アーティスト

Karin Hosonoインタビュー
──猫のおかげで美術に出会えた

猫会議2023_DM画像

東京・日本橋のREIJINSHA GALLERYで開催される「猫会議」は、同ギャラリーの毎年恒例となった企画展だ。今年から前期・後期の2回に拡大して開催される。猫をモチーフにした作品を描く作家をピックアップし、その名の通り、まるで猫たちが会議を開いているかのような展示空間を披露することからこのタイトルになった。

今回が初出展となるKarin Hosonoは、猫の動きや表情の機微を捉え、愛らしく印象的な絵画に仕上げる作家。百兵衛編集部では彼女にインタビューをおこない、作品制作、そして猫への思いについて話を聞いた。

Karin Hosono《あお》画像

《あお》油彩/キャンバス 19.0×33.3㎝

猫のおかげで美術に出会えた

──猫をテーマに作品を描き始めたきっかけは何ですか?

小学生の頃の話ですが、親戚宅にいた、優しくて毛並みが綺麗で体が大きな、瞳の美しいメインクーンに心を奪われたことがきっかけで、それまで動物全般が苦手だった私はすごいスピードで猫に熱中していきました。
『世界の猫図鑑』を買ってもらって、図鑑に載っていた猫を描いた日のことを今でもよく覚えています。それまでの自分にとって、絵は授業や暇つぶしで描くものでしたが、猫を好きになってからは自分から「描きたい!」と思って描くようになりました。それから今まで10年以上、ずっと猫を描き続けています。中学校でも高校でも大学でも、ずっとずっと猫を描き続けてきました。

猫との出会いがなければきっと美術の道に進むことはあり得えなかったと思います。「美術の中で猫と出会った」というよりは、「猫のおかげで美術に出会えた」という方が正しいのかもしれません。

 

──油絵というジャンルを選んだ理由を聞かせてください。

昔から油絵への憧れがあったというのが大きな理由の一つです。美術館や画集で良い油絵を見ている時につい、「ここに描かれているのが人ではなく、馬ではなく、静物ではなく、“猫”だったら……」と思い願うことがあります。その願いを自分自身で形にするべく、進んで油絵を描き始めました。
また、今まで日本画や版画やデジタルなど様々なジャンルに触れてきましたが、私が猫を描く際に1番こだわっているヌルッとしたフォルムを最も気持ちよく表現できるのが油絵だったというのもあります。油絵具のしっとりとした感じも、私が持つ猫のイメージと相性が良かったです。

 

猫という、可愛いだけでない不思議な生き物

Karin Hosono《みのり》画像

《みのり》油彩/キャンバス 91.0×91.0㎝

 

──作品に登場する猫にはモデルがいるのでしょうか?

モデルがいることが多いです。1番よく描いている茶トラの猫は「チーミー」という名前の私の相棒なのですが、彼だけではなく私が様々な場所で出会ってきた、様々な猫たちに作品に登場してもらっています。
私は、私の描く猫が大好きなので、いつもキャンバスの上の猫を撫でたり、話しかけたり、たくさん可愛がりながら描いています。このコミュニケーションを続けているとなんだか画面上にいる猫がモデルの猫とはまた別の新しいひとつの存在になっているような気もします。

 

──作品の中の猫の視線が、鑑賞者を見つめるように描かれていることが多いように感じます。意識していることはありますか?

特別意識をしているわけではないのですが、確かに猫と目が合う作品が多いです。
制作の際に、少し猫の目線を変えるだけで絵の印象が大きく変わるということはよく感じていました。暖かくて柔らかい猫の中にある圧倒的に異質な目というパーツは、実際の猫でも絵画上の猫でも「スパイス」のような役割をしていると思っています。そんな猫の瞳に魅了され、無意識のうちにキャンバスに描かれた猫だけではなく、猫と見つめ合う自分も作品中に現れてしまうのかもしれません。

 

──Karin Hosonoさんが描く猫は、横に引き伸ばされたようにデフォルメされた愛らしい姿が印象的な一方、鋭い視線やムスっとした表情も特徴的です。何を意図して描いているのでしょうか?

