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「第5回 サロン・ド・アール・ジャポネ 2022」グランプリ受賞作家
郷祥 インタビュー

郷祥《HARMONIE》画像

《HARMONIE》2022年 墨/紙 50.0×60.0cm
第5回 サロン・ド・アール・ジャポネ 2022 グランプリ受賞作品

2022年9月7日(水)〜26日(月)まで、パリの高級住宅街である16区に位置するリンダ・ファレル・ギャルリーで「第5回 サロン・ド・アール・ジャポネ 2022」が開催された。2019年11月から継続するサロン・ド・アール・ジャポネは、フランス美術界への登竜門として、発表の場を国外に広げようとする多くの日本のアーティストから支持を得ている。

出展作品73点の中からグランプリに輝いたのは、郷祥ごうしょうの《HARMONIE》。物心ついたときから書が身近にあったという郷祥。彼は、2023年2月にパリで開催される世界最古の公募展「ル・サロン」に入選を果たすなど、前衛的な書芸術を世界に向けて発表している。

今回「美術屋・百兵衛ONLINE」では、そんな郷祥に、グランプリを受賞した心境や自身の活動について話を聞いた。

郷祥《般若心経》画像

《般若心経》2022年 墨/アクリルガラス 185.0×490.0cm

サロン・ド・アール・ジャポネ グランプリ受賞作について

──グランプリを受賞された率直なお気持ちをお聞かせください。

まさか受賞できるとは思っておらず、グランプリ受賞の報告を受けた時は大変驚きました。一方、今回表現したコンセプトや墨の可能性を感じとってくださったことに大変喜びを感じました。

──受賞作《HARMONIE》のコンセプトをお聞かせください。

日本の伝統文化である書のエッセンス(筆跡・墨跡・余白)を抽出し、独自に開発した墨を用いることで「自然の美」と「人口の美」の調和、つまり和の精神性を表現しました。
日本は、仏教の伝来に始まり明治以降の近代化など、海外からもたらされた異質なものを取り込みながら、独自の文化を発達させてきました。つまり、私たち日本人は、異質なものに出会ったとき、これを排除することなく受け入れ、調和をはかりながら、新しいものを生み出す力に変えてきたということです。この「日本人の精神=調和」は、世界に誇れるものです。
私たちが調和を大切にし、それを世界に伝えていくことで、異なる者同士が手を取り合うことができ、今、国内外で起きている悲しい出来事もなくなるのではないかと考えています。

郷祥《鼓動》3連作品 画像

《鼓動》2021年 墨/紙 3連作品 各105.0×58.0cm

書に新たな未来を拓く墨跡画ぼくせきが

──漢字書も手掛けておられますが、墨跡画(墨象のこと)はいつ頃から描かれるようになったのでしょうか?
表現を発展させた理由もお教えください。

墨跡画に関しては、構想自体は3年ほど前からありました。ここ1年ほどで自分の納得のいく墨を作れるようになり、制作し始めたのは2021年の10月頃からです。文字に内在するエネルギーを解放し、より自由な表現を求めて新境地となる「前衛書(文字を書かない書表現)」にも挑戦しようと思いました。
なぜなら、絵画や彫刻などとは異なり、書が「情報伝達のための手段」という実用性を持つがゆえに、「芸術」としてなかなか認知されないことに長く葛藤を抱いてきたからです。
実際に、書道は近代における西洋化の流れのなかで、小山正太郎と岡倉天心(覚三)による、かの有名な書ハ美術ナラズ」の論争を皮切りに、美術の枠組みから外された過去があるのです。昭和23年に初めて日展に加わることで、制度の上で書も芸術として歩むことになります。しかし、今もなお日本の芸術大学には書道科は存在せず、広く一般の方から芸術と認められていない状況にあるのではないでしょうか。
また、2021年の10月、政府は書道を登録無形文化財に登録しましたが、それはあくまでも文化としての価値を認めるに留まっており、私が目指すところの「書の芸術への昇華」にはまだほど遠く感じます。
こうした書の歴史に新たな可能性を開き、誰が見ても芸術だと認識していただけるように試行錯誤を重ねました。その結果、独自に開発した特殊な墨を使い、あえて文字を書かず、筆の織り成す跡で、自らの内面にあるイメージや思想を表現するに至りました。この独自の技法を使った前衛書は、私にとって大きな一歩であり、書を芸術に昇華させるための手段として大いなる可能性を秘めていると信じています。

※1882(明治15)年、洋画家の小山正太郎が『東洋學藝雑誌』に「書ハ美術ナラス」 という文を寄稿。それに対し、思想家で文人の岡倉天心が反論した。

2021年、BRIC(香川県)で開催された初個展「郷祥展〜書は語りかける〜」パフォーマンス画像

2021年、BRIC(香川県)で開催された初個展「郷祥展〜書は語りかける〜」
会場では郷祥によるパフォーマンスが披露された。

──独自に開発された墨によって、どのような表現が可能になりましたか?

