コラム

心鏡 #16
2023年7月15日

文=小松美羽


自分自身の魂と向き合う

小松美羽の制作風景

どこの国にもいい人がいれば悪いことをする人もいる。時に教育や間違った信仰で思想は捻じ曲がってしまうこともあるし、秩序も法律もその時代によって変わる。我々が自分で判断して正しいと思っていることも、それが本当に自分の意思で決定を下したことなのか、自分を疑ってみることも大切かもしれない。もしかしたら何かからの刷り込みであったりするかもしれないし、誰かの記事を元にしたコピペの考え方だったりするかもしれない。得た知識は人を時に傲慢にもする諸刃の剣であり、経験や学びは時に垢ともなり得るのだ。その垢が思想にこびり付き、私たちは何者かになったように気持ちが大きくなっていく。とある知人が「私は講演会を断っているんですよ」と言った。「多くの人の前で話す高揚感が自分を支配していることに気がついたからなんです」と。

小松美羽《大地の水は満ち溢れ、豊熟の季節は必ず訪れる》画像

小松美羽《大地の水は満ち溢れ、豊熟の季節は必ず訪れる》 2023年

何者かでありたい、何者かでいたいという思いから抜け出すことは聖者であっても難しいのだと伺ったことがある。
かつて、とある国に立派な大聖者がいらした。その大聖者は多くの信者から信頼され、お弟子さんも多くいたそうだ。
ある日、尊敬していた先代の大聖者の着ていた衣服を身に纏い大事な祭事に赴くことになり、そのことを本人はとても喜んだそうだ。けれど祭事の前日、突然に肉体の命が途絶えてしまった。そして亡くなってから少し月日が経った頃、大聖者が着るはずだった祭事用の服に一匹の虫がついた。見習いはすぐに虫を追い払おうとしたが、それを見た別の聖者がその虫を自由にしておくように諭したのだ。なぜかと問う見習いに聖者は言った。「この服についている虫はな、少し前に亡くなったあの大聖者様の生まれ変わりなんだよ。きっとこの服を身に纏って先代様のように祭事に出ることが夢だったのだろう。その執着のせいで虫となって生まれ変わったのだ。今この虫は言っている、この服は私のものだと。気が済むまで居させてあげなさい。この虫の執着が尽きるまで」。見習いはその虫に手を合わせ、その場を後にしたそうだ。
虫イメージ画像私たちは常に多くの欲求と欲望に囚われている。だからこそ何かが優れていて何かが愚鈍であると決めつけるのは浅はかである。
決めつける前に、自分自身の魂と向き合う方がよっぽど有意義ではないだろうか。それはこの文を書いている愚かな私自身の課題でもある。
人が文明を手にした瞬間から、人は何者かになってしまったのだ。
何かを得る力を手にした私たちは、何かを得ることで快楽も束の間の安心感も欲求も満たし始める。そこには資源という犠牲が存在していることを知りながら、人の領域は拡大していった。
だからこそ、今だからこそ、これからにこそ、グレートハーモナイゼーション・大調和が求められ始めているのである。

ロンドン滞在中の小松美羽の画像

ロンドン滞在中の小松美羽

2023年6月に、私はイギリスとアメリカへ出張に行っていた。私はこの出張中に、どの訪れた店でもVE(ビーガン)(ベジタリアン)のあるメニューを選択できた。日本ではやっとビーガンやベジタリアンを選択する店が増えてきているが、ヨーロッパやアメリカはその意識が高い。環境問題の意識は、世界に一歩踏み出すことで多くの生きた学びを得る機会が増える。

ベジタリアン味噌ラーメン画像

クリーブランドのとあるラーメン店のベジタリアン味噌ラーメン

今回ロンドンに行かせていただいたのも、かの地に拠点を置くAvant Arteさんと良いものづくりを始めたからである。大調和をテーマに絵本仕立ての作品も制作中だ。

ロンドンの工房でのミーティング風景

ロンドンの工房でのミーティング風景

ロンドンにある工房の印刷現場を実際に訪れる。印刷のインクの匂いが銅版画をしていた学生時代を思い出させた。プライドを持って制作にあたる現場の職人さんの勤勉さは、どの国も等しく輝いていて、瞳の奥には強い信念を感じさせる。コロナの影響もあり、ずっとネットを介したミーティングだったが、こうして実際に会うことができた喜びは計り知れない。人や物や土地が発するエネルギーはネットでは伝わらない。互いの声が届き合う位置がどれだけ貴重なことなのかを改めて感じる。
Avant Arteさんとの共同制作第一弾の版画にサインを入れ終わった瞬間、たくさんある人生の役割のうちの1つを少しでも果たせたことに感謝をした。

Avant Arteと共同制作した版画にサインを入れる風景

Avant Arteと共同制作した版画にサインを入れる

旅の最後はオハイオ州にあるクリーブランドだった。アメコミ『スーパーマン』が誕生した場所だ。五大湖の1つエリー湖に沈む夕日を眺めながら、大人3人分と思われる量のビーガンカレーをむしゃむしゃと食べる。むしゃむしゃ食べるテーブルの周りには、みんなの嬉しそうな声と笑顔が溢れていた。幸せのむしゃむしゃタイムだった。食後のデザートは、これまたビックサイズのケーキやアイスクリームだった。あんなに食べたのに、デザートもむしゃむしゃする。
むしゃむしゃからのエリー湖の夕陽・・・・。
エリー湖の夕陽の画像日本にいる我が母よ、まだ海外に行ったことがない我を創造せし母よ。私は今、地理で勉強した五大湖を眺めています・・・あの頃は遠く感じていた場所が、今は目の前に広がっています・・・産んでくれてありがとう・・・母よ
小松美羽の瞑想図

真言宗立教開宗1200年記念
特別拝観「東寺のすべて」

国宝「風信帖」や現存最古の彩色曼荼羅で平安仏画の最高傑作として名高い国宝「両界曼荼羅図」など第一級の寺宝のほか、小松美羽が東寺食堂で制作した『ネクストマンダラ―大調和』などが公開される。

会期:2023年10月9日(月・祝)~31日(火)
会場:真言宗総本山 教王護国寺(東寺)
住所:京都市南区九条町1
時間:9:00~17:00 ※拝観受付は16:00まで
拝観料:一般2,000円、高校生1,500円、中学生以下1,000円
※スマートフォンで聴ける無料音声ガイド付き
TEL:075-691-3325(東寺)
URL:https://toji1200th.jp/index.html