展覧会

デ・キリコ展

会場
東京都美術館
会期
4/27(土)~8/29(木)

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 20世紀美術に衝撃を与えた孤高の画家、10年ぶりの大回顧展

イタリア人の両親のもとギリシャで生を受けたジョルジョ・デ・キリコ(1888~1978)。
この展覧会では、90歳で亡くなるまで創作を続けたデ・キリコのおよそ70年にわたる画業を「イタリア広場」「形而上的室内」「マヌカン」などのテーマに分け、初期から晩年までの絵画が余すところなく紹介される。さらに彼が手掛けた彫刻や舞台美術も展示する、日本では10年ぶりの大規模な回顧展である。デ・キリコ芸術の全体像に迫り、その唯一無二の表現力を堪能できる、またとない機会となるだろう。

《ヘクトルとアンドロマケ》画像

《ヘクトルとアンドロマケ》 1970年 ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

デ・キリコの実像に迫る五つのキーワード

自画像・肖像
最初のセクションでは肖像画、とりわけ自画像に注目する。デ・キリコがその画業の初期から取り組んできた自画像は、過去の巨匠たちの作品との対話において最も重要なテーマのひとつ。彼は自画像において、さまざまな衣装をまとい、自己を演出していった。

《17世紀の衣装をまとった公園での自画像》画像

《17世紀の衣装をまとった公園での自画像》 1959年 ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

《弟の肖像》 画像

《弟の肖像》 1910年 ベルリン国立美術館
© Photo Scala, Firenze / bpk, Bildagentur fuer Kunst, Kultur und Geschichte, Berlin
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024


形而上絵画

デ・キリコは1910年代に、簡潔明瞭な構成で広場や室内を描きながらも、歪んだ遠近法や脈絡のないモチーフの配置、幻想的な雰囲気によって、日常の奥に潜む非日常や、神秘、謎を表した絵画を描き始める。ニーチェの哲学に影響を受け、後に自ら「形而上絵画」と名付けたその作品群は、サルバドール・ダリやルネ・マグリットといったシュルレアリスムの画家をはじめ、数多くの芸術家に衝撃を与えた。

《バラ色の塔のあるイタリア広場》画像

《バラ色の塔のあるイタリア広場》 1934年頃 トレント・エ・ロヴェレート近現代美術館 (L.F.コレクションより長期貸与)
© Archivio Fotografico e Mediateca Mart
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

・イタリア広場
1910年にフィレンツェに移ったデ・キリコは、ある日、見慣れたはずの街の広場が、初めて見る景色であるかのような感覚に襲われる。これが、形而上絵画誕生の「啓示」となった。「イタリア広場」のシリーズはその原体験と密接に関連しており、柱廊のある建物、長く伸びた影、不自然な遠近法により、不安や空虚さ、憂愁、謎めいた感覚を生じさせるものだ。

《イタリア広場(詩人の記念碑)》画像

《イタリア広場(詩人の記念碑)》 1969年 ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

・形而上的室内
第一次世界大戦の勃発により軍から召集を受けたデ・キリコは、1915年にフェッラーラの病院に配属された。ここで彼は、この町の家の室内、店先のショーウインドウなどに魅せられ、室内画を制作していく。このシリーズは、線や四角、箱、地図、ビスケットなどのモチーフを組み合わせて構成された。

《福音書的な静物Ⅰ》画像

《福音書的な静物Ⅰ》 1916年 大阪中之島美術館 © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

《「ダヴィデ」の手がある形而上的室内》画像

《「ダヴィデ」の手がある形而上的室内》1968年 ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024


・マヌカン

デ・キリコは「形而上絵画」に、マヌカン(マネキン)をモチーフとして取り入れた。これにより、古典絵画において重要なモチーフであった人物像を、他のモチーフと同じモノとして扱うことが可能となったのだ。マヌカンはしばしば、謎めいたミューズたち、予言者や占い師、哲学者、はたまた自画像など、さまざまな役割を演じている。

《南の歌》画像

《南の歌》 1930年頃 ウフィツィ美術館群ピッティ宮近代美術館
© Gabinetto Fotografico delle Gallerie degli Uffizi
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024


1920年代の展開

1920年代、デ・キリコは従来のマヌカンに加え、「剣闘士」などの新たな主題にも取り組んだ。その新しい主題のひとつが「室内風景と谷間の家具」である。これらの作品では、海や神殿、山々など、本来は外にあるはずのものが天井の低い部屋の中にあり、逆に屋内にあるべき家具が外に置かれ、ちぐはぐで不穏なイメージを作り出している。

《緑の雨戸のある家》画像

《緑の雨戸のある家》 1925-26年 個人蔵 © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024


絵画伝統への回帰:ネオバロック時代

1920年ごろからデ・キリコは、ティツィアーノやラファエロ、デューラーらによるルネサンス期の作品に、次いで1940年代にはルーベンスやヴァトーらによるバロック期の作品に傾倒し、西洋絵画の伝統へと回帰していく。過去の偉大な巨匠たちの傑作から表現や主題、技法を研究し、その成果に基づいた作品を描くようになったのだ。

《風景の中で水浴する女たちと赤い布》 画像

《風景の中で水浴する女たちと赤い布》 1945年 ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024


新形而上絵画

1978年に亡くなるまでの10年余りの時期に、デ・キリコは、あらためて形而上絵画に取り組んだ。それらの作品は「新形而上絵画」と呼ばれ、若い頃に描いた広場やマヌカン、そして挿絵の仕事で描いた太陽と月といった要素を画面上で総合したもの。過去の作品を再解釈し、新しい境地に到達したといえる。

《オデュッセウスの帰還》画像

《オデュッセウスの帰還》 1968年 ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

《燃えつきた太陽のある形而上的室内》画像

《燃えつきた太陽のある形而上的室内》 1971年 ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

この展覧会のみどころ

1. デ・キリコ芸術の全体像が分かる大回顧展
初期から描き続けた自画像や肖像画から、画家の名声を高めた「形而上絵画」、西洋絵画の伝統に回帰した作品、そして晩年の「