コラム

山の上で、
Vol. 2

ヤマザキムツミコラム「山の上で、」タイトル画像

5月の晴天。いま、山の上の窓からは、すぐそばにあるかのような空に光を預かり、青々と茂る山々の生き生きとした姿が広がっている。自信がみなぎり、空と大地の生命を一心に受け、限りなく透明のようにすら思える。グリーンを託された光の束が樹木とそれを見る者に色を与えている。

ある日の山の風景(筆者撮影)

ある日の山の風景(筆者撮影)

光にはすべての色が含まれている。私たちが、それをどう認識し感じているのか、いつも不思議に思う。色の名前を教わる前、覚える前、感じていたであろう色のイメージについて考える。そもそも、すべての色が含まれた光は透明で目に見えない。しかし、光が物体に当たると、その一部が物体に吸収され、そして吸収されずに反射された光が視覚に届くことにより、色として感じられるのだという。

DIC川村記念美術館 ©高橋マナミ

DIC川村記念美術館 撮影:高橋マナミ

山を下り、千葉にあるDIC川村記念美術館へと向かった。現在は、常設に加え、企画展《カラーフィールド 色の海を泳ぐ》が開催されている。1950年代後半から60年代にかけて、アメリカを中心に発展した「カラーフィールド」に焦点をあてた国内初となる展覧会だ。「カラーフィールド」とは、大きなキャンバスに色彩を広げて「場」をつくる抽象絵画の潮流のこと。今回は、カナダの「マーヴィッシュ・コレクション」からフランク・ステラやモーリス・ルイスら9人の作家による約40点もの作品が初来日。5mを超える大型絵画などが並ぶ圧巻の世界観で、色の海が見事に広がっていた。

DIC川村記念美術館 ≪カラーフィールド 色の海を泳ぐ》展示室入口 ©渡邉修

DIC川村記念美術館 《カラーフィールド 色の海を泳ぐ》展示室入口 撮影:渡邉修

所蔵コレクションもカラーごとに展開され、新たな発見が出来るユニークな空間を創り出していた。常設のロスコ・ルーム(マーク・ロスコの〈シーグラム壁画〉に囲まれた一部屋)も、よりその圧倒的存在感を見せ、色に宿されたロスコの思念が否応なしに瞑想を促す。色を思い、色を描き、ひたすら色をとらえる。まっさらなキャンバスに自分を反射させて色を生む。移ろいやすい「気(感情)」を掴み、まるでその瞬間を形どるような。

DIC川村記念美術館 ≪カラーフィールド 色の海を泳ぐ》展示風景 ©渡邉修

DIC川村記念美術館 《カラーフィールド 色の海を泳ぐ》展示風景 撮影:渡邉修

共感覚を呼び覚ますようでもある。「共感覚」とは「ひとつの感覚の刺激によって、別の知覚が不随意的に起こる」現象のことを言うそうだ。音から色を感じとる「色聴」、文字から色を感じとる「色字」。味に形を思い起こしたり、痛みと色がリンクしていたりするそうだ。そもそも、色を感じとれるこの能力は、何と呼べばいいのだろう。

ある日の山の風景(筆者撮影)

ある日の山の風景(筆者撮影)

6月の長い雨を待ち、見えない山の向こうで輝いているだろう夕焼けを受け、淡いピンクをまとう夕暮れがある。この空、一つをとっても、光や水、雲や木々、気温や湿度等々、そして何より自身の気と、それら全てが偶発的に重なり合ってこそ、目の前に広がる繊細なグラデーションが生まれている。その果てしなくはかない、決して二度と見ることは出来ないはずの「色」という光を何層もの「時」として象り、カンバスに刻んでいる奇跡を改めて思った。

 

■カラーフィールド 色の海を泳ぐ
・会期 2022年3月19日(土)~ 9月4日(日)
・会場 DIC川村記念美術館
・住所 千葉県佐倉市坂戸631
・時間 9:30〜17:00(最終入場時間16:30)
・休館日 月曜日(ただし月曜が祝日の場合は開館、翌火曜休館)
・観覧料 一般1,500円、学生・65歳以上1,300円、小中学生・高校生600円
・TEL 050-5541-8600(ハローダイヤル)
・URL https://kawamura-museum.dic.co.jp/

ヤマザキ・ムツミ
東京生活を経て、京都→和歌山へと移住。現在は熱海在住。ライターやデザイナー業のほか、映画の上映活動など映画関連の仕事に取り組みつつ、伊豆山で畑仕事にいそしんでいる。