展覧会

テート美術館展 光
─ ターナー、印象派から現代へ

会場
国立新美術館
会期
7/12(水)〜10/2(月)

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ジョン・コンスタブル、クロード・モネ、オラファー・エリアソン、ゲルハルト・リヒター……。
美術史を語る上で避けては通れない彼らの作品に、「光」というテーマで注目する展覧会が、国立新美術館で開催される。
英国・テート美術館の7万7千点以上のコレクションから厳選した約120点が展示される本展では、18世紀末から現代までの約200年間に及ぶアーティストたちの、独創的な創作の軌跡に注目する。

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー《湖に沈む夕日》1840年頃 Photo: Tate画像

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー
《湖に沈む夕日》1840年頃 Photo: Tate

Chapter 1
精神的で崇高な光

17世紀から18世紀の欧州は、理性と秩序を重んじる啓蒙の時代を迎えていた。ロマン主義の先駆者、英国の画家ウィリアム・ブレイク(1757–1827年)をはじめとするロマン主義の画家たちは、こうした価値観に疑問を抱き、精神世界への関心を次第に強めていった。光と陰のドラマチックな効果を生かすことで人の内面や精神性に迫り、さらには予測できない出来事への畏敬の念を絵画で表現しようとしたのだ。

Chapter 2
自然の光

一方、移りゆく自然の光のきらめきを瞬間的にとらえ、いかに芸術作品で表現するかという、難解なテーマへの挑戦に魅せられていた画家たちも多かった。
周囲の自然に溶け込む光を描き、「光の画家」と呼ばれるジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775–1851年)は、明確な輪郭線を持たない朧げな作風が特徴だ。これに対し、同時代に活躍したライバルのジョン・コンスタブル(1776–1837年)は、卓越した画力と構成力によって自然の風景を描き出すことを追求した。『ハリッジ灯台』は大空で移りゆく雲や大気の様子などが作品の面積のほとんどを占め、光の加減とともに雲が変化する様子を細密に描写している。
彼らが変化する自然の風景を捉えようとした姿勢は、後の印象派へと連なっていく。フランス印象派のクロード・モネ(1840–1926年)の『エプト川のポプラ並木』では、光のきらめきが周囲と溶け合う様子が見て取れる。

クロード・モネ《エプト川のポプラ並木》画像

クロード・モネ《エプト川のポプラ並木》1891年 Photo: Tate

 

Chapter 3
室内の光

都市の近代化がさらに進んだ19世紀末からは、室内というプライベート空間をどう描くかということにアーティストたちの関心は広がり、窓から入ってくる光の効果などを作品に取り入れることで、人同士の心のつながりや、個人の内面を鮮やかに映し出そうとする試みが相次いだ。
英国のウィリアム・ローゼンスタイン(1872–1945年)が描いた『母と子』は、親子の何げない日常を描いた作品で、2人の親密な関係性を裏付けるために柔らかな光を用いている。
これとは対照的に、デンマークの画家ヴィルヘルム・ハンマースホイ(1864–1916年)の『室内』は暗めの色遣いに統一しており、淡い光を効果的に描くことで室内の静けさ、空気の冷たさなどの感覚を、観る者に与える。

ウィリアム・ローゼンスタイン《母と子》画像

ウィリアム・ローゼンスタイン《母と子》1903年
 Photo: Tate

 

Chapter 4
光の効果

1919年にドイツの都市ワイマールに造形芸術学校「バウハウス」(1925年デッサウに、1932年ベルリンに移転。1933年ナチスによって閉校)が開校すると、世界各地から集まってきたアーティストたちは、人の目を通した現実とは異なる世界を把握する手段として、写真を認識するようになった。アーティストたちが円や四角などの抽象的な物体を被写体に選び、光と影のイメージを純粋に捉える方法を模索したのだ。
この時期、動く光を用いた動的な写真表現も誕生した。

Chapter 5
色と光

美術と工芸、デザインの総合的な教育を目指したバウハウスでは、幾何学的な形態を用いて光と色の関係を考察するアーティストたちが大きな足跡を残した。
バウハウスに招聘されたハンガリー出身のモホイ=ナジ・ラースロー(1895–1946年)、ロシア出身で、後にドイツで活躍するワシリー・カンディンスキー(1866–1944年)も“色同士”の関係性が生み出す視覚的効果を探求したのだ。

モホイ=ナジ・ラースロー《K VII》画像

モホイ=ナジ・ラースロー《K VII》1922年 Photo: Tate

ワシリー・カンディンスキー《スウィング》画像

ワシリー・カンディンスキー《スウィング》1925年 Photo: Tate

 

