、フェアにあるものは実際に買えるという意識を持ってもらおうと。多分、最初は売れにくいと思いますよ、でもそこにチャレンジするという意味でね。」

「ART OSAKA 2022」の記事はこちら

「やりたいことはまだまだある、めちゃめちゃある」

松尾氏に今後の展望を尋ねると、「やりたいこと、新しいアイディアはまだまだある、めちゃめちゃある」と、意欲的な言葉を聞くことができた。また、「今後は大阪・中之島を中心としたより大規模なイベントにすることで、街の魅力の発信にも貢献していきたい」と、新しいイベントについての構想を語る。

一方で、「イベントの元になるような、お金の出どころが必要で。それが東京だったら行政が出すかもしれへんし、企業がスポンサーとして出すとかあるんですけど。大阪ではそれが難しい。企業の感覚も東京とはやっぱり違う」との言葉も聞くことができた。
東京や一部の地方では、アートを有効に活用したまちづくりも浸透しつつあるが、その背景には行政や企業からの十分な資金援助があることが挙げられるのだそう。

さらに、若手ギャラリストが少ないため、将来に渡ってイベントを継続できるかという問題もある。そのため、松尾氏は人材の育成にも力を入れ始めた。
「自分が主体でやるというよりは、イベントの基盤となるような部分を作ったりスタートさせたりして、その後の運営は若手に任せていきたい」と話し、アートシーンの活性化とその継続を目指す。

TEZUKAYAMA GALLERYのアシスタントディレクターを務める岡田慎平氏は、松尾氏が育てている人材の一人。近年ではギャラリーでの展覧会ディレクションのみに留まらず、東京・大阪・京都の3都市から次世代のギャラリーやディレクター陣を招聘するアートフェア「DELTA」の企画・運営もおこなっている。

年齢が離れているため、二人は日常的に幅広い世代の作品の情報をお互いに共有している。
松尾氏は、「若い人が見ているものって、僕とは違う。そういう違いが面白いし、勉強にもなる。世代が違う人間が混ざり合うというのは楽しいことですね」と、若手と共にイベントを作り上げること、そして若手がひとり立ちすることを嬉しそうに語った。


TEZUKAYAMA 3画像

今回取材をし、TEZUKAYAMA GALLERYの幅広い活動は「三方良し」という言葉を連想した。
三方良しとは、近江商人の心得をいった言葉。売り手、買い手が満足し、社会貢献もできるのが良い商売であるという意味だ。制作や活動環境を改善することでアーティストを支援し、アートが身近にあることで購入者に安らぎや活力を与え、そしてアートによって地域文化や経済の活性化を促すからだ。
三者が最も理想的なかたちになることを模索するのは、このギャラリーが今後のアートシーンを見据え、明確なビジョンを持っているからではないだろうか。
TEZUKAYAMA GALLERYという空間で、松尾氏と彼の後に続く若きギャラリストたちは広く世界を見つめている。

■中景: Act Ⅲ「岩は木のことを知らなかった。」
・作家 山下耕平/須賀悠介/二藤建人/川田知志
・会場 TEZUKAYAMA GALLERY〈Viewing Room〉
※山下耕平、須賀悠介はLEESAYA(東京)で展示
・会期 2022年6月24日(金)~7月23日(土)
・入場料 無料
■Exhibition 2022
・作家 築山有城
・会場 TEZUKAYAMA GALLERY〈Main Gallery〉
・会期 2022年6月24日(金)~7月23日(土)
・入場料 無料

[information]
TEZUKAYAMA GALLERY
・住所 大阪市西区南堀江1–19–27 山崎ビル2F
・電話 06-6534-3993
・時間 12:00〜19:00
・定休日 日・月曜日、祝日 ※展覧会会期中以外は、予告なしに休廊する場合があります
・URL https://www.tezukayama-g.com