
美術作品には、アーティストがそれを完成させた瞬間に生命が吹き込まれます。つまり作品は生き物と同じく、アーティストによって1点ずつに生命が与えられるものであり、その生命は何らかの目的や使命を持っています。この「QUATTRO VITE(4つの命)」では、それぞれのアーティストによる作品4点の「命」に光を当て、イタリアの美術評論家パスクアーレ・ディ・マッテオ氏が各作品の魅力について解説します。
杉山憲子は、日本の伝統に根差した美と、愛と希望といった普遍的なテーマとを融合し、独創的な色彩で表現するアーティストである。
彼女の芸術に対するアプローチは、自然や日本文化への深い敬愛の念を表現するものだ。それは、着物や伝統的な素材といった象徴的要素の使用にも現れている。
作品の主人公となる着物の布は、表現の手段であるだけでなく、伝統と歴史に根差したあらゆる力学への敬意、さらには生命の連続性のメタファーでもある。
詩的な感性を特徴とする杉山の作風。幾重にも重なる素材、豊かな色彩、調和が支配する構図によって、視覚的な物語が展開される。
杉山は、自身が作品を創作するのではなく、天からの使者として創作させてもらっていると語る。つまり自分を作家というより、むしろ媒体として捉えているのだろう。まさに創作過程を貫く精神性と作家自身が、いかに強く結びついているかを示す話である。杉山作品には、悲劇の後の再生や人と人との絆の大切さといったテーマが繰り返し登場するが、それは国連が定める「持続可能な開発目標」(SDGs)にも通じるものだ。
彼女を単にアーティストとしてだけでなく、社会的・文化的価値の高い人物として位置付けるべきだと、私は考える。
VITA-1
美

着物、水彩/紙 48.0×24.0cm 2024
着物の布と水彩絵具を使って紙の上に表現されたこの作品は、どんなに複雑な要素があったとしても、人生は美しいものだとする賛歌である。
日本の古い物語に登場するかぐや姫のイメージが、作品の構図に幽玄なオーラを与えている。この評論の冒頭で説明したように、杉山の、日本の伝統に対する愛が現れた作品だ。
支持体に印刷されたかぐや姫の姿は、まさに伝統の象徴である着物によって暗示される過去と、描かれた情景と色彩に対する杉山の視覚的解釈によって表現された現在との対話を生み出し、作品を通してこのアーティストが伝えたい隠喩的なメッセージが提示されている。月を連想させる作品下方の黄色の部分は、後で紹介する作品『和』に登場する月と同じものが表現された。テーマの連続性を示唆する、杉山作品の中の統一的な要素だ。
着物の柔らかな色彩と水彩絵具の透明感が、この作品の構図を視覚的により魅力的なものにしている。さらにそれらは、鑑賞者の心に繊細さと内省を呼び起こすだろう。
VITA-2
葛藤の輝き

着物、水彩/絹 90.0×58.0cm 2024
この作品は、2011年の東日本大震災による津波の被害を受けた人々に向けて、杉山が情熱をもって制作したもの。作品に込められた感情の強さという点で、おそらく彼女の数ある作品群の中でも最も劇的なものだろう。
『葛藤の輝き』というタイトルは、対立から浮かび上がる光という逆説を示唆しているようだ。支持体として絹を選び、さらにそこに着物の布が加わることによって、はかなさと繊細さが増している。この感覚は、柔らかく詩的な色遣いによって表現されただけではなく、上質な布が与える触感によってももたらされている。
これは、何世紀にもわたる日本の歴史の中で形成され、困難から再び立ち上がるための決意と粘り強さを伝える、日本独自の人生哲学に対する明確な言及なのかもしれない。ここに使われている色は繊細だが、巧みに組み合わされたことで魅惑的なコントラストを生み出している。まるで癒やしの過程で絡み合う苦痛と希望を表すかのように。
作品の構図は、集団の再生を反映する内面の変化に焦点を当て、悲劇から強さを見出そうとする被災者の進化を象徴している。
杉山憲子というアーティストが希望というレンズを通して、時に繊細で、時に困難なテーマに対してどのようにアプローチできるかを示す作品である。
VITA-3
歓びあう絆

着物、水彩、和紙/絹 65.0×65.0cm 2024
この作品で杉山は、光り輝く折り紙をつなぎ合わせて使うことで、人々の間に生まれる絆の力についての視覚的な物語を作り出している。
着物や和紙など異なる素材を組み合わせる手法は、諸要素が関係し合い、調和が取れた全体に集約することを意味する、比喩的な行為ともいえる。安定をイメージさせる、ほぼ正方形の構図。周囲の黒は関係を縁取るという考えを示し、青という色の戯れは瞑想と静寂の感覚を伝える。
赤い糸を使ってこの作家が表現した「手をつなぎ合う」という行為は、その物質性のために具現化され、個人的な関係とコミュニティーの価値についての疑問を鑑賞者に投げかける。
杉山は単に美しかったり、楽しかったりする作品を作るだけではない。神の使いのように彼女は伝統や真の価値観、人生哲学と結びついた重要な関心事を強調することに興味を持っているのだ。そう、まさにそれが、この作品に示されている。
VITA-4
和

着物、水彩、紙/麻 75.0×20.0cm 2024
月を中心に据えたこの縦長の構図で杉山は、シンプルだが効果的なデザインを選択し、洗練された作品へと作り上げた。
日本文化のテーマとして繰り返し登場する月が、ここでは安穏、あるいは幸福や思索の象徴として使われているようだ。月は、いかに彼女が人間関係や意思の疎通を図ろうとし、また異なる世界の融合からより良い存在を生み出そうとしているかを示す証拠である。
麻を土台に着物や水彩絵具、紙を用いることによって、作品自体が持つ視覚的奥行きが豊かになった。それはまるで現実と想像のはざま、現実世界と夢の次元のはざまに浮かんでいるように見える。連続性と普遍性を強調する月は、この作品と前述した『美』との、異なる二つのメッセージの架け橋としての象徴でもある。
主題が暗示することを強調するミニマルな構図が、思索と内省の余地を残している。
杉山憲子の色彩、そして作品4点の構成は、深遠なコンセプトの美しさをシンプルに伝えるもの。伝統と革新が融合したその視覚言語は、普遍的な感情を翻訳する能力によって際立っている。
作品1点1点が物語の小宇宙であり、文化的な背景を超越した素材やシンボルを慎重に織り交ぜながら、世界中の聴衆に語りかける。彼女の芸術は生命の美しさをえるだけではなく、生きることの真の価値や人間関係の強さに関連する希望のメッセージを伝えるものだ。
世界に対する杉山のアプローチ方法は、深い人間的なビジョンによって特徴付けられている。
評:パスクアーレ・ディ・マッテオ氏
[Profile]
杉山 憲子 Noriko Sugiyama
1947年生まれ。2019年拾ったペンで絵を始め、岩手県芸術祭初入選。2021年絵のまち尾道四季展初入賞。彩美展ワールドインパリ展初入選。JIAS初入選。欧美パリ国際サロン初入選。2022年彩美展ワールドインパリ展金賞。欧美パリ国際サロンミニ個展入選。サロン・ドトンヌ入選(3年連続)。JIAS日本国際美術家協会推薦作家。 日本彩美会会員/新日本美術院東北支部長