
美術作品には、アーティストがそれを完成させた瞬間に生命が吹き込まれます。つまり作品は生き物と同じく、アーティストによって1点ずつに生命が与えられるものであり、その生命は何らかの目的や使命を持っています。この「QUATTRO VITE(4つの命)」では、それぞれのアーティストによる作品4点の「命」に光を当て、イタリアの美術評論家パスクアーレ・ディ・マッテオ氏が各作品の魅力について解説します。
砂川惠光は沖縄のアーティストである。
彼の芸術表現は、意識と無意識、そして過去と現在との絶え間ない対話によって、非常に印象的な次元を作品に融合させたもの。それは単なる平面絵画を志向するものではなく、記憶と歴史に関するロマンティックな考察を特徴としている。
砂川の作品には、歴史や文化など、沖縄という土地から観察できるさまざまな状況に対する彼の親密かつ敬意に満ちた関心が反映されている。そうした関心によって彼は、沖縄の伝統が象徴するものと、戦争や米軍という存在が残した傷跡とを画面上に混在させるのだ。
作品に多用されるスカーレットという色は、砂川の視覚言語を象徴するもの。時の流れの中で遠い昔のこととなった出来事を鮮明に思い起こすためのエネルギー。それは情熱であり、ドラマをつなぐ糸としても機能する。
砂川惠光はアクリル絵具に加え、さまざまな素材から成るミクストメディア、コラージュ、漆喰などを画材として用いる。それらは、作品に独特な物語性のダイナミズムを与える鍵となっているようだ。この手法により、彼は沖縄の人々が共有する集合的記憶や精神性、文化的なアイデンティティーといった複雑なテーマを探求する。
砂川はこうしたアプローチによって、時間的、空間的な次元だけでなく、現実の領域と無意識の情熱とのはざまにある不思議な感覚を鑑賞者に伝えるのだ。
VITA-1
THE OKINAWA

アクリル、ミクストメディア/キャンバス 72.7×60.6cm 2014
アクリル絵具とミクストメディアによって表現されたこの作品は、平穏と不安の間を揺れ動く重層的な構造が特徴的である。それは、まるで現在と過去という二つの時間と空間が重なり合っているかのようだ。混沌としつつも調和の取れたダイナミックな画面には、浮遊し、交差するような多くの要素が描かれている。
画面上部を中心に、米軍の垂直離着陸機オスプレイをはじめとする航空機が散りばめられている。また、あちらこちらに登場する小型飛行機やパラシュートなどは、沖縄と戦争との関係を暗示する要素だろう。口を大きく開けた顔のように見える空き缶は、工業化や近代化を暗示しているのかもしれない。画面中央部のフェンスは人々を苦しめる障壁であり、一方、結び目の付いた紐は人々のつながりを象徴する要素のように私には思える。
作品には、文字情報も登場する。漢字の「怒」やアルファベットの「NO BASE」といった文字は、米軍の存在に対する抗議と抵抗が想像できる。画面下部の日米両国の旗は、国家間の綱引きによってその地位が固定された沖縄の現状とその背景を強調しているようだ。
空き缶の一部や紐などさまざまな素材が用いられたことによって、この作品には立体的な次元が加わり、視覚だけでなく触覚的な次元からも内省を促す作品となっている。円を描く動きを示唆する構図は、現代と過去のエピソードが互いに追いかけ合う渦のようだ。
明確な絵画的中心点がないために、鑑賞者は作品の細部それぞれに注目することになるだろう。そして、沖縄の現在と過去について思いを巡らせるのだ。
VITA-2
沖縄・海よ空よ島よ

