文=小松美羽

《白龍 赤龍》
人との繋がりや努力によって、大きな夢も叶う
生き抜いてみないとわからないことって多いと思う。
その時はなんてことなく過ぎていたけれども、
心のどこかで憧れていたり、感受性がピクッと動かされていたり。
遠い世界のように感じていたことも、実は結ばれていたり。
その時は絶対に叶えたいと願っていたことが、
実はそこが運命の場所ではなかったり……。
ご縁は奇跡だと言い表す人もいるけれども必然だと私は思う。今まで生きてきた自分だけでなく周りの人たちが得て紡いできたものが相乗的に結果をもたらしていくのかもしれない。
それには1人では成し得ることができないことも多かったと思うし、1人だったからこそ積み上げたものもあったはずだ。
だからここまで生きて来れて、生きてくれてありがとうと言いたい。人生の破滅的な場面から今を生きてくれてありがとう。
前を向いてくれてありがとう。全てはきっと繋がっているから光は存在し続けてくれるのかもしれない。
2025年7月5日より札幌芸術の森美術館にて「小松美羽 祈り 宿る」が開催される。札幌で展覧会が終わった後には北海道立函館美術館にも巡回する。札幌と函館を初めて訪れたのは20代の頃で、札幌では札幌芸術の森美術館にも足を運んでいた。函館では夜景を見に行った記憶が蘇ってきた。夜景が見える展望台からは北海道の地図の形の一片が垣間見れて、なぜかすごく興奮したのを覚えている。

当時、女子美の研究生をしていた私は、札幌芸術の森美術館に版画の貸工房があると聞いて立ち寄ったのを覚えている。東京でのアルバイト生活と作品制作の生活時間の兼ね合いに困窮し始めていた当時の私は、東京ではなくて地元の長野や北海道にも移住の可能性があると感じていた。なので、貸し版画工房があって制作環境が整っている場所を自然と訪れていたのだ。
美術館の園内にたどり着くと、まず新緑を吸い込むような気持ちのいい風が吹く美術館が目に入った。せっかくなので企画展を見ていこうと思い、拝観させていただいた。その時に「ここでいつか展覧会をしてみたいな!」と素直な気持ちで思ったのだ。まだ駆け出してもいない研究生の私だったが、プロの作家を目指す人間として公立の美術館で展覧会をしたいと思うのは恥ずかしいことではないと思っていて、そのためにどうしたら作家として大成していけるのだろうかと真剣に考えた。
私は自分の欠点ばかり見えてしまうから今以上の努力が必要で、今以上に人生を絵に捧げていかなくてはいけないと、当時札幌で物思いに耽ったのを覚えている。
けれど、そんな私でも当時憧れていた1つの美術館で個展ができるのだから、私は幸せ者だし、周りの皆さんに感謝しかない。
こんな小松も夢に近づいていったのだから、自分もやれるかもしれない?っと、勇気を持ってもらえたら嬉しい。
札幌と函館に向けての新作はあっという間に出来上がった。絶滅してしまったと言われるエゾオオカミのスピリットをモチーフの中心に置き大きなキャンバスに迎えることができた。そんな制作工程が心から光栄なことだと感じた。

《雪の日、エゾオオカミのスピリット達の呼びかけにたくさんの仲間たちがやって来たよ》
(以下、展覧会に向けた作者コメント)
「北海道に訪れるたびに四大要素の恩恵を強く感じ、広大な自然を目の前に座すことで、自分の肉体は地球の要素から構築されている頂き物なのだなと気付かされていく瞬間がある。自分の体の中にある植物の形をした塊たちが、北海道の大気に触れることで嬉しそうに回転している。そうしていると、植物や鉱物や生物や大気においての差別がなくなり一体化していく。私たちは特別な器に宿った何者かなのかもしれない。
古くから人々は動物たちを聖なる存在として畏敬の念を持ち共存していた。しかし、明治時代に実施された駆除などが要因の1つとなり、エゾオオカミやニホンオオカミは絶滅の道を歩んでいった。駆除されてしまったエゾオオカミの魂へ祈りを捧げるアイヌ民族の祭事に参加させていただいた時に、私は初めてアイヌの人々の言葉に触れた。意味を理解することは頭では難しいことだったけれども、口から発する音や楽器の清らかさにエゾオオカミの心の温度にも触れられたような気がした。
今回の個展に合わせて描き上げた新作には固有の動物を題材にスピリットの世界を構築しており、エゾオオカミの遠吠えをきっかけに多くの生き物たちが互いを尊重しながら鎮魂の塔を作り上げている。
また、その土地や場所に残る記憶を頼りに過去の意思を感じ取ることができる。今までに物質や空間から過去の断片を共有していくような経験があった。関わった多くの命や自然現象の数だけ情報量は膨大になっていく。そんな物質に宿るネットワークを古のインターネットと捉えた黒曜石を用いたインスタレーションの作品も展示。
展覧会を開催するにあたって、皆様のご尽力と貴重な時間をいただけたことに感謝。そして、ご来場くださった皆様に感謝。皆様の向かう道の先が清らかな光で満ち溢れますように。」

