アーティスト

よこみちしいなインタビュー 
かいじゅうちゃんのセカイ

SNSに1日1枚作品を投稿するという「365日アート」をきっかけに、多くの人に知られるようになった画家・よこみちしいな。その作品は、鮮やかでエネルギッシュな色遣いや、度々登場する「かいじゅうちゃん」などのオリジナルキャラクターが魅力だ。観る者の想像力を掻き立てるこうしたキャラクターたちは、一体何者なのだろうか。
2023年1月13日からREIJINSHA GALLERYで開催される、よこみちの個展「かいじゅうちゃんのセカイ展」では、15〜20点の油彩画のほか、「365日アート」で描かれたドローイングや未公開作も展示される。
今注目の若手作家である彼女に、作品や制作について話を聞いた。

《I sneaked out of the room.》

《I sneaked out of the room.》油彩/キャンバス 41.0×31.8cm

誰の心の中にも住んでいる
愛おしくワガママで一番まっすぐな気持ち

──どのようなきっかけで画家になることを意識されたのでしょうか?

大学の卒展がきっかけだったように思います。それまではずっと漠然と描いていて、そんな自分が何だかすごく嫌でした。そんな渦からどうにか抜け出したいと、当時のゼミの先生に話を聞いていただき、それを踏まえてよくキャラクターを作って描いていきました。その時初めて、今のような作風で大きなキャンバスに不安定なイメージをぶつけたのを覚えています。
講評はあまりよくありませんでした。しかし展示をして、作品の下に感想ノートを置くと、3人ほどが「この作品好きです」と書いてくださったのです。その文字を見た時に、描き方に勝手なルールを作っていた自分に気付き、どんな作品であれこの世の誰か1人には必ず受け入れてもらえるということに衝撃を受けました。
それがこの道に真剣に進んでみたいと思ったきっかけです。

──作品のモチーフや色など、その発想のルーツはどこにあると思いますか?

私がよく惹かれたのは、子どもたちのありのままの作品でした。見たものを思ったままの色でガツンと描き上げた作品は、カタチや枠なんてあってないようなもので、まるで紙の中で生きているように思わせてくれます。本人が真剣に描いている画面の中には、意図せず生まれた面白くて元気が出るキャラクターたちが潜んでいたりして、それを探すのに夢中になりました。
作品の力で人の足を1分以上止めるのは、なかなか難しいことだと思います。でも子どもたちの作品は少なくとも私の足を1分以上止め、元気な気持ちにすることができるのです。彼らの絵に宿る個性や柔軟性にすごく魅力を感じました。
自分の作品でも、その感覚をうまくコントロールできたら面白いんじゃないかと考え、作品の中で自身も遊びながら研究してきたことが、今の私につながっているのではないかと思います。

──「かいじゅうちゃん」は、どのような存在なのでしょうか?

「かいじゅうちゃん」がはっきりと現れたのは、「365日アート」が終盤に差し掛かったころでした。彼らはもともと何年も私の中でひきこもっていて、うまく出てこられるチャンスを狙っていたように思います。「かいじゅうちゃん」とは、私にもみんなの心の中にも住んでいる愛おしくワガママで1番まっすぐな気持ちなんじゃないかなと、描いていく中で感じています。
よくお母さんに連れられた子どもたちが、欲しいものをうまく伝えられず、はたまた思い通りにならない時、腹の底から声をあげて鳴き、大暴れしているのを見かけることがあります。それはデパートだったり、公園だったり、いつも突然いたるところに出現していて、そんな子どもたちを度々見ては「怪獣みたいだなぁ……」と思っていました。
しかし、その存在は大人になったからといって居なくなったのではなく「私の中にも声をひそめながら今もいるじゃないか」と笑えたことがあったのです。そこから私の中で少しずつ「かいじゅうちゃん」というもうひとりの存在として愛称で呼ぶようになりました。あえてひらがなにしている理由は、恐らく大人になってからの抵抗と、そこまで強くない、憎めない存在であることの表れではないかなと思います。

──「りんごの国のコニー」というキャラクターも登場しますね。

《ボクとキミなら最高になれる》油彩/キャンバス 53.0×65.2cm ※制作途中

実は、紫色のキリンのような恐竜のような「コニー」という存在は、このかいじゅうシリーズで1番最初に出てきたキャラクターです。学生時代に初めて今のような作風に挑戦し、メインで描いていた子でした。因みに、当時の「コニー」は、私が身につけていたリュックや靴を履いていました。今になれば、あの時の自分なのかな?と思います。何となく寂しそうな表情が……。
りんごの国のコニーという名前に、私の出身地である青森県がちらっと顔を覗かせています。彼らは同じ「かいじゅうセカイ」にいて、過去の自分と現在の自分が作ったキャラクターが共存している感覚です。

──作品にはどのような思いが込められていますか?

もともと私は作品に自分の感情を強く入れたいタイプでした。でも、それではうまく人に想いを伝えられず、自己満足ばかりで、正直なところ“制作迷子”になっていたと思います。そんな時、先ずは自分自身を元気にできるような作品を制作しようと、考え方を変えることにしました。明るい作品を毎日毎日描いていると、それを観て「元気がもらえます!」と言ってくださる方たちが現れ始め、気づいた時には「自分の作品で誰かが元気になってくれたらいいな」と、自分だけだった世界に「他者」が現れていました。自分を自分の作品で元気にするよりも、自分の作品で誰かが元気になることの方が、その数万倍自分が元気になるとわかった時、常に他者を意識した作品制作をしていこうと強く心に決めました。