アクリル、ミクストメディア/キャンバス 116.7×91.0cm 2018
この作品が示しているのは、複雑かつ力強い沖縄の物語である。画面はいくつかのシーンに分割できる。沖縄の生活と歴史における複数の側面を結び付けるものであり、鑑賞者はそれによって視覚的な旅に出るのだ。
中央にどっしりと構えるのは、擬人化された沖縄なのだろうか、鎖につながれ、涙を流す巨人だ。巨人の頭部と思われる場所に見えるのは、海辺の光景だ。そこでは祭りに興じる幸せそうな人々の様子が描かれているが、それはこの島を観光客の視点で捉えた牧歌的な景色を想起させる。
巨人の胴体は花で覆われており、沖縄の自然の美しさを示しているようだ。胴の左下側は洞窟の入り口のように大きく開き、頭蓋骨など人間の骨のようなものが見える。これは、戦争による犠牲者。第二次世界大戦で激しい地上戦を経験した沖縄には、観光の明るいイメージとは異なる暗い歴史も存在する。作者はここで、戦争やその後の米軍による占領といった歴史的な困難を描いているのだ。
画面上左部などを飛び交っているのは、オスプレイや戦闘機。軍事力を示すこうした要素は、海景で表現された平和的な情景とは対照的だ。中でもオスプレイは、米軍基地の存在とそれがもたらす社会的な緊張を暗に批判するもの。スカーレット色の空がこれらの要素を結び付け、生から死、そして歴史的記憶へと物語は展開する。
記号や象徴、対立に満ちたこの作品は、視覚的にもテーマという点でも緊張を生み出し、鑑賞者に沖縄の歴史の複雑さについて考えさせるものだ。沖縄の歴史や文化のさまざまな側面を、砂川は分かりやすい象徴と力強く大胆な視覚言語を用いて、一つのイメージに凝縮することに成功している。
VITA-3
沖縄の沈黙

アクリル、自己作品のコラージュ、ミクストメディア/キャンバス 104.0×117.0cm 2024
前述した2点と同様に、この作品でも砂川は抽象的要素と具象的要素を融合させ、架空の象徴的な風景を実に魅力的に描いた。スカーレットなどの鮮やかな暖色を大胆に使用して、画面下や右の暗色とのコントラストを生み出すことで、キャンバスに動きを与えている。
画面上部にある空には、起伏の多い地形の上を飛ぶオスプレイが描かれている。このオスプレイをはじめとして、ここには自らの作品に登場した要素がコラージュとして使われた。それらは断片化された表面を作り出し、壊れた記憶のアイデアを反映するものだ。おそらくタイトルにある「沈黙」は沖縄の現状を示唆しているのだろうが、背景のスカーレットが無関心と忘却に対する静かな抵抗の声として浮かび上がる。
巨人と花、海景やパラシュートも、オスプレイと同じく『沖縄・海よ空よ島よ』に登場したモチーフ。海景のように見える顔を持つ様式化された巨人は、人間と自然の深い結び付きを示唆しているのかもしれない。その体の下方はアースカラーが支配的で、人骨や岩、あるいは砂を思わせるものが詳細に描かれている。
視覚的なインパクトがあるだけでなく、象徴的な意味でも重要な意味を持つ絵画。沖縄とその複雑な歴史を背景にしたテーマは、人間と環境との関係性についての作者の考えを反映したものだ。
VITA-4
火の神(ヒヌカン)

アクリル、漆喰、コラージュ/キャンバス 53.0×45.5cm 2020
この作品で砂川は、沖縄で信仰される「ヒヌカン」という神を描くことで、沖縄の人々の精神性を讃えているようだ。
ここでは、スカーレットという鮮やかな色が火を表すと同時に、生命力や神の庇護をも想起させる。また、さまざまなマチエールの要素が加わることによって三次元的な感覚が強まり、神聖な存在が沖縄を救済し癒やす、つまり歴史がもたらした傷を治療するという比喩が構築された。
この作品は、沖縄の精神文化に対するオマージュであり、伝統とその現代的な再解釈との均衡を強調するものだ。
砂川惠光は、詩的な感性を持った勇気あるアーティストである。
彼の作品は、歴史に根差したテーマについて考えさせるものであり、そのテーマは現在も沖縄の人々に影響を与えている。独自のスタイルを持つ砂川には、他の多くの作家とは一線を画す独創性がある。深遠な問題についての議論を引き起こすアーティストだといえるだろう。
評:パスクアーレ・ディ・マッテオ氏
[Profile]
砂川 惠光 Keigo Sunagawa
1944年生まれ。沖縄県出身。1966年琉球大学美術工芸学科卒業。美術教師として45年勤務。1988年国際美術展サロン・ド・メ出品。 その後2013年モナコ文化庁主催行事をはじめ、フランス、イギリス、中国、アメリカ等、日本国外を中心に活動。
【賞】
沖展奨励賞授賞。(2013年~2016年) 第23回日本の美術全国選抜作家展大賞授賞。(2018年)