札幌芸術の森の開園40周年を記念して、6月14日には小松美羽のライブペインティングもおこなわれた(右:GLAYのTERU)
そして、今回はありがたいことにGLAYのTERUさんが展覧会の音声ガイドを務めてくださることになった。TERUさんとは私のマネージングディレクターをしてくれている星原恩さんが古い縁で繋がり続けていて、スタッフ同士の仲が良い。今年の台北ランタンフェスティバルでTERUさんが「画家TERU」として自分の作品をランタンにして展示したということを星原さんから伺った。GLAYのTERUさんは画家TERUさんとしても活動されているのだと知った。
ご縁の繋がりで画家TERUさんと展覧会前に初めてお会いさせていただいた。中学の頃の学園祭の主題歌はGLAYの曲だった。お会いした時に、久しぶりに緊張したのを覚えている。TERUさんはスーパースターであるのに、すごく腰が低い。現場も誰よりも早く到着されているし、周りへの配慮と気配りが自然だ。声も素晴らしいイケボなので展覧会での音声ガイドをやっていただけると聞いて、もちろん北海道を盛り上げたい、函館を文化の香る町にしたいという地元を愛するTERUさんの純粋な気持ちからであるにしても、どう感謝していいのかと思うくらい感謝と感謝だった。TERUさん自身も初めての音声ガイドだというので、ぜひ多くの人に音声と共に美術展を楽しんでもらえたら嬉しい。
TERU
GLAYのヴォーカリスト。
昨今ではGLAYのシングル楽曲を数多く手がけているが、各アーティストからの依頼により、楽曲提供やプロデュースなども精力的に行っている。
また、音楽活動の他、エイズ予防キャンペーンの一環のレッドリボンライブへの長年のレギュラー出演や、ホワイトバンドプロジェクトへの参加、東日本大震災・熊本地震の復興支援活動などにも力を注いでいる。

アートバーゼルにてパネルディスカッションの模様
縁とは生きている中で過去から照らし合わせて実感していくもののように感じつつ、2025年6月、私は昨年と同様にスイスのアートバーゼルに滞在していた。今年はアートバーゼル館内でGen De Artさん主催のパネルディスカッションが開催されることとなり、スピーカーとして参加のオファーをいただいた。
パネルディスカッションでは「反復やリズムが作品制作に与える影響」、「生態系の危機と分断」等が議題に上がった。
スイスに到着する前のトランジット先のフランスのシャルル・ド・ゴール空港内にて、予めディスカッションの趣旨を理解し、乗り継ぎ時間に自分の意見をまとめた文章を制作した。
作家には時に「この問題についてあなたの意見を聞かせてくれ?」と投げかけられることがある。その時に瞬時に答えられる力も養っておくと良いと感じる。言葉や文章にしてみることで、改めて自分の考えていることを日頃からまとめておいたり、他者と共有したりするのも良いかもしれない。毎日制作で篭ってしまっていると、突然に人と話すと会話に時差が出てしまうのは私も同じなので、これは今後も課題である。

キュレーターのHeike Munder(左)
そして、MIGROS現代美術館の前館長で現在は独立キュレーターのHeike Munderさんと共にバーゼルや近隣の美術館等を巡ることができたことは貴重で新鮮な学びが多かったように思う。Heikeさん自身は非常にパワフルで可愛らしいお人柄なのだが、アートに対しての質問や感想を何度も投げかけながら、旅の間に私を知ろうとしてくれた。キュレーターの方にたくさんの質問を受けるということは、それだけ自分のアートを調べて学んできてくれていた証拠だ。
バーゼルの模様の詳細を知りたい場合はぜひ過去記事を読んでいただくとして、話は進む。

風光明媚なルガーノ
バーゼル後、我々はルガーノという湖が美しい山間の街に訪れていた。ルガーノにはMUSEC(Museo delle Culture)という美術館があり、湖畔の光を浴びてキラキラと輝いている。ルガーノはスイスにあるイタリア語圏でありミラノからの観光客も多い。なぜルガーノを訪れたのかというと、来年にMUSECで個展を予定しているからだ。アドバイザーとしてチームに加わってくださったスイス人のStefano Pesceさんが美術館を紹介してくださった。スイスにいるとイタリア語や英語やフランス語ドイツ語などが聞こえてくる。多言語を駆使しながらのコミュニケーションだ。美術館の皆さんも聞き取りやすい英語で会話を進めてくださり、とても温かい歓迎を受けた。ルガーノに集うこの優しい人たちと展覧会ができることを誇りに思った。
現地での外国語対応含め、イタリア人の同じStefano(ステファノ)という名前の旦那さんをもつPRディレクターの佐久間千代美さんがコーディネートをしてくださった。Stefanoという名前はイタリアには多いのだとか。
夜はStefanoさんの友人の御自宅のディナーに招待された。庭は緑と花が混在していて気持ちのいい場所だった。大きな木の下で焚き火を囲みながらゆったりとした時間を過ごしたのが印象的で、日々自然を感じながら大地と共生している姿に学ぶことも多かった。