独自開発した墨は原料を産地から取り寄せ、季節や表現したい内容に応じてその配合を変えています。その結果、黒のなかに微妙な濃淡が出せるようになりました。墨の意思を表現できるようになり、同じ墨でも水や炎といった自然現象にも似た表現が可能となりました。

──筆・硯・紙など、墨以外にもこだわりはありますか?

効果的に墨の感情や表情を表現するために、紙にはこだわっています。紙の種類はお答えできませんが、この表現に辿り着くまでに何十種類、何百種類と試しました。

郷祥《現在地》画像

《現在地》2021年 墨/紙 50.0×110.0cm

──制作する上で大切にされていることは何でしょうか?

制作に際しては、コンセプトをしっかりと考えるように心がけています。また、実際に書く(描く)際は、極力自分の欲を捨てて、筆に身を委ね、墨の意思を尊重するようにしています。

国内での活躍 高松市主催で個展を開催

──今年10月8日~16日に、個展「郷祥展~書の可能性~」を開催されましたが、その感触はいかがでしたか?

9日間で延べ1000人の方にお越しいただきました。
来場者からは、「吸い込まれるような世界。一瞬のうちに時間が止まり、呼吸がゆっくりになっていく」「作品にエネルギーと想いを感じて涙が出た。色々な想いで目まぐるしい毎日を過ごしていたが、とてもすっきりとした気分になった」「繊細な線に魅了される。感性溢れるエネルギッシュな作品を見ていると鳥肌が立つ。その場からなかなか離れられなかった」「墨の漆黒。墨で塗りつぶされた黒は平面的ではなく、奥行があり、その先に宇宙が広がる。この個展で墨の力を知りました」といった感想をいただき、まさに書の可能性を感じることができました。

個展「郷祥展〜書の可能性〜」(サンポートホール高松)会場風景

個展「郷祥展〜書の可能性〜」(サンポートホール高松)会場風景

今後の展望 フランス・パリでの展示

──2023年2月に、パリで開催される第233回「ル・サロン(フランス芸術家協会展)2023」にも入選されましたが、どのようなきっかけで挑戦しようと思われたのでしょうか。

現在注力している墨跡画を通して、和の精神性や墨の奥深さを海外にも伝えていきたいと思い、以前からル・サロン入選を目標に活動していました。この度、サロン・ド・アールジャポネのグランプリに加えてル・サロンでも入選の報告をいただき、自分のこれまでの活動に間違いはなかったと感じています。その結果として、東洋芸術である書が西洋美術史の文脈にゆるぎないものとして組み込まれれば大変幸せです。

郷祥《絆》画像

《絆》2014年 墨、蝋/画仙紙 90.0×70.0cm
第233回 ル・サロン入選作品

郷祥《円窓》画像

《円相》2021年 墨/紙 83.0×86.0cm

 

サロン・ド・アール・ジャポネ Online Gallery はこちら

郷祥 Gosho郷祥_プロフィール写真
1988年
香川県生まれ。5歳から書道を始める。
2011年
同志社大学卒業後、電力会社に就職。会社員として働きながら師範免許を取得
2014年
「第21回 雪舟国際美術協会展」国立新美術館 出展。無鑑査会員推挙
2015年
「Salon Art Shopping Paris」(フランス)に日本代表として参加
KSB瀬戸内海放送「KSBスーパーJチャンネル」に『海外で注目!香川の若手書道家』として出演
「アートメゾン・ビエンナーレ2015」(スペイン)出展。A.M.S.C.スペイン本部芸術家会員推挙
2016年
「雪舟国際美術協会特別展 〜書画への架け橋〜」東京都美術館 オーディエンス賞受賞
2021年
初個展「郷祥展〜書は語りかける〜」BRIC(香川県)開催
2022年
1月 RNC西日本放送「今夜もジコチューで行きたい!」出演
4月 総本山善通寺にて実演。揮毫作品奉納
8月 「Independent Tokyo 2022」審査員特別賞受賞
10月 個展「郷祥展〜書の可能性〜」(主催:高松市、他)サンポートホール高松(香川県)開催
11月 個展「地平天成~平和への祈り~」直島(香川県)開催
11月「100人10(展)」東京ミッドタウン B1メトロアベニュー 野村證券 AWARD受賞

■郷祥に関する情報は下記をご覧ください。
・オフィシャルサイト https://goshow88.com
・instagram https://www.instagram.com/artist_goshow/
・Facebook https://www.facebook.com/goshow88/
・YouTube https://www.youtube.com/channel/UCXif68wad5vskQisUGl439Q?view_as=subscriber

■今後の展覧会予定
2022年
・12月8日(木)〜11日 (日)「cocokara japan ART」香川県文化会館
・12月14日(水)~25日(日)「第29回 雪舟国際美術協会展」国立新美術館(東京・六本木)
2023年
・2月15日(水)〜19日(日) 第233回「ル・サロン2023」(フランス・パリ)
・3月1日(水)〜20日(月)「第6回 サロン・ド・アール・ジャポネ2023」リンダ・ファレル・ギャルリー(フランス・パリ)
・3月27日(月)〜4月1日(土) 「Session I 2023」GALLERY ART POINT(東京・銀座)

 

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