コラム

温故知新 vol.24
「建物の絵に学ぶ」

文=松本亮平

万博の大屋根を見ていると、日本建築における柱の重要性を感じる。空間を完全には遮らず、風や光を受け入れることで生まれる開放感がある一方、柱に守られているような安心感も与えてくれるように思う。
建物の絵を眺めていると、日本のものは柱が、西洋(ヨーロッパ)のものは壁がまず目に入ることに気づいた。これは実際の建築物がそれぞれの土地の気象や歴史的背景に適応してきた結果だろう。日本の蒸し暑い気候では、風通しを重視して、柱を中心に据え、簡易的な壁を添える構造となるし、一方で寒さが厳しく、外敵の脅威もあった西洋では堅固な壁が必要となるのだろう。ここから先は、画家として私が絵を通して感じてきた建築物の印象を中心に見ていきたい。

松本亮平《大修復》2025年 アクリル/板 65.2×53.0cm

松本亮平《大修復》2025年 アクリル/板 65.2×53.0cm

 

◆自然や超自然的な存在との調和を目指す日本の建物の絵
日本の古典絵画において建物といえば、山水画で空想の風景の中にぽつんと建つ、様式化された簡素な家のイメージがある。これらの建物はとても開放的で自然と調和しており、仙人の住む理想郷を表しているように思う。

狩野永良《山水図》東京国立博物館蔵<br>出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

狩野永良《山水図》東京国立博物館蔵
出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

一方で、現実の建物そのものを主題とした作品はすぐに思い浮かばなかった。しかし、歴史的に重要な仏教建築は描かれているに違いないと考え、飛鳥・奈良時代に建てられた寺院を中心に調べたところ、室町時代の作品『東大寺縁起とうだいじえんぎ』に出会った。本作では東大寺が現実の姿に沿って丁寧に描写され、現在の東大寺ともよく似た姿を見ることができる。ここでも柱が重要な役割を果たしている。柱を通して建物の内部を見ることができるのである。大仏殿の外でおこなわれている「まつりごと」と同時に、柱越しに建物の内側の大仏の姿が表現されている。堅牢な壁を持つ西洋建築では難しい表現だろう。また本来は目に見えない空気の流れや超自然的な存在が雲のような形を持って建物と干渉し合う様子も特徴的である。現実の建築物を描きながら、自然や、さらには神仏との調和を目指した理想郷を映し出しているのだろう。

《東大寺縁起》16世紀 奈良国立博物館蔵<br>出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

《東大寺縁起》16世紀 奈良国立博物館蔵
出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

 

◆壁の描写に対するこだわり
柱が印象的な日本建築に対し、壁の存在感を際立たせた作品もある。フェルメールの『デルフトの小路』である。本作品はフェルメールの叔母が住んでいた家を緻密に描写した作品である。堅牢な壁により外界と建物の内部は明確に区切られていることがわかる。厳しい冬を乗り越えるために必要な壁の分厚さが、重厚な表現から伝わってくる。レンガや漆喰の壁、窓枠の木材など、それらの質感が正確に描き分けられており実際に触れることができるような錯覚を覚える。一見すると重厚な壁は外界との交流を拒絶するように思われる。しかしフェルメールは構成の工夫により鑑賞者を画面の奥へと招き入れている。左上に広がる明るい空で開放感を演出し、また小路と扉を開放することで空間の広がりや奥行きを表現している。また画面の左手前から小道の奥に続く溝も画面の奥行きの表現に活用されており、鑑賞者の意識が人々の生活空間に入り込めるように構成されている。

ヨハネス・フェルメール《デルフトの小路》1658年頃 油彩/キャンバス アムステルダム国立美術館蔵

ヨハネス・フェルメール《デルフトの小路》1658年頃 油彩/キャンバス アムステルダム国立美術館蔵
出典:アムステルダム国立美術館 Collection Online

外部とつながるための柱を重視する日本の建物、壁により外界を遮断する西洋の建物。そのどちらの絵においても、建物の内と外を結びつける工夫がされていることは興味深い。柱や壁の描写を通じて、画家たちは人々の営みや精神世界を建築に重ね合わせてきたのだろう。

松本亮平《最後の審判》2025年 アクリル/板 41.0×31.8cm

松本亮平《最後の審判》2025年 アクリル/板 41.0×31.8cm

松本 亮平(まつもと・りょうへい)
画家/1988年神奈川県出身。早稲田大学大学院先進理工学研究科電気・情報生命専攻修了。
2013年第9回世界絵画大賞展協賛社賞受賞(2014・2015年も受賞)、2016年第12回世界絵画大賞展遠藤彰子賞受賞。2014年公募日本の絵画2014入選(2016・2018年も入選)。2016年第51回昭和会展入選(2017・2018年も入選)。2019年第54回昭和会展昭和会賞受賞。個展、グループ展多数。
HP https://rmatsumoto1.wixsite.com/matsumoto-ryohei
REIJINSHA GALLERY https://www.reijinshagallery.com/product-category/ryohei-matsumoto/