コラム

わたしの気になる作家たち
No.17

ーわたしの注目作家4人ー

今回は最近気になった注目作家を4人紹介する。

1人目は中国からの留学生のちょう兆揚ちょうようさん。2022年の春季創画展初入選、2023年上野の森美術館大賞展入選、美術新人賞デビュー2024入選など積極的に活動している。彼女の作品を初めて見たのは銀座中央ギャラリーでのグループ展での麗人画。男性を描く作家としては木村了子、大山菜々子などがいるが、彼女の作品のテーマは男性の脆さの表現である。描かれている男性の多くが、見る人に向かって後ろ向きの姿勢をとっているのは、「弱さ」を表現するために人目を避けているように見せたかったからだと言う。

張兆揚《缱绻》

支持体である絹は透明度が高く、布に近い柔らかさと強靭さを併せ持つ。そのため、絹絵の表現では男性の特徴を生かしつつ、男性の愛らしさ、柔らかさ、弱さを描くことに最善を尽くしている。例えば、姿勢、目、顔、服装、髪型など。そして同時に、中国絵画特有の植物性染料を使い、何度も重ね塗りすることで、染料の特徴である透明感や艶やかさを活かしている。「透明感」を共通に持つ絹と植物染料は、研究テーマである「男性の脆さの表現」にふさわしい素材であると語る。

張兆揚《生活・日常》

張兆揚 ZHANG Zhaoyang
1996年中国内モンゴル自治区生まれ。2019年中国中央民族大学美術教育学部卒業、2023年女子美術大学博士前期美術専攻日本画研究領域修了、現在、女子美術大学研究生在学中。
2022年第48回東京春季創画展初入選、第49回創画展初入選、2022年100周年記念大村文子基金受賞、2023年上野の森美術館大賞展入選、創画会東京研究会グループ展「夏の会」、その他公募展、グループ展など多数入選。

2人目は新保裕さん、作家名は真釦しんぼたん。新保裕さんからFacebookの友達申請を貰ったのが2015年だったが、昨年11月にFacebookで作品画像を見て興味を持ち交信を始めた。郷里の金沢の作家だが、地元ではあまり好まれそうにない作品なので、ぜひ東京で発表の機会を持ってもらいたいと思ったからだ。その後交信を続け、昨年末の「KOGEI Art Fair Kanazawa」に行った時にお会いし、アトリエなども見学させてもらった。金沢美大彫刻科の出身だが、右手に大怪我をしてから彫刻家から墨絵画家に転向し、無国籍的な異次元でユニークな作品を発表している。

真釦《Venus》

真釦《似非物語》

「幼少期から新聞、チラシ、雑誌、お菓子のパッケージなどの収集癖があり、古今東西の心に引っかかるものを暇に任せて収集し、それらを素材に脳内で組み立て作品として制作。作品にコンセプトなどなく、異世界物語のラストシーンを表現したい。いきなりラストシーンを見せられた鑑賞者はその物語を逆から紡いでもらいたい」という。金沢美大で同期の九谷焼の陶芸家、戸出雅彦さんとユニット名ベロリーヌで立体作品も発表している。

ペロリーヌ《ペロリーヌ杯-赤絵金リボン-》磁器 彩色 20.0×5.0cm 2023

真釦 Shin Button
1987年金沢美術工芸大学彫刻科卒業。2011年、右手の大怪我をきっかけに彫刻家から墨絵画家に転向。国内外での個展グループ展多数。

3人目は大崎おおさき風実ふみさん。近年工芸にも興味を深め、知人のSNSでギャラリー田中での漆芸3人展のことを知り見に行ったのが彼女の作品との出会いだ。立体の漆作品が多い中で、大崎さんは漆絵も数点出していた。大崎さんの作品に注目したのは以前漆絵のグループ展をやったことがあるからだ。