雄大なアルプスの風景
翌日はスイスの展覧会に向けて新作を制作するイメージを沸かせるべく、私たちはアルプスに向かった。元スイス軍のアーミーで、山登りが得意なStefanoさんを先頭に緩やかなハイキングコースを行く。途中、日本へ旅行をしたことがあるオランダ人の方に話しかけられた。
「日本にもアルプスがあるけれど、同じ景色よね。長野という場所とスイスの景色に同じものを感じる」と(相手はもちろん私が長野の出身だとは知らない)。実は長野県はスイスの山々の景色と類似している。海外の方からも同じように見えたのだということが嬉しかった。スイスの険しい山々と少しずつ仲良くなれた気がした。
ハイキングの途中でなだらかな木陰を見つけ、瞑想をし、自然と一体になった。新たな新作の構想が見えてきた。

アルプスで瞑想する小松
そして我々はイタリアに向かった。サンジミニャーノという場所が最終目的地だ。サンジミニャーノは、イタリアのトスカーナ州にある美しい中世の面影を残すUNESCO世界遺産の街。Galleria Continua(注)発祥の地で、今でもギャラリーがあって、ファウンダーのMario Cristianiさんから街の中に配置されたパブリックアートについて直接説明を受けた。
(注)1990年にイタリアのサンジミニャーノで誕生したギャラリー。その後パリやローマ、ハバナ、北京など世界各地へ事業を展開している。

Galleria ContinuaファウンダーのMario Cristiani(左)
Marioさんの自分の信じるアーティストとアートへの情熱がすごかった。貧乏で生活が大変だった時にMarioさんの魂を支えてくれたのはアーティストだったのだそうだ。6月後半でも灼熱の太陽を全身に浴びながら歩いて半日アートを見て回った。作家以上にアートを好きだと語ってくれる人がいることが、どれほど大きな財産なのかということを身に染みて感じた。

サンジミニャーノのパブリックアートの前で
ルガーノでの個展に向けて、新作について今回の旅で新たな課題と役割をいただいた。どんな課題に向き合ったのかは、ぜひ新作を見るまでのお楽しみにしてほしい。
私が出会ったヨーロッパの人たちとの出会いの中で、アートに対する親近感と共感力の豊かさに感銘を受けた。
チームのプロデューサーの高橋紀成さんがStefanoさんへ率直に、
「なぜ小松美羽作品をヨーロッパで展開したいと思ってくれたのか?」と聞いたのだそうだ。
最初の回答は「ただなんとなく作品が好みであったのと凄くポテンシャルを感じたからだよ!」と言ってくれたのだそうだ。
ただなんとなく作品が好みであったという言葉は、世界中のアートファンに芽生える大切な普遍的感情のようにも感じる。このアートは「好き」とか「嫌い」とか「興味ない」とかでもいいと思う。
でも、ただなんとなくじんわりとアートが作用して行った時に、自分の感情がゆっくりと作品に溶け込んでいく感じは私にもある。そうして、いつの間にかなんとなく好きになっていて、その答えを知りたくて自分から一歩踏み出して行った時に各々の人生からその答えを導き出していくのかもしれない。

札幌芸術の森美術館にて
小松美羽 祈り 宿る
狛犬や龍などの神獣を描く現代アーティスト小松美羽(1984- )。
独自の死生観を繊細な線でとらえた銅版画からキャリアを開始した小松は、現代アートの最前線であったニューヨークでの体験を経て、やがて大型の絵画制作へと移行する。以降、小松は祈り、制作することを真摯に問い続けてきた。作品は大英博物館をはじめ国内外の美術館で収蔵され、近年では立体作品やパブリック・アートの制作と、その活動はますます拡張している。
「神獣たちは、祈り祈られ祈る我々を見守っている。多くの国を旅しながら感じたのは、文化や言葉が異なっていたとしても共通に存在する祈りという形に、私の霊性は何度も突き動かされ続け、創造へと導かれている」——小松は「霊性」という視点から、宇宙や精神世界を含む森羅万象に宿る力を顕現させ、調和させることを試みる。価値観が多様化し社会が一層流動性を増す現代において、小松が紡ぎ出す〈祈りのかたち〉は、より切実さをもって捉え直すことができるだろう。
この展覧会では小松の代名詞である神獣を核に、各地の民話や伝説を図像化した連作、独自の宇宙観による大型作品、そして北海道の風土から想を得た新作をふくむ約70点が展観される。
会期:7月5日(土)〜8月31日(日) ※会期中無休
会場:札幌芸術の森美術館
住所:北海道札幌市南区芸術の森2-75
時間:9:45〜17:30(入館は17:00まで)
観覧料:一般1,600円、高校・大学生1,000円、小・中学生500円
※未就学児入場無料
※65歳以上の方は年齢のわかるものをご提示いただくと当日料金が1,300円
※障がい者手帳をお持ちの方は、当日窓口でご提示いただくとご本人と付き添いの方1名が無料
TEL:011-591-0090
展覧会URL:https://www.stv.jp/event/miwa-komatsu/index.html
美術館URL:https://artpark.or.jp