アートを学ぶ

後藤 眞子 Masako Goto
QUATTRO VITE -4つの命-

 

美術作品には、アーティストがそれを完成させた瞬間に生命が吹き込まれます。つまり作品は生き物と同じく、アーティストによって1点ずつに生命が与えられるものであり、その生命は何らかの目的や使命を持っています。この「QUATTRO VITE(4つの命)」では、それぞれのアーティストによる作品4点の「命」に光を当て、イタリアの美術評論家パスクアーレ・ディ・マッテオ氏が各作品の魅力について解説します

 

日本のみならず世界的にも、後藤眞子は現在のアートシーンにおける最も独創的な芸術家の一人であるといえる。伝統と革新を融合させる能力という点で彼女は際立っており、禅の精神性や伝承、日本を想起させるさまざまな象徴に根差したテーマを通して、日本文化に対する深い関心を反映させた作品を数多く生み出してきた。

後藤は主に陶土と釉薬を用い、作品によってはそこにアクリル絵具などの素材を加えて、いにしえから受け継がれてきた技術と現代的な美的感覚を組み合わせた陶芸の数々を生み出している。シンプルなフォルムで表現されていながらも、そこにさまざまな意味が込められた後藤作品。時に鮮やかな色遣いや奔放な形状を取り入れることによって、彼女の芸術的表現は魅惑的なものとなり、人々の注目を集めるのだ。

その作品には、無限と普遍的な調和のメタファーとなる円相などの象徴的要素が登場する。そこから、後藤が禅など日本の哲学思想と強く結びついていることが浮き彫りになるだろう。

フォルムや色彩構成、構図、色に対する洗練されたこだわりを通して、後藤は過去と現在の対話を構築し、慣習に挑戦し、内省を促す独創的な芸術的アイデンティティーを明らかにしているのだ。

 

VITA-1


たんと、たんと どうぞ

陶土、釉薬 13.4×41.5×43.0cm

 

陶土と釉薬だけを材料とするこの作品は、タイトルが示唆するように豊かさともてなしの気持ちを呼び起こす。

禅の思想を表した円相により精神的な深みが加わることで、生命と宇宙の無限の循環を表現するような作品となった。この円相は、赤が均一な濃度を保っており、アーティストの熟達した技術を際立たせている。焼成によって生じた素地の抑制された色は、純粋さと時代を超えた感性を強調し、日本的な美学のシンプルさを想起させる。

手の外周部に沿って描かれた黒い輪郭線は、手袋を思わせる。もし手袋を脱がせることができれば、後藤がこの作品で表現した比喩の力がいかに大きいかが分かるはずだ。

手を主役に据えたこの作品では、手は働くことも、何かを拾い上げることも、何かを掴むことも、他者とのコミュニケーションを計ることもできる。何かに触れたり、触覚を感じたりすることも可能だ。左右の手をつなぎ合わせたことで、この手が想像上のシナリオ、あるいは我々の知識や経験を運び込むことができる遠い地平線を表しているようにも見える。そう、この手は我々の全てを運ぶのだ。

 

VITA-2 


島国JAPAN

陶土、釉薬、アクリル 23.0×38.0×38.0cm 2023

 

この立体作品で後藤は、陶土、釉薬、アクリル絵具を組み合わせて日本を象徴するものを創り上げ、母国の地理的、文化的なアイデンティティーを探求している。作品の頂上部に見えるマグマを表す赤は視覚的に力強い色であり、強い伝達効果を持つ。マグマから連想される日本の活火山で、すぐに思い浮かべるのは富士山だ。また、島国である日本は四方を海に囲まれている。作品の外周部を泳ぐ魚の群れは、そんな日本と海とのつながりがいかに大切であるかを暗示しているのかもしれない。

使用された素材のバランスが良いためか、構図は実にダイナミックだ。魚を表した構造的な密度が動きを生み、観察者が頭の中で情景を創り上げることを可能にしている。水の流動性と動きが作品の中心でめまいを起こすほどのパワーを生み出し、それが上部のマグマにまでつながったようだ。

この作品は、環境保護に関するポジティブなメッセージを喚起すると同時に、強い国家意識を体現している。

 

VITA-3 


あまびえ

陶土、釉薬、アクリル 40.0×20.0×22.0cm 2020

 