猫という生き物はもちろん「かわいい」ですし、私もかわいいと思いながら描いているのですが、ただそれだけにならないようにということはかなり意識しています。
高校生の頃に、時間をかけて猫の怒りや悲しみを描いた作品が、「かわいい」の一言で通り過ぎられてしまったことがありました。「かわいい」という言葉を頂けたことはとても嬉しかったのですが、その時は少しだけ悔しさを感じてしまいました。
私は猫という不思議な生き物が可愛いだけではないからこそ、今までずっと夢中で描き続けられたのだと思うのです。まだ自分の思う猫の魅力はうまく言葉にできないのですが、だからこそ絵画という形で自分を納得させるような表現をしたくて絵を描いています。10年以上猫を描いていても、猫という生き物は無限に私に新鮮なときめきを与え続けてくれるので、描いても描いても描ききれません。これからもまだまだ探っていきたいと思っています。

 

たくさんの猫を描いていきたい

──箱の側面に猫が描かれた立体作品を、SNSで拝見しました。今後も同じような立体作品を制作する予定はありますか?

Karin Hosono《無題》

《無題》油彩/キャンバス

あの作品では、私は猫が大好きで猫を追求し、猫に近づく為に絵を描いてきているはずなのに、描けば描くほど、想いを込めれば込めるほどに歪んでいき、リアルな猫から遠ざかっていくという現状に感じていた矛盾を表現しました。皮肉な意味も込めて、実際の猫と同じ大きさに二次元のキャンバスを組み合わせて形にした立体作品でした。
しかし、いざ描き上げて本物の猫と並べてみると、実物の猫の色も形も全くリアルに再現できていないのですが、でも確かに、私が描いているのは「猫」であると感じることもできました。まだそれが何故なのかははっきりとはわかりません。自分が猫を描く“意味”を考えるきっかけとなるとても良い機会になったので、もっと猫を追求していくためにも是非また制作したいと思っています。

 

──作品を鑑賞される方に何を伝えたいですか?

美術の道に進み、学校で私や私の作品よりもずっと強烈なパワーやメッセージ性を持つ作品やアーティストたちに囲まれたことで、自分には「猫」しかないということに対しすごく劣等感を感じ、感情やストーリーやメッセージをどうにかして込めないと、と日々焦りを感じていたこともありました。しかし猫を通して何を伝えていくのか模索を続けていった中で、ふと1番描きたかったはずの猫が、メッセージを伝える文字のようなただの“役割”になってしまっていることに気づきました。

それから自分の原点に立ち帰り、最近は逆に「猫」以上のメッセージを意識的に入れないようになりました。今までお話ししてきたように、自分にとって猫は計り知ることのできない無限の魅力を持った不思議で面白い生き物で、どんなものより特別で、どんなものより大好きなものです。だから、そんな「猫」という存在をこれからも真っ直ぐに「猫」として表現し続けていきたいと思ったのです。思想や願いを表現することや自分や他者や社会に対して語りかけることこそが美術ですが、自分にとって心地の良いものを心地よく描く。ただそれだけのこともまた美術であると、悩んでいた頃の自分に言葉をかけたいです。

だから、私の作品を鑑賞していただく方には、作品の意味やメッセージということよりも、私の描く「猫」から真っ直ぐに「猫」を感じていただけたらそれ以上に嬉しいことはありません。

 

──今後、新たに挑戦したいことなどがあれば聞かせてください。

私はまだ作家としての経験が非常に浅く、未熟な部分だらけです。今まで猫と向き合ってきた時間や美術と向き合ってきた時間もよりも、これから向き合っていく時間の方が圧倒的に長いでしょう。だから今は、とにかくたくさんの猫を描きたいと思っています! 描いて、描いて、描いて、触れて、探って、考えて、猫についても美術についても新しい発見をできたらいいなと思っています。

Karin Hosono
神奈川県相模原市生まれ
2021 神奈川県立弥栄高等学校 美術科 卒業
2021 多摩美術大学 絵画学科油画専攻 入学
現在、在学中
・Twitter: https://twitter.com/KarinHosono
・Instagram: https://www.instagram.com/karinhosono/

[information]
猫会議 2023
・会期 前期 5月12日(金)〜5月26日(金)/後期 6月2日(金)〜6月16日(金)
※Karin Hosonoは後期に出展予定
・会場 REIJINSHA GALLERY
・住所 東京都中央区日本橋本町3-4-6 ニューカワイビル 1F
・電話 03-5255-3030
・時間 12:00〜19:00(最終日は17:00まで)
・休廊日 日曜、月曜、祝日
・URL https://www.reijinshagallery.com

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