私の作品には、基本的にストーリー性があると思います。登場人物がいて、その背景があって、きっと彼らはそのセカイで会話をしている。観てくださる方たちには、ぜひ立ち止まりそんな彼らを思い浮かべて、自分だけの自由なストーリーにワクワクと想像を膨らませて欲しいです。私の物語とあなたの作った物語を比べて楽しんでみてください。

《じきゅうじそく舟》

《じきゅうじそく舟》油彩/キャンバス 27.3×22.0cm

待望の初個展
かいじゅうちゃんのセカイ展

──今回、かいじゅうちゃんのセカイを表現するためにこだわった点を教えてください。

いかに彼らを作品の中で「いつもどおり」に、そして世界観を壊さずに過ごさせてあげられるかという所にこだわっています。私が気を抜いてしまうと、その時々で全くの別世界になってしまうことがあるからです。彼らの世界はありえないセカイのようで、ほんの少しだけ身近なリアルが潜んでいます。「君たちは私にとって大切な存在なんだ」と肝に銘じて描いてます。

──「かいじゅうちゃんのセカイ展」の見どころはどこでしょうか?

無さそうでありそうな「かれらのセカイ」です。完全な空想世界というよりは、かいじゅうちゃんのセカイによこみちしいなの日常的部分が少し入り混じって、多少なりとも親近感があるんじゃないかなと思ってます。私が作品を描く時、頭の中の「連想ゲーム」を形にしていることが多いからです。絵を観てもらうというよりは、キャンバスという媒体を使ったテーマパークを作っているイメージです。あとは主役のかいじゅうちゃんたちの印象が強いと思うので、おそらく皆さんの頭の中でも彼らのオリジナルストーリーが作りやすいのではないでしょうか。

──個展でもその一部が展示される「365日アート」。きっかけは「変わりたい、忍耐力を育てたい」という気持ちだったそうですが、1年間継続したことで、新たに描くことの大きな理由やモチベーションは生まれましたか。

今日を諦めて一生このままでいるのと、この1年をやり遂げて数年先にいち早く繋げるか、というのを常に天秤に掛けていました。なんでもいいから自らキッカケを作って「自分自身を変えたい」という気持ちが強かったです。これから生きていく上で、何を軸にして、どのステージなら一生懸命になれるのかを曖昧なままにすることがどうしても許せなかったからです。
作品を毎日4箇所のSNSに投稿していると、無名だった私の絵にだんだんと興味を持ってくださる方や、楽しみにして欠かさず観てくれる方など、少しずつ新しい繋がりが生まれたのを感じ始めました。連絡が途絶えていた知人などとのつながりも復活しました。
「365日アート」の途中からは自分のためではなく、待っていてくれる人のためにという気持ちが生まれ、さらにモチベーションが上がっていたと思います。

《海底かくれんぼ》

《海底かくれんぼ》油彩/キャンバス 45.5×38.0cm

画家と漫画家、多彩な目標に向かって

──「人生で成し遂げたいことは画家と漫画家」だそうですが、それぞれの目標や将来のビジョンについて教えてください。

画家としての目標は、かいじゅうちゃんたちがキャンバス以外にも色んな媒体で楽しんでもらえるようにすることです。
例えばミュージアムショップなどで気軽に手に取ってもらえる商品だったり、公園など子どもたちが行き交う場所に大きめの立体を制作できたりしたら、作品がぐっと身近になるのではないかと考えています。それが少しでも皆さんの元気の源になるのなら、目標に一歩でも近付けるように今後も頑張っていきたいと思います。

また、WEB漫画が当たり前になった現代ですが、私にとって馴染み深い紙媒体で漫画を世に出せたら良いなと考えています。あとは単純に、その世界に携わっている人達と繋がってみたいなと思うのです。なので自分ひとりで本を作って出すことができればいいというのとは少し違います。そして、小さい頃からの憧れであった業界に足を踏み入れることが、新しい自分を見つけるきっかけになるのではないかと思っています。

誰かに楽しんでもらえる作品を描きたいと思う気持ちは、画家であれ漫画家であれ同じです。色々な方向から作品を通して私の内側を知ってもらえるなら、それほど楽しいことはないんじゃないかと、未来に胸を躍らせています。

 

よこみちしいな Shiina Yokomichi
1992年
青森県生まれ
2015年
東北芸術工科大学芸術学部美術科洋画コース卒業
東北芸術工科大学卒業・修了展(東北芸術工科大学/山形、東京都美術館)
2016年
TUADスプリング・アート・フェア in Tokyo 2016(REIJINSHA GALLERY/東京)
2018年
セレクション展VOl.1(アートスペース羅針盤/東京)
2019年
interactive-YOUTH-(ギャラリー檜B・C/東京)
interactive2019(ギャラリー檜B・C/東京)
2020年
Prism IV 2020(GALLERY ART POINT/東京)
平和藝術展2020(ギャラリーくぼた/東京)
2021年
CROSS OVER Vol.33 In Taiwan(Yao Alternative Space/台湾)
2022年
pickup2022(REIJINSHA GALLERY/東京)※’19年に出展
2023年
個展「よこみちしいな かいじゅうちゃんのセカイ展」(REIJINSHA GALLERY/東京)
現在、宮城県にて制作

Instagram conyconycony666
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note https://note.com/conyconycony666/
REIJINSHA GALLERY 作家ページ https://www.reijinshagallery.com/product-category/shiina-yokomichi/

[information]
よこみちしいな かいじゅうちゃんのセカイ展
・会期 2023年1月13日(金)〜 1月27日(金)
・会場 REIJINSHA GALLERY
・住所 東京都中央区日本橋本町3-4-6 ニューカワイビル 1F
・電話 03-5255-3030
・時間 12:00〜19:00(最終日は17:00まで)
・休廊日 日曜、月曜、祝日
・URL https://www.reijinshagallery.com