Chapter 6
光の再構成

19世紀半ばに発明され、20世紀に入ると人々の生活に浸透した「電球」。産業の発展と多様化に伴い、広告にも利用されるようになった。こうした時代背景もあり、第二次世界大戦後のアーティストたちは光との新たな関係性を見出してきた。米国のダン・フレイヴィン(1933–96年)は1963年から、蛍光灯を壁に直接設置して空間全体の視覚イメージを変化させるインスタレーション作品を制作するようになる。
また、英国出身のジュリアン・オピー(1958年–)は『トラック、鳥、風』で、自らが撮影した自然や都会の風景をデジタル加工し、アニメやコンピューターゲームの画面を思わせる視覚世界を展開した。

Chapter 7
広大な光

多様な表現を試みる現代美術でも、光は重要なテーマであり続けている。
科学技術の発展によって、はるか遠い宇宙の景色、さらには絶えず変化する地球の全体像を目にすることが可能になった。大学で知覚心理学を学び、飛行機を自ら操る米国出身のジェームズ・タレル(1943年–)は光をどのように経験するかという問いのもと、光が鑑賞者を包み込むインスタレーション作品を1960年代半ばから制作してきた。
気候変動に強い関心があるデンマーク出身のオラファー・エリアソン(1967年–)にとっては、人々が周りの環境とどのように関わるのかは制作における重要なテーマ。
本展会場には光を用いた大型インスタレーション(空間芸術作品)も登場。いずれも日本初出品となるジェームズ・ タレル『リーマー、ブルー』やオラファー・エリアソン『星くずの素粒子』が作り出す、光の空間を体感することができる。

ジェームズ・タレル《レイマー、ブルー》画像

ジェームズ・タレル《レイマー、ブルー》 1969年 © 2023 James Turrell. Photograph by Florian Holzherr.

およそ100点が日本初出品作

ターナーの死後に寄贈された世界最大級のコレクションから『光と色彩(ゲーテの理論)─大洪水の翌朝─ 創世記を書くモーセ』が初来日する本展。
また、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドで話題となってきた世界巡回展の最終会場である日本では、エドワード・バーン=ジョーンズ、マーク・ロスコ、ゲルハルト・リヒターなど、人気作家による12点が限定で出品される。

ゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ぺインティング(726)》画像

ゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ぺインティング(726)》1990年 Photo: Tate, © Gerhard Richter 2023 (10012023)

光とアートをめぐる200年の軌跡を体感しよう。

数えきれない表情をみせる「光」を作品にどう描くのか──。
いつの時代も、この難解なテーマに向き合い続けてきた、新たな芸術表現を追求するアーティストたち。その200年の軌跡を時代や地域、ジャンルを越えて俯瞰できる本展で、多様な光の表現に包まれる空間を味わってほしい。

テート美術館とは

TATE(テート)は、英国政府が所有する美術コレクションを収蔵・管理する組織で、ロンドンのテート・ブリテン、テート・モダンと、テート・リバプール、テート・セント・アイヴスの4つの国立美術館を運営している。
砂糖の精製で財を成したヘンリー・テート卿(1819–99年)が、自身のコレクションをナショナル・ギャラリーに寄贈しようとしたことが発端となり、1897年にロンドン南部・ミルバンク地区のテムズ河畔にナショナル・ギャラリーの分館として開館、後に独自組織テート・ギャラリーとなった。2000年にテート・モダンが開館したことを機に、テート・ギャラリーおよびその分館は、テートの名を冠する4つの国立美術館の連合体である「テート」へと改組された。7万7千点を超えるコレクションを有している。
テート・ギャラリーの本館であったミルバンク地区のテート・ブリテンは、16世紀から現代までの英国美術を中心に所蔵。ロンドンのサウスバンク地区に位置するテート・モダンは近現代美術を展示している。

[information]
テート美術館展 光 ─ ターナー、印象派から現代へ
・会期 2023年7月12日(水)〜10月2日(月)
・会場 国立新美術館 企画展示室2E
・住所 東京都港区六本木7-22-2
・時間 10:00〜18:00 ※金・土曜日は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで
・休館日 火曜日
・観覧料 一般2,200円、大学生1,400円、高校生1000円、中学生以下無料
※障害者手帳をご持参の方(付添の方1名含む)は無料
・TEL 050-5541-8600(ハローダイヤル)
・URL https://tate2023.exhn.jp/

●この展覧会は東京会場での会期終了後、大阪中之島美術館に巡回します。
会期:2023年10月26日(木)~ 2024年1月14日(日)
URL:https://nakka-art.jp