アートを学ぶ

牧野 満徳 Mitsunori Makino
QUATTRO VITE -4つの命-

 

美術作品には、アーティストがそれを完成させた瞬間に生命が吹き込まれます。つまり作品は生き物と同じく、アーティストによって1点ずつに生命が与えられるものであり、その生命は何らかの目的や使命を持っています。この「QUATTRO VITE(4つの命)」では、それぞれのアーティストによる作品4点の「命」に光を当て、イタリアの美術評論家パスクアーレ・ディ・マッテオ氏が各作品の魅力について解説します

 

牧野満徳の芸術は、古典的な絵画のルールと絵画制作における実験から生まれた彼独自の手法とを組み合わせたものだ。それは、まさに伝統と革新の洗練された融合である。

独創的かつ優れた点描画の技法の使い手として知られている牧野。彼は、すでに確立された過去の点描画の技術を参考にするのではなく、自律的で独自性のある、ユニークな視覚言語を開発した。牧野の点描画は、これまでの点描画と容易に区別できるものであるが、これは非常に重要な特質である。日本のみならず世界的にも、彼は現在のアートシーンにおける偉大な表現者としての資格を持っているといえるだろう。

彼の技法は色彩という次元の多様性へと進化し、作品1点1点、あるいはその時に伝えたい感情に応じて、色の点がさまざまに変化する。それは決して偶然の産物ではない。驚くべきことに、それらの点は画家が画面に表現したいものによって、その大小や筆触、あるいは色の種類や濃度などを変化させたりするのだ。

こうした過程において牧野は、鑑賞者を作品との深い対話に引き込むイマーシブな(没入感のある)雰囲気と豊かな視覚効果を作り出すことに成功している。作品のテーマの大部分が、日本の自然や風景に関連したもの。細部も全体も同じように主役として引き立てることができる彼の美的感覚は見事であり、その独創的な作品はそれぞれが唯一無二の存在となった。

牧野は、身近な風景や、自身の人生において特別な瞬間を刻んだ場所に大きな愛情を示している。そこで目にした色や、心に残った感情の一部を伝えるために、彼はその永遠の姿をキャンバスに描き続けるのだ。

 

VITA-1


夏は来ぬ

油彩/キャンバス 45.5×53.0cm 2021

 

最初に紹介する油彩画『夏は来ぬ』は、生命力と夏の爽やかさ、みずみずしさと幸福感を伝える作品だ。

牧野が手がけたこの点描画は、大小さまざまな筆触が特徴的で、夏の自然の豊かさが表現されている。緑の色合い、山が頂く雪の白、空の青を巧みに配置した見事なバランスによる構図は、まるで立体作品であるかのような優れた視覚効果を生み出している。

特に注目したいのが、茶葉に注がれる光の屈折や絶妙な空気の変化。牧野独自の点描画の技法によって具現化された、凝縮した細部といって良いだろう。

画面下部から山にかけて緩やかに広がる色彩と遠近感のハーモニーは、牧野が永遠のものとした風景に対する愛情を示唆するもの。そのため鑑賞者は、キャンバスに描かれた色彩が伝える暗示を通して、画家自身がその場で感じ取った感情や感覚を体感することができる。

 

VITA-2 


眺望

油彩/キャンバス 45.5×53.0cm 2012

 

やはりこの作品からも、周囲の環境に対する牧野の愛情と敬意を感じることができる。

『眺望』で使われている点描はより均一に見え、他の作品よりも実験的ではない、素朴なアプローチが示唆されているようだ。しかし、ここでより重要な役割を果たしているのは遠近法であり、その見事な奥行きの表現は鑑賞者を描かれた風景に没入させる。まるで画家が飛行機でこの地域の上空を飛んでいるかのように、特別な視点から描かれた作品だ。

一見シンプルに見えるが、細部には絶妙な複雑さが感じられる。柔らかな陰影と光の反射が暗示しているのは、太陽光と広々とした空間との調和。作品の構造はまるで建築物のように堅固で、この画家が自然美の力強さと素晴らしさをどれほど大切にしているかを示している。

