
美術作品には、アーティストがそれを完成させた瞬間に生命が吹き込まれます。つまり作品は生き物と同じく、アーティストによって1点ずつに生命が与えられるものであり、その生命は何らかの目的や使命を持っています。この「QUATTRO VITE(4つの命)」では、それぞれのアーティストによる作品4点の「命」に光を当て、イタリアの美術評論家パスクアーレ・ディ・マッテオ氏が各作品の魅力について解説します。
セリス・シェールはその油彩画を通して、ストーリーの豊かさと圧倒的なビジュアルのインパクトで世界的に有名なビデオゲームのシリーズ「ファイナルファンタジー」における象徴的な瞬間を再解釈する能力を示した。彼の作品は単なるオマージュにとどまらず、ゲームのさまざまなシーンから生まれる感情やテーマ、緊張感を、油彩技法を使って具体的なイメージに変換したものだ。
このアーティストの表現言語は、ディテールに向けられる細心の注意、光と影の印象的な使い方、構図が持つ情緒を増幅させる色遣いによって特徴付けられている。とはいえ、その作風は表現主義的な舞台構成と色彩、どちらの面においても明快だ。この能力によって彼は感情を完全かつ包括的に伝え、鑑賞者の想像力を刺激する。
セリス・シェールの作品は単なるイラストレーションではなく、ビデオゲームの物語世界と絵画芸術の物語世界との視覚的な対話であり、古典的な絵画の伝統に根差したものだといえる。
VITA-1
宙に舞う花束

油彩/キャンバス 45.5×38.0cm 2014
この作品は、「ファイナルファンタジーVI」に登場するオペラのクライマックスで、歌手に扮したゲームのキャラクターが花束を投げる場面を描いたもの。
構図のバランスは見事であり、人物の腕が示す斜めの線が鑑賞者の視線を宙に舞う花束へと誘導する。それは、まるで現実と空想のはざまに浮かんでいるかのようだ。また、暖色である花のピンクと背景の青やグレーのコントラストが、劇的でロマンチックな感覚を際立たせている。主人公の解放の象徴である花束に立体感を与えているのは、重厚な油絵具の密度。憂いを帯びた人物の表情は、この解放がはかないものであることを示唆している。
青、灰色、白の色調が支配的なオペラのシーンは、作品の瞑想的な傾向を強調するものだ。画家はこれらの色によって、人生とは挑戦であり、時に困難なものであることを示している。穏やかな時間はほんのわずかしか存在しないがゆえに高い価値があると、我々に思い出させてくれるのだ。
VITA-2
葬儀の少女の肖像

油彩/キャンバス 33.3×24.2cm 2014
この肖像画は、葬儀の最中に怒りを隠そうと努める若い女性に焦点を当てた油彩画である。やや直線的に描かれた口元はかろうじて隠すことのできた緊張を暗示し、扇子を握る指には明白なまでに感情の抑制が表現されている。
構図を支配しているのは、この絵の主人公である中央の少女。背景で表現された陰影が、前景に大きく描かれた人物の感情に鑑賞者の注意を集中させるのに役立っている。
赤系統の背景を除けば、色調は主に黒とグレーを基調としたもの。扇子とドレスの細部が画面にフォーマルな優雅さを加えており、女性の真剣な表情がさらにそれを際立たせている。少女からうかがえる外面的な落ち着きと内面的な動揺の対比は、さまざまな側面を持つ自制というテーマを浮き彫りにしたようだ。大切な人のあの世への旅立ちに感じる怒りだけでなく、少女はこの絵の鑑賞者を凝視して判断し、裁きを下しているようにも見える。もしかするとそれは、社会に対する怒りなのかもしれない。
VITA-3
髪飾りで束ねる女戦士の横顔

油彩/キャンバス 53.0×45.5cm 2015
戦いを前にして、髪を整えるなど身支度をする女戦士の姿を、親近感を込めて象徴的に描いた作品である。
横からの視点で描かれているが、それがかえって内省的な感覚を生み出し、穏やかながら毅然とした表情の女性の顔は、まるで弱さと強さ、そして勇気と恐怖という二面性を伝えることになった。
構図は実にダイナミックで、髪飾りの位置を直そうとして上げた腕がキャンバス上に斜めの線を形作り、鑑賞者の視線を誘導する。衣装のディテールは、この絵画作品のモチーフとなったゲームの壮大な設定を反映しているが、画面上の焦点は明らかに人物に当てられている。
舞い散る桜の花びらに包まれた女戦士の肌や髪に光が当たり、行動を起こす前の内省的な瞬間が強調されている。また、物質性が感じられる服地と柔らかな肌との対比は、視覚面で非常に効果的だ。
VITA-4
葬儀で悲しみをこらえる少女

油彩/キャンバス 41.0×31.8cm 2013
葬儀の場で悲しみをこらえようとする若い女性が描かれたこの作品で画家は、喪失と魂の傷というテーマを強調している。
ここでセリス・シェールは、三角形の構図を複数用いている。遠近法を駆使して壁に囲まれるように描かれた空間から現れるのは、主人公と思われる中央の人物だ。
棺にむけて視線を落とした少女は、まるで盲人が目印になる道しるべを探しているかのようだ。何かをつかもうとして前方に投げ出されたその手は、諦念や無力感、弱さを暗示していると、私には感じられた。
冷たい色調が支配的なパレットは、この瞬間の厳粛さを反映したものであり、顔や手に巧みに当てられた光の使い方が、鑑賞者を感情の些細な変化へと導く。背景に向かって長く伸びる誇張された影も、苦悩と苦痛が支配する力強いポエジーの生成に貢献しているようだ。
まるで時が止まってしまったかのように見える画面。しかし、流れるような筆致は、抑圧された感情が今にも表出しそうな動きの感覚を生み出している。
セリス・シェールは、作品ごとに人物の感情の異なる側面を探求し、現代的なメディアであるビデオゲームの一場面を、油彩画という古典的な芸術作品に変換した。
彼の作品で使われる色は感情を伝えるための道具であり、複雑で緻密な構図によって鑑賞者を魅了する。さらに細部に至るまで豊かな環境の中に描かれた登場人物は、人間が持つ深い感情や複雑さを伝える視覚的なストーリーを喚起するのだ。
このアーティストは、伝統と現代性を融合させることに長けている。新しいテクノロジーの一種であるビデオゲームからインスピレーションを得ることによって、過去へのオマージュと現代的な再解釈との双方を体現する作品を生み出してきたことが、その証拠だ。彼の芸術は、いわば感情の次元に対する視覚的な旅。鑑賞者に豊かで多層的な体験を提供し、作者と同じ感情についての思索を促すことができる。
さまざまな感情を呼び起こし、画像を通してストーリーを指し示すセリス・シェール。現代のアートシーンにおいて、彼は魅力的で興味深い人物だといえる。
評:パスクアーレ・ディ・マッテオ氏
[Profile]
セリス・シェール celes chere
1983年生まれ 静岡県出身。 2008年ユーキャンイラスト講座修了。 2013年講談社フェーマススクールズホームスタディ「クリエイティブ・アートコース」修了。 2016年欧州美術クラブ第17回日本・フランス現代美術世界展出品。 2017年公益財団法人国際文化カレッジ主催日美展絵画部門-油絵の部・水墨画部門-俳画の部にそれぞれ出品。 2023年ふじのくに芸術祭美術展平面部門出品。 2024年第32回特種東海製紙紙わざ大賞出品。
【授賞】
1994年韮山町立南小学校-校内造形コンテスト入賞。 2010年第43回KFSアートコンテスト原ゆたか賞受賞。