文=松本亮平
先日、日光に旅行し「華厳の滝」「竜頭の滝」をスケッチしてきた。滝の表情は天候や時間帯、水量などによって大きく変化し、一つの滝からでも無数の表現が生まれると実感した。一見すると滝は不定形で常に移り変わっているようだが、あるひと時においては一定のパターンを繰り返している。そのため長時間見ていると水の塊が崩れ落ちる間隔、水が岩にあたって散るリズムがわかってくる。それらのリズムを捉えることで、本来は五感を通して伝わってくる音や水しぶき、ひんやりとした空気、自然のエネルギーを、視覚情報のみでどこまで表現できるのか挑戦したいと考えている。

華厳の滝スケッチ
リアルなロイスダールの滝
滝について考えていたら、「西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで」にて印象的な作品に出会った。ロイスダールの『滝のある森の風景』である。帰宅後に改めて調べると、彼は滝を題材にした作品を数多く手掛けており、アムステルダム国立美術館のコレクションからも類似作品『Mountainous Landscape with Waterfall』を見つけることができた。
この作品の滝はそれほど落差はないものの、暗い岩肌と白い水しぶきの激しい対比によって、圧倒的な迫力を放っている。画面手前の中心にあるこの明度差は視線を強く引きつけ、「ドドドド」と力強い滝音が響くような錯覚をもたらす。また滝壺の水しぶきや水が石に当たり滞留する様子まで厳格な観察に基づき描写されており、水辺の臨場感が伝わってくる。さらに、空には赤く染まり始めた雲が広がり、作品全体に夕刻の気配が漂う。雄大な自然の中に一人立ち尽くすような感覚を、鑑賞者に与えてくれる作品である。

ヤーコプ・ファン・ロイスダール《Mountainous Landscape with Waterfall》油彩/ キャンバス 111.0×99.0cm アムステルダム国立美術館 出典:https://id.rijksmuseum.nl/200108484
シンプルな葛飾北斎の滝
当然、日本にも滝を描いた名作は数多く存在する。縦長の掛け軸の画面は滝を描くのにも適しているだろう。滝の絵の代表作の一つに葛飾北斎の『鯉の滝登り』がある。鯉が困難を乗り越え竜門(滝)を登り、竜に化けたという中国の伝説に基づき、立身出世を願い描かれた作品である。本作では滝の流れは迷いのない美しい曲線で表現され、水の勢いがよく伝わってくる。その一方、滝壺で水がぶつかる表現は控えめで、ロイスダールの滝とは対照的に静かな印象を受ける。北斎は滝の複雑な水の動きをそのまま描くのではなく水の流れのパターンを抽象化することで、鑑賞者の心の中にある滝のイメージを呼び起こしている。

葛飾北斎《鯉の滝登り》江戸時代・19世紀 長大判 錦絵 49.9×23.2cm 東京国立博物館 出典:Colbase(https://colbase.nich.go.jp/)
体感できる応挙の滝
5月25日(日)まで東京藝術大学大学美術館で開催されていた「相国寺展 ―金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史」にて展示された円山応挙『大瀑布図』*は圧巻の迫力であった。全長約4メートルに近い物理的なサイズ感も重要である。遠くから見ると、まず白と黒の大胆な構成が滝の存在の大きさを感じさせてくれる。また、近づいてみると掛け軸の大きさから滝壺の一部は地面についており、実際の滝と同様に覗き込むようにして鑑賞することになる。詳細に見ていくと、滝を落ちていく水の流れだけでなく、滝壺の水のうねり、石にあたり跳ね返る水しぶきまで薄い墨の線によって丹念に描き込まれていることがわかってくる。実際に滝を見た経験を追体験できる作品である。
*円山応挙『大瀑布図』の詳細については以下のリンクをご覧ください。
文化遺産オンライン(https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/398568)
現在、私自身も2メートルを超える滝の大作に取り組んでいる。ロイスダールの写実、北斎の抽象、応挙の体感。それぞれの名作から学びながら、自分なりの「滝の絵」を模索している。いつかこの作品をご覧いただき、皆様にも滝のエネルギーを感じていただける日を楽しみにしている。
松本 亮平(まつもと・りょうへい)
画家/1988年神奈川県出身。早稲田大学大学院先進理工学研究科電気・情報生命専攻修了。
2013年第9回世界絵画大賞展協賛社賞受賞(2014・2015年も受賞)、2016年第12回世界絵画大賞展遠藤彰子賞受賞。2014年公募日本の絵画2014入選(2016・2018年も入選)。2016年第51回昭和会展入選(2017・2018年も入選)。2019年第54回昭和会展昭和会賞受賞。個展、グループ展多数。
HP https://rmatsumoto1.wixsite.com/matsumoto-ryohei
REIJINSHA GALLERY https://www.reijinshagallery.com/product-category/ryohei-matsumoto/