画面を支配するのは緑。牧野は緑のさまざまな色調を駆使して動きを生み出している。

 

VITA-3 


忍野の富士

油彩/キャンバス 45.5×53.0cm 2022

 

象徴的な場所の記号となる本質を捉える、牧野満徳の能力が反映された作品だ。鑑賞者は視覚だけでなく複数の感覚を使って、その景色の特徴的な要素を把握することができる。

この作品でも再び富士山は、その威厳を鑑賞者の眼前に示した。点描画の技法によって、山はまるで生きているかのようで、厳かに感じられる。雪は山頂を覆うだけではなく、富士山の中腹までを白で塗り込めてしまった。

テーマの中心となるのは構図だろう。山を覆う雪の白と、人通りのない忍野村に立つ裸の木々との間の色彩的なコントラストは、時間が止まったかのようでもあり、宙に浮いたままになったようでもある。そこには、神秘的な次元が作り出されているのだ。

白くそびえ立つ山は目的地であり、我々が達成しようとする願望のメタファーであるともいえる。まさに旅と魂の進化の道筋について語る作品。

静かな村と裸の木々から冬が連想されるが、それと同時に、人生が我々に直面させる試練をも表しているのかもしれない。

 

VITA-4 


茶畑と富士

油彩/キャンバス 45.5×53.0cm 2022

 

茶畑と富士山という日本の風景ならではの、二つの要素が組み合わされた作品。この二つは、おそらく画家にとっても強い思い入れがあるものだろう。

すでに紹介した『眺望』と比べれば、明らかに点描画の技法が成熟しているようだ。茶葉の色の濃淡や、遠くに見える富士山の威厳の中にも、見事な強弱の変化が現れている。これは日本に対する、そしてキャンバスに描かれた永遠の富士山に対する牧野の愛が息づいている作品だ。

地平線上にある山に向かって伸びる茶畑の曲線を通して、画家が我々をその先へと、いわば進化の道へといざなおうとしていることが比喩的に強調されている。

キャンバスの大部分を占める緑は、牧野の文化的ルーツであるこの地域の精神性を物語っている。すでに述べたように、地平線の先にある目的地は、そびえ立つ富士山。画家は日本に住む人々がこの山にふさわしい存在となるよう、また、富士山に敬意を表するために最善を尽くすよう呼びかけているのではないだろうか。

 

牧野満徳は日本という国特有の物語を伝える画家だ。革新的で個性的な点描画によって、この国の風景を再解釈している。それが、彼を現代の日本美術界を代表するようなアーティストの一人にしているのだ。

それぞれの作品は、感情や記憶、人生、愛に関する個人的で深い価値観が織り込まれたストーリーを語るもの。この画家は、人間の手が過剰には入っていない自然を賛美している。それは、地球によって生み出された美に対して敬意を表すだけではなく、自身の周囲にある環境への敬意と献身のあかしでもある。その環境こそが、我々が生き続けることを可能にしているのだから。

彼の作品は、自然の美しさへの賛辞である。それに加えて人間と環境との関連性、人間の地球上での役割について、哲学的な観点や高度に概念的かつ道徳的な観点からの考察を促すものでもある。日本を象徴するものや、日本の伝統が持つ深い意味を探求する牧野。そして彼は、それらを視覚的な物語として表現し、概念的にも感覚的にも鑑賞者が共鳴し得るものへと変えていく。

 

評:パスクアーレ・ディ・マッテオ氏

 

[Profile]
牧野 満徳 Mitsunori Makino
1959年生まれ。静岡県出身。北斎賞、パスレル・アルティスティック賞、A.M.S.C.グランドコレクション賞、インド国立ガンジー記念博物館「国際平和褒賞」等、受賞多数。作品がシエナ芸術遺産、アジア文化財に認定。タイ王室よりナ・シラパ(芸術の顔)認定。 中国書法研究院客員教授/英国王立美術家協会名誉会員/日・伊芸術貢献特使/日メコン友好芸術特使