インターネットで様々なアート作品を観賞できる「Gates Museum」。ここでは、公募展「第3回 Gates Art Competition」グランプリ作家である、石松チ明の個展が3月15日(水)から開催される。
石松は自作を「不美人画」と称し、世の中であまり魅力的ではないとされるものにスポットを当て、その魅力を描き出す。石松の描くペン画は息を吞むほど緻密で、一本一本丁寧に線を描く作業は「まるで埋もれた宝石を掘り起こすかのようだ」。
石松作品の代表的なモチーフといえば、ムッとした不機嫌そうな女の子。 “女性”というには幼く、しかし“少女”というには不純で、良いことも悪いことも理解し、けれど自分の欲求が隠しきれない“女の子”たち。彼女たちの表情にはどのような意図があるのだろうか。
ミステリアスな石松作品の謎を解くべく、制作や作品への想いについて話を聞いた。
自分らしい作品で勝負してみたい
──今展でグランプリを受賞された率直な気持ちをお聞かせください。
とにかくすごく嬉しくて、受賞のメールをいただいた時は腰が震えました。そんなことになったのは大学受験の合格発表以来です。
──今回の受賞作は“石松さんらしい作品”を応募したとのことですが、グループ展と個展、あるいは公募展に応募するものとしないものでは、作品の方向性やテーマなどに違いはありますか?
それぞれ明確に差をつけています。グループ展では悪目立ちしない、それでいて強く個性をアピールできる作品を、反対に個展では自分の世界を全面に押し出した作品を出品しています。
賞に関しては、それこそ受験のように傾向と対策を練って、過去の受賞作に寄せた作品を出すのですが、今回は自分らしい作品で勝負してみたいという気持ちが強かったため、受賞作などは一切気にせず挑みました。そういった作品が結果的に受け入れていただけてとても光栄です。
自らの技量でどこまでその価値を上げられるかという行為に魅力を感じる
──主にペン画を制作されていますが、どういった点に魅力を感じたのでしょうか。
ペン画を選んだのは錬金術師になりたかったからです。
こだわりのない安価な画材、例えば150円の紙や800円のペンなどを元に、自らの技量でどこまでその価値を上げられるかという行為に魅力を感じています。あとは純粋に技術的に一番向いていたということもあります。
──使用する画材にこだわりなどはありますか? 過去のインタビューでGペンを使用していると拝見しましたが、使用し始めたきっかけなどを教えてください。
先ほどの質問でお答えした通り、できるだけ“こだわりのない画材”を使うことにこだわっています。錬金術師になりたいからという理由に加えて、「このペンでしか描けない……」という人よりも、「どのペンでも描けるよ!」という画家に憧れがあるからかもしれません。
Gペンを使い始めたのは本当になんとなくで、最寄りの画材屋さんに800円で売られていた初心者用のつけペンを買ったのがきっかけです。丸ペンも試してみたのですがしっくりこず、じゃあGペンがいいのかなと思って使い始めました。一度母に「いいガラスペンを買ってあげようか」と言われたことがあるのですが、全力でお断りしました。
──石松さんの作品は黒と他1色で描かれている点も印象的です。作品の色彩はどの段階で決定するのでしょうか。
色は最後に決めることが多いですが、色ありきで描き始める作品もままあります。絵を通して伝えたい感覚を邪魔せず、引き立ててくれる色を選んでいます。一人で選びきれない時も往々にしてあるので、その際は家族に助けを乞います。
みんなに支えられて頑張れています。いつもありがとう。
──葛飾北斎や、オーブリー・ビアズリーに憧れていたそうですが、ご自身の制作にも影響を与えていますか?
多大な影響を受けています。もともと立体感のない、それでいてくっきりとした絵が好きで、そんなこんなとしているうちにジャポニスムに行き着きました。その代表格である北斎や、北斎の影響を受けたビアズリーは、影響の範疇を超えて参考にしている作品も多いです。
長らくビアズリー一筋でやってきたのですが、最近は伊藤若冲に惚れ込みまして、作品にも落とし込みたいなと虎視眈々と狙っています。
余談ですが、若冲とは誕生日が一緒なのです。嬉しいです。頑張ります。
見方によっては魅力的に見えるはず
──石松さんの作品の代名詞である「不美人画」は、言葉やコンセプトが先に生まれたのでしょうか?それとも作品が生まれてから名付けたのでしょうか?