「あまびえ(アマビエ)」とは江戸時代後期の日本に現れた妖怪。健康を願う人々がこの妖怪に疫病封じの祈りを捧げた。そのため、コロナ禍における日本では、「あまびえ」に注目が集まったという。後藤は伝承に着想を得て、伝統と現代性の融合によるこのユニークな作品を制作した。

このキャラクターを現代的な視点で再解釈した後藤は、その自由な創造性と魅惑的な芸術表現によって、作品に対する人々の興味や関心を呼び起こした。実は同じ「あまびえ」をモチーフにした別の後藤作品を、私は2024年に大阪で開かれた展覧会で目にしたことがある。ただし、当時の作品と今回の作品ではかなり印象が異なる。例えばどちらも椅子の形をしているが、前者は3本脚、後者は5本脚だ。

視覚的にこの作品をより魅力的なものにしているのは、色遣いと装飾的なディテールである。複雑なフォルムも自在に形作ることができる陶土と釉薬という素材の性質が、作品に深みを加えている。

後藤作品の「あまびえ」は、多くの人々が一般的な「あまびえ」から想像するフォルムとは異なっている。しかしこの作品は、健康への願いを込めて魅力的かつ現代風の「あまびえ」を制作しようとした、このアーティストの自由な視点と創造性から生まれたものなのだ。なぜ妖怪を椅子にしたのか? なぜ椅子本来の4本脚ではなく、5本脚なのか?など、後藤本人に確かめてみたいことがいくつもある。その答えは、彼女の創造性の謎を解く鍵になるだろう。

 

VITA-4 


陶土、釉薬、コンクリート、鉄 280.0×160.0×202.0cm 2004

 

2004年の第9回日本現代陶彫展で陶彫優秀賞を受賞したこの印象的な作品は、後藤眞子の代表作の一つである。

陶土と釉薬、コンクリート、鉄という素材のユニークな組み合わせが、安定性や永続性、過ぎゆく時間、歴史、物事の根源、そして人類の進化を構成する人間の価値観を象徴した造形芸術として結実している。

この作品に代表される家は、2004年以降も後藤がしばらくの間、幾度も繰り返し手がけたモチーフだという。家は庇護と出自の普遍的なシンボルであり、家族のメタファーのような役割をも果たした。また、勝利を祝うための場所でもある。

作品の表面は粗く、不規則な凹凸がある。それは、同じ土を素材とする陶磁器が持つはかなさや優美さとは対照的だが、どこか粗野でありながら非常に魅力的な美しさを醸し出している要因だろう。

まるで記念碑のような威容のために、この作品は強い存在感を放っている。たとえどのような場所、どのような機会に展示されたとしても、鑑賞者に感動を呼び起こすであろうし、作家がそこに込めたメッセージを確実に伝えることができるはずだ。

 

後藤は伝統に根差しながらも実験的な芸術的実践を通して、文化や精神的な要素を再解釈する卓越した能力を示すアーティストだ。その実践は、現代美術の新しい動向に確実に目を向けながらも、日本の歴史と文化の伝統を基本とする色彩構成と芸術的表現を通じておこなわれている。

後藤作品は、人間のアイデンティティーや、自然、歴史、伝統、現代性との関係についての独創的な視点を提供し、彼女が現代美術における重要な存在であることを証明している。彼女は示唆に富んだ芸術言語を用いて、時代のダイナミクスを語るアーティストだといえるだろう。作品に命を与えて注目を集めるだけではなく、一般の人々の関心や批評家の批判精神も刺激するのだ。

美的感覚を超え、コンセプチュアル・アートの領域にまで足を踏み入れた後藤眞子。彼女が伝えるメッセージや価値観は、その作品が持つ芸術的、文化的な深さと同様に大きいといえる。

 

評:パスクアーレ・ディ・マッテオ氏

 

[Profile]
後藤 眞子 Masako Goto
1943年生まれ、愛知県出身。1993年より作陶。【受賞歴】1997年第5回陶芸ビエンナーレ準大賞、1998年朝日陶芸展秀作賞、2004年第9回日本現代陶彫展優秀賞、2010年光風会工芸賞【展覧会】2004年個展(ニューヨーク)、2005年3人展(ニュージャージー)、2008年個展(トロント)、2016年個展(パラミダミュージアム)、2021年個展(ノリタケの森ギャラリー) 光風会工芸会員/元・女流陶芸会会員