コラム

心鏡 #14
2022年10月26日

文=小松美羽


「大切な地球との約束」を思い出させてくれた
嚴島神社でのライブペイント

ライブペイント画像
あなたは世界中の各地に存在するスピリチュアルな地をどれくらい訪れたことがあるだろうか?そういった場所には代々語り継がれているフェアリーテイルがしばしば存在していることもあるようで。
例えば、ノルウェーのベルゲンから乗り継ぎ列車に乗ってフィヨルドに向かう旅の途中でふと滝が見えてくる。滝の目の前で列車が一時停止すると、数分間、観光客に向けた森の妖精のお話を元にした音楽と踊りを見せてもらえるサービスがあるのだが、妖精が人を誘惑して森に誘い込む様子は「神隠し」に少し似ていると感じた。

ノルウェーの滝(画像)

妖精の話が伝えられるノルウェーの滝

子供の頃は、山で遊ぶことも多かったので、いつまでも遊んでいないように「山でずっと遊んでいると森のもののけに気に入られて連れていかれちゃうかもしれないからね、明るいうちに家に帰らないといけないよ。神隠しに合わないように気をつけるのよ」と教えられたものだ。
また、ノルウェーで子育てをしている方から聞いた話で「夜遅くまで起きて遊んでばかりいたり、親に迷惑をかけて良い子にしていないとトロールが来て悪さをするぞ」なんて言って子供たちを諭すのだそうだ。夜に口笛を拭いたら鬼が来るぞ、とか、夜に爪を切ると鬼がくるぞ、なんていう話を親から言われたことを思い出してみたりする。子供たちにちょっぴりのトラウマを植え付けているトロールさんエピソードだが、ノルウェーの街のお土産屋には可愛らしいトロールの人形が溢れていて、なんだか不思議な存在と人間とが調和しているようで笑顔がほころぶ。見た目が奇妙だからと淘汰するのではなく、物語が語り継がれることによって共生共存していく姿に心が落ち着く。

雄大なノルウェーのフィヨルド

雄大なノルウェーのフィヨルド

また、アイルランドの民芸屋さんには日本のファンタジー漫画の題材の元になった伝説のモチーフがちらほら。ファンタジーマニアには是非おすすめしたい国で、特にダーナ神族ゆかりの遺跡は訪れた人々の魂を熱くするだろう。ダーナ神族についての本は日本では数少ないので、私はアイルランドの博物館に行き実際に残っている品々から歴史を感じ取っていった。また、アイルランドといったら「ケルト十字」を思い浮かべる人も多いだろう。ケルト十字はケルト人の信仰とキリスト教が融合したもので、ルーン文字や様々な彫刻が施されているものもある。首都の川にかかる橋にはケルピーの彫刻が施されていたりと、伝説の中の物語が今もなお未来に向かって紡がれている様を体験できるだろう。

ケルト十字(画像)

ケルト十字

こうして、神聖と人との身近な関わりを育む街や自然から歴史の断片を感じ、人間が自然の前で奢ってはいけないという謙虚さを古から学んでいくのだ。とは言うものの、自然が偉大なのは分かっているが、現代の物質社会の生活に慣れていくと危機感も感謝の心もいつの間にか希薄になってしまう。ネットを開いてGoogleのストリートビューの画面越しにらいくらでも世界に飛び出せるけど、本物の空気を感じることへの喜びを忘れてはいけない。

アイルランドの遺跡(画像)

アイルランドの遺跡にて

2022年、2年以上前からの広島とのご縁のおかげで、10月の嚴島神社で奉納ライブペイントを無事に行うことができた。宮島は島自体が御神体である。今では世界遺産ということもあり日本人だけではなく各国から参拝客が船に乗って宮島に上陸する。島のシンボルの1つでもある海底に置かれた大きな朱の大鳥居は数年前から修復工事が行われており、その際に使われた足場などを利用させていただき、なんと大鳥居の袂でライブペイントを行うことが叶った。さらにありがたいことにライブペイントを行う前日に宮島とその歴史を学ぶ機会もいただけたのだった。

嚴島神社の大鳥居(画像)

嚴島神社の大鳥居

宮島と人の歴史は今を生きる私たちに「大切な地球との約束」を思い出させてくれる。
嚴島神社の創建には「神鴉ごからすさま」とういう高天原から神の使いとしてやってきた鴉が重要な役割を担っており、この神鴉さまの案内で導かれた場所が嚴島神社であり、今でも鴉にまつわる御神事が行われているという。多くの参拝客を受け入れ島での人々の生活も見られる現在の島の形は近年見られる風景で、当時は神職の方でさえ島へは船を使って通いながらご神事を行っていたというのである。

嚴島神社の画像

嚴島神社

島自体がご神域なので、殺生を禁じ、不浄を避けており、海上神殿になったのも御神体である島の上に建てることを避けたためと聞いた。嚴島神社創建からの歴史を伺うことで、人が大いなる存在を驕ることなく崇拝し純粋に自然に向かっていく姿の謙虚さに身が引き締まった。

そういえば、全てとは言わないが登山道には神社や祠などがあり、道中にはお地蔵様や道祖神が点在していることがある。何気ない自然との関わりの中で、山を聖なる場所と捉え、畏怖の心から尊い存在に敬意を持って人は山と共にあったように感じる。

道祖神(イメージ画像)

道祖神(イメージ)

それは日本だけのことではなくて、少なくとも私が訪れた国々でも自然とスピリチュアルの深い関係性を強く感じるストーリーと出会う機会があった。そこには人間の真の優しさというか、驕らない温かさがあるように感じる。それを差別を超えた共通の慈愛のような、形にならないエネルギーのようなものとして受け取ることが私には多い。

古くから伝わる伝承には生命の存続につながるヒントが多く散りばめられているのではないだろうか。その中には、現代社会の問題を解決する答えのヒントが詰まっていて、そのアカシックレコードを理解し解いていくことができるかどうかの課題を突きつけられているのかもしれない。

嚴島神社で行ったライブペイントもまた、人と自然と信仰が織り混ざった深い歴史のカケラから、今を生きていること、なぜ今ここにいるのかの役割を教えてもらったように感じる。
ライブペイント画像ライブペイント画像

神社は神様にお願いをしにいく場所と捉えている人も多いが、きっと本来は自分の魂の修行の場でもあったのだと思う。神聖に向かうことで自分の愚かさを知り、また一歩進めるからこそ夢が叶うのではないだろうか。
バベルの塔やノアの方舟など、愚かにも人々が神の怒りを買ってしまい破壊がもたらされる話は、今を生きる我々に教訓以上のものを与えてくれている。

ピーテル・ブリューゲル《バベルの塔》画像

ピーテル・ブリューゲル《バベルの塔》

グレートアクセラレーション・大加速時代と呼ばれる物質的に豊かになっていくことを求める時代から、グレートハーモナイゼーション・大調和時代という、精神的な繋がり、見えないけど確かにある心とか魂で繋がる時代へと私たちは進化していく時期が来ているのだ。

小松美羽作品《大調和と祈りの聖島》画像

ライブペイント作品《大調和と祈りの聖島》は、2022年11月6日まで嚴島神社の本殿前に展示された

自分自身の欲望や承認によって存続するのではなく、すべての罪と共に、今何ができるのか、自分自身を愛しながら1人1人が答えを導き出していかなくてはならないのだ。
ライブペイント画像