大崎風実《ある日、ホテルからの景色》

彼女は、「漆を用いて、技法は古典的な“蒔絵”や“螺鈿”を用いて表現を行うことが多いです。立体造形を行う際も、飛鳥時代に制作された阿修羅像と同じ“乾漆”技法で作品制作を行っています。器や工芸品のような用途があるものを制作するというよりは、絵画や彫刻的な自身の表現を漆素材で模索しています。いつも作品にあって欲しいと思っているのは、優しいけど少し切ない、凛とした強さがありながらも儚い、そういった複雑な感情を呼び起こす雰囲気です。また、いつか見たあの景色が美しかったことを思い出すことができるような、気がつくことができるような、そんな作品を制作したい」という。

大崎風実《空と海の間》

大崎 風実 Fumi Osaki
1992年神奈川県出身。2017年東京藝術大学美術学部工芸科漆芸専攻卒業。2019年同大学大学院美術研究科工芸専攻漆芸研究分野修了。2016年安宅賞。2017年第65回東京藝術大学卒業・修了作品展(東京藝術大学大学美術館)原田賞、取手市長賞。2019年第65回東京藝術大学卒業・修了作品展(東京藝術大学大学美術館)原田賞、早暁賞。2023年「大崎風実・時田早苗・松田環 漆芸展」(ギャラリー田中)などグループ展多数。

4人目は家長いえなが百加ももかさん。九段の耀画廊で金沢美大の院生・学部生14人のグループ展で銀杏の葉の不思議な作品を見たのが最初だ。その後金沢の「KOGEI Art Fair Kanazawa」に彼女の椿の作品が出ているのを知り現物も見た。「技法としては、17世紀イギリスで流行した詰め物を入れたり切り取った刺繍を組み合わせて立体的に見せるスタンプワークで、立体刺繍と呼ばれる。そういった技法と、日本刺繍を組み合わせたものになる。大学で染織を学んでいることもあり、刺繍で使用する糸は市販のものだけでなく自身で染めた糸を使用しています。また縫いの表現だけではなく、縫い終えた刺繍に染料で色を刺すなどの方法も採っています」と語る。

家長百加《Transform -一朶-》

作品制作に当たっては「何度も⽷を布に刺す動作を通し、刺繍とは時間と愛着を表すことのできる技法だという実感を得ています。身近や思い出のあるものをモチーフに制作を行っています。コンセプトとしては加飾、支持体に対する装飾ではなく刺繍だけで成立する「加飾から独立した刺繍の表現」と、日常的な事物を奇異で非日常的に表現する異化の実践です。現在は植物の刺繍を中心に制作を行っていますが、今後は植物以外の身近なものをモチーフに制作することも考えています」という。

家長百加《Transform series「光を扇ぐ」「透ける藍」「秋忘の訪れ」》(3点左から)

家長 百加 Momoka Ienaga
1998 年京都府京都市出身。2022年金沢美術工芸大学工芸科修了。2022年「金沢美術工芸大学 卒業制作展」21世紀美術館 。2022年「つながる糸ひろがる布 4芸大染織専攻作品展 2022」。「工芸2022」雪梁舎美術館 新潟。2023年「秋の讃歌展 Vol.7」東京九段耀画廊。「Hysterik Nature ”SHO” ”KOGEI art fair KANAZAWA”」Hotel Hyatt Centric Kanazawa 石川。「2023伊丹国際クラフト展-ジュエリー-」入選。「Hysterik Nature ”KETSU”」日本橋三越コンテンポラリーギャラリー東京受賞。

 

山本 冬彦
保険会社勤務などのサラリーマン生活を40余年続けた間、趣味として毎週末銀座・京橋界隈のギャラリー巡りをし、その時々の若手作家を購入し続けたサラリーマンコレクター。2012年放送大学学園・理事を最後に退官し現在は銀座に隠居。2010年佐藤美術館で「山本冬彦コレクション展:サラリーマンコレクター30年の軌跡」を開催。著書『週末はギャラリーめぐり』(筑摩新書)。