展覧会

中将姫ちゅうじょうひめ當麻曼荼羅たいままんだら
―祈りがつむぐ物語―

会場
奈良国立博物館
会期
7/16(土)~ 8/28(日)

「中将姫と當麻曼荼羅」メインビジュアル1

西方極楽浄土をイメージした
約4メートル四方の巨大な織物、
綴織つづれおり當麻たいま曼荼羅まんだら

奈良県西部、二上山の東麓に立つ古刹・當麻寺。ヤマト王権の都が置かれた飛鳥地方から見て“西方”に位置する。西方は、阿弥陀如来などの仏が住まう清浄な世界、極楽浄土のイメージとも重なる。
創建は612(推古天皇20)年。聖徳太子の異母弟である麻呂古王まろこのみこが、万法蔵院まんぽうぞういんとして開基した。681(白鳳9)年になると、麻呂古王の孫に当たる當麻国見たいまのくにみが現在の場所に遷造し、685年に七堂伽藍を完成させている。

寺の本尊といえば、多くは木や金属などで造られた仏像だが、當麻寺の本尊は国宝「綴織當麻曼荼羅」、つまり織物である。このおよそ4メートル四方の巨大な工芸品には、西方極楽浄土に関する教えが描かれている。制作されたのは奈良時代、763年頃のようだ。その誕生には、中将姫ちゅうじょうひめと呼ばれるひとりの女性が深く関わっている。

嘗麻寺縁起 巻下(部分)画像

重要文化財 當麻寺縁起 下巻(部分) 室町時代 享禄4年(1531) 奈良・當麻寺

能や浄瑠璃、歌舞伎、小説など
さまざまな芸術作品に取り上げられた
中将姫の波瀾万丈の生涯。

747(天平19)年、高位の貴族・藤原ふじわらの豊成とよなり(従一位・右大臣)の娘として生まれた中将姫は、美しく清らかな心をもつ女性であった。しかし実母の死後、継母に疎まれ山中で殺害されそうになる。純粋な中将姫は助けられ山中で育つが、偶然父と再会し都に戻った。その後、中将姫は763(天平宝字7)年に當麻寺で出家。極楽浄土への思いを募らせていると、阿弥陀如来と観音菩薩の化身が現れ、蓮糸で當麻曼荼羅を織りあげ中将姫に極楽の姿を示す。そして中将姫は29歳のとき阿弥陀の来迎を受け無事極楽へ往生したのだ。

国宝 当麻曼荼羅縁起 画像

国宝 當麻曼荼羅縁起 鎌倉時代(13世紀) 神奈川・光明寺

綴織當麻曼荼羅は、およそ1250年前に現れた奇跡の曼荼羅として尊ばれてきた。そして、極楽浄土の様子を表す曼荼羅の成立に、極楽往生を望んだ奈良時代の貴族の娘である中将姫が関わったという伝承は、鎌倉時代から現在にいたるまで、広く知られている。世阿弥の能『当麻たえま』や近松門左衛門の浄瑠璃『当麻中将姫』、森山治男の歌舞伎『蓮華糸恋曼荼羅』、折口信夫の小説『死者の書』など、これまで多くの芸術家が中将姫を題材にした作品をつくってきたことからも、その人気の高さがうかがえるだろう。

中将姫像

中将姫像 鎌倉時代(14世紀) 奈良・當麻寺中之坊

綴織當麻曼荼羅を忠実に再現し、
中将姫の想いまでをも伝えるような
貞享本じょうきょうぼん當麻曼荼羅の修復が完成。

重要文化財 嘗麻曼荼羅 画像

重要文化財 當麻曼荼羅(貞享本) 江戸時代 貞享3年(1686) 奈良・當麻寺

長きにわたって大切に守り伝えられてきた綴織當麻曼荼羅。しかし、誕生から約1250年が経つ中で、この巨大な織物は次第に劣化してきた。そのため、これまでに何度も絵画による写しが描かれている。
中世以降、縮小版が多数作られた一方、同じ大きさの写しも製作されてきた。中でも、最も詳細に綴織當麻曼荼羅の図様を伝え、鮮やかな色彩で描かれた名品が、江戸時代の1679(延宝7)年に描かれ、1686(貞享3)年に霊元天皇の宸筆しんぴつを得て完成した、貞享本じょうきょうぼん當麻曼荼羅(重要文化財、當麻寺蔵)である。

7月13日から奈良国立博物館で開催される特別展「中将姫と當麻曼荼羅―祈りがつむぐ物語―」。この展覧会では、先頃修理を終えた美しい貞享本を展示し、修理過程で確認された資料を紹介しながら、貞享本製作プロジェクトの全貌を示していく。そして貞享本の製作を當麻曼荼羅信仰史のひとつの転換点と捉え、周辺の當麻曼荼羅信仰や、連動する中将姫信仰の動向についても、くわしく紹介。日本一の霊像として信仰され続けてきた當麻曼荼羅と、女人往生の主人公として長く愛されてきた中将姫が人々に尊ばれ、そして人々を救ってきた歴史に触れることができるはずだ。

国宝 嘗麻曼荼羅厨子扉 画像

国宝 當麻曼荼羅厨子ずし扉 鎌倉時代 仁治3年(1242) 奈良・當麻寺

展示されるのは貞享本當麻曼荼羅、當麻曼荼羅縁起などの国宝、重要文化財をはじめとする約80点。當麻寺本堂に安置される国宝當麻曼荼羅厨子の扉(本体から取り外されて別置保存されている)や貞享本當麻曼荼羅を作らせた僧・性愚しょうぐ(大雲院六世)が同じく製作を指示した厨子入中将姫坐像など、貴重な品々に出会えるまたとない機会になるだろう。

中将姫坐像 画像

厨子入中将姫坐像 江戸時代 廷宝9年(1681) 京都・大雲院

[information]
貞享本當麻曼荼羅修理完成記念 特別展「中将姫と當麻曼荼羅―祈りが紡ぐ物語―」
・会期 2022年7月16日(土)~ 8月28日(日)
・会場 奈良国立博物館 西新館
・住所 奈良市登大路町50
・時間 9:30~18:00(毎週土曜日は19:00まで) ※入館は閉館の30分前まで
・休館日 毎週月曜日(ただし、7月18日・8月15日は開館)、7月19日(火)
・観覧料金 一般1,600円、高大生1,000円、小中生500円
※未就学児、障害者手帳またはミライロID(スマートフォン向け障害者手帳アプリ)をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料。
※本展観覧券で、同時期開催の「わくわくびじゅつギャラリー」(東新館)、「名品展」(なら仏像館・青銅器館)も鑑賞可。ただし、名品展とは休館日・開館時間が異なる。
※奈良国立博物館キャンパスメンバーズ会員(学生)は400円、同(教職員)は1,500円で当日券を購入可能(要学生証または職員証)。
・TEL 050-5542-8600(ハローダイヤル)
・URL https://www.narahaku.go.jp/