アートを学ぶ

亀岡 トモ子 Tomoko Kameoka
QUATTRO VITE -4つの命-

 

美術作品には、アーティストがそれを完成させた瞬間に生命が吹き込まれます。つまり作品は生き物と同じく、アーティストによって1点ずつに生命が与えられるものであり、その生命は何らかの目的や使命を持っています。この「QUATTRO VITE(4つの命)」では、それぞれのアーティストによる作品4点の「命」に光を当て、イタリアの美術評論家パスクアーレ・ディ・マッテオ氏が各作品の魅力について解説します

 

亀岡トモ子は北海道で生まれ、現在も北海道に住むアーティスト。彼女は北海道の先住民族であるアイヌの文化を視覚的に探求することに専心している。彼女の芸術は、アイヌ民族の習慣や踊り、儀式に触発されており、伝統との深い対話によって特徴づけられるものだ。

亀岡は、アイヌの祭りに何度も足を運んだという。そうした経験を絵画という物語に変換することで、彼女は文化的な感受性と自らが持つ技術を融合し、芸術表現の文化的価値をより高いものにした。人間と自然との共生、精神性、文化的アイデンティティーといったテーマに焦点を当てたその作品は、象徴的価値の高さを示している。

油彩という技法の選択が、時に鮮やかで、時に詩的かつ瞑想的な、豊かな色彩の作品を亀岡が生み出すことを可能にした。それは彼女の表現が持つ感情的なインパクトを強調するとともに、歴史や記憶、伝統、そして価値観など遠い昔のものと思われるテーマを語る彼女のメッセージの強さを際立たせているのだ。

亀岡は写実主義と象徴主義を融合させながら、アイヌの人々の生活と文化に敬意を表した作品を生み出している。それらの作品は百科事典のように時代を超えて、人類の歴史の一部を視覚的に表現したものだといえる。

 

VITA-1


羽音

油彩/キャンバス 162.0×130.3cm 2017 湧別町役場上湧別庁舎蔵

 

丹頂鶴タンチョウの羽ばたきを模したアイヌの伝統舞踊「鶴の舞」を描いた作品。構図はダイナミックで、流れるように調和の取れた動きで絡み合う二人の踊り手が、羽根を思わせる布を風になびかせている。

色の選択に際して亀岡は、深みのある対照的な色調に重点を置き、神秘的で神聖な感覚を呼び起こしている。彼女は、踊り手が着用する伝統的な衣装にこだわりを見せ、その細部に至るまで忠実に再現した。

背景は情熱的に描き込まれているが、その形はあいまいであり、神秘的な雰囲気を醸し出している。描かれた場の物質的な側面や観察対象そのものよりも、精神的な次元の方がより重要であることを示唆するような作品だ。柔らかな筆致で描かれた翼の動きには、軽やかさと優美さが表現されている。

細かな描写とメッセージ性、そして色彩と詩情とのバランスが取れた画面からは、亀岡の熟練の技が感じられる。

 

VITA-2 


レラ・カムイ(風の神)

油彩/キャンバス 162.0×130.3cm 2018 湧別町役場上湧別庁舎蔵

この作品を描く際に亀岡は、より抽象的な世界に入り込んだようだ。柔らかな色彩と幻想的にデフォルメされた形が組み合わされて、まるで夢のような光景が生まれている。

彼女は伝統的なアイヌの文様を現代的な感覚で再解釈し、過去と現在とのつながりを強調している。円形のリズムによって特徴づけられ、鑑賞者の視線を絵の中へと導くような構図。その中で焦点となるのは、踊り手が身につけている緑がかった衣装だ。しなやかな体の曲線が、永遠の動きを想像させるような躍動感を生み出している。

モチーフである風は、捉えどころのない、どこにでも存在するものでありながら、人々に力強いインスピレーションを与えるもの。意識をある方向へ向かわせたり、別の方向へと向かわせたりして、しばしば人々の運命を変えることができるという概念を反映している。

色彩の絶妙な使い分けや、寒色から暖色に至るまでの調和のとれたパレットは、この作品の幽玄な側面を強調している。

 

VITA-3 


歩む

油彩/キャンバス 162.0×130.3cm 2022

亀岡はこの作品に、強い物語性を加えている。力強い意志を表情に秘めつつ、歩みを進める3人の人物。それはおそらくアイヌ民族が環境に適応する能力を象徴的に表したものであろう。

それぞれの人物の、ユニークな柄があしらわれた衣装は、文化の多様性や個性というものを浮き彫りにすると同時に、アイヌ文化に対する画家の深い愛情を表している。

やや上方から見た人物を描き、配置したことで、右から左へと続く彼らの旅に鑑賞者をいざなうかのような感覚が生み出されている。淡い青と濃い青との揺らぎが特徴的な色調を背景に描かれた3人の歩みは、空をかけるようでもあり、大地を進むようでもある。青は旅の瞑想的な側面を物語るもの。それゆえに、この旅は二つの場所を結ぶ橋というよりも、精神的で親密なものとなるのだ。

一方、3人の衣服を飾る暖かみのあるアースカラーは大地とのつながりを強調し、背景の高い密度と足元に見える影が描かれた情景に奥行きを与えている。

 

VITA-4 


風の木

油彩/キャンバス 162.0×130.3cm 2023

 

ここで亀岡は人物像から離れ、自然を作品の主人公としている。より正確には、自然の力を描いているといっても良いかもしれない。

作品の中心を占めるのは、自然のシンボルとしての木。それは、風と光の絶え間ない流れの一部であるかのよう。エネルギーの渦やハリケーンの中にいると思わせる動きが、生命力を暗示する流麗な筆致で描かれている。

半透明の色彩を重ねることによって、奥行きのある情景が表現され、立体的な効果が生まれている。さらに色彩は突風にあおられて剥がれ落ち、今にもキャンバスの外へと飛び去りそうな印象を与える。

この作品は、これまで紹介してきた亀岡作品とは異なる、彼女の表現スタイルの進化を象徴するもの。自然の風景が持つ本質を抽象的かつ詩的な形で捉える能力がさらに高まったことを示している。

画面に浮かび上がるのは、全てを巻き込む風によってダンスをする木の葉と色彩。それは変化を受け入れようとする心のメタファーであり、常に目的意識をもって眼前の地平線を観察しようとする画家の意欲の表れでもある。

 

亀岡作品は、アイヌ文化へのオマージュだといえるだろう。その貴重な文化を想起させるだけでなく、過去と現代の世界を関連づけるものであり、人生の真の価値を強調する。

彼女は魅力的な技法と深い芸術的感性を駆使して、作品を通して伝えようとするアイヌ文化の独自性に根差しながらも、普遍的な感情を呼び起こすことに成功している。

ここに掲出した4点の作品は、アイヌ民族のアイデンティティーや伝統を忘れまいとする願いともいえる。人間と環境との関係性などの深遠なテーマについて、鑑賞者に考えさせるものだ。そこに登場する全ての要素が、亀岡トモ子こそがアイヌの視覚文化の守り手であり革新者であるという作家の役割を証明している。

 

評:パスクアーレ・ディ・マッテオ氏

 

[Profile]
亀岡 トモ子 Tomoko Kameoka
1948年生まれ。北海道出身。1968年北海道女子短期大学(現北翔大学)工芸美術科卒業。1969年~2008年中学校美術教師を務める。札幌市時計台、札幌市資料館、札幌NHK、紋別、北見等で個展開催。1999年インターアート創立20周年日本代表作家認定賞受賞。