コンセプトが先といえば先です。
この世にはいろんなものがあるのに、ほとんどのものはなかったことにされていると憤りを感じたのがきっかけです。その憤りの一つが「美人画」でした。「美人はもちろん素晴らしいけど、あまり可愛くない女の子だって見方によっては魅力的に見えるはず。この世にあるのに仲間外れにされている人やものを描いて、その良さを世間の鼻先に突きつけてやろう!」と思いました。
不美人を描いている人はいましたが、「不美人画」と銘打って描いている人はいなかったので、それを私が担おうと思ったのです。そこから、第1作目である『可愛くない女の子』という作品を描いたのがスタートでした。
──「不美人画」を描く上で大切にしているポイントやポリシーを教えて下さい。
まず、単純に外見を美しくないようにと頑張っています。現代の日本では白人の骨格(二重まぶた、鼻が高い、長頭、Eラインがあるなど)が美しいとされていることが多いです。そこをアジア人的な骨格(一重まぶた、鼻が低い、短頭、Eラインがないなど)にすることで、一般的な美人像からの逸脱を試みています。
また内面も美しくなく描こうと努めています。「美人画」は外見だけでなく内面の美しさというところも構成要素の一つらしく、清楚だったり品行方正だったりも重要なポイントのようです。私の描きたいのは不満げだったり怖かったり、内面的にも美人とは言えない女の子です。そういった面でも不美人を意識しています。それでいてなぜか魅力的に見えちゃう子、という部分も大事にしています。
望み、動かしているのは女の子
──作中に出てくる男性は、体の一部であったり、後ろ姿であったりと誰一人として明確に描かれていません。そこにはどのような意図があるのでしょうか。
男性を神格化しようとしているからです。
私の元々の思考として、男性は神様みたいな存在であって欲しいと思っています。その感覚を作品に落とし込むと、手だけだったり後ろ姿であったりそういう感じになるのです。肉体を全て出してしまうと同じ人間に落ちてしまう感じがするのです。
──作中の“女の子”たちは一見抑圧されているようにも見えますが、どの作品もとても自由で本能的であると感じました。
先ほどの質問で「男性を神格化しようとしている」と言いましたが、結局のところそれは私(女の子)を作り上げた本物の神様ではなく、女の子が作り上げた偽物の神様なのです。
一見男性主導で事が動いているように見えますが、それを望み、動かしているのは女の子の方です。そのためとても自由で本能的な女の子が出来上がっているのだと考えています。
──女の子が男性に囚われているようで、実は男性が女の子に囚われているのではないか、とも感じます。
まさにその通りです。
私の絵のテーマは「マゾヒズム」なのですが、「マゾヒストを縛っているサディストの手を縛っているのはマゾヒスト」なる言葉があります。マゾヒズムは演劇のようなもので、サディストは主演俳優、マゾヒストは俳優兼監督と言われています。
一見サディスト(私の作中では男性)が場を支配しているようで、その場自体を作り上げているのはマゾヒスト(女の子)の方なのです。その要素が作中に多く入っているので、そういった感覚を受け取ってくださったのかなと思います。
その部分をわかってくださる方はなかなかいないので、気づいてくださって嬉しいです。頑張って絵を描いてきてよかったです。ありがとうございます。
──今後の活動について、目標や展望をお聞かせください。
今後は個展やグループ展など画家としての活動をメインに、本の装画やCDジャケットなどイラストレーションの仕事にも携われたらと思っています。
一番の目標はJロックバンドのスピッツと仕事をすることです。スピッツが10年ほど前からずっと好きで、音楽はほぼスピッツしか聴かないようにしています。好きが高じて現在「スピッツ全曲絵画化チャレンジ」という企画をしているのですが、もっと色んな方向からアピールをしていきたいと意気込んでいます。
引き続き頑張ります。
[Profile]
石松チ明 Ishimatsu Chiaki
1994年 静岡県生まれ
2018年 月刊美術新人賞デビュー 入選
2019年 ペーターズギャラリーコンペ2019 大賞ダブル受賞
2020年 名古屋栄三越個展「不美人画展 名古屋」開催
2021年 小林泰三著「杜子春の失敗」小説の挿画イラスト担当
2022年 第3回 Gates Art Competition グランプリ
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Exhibition
・不美人画展 銀座(美の起原/銀座/4月25日〜5月1日)
・四美神(八犬堂/京橋/5月20日〜28日)
・BAD GIRL(八犬堂/京橋/8月9日〜17日)
・Ephemeral〜少女たちの領域(みうらじろうギャラリー/日本橋/9月16日〜10月1日)
・個展(栗原画廊/池袋/10月)
・30の顔2023(REIJINSHA GALLERY/日本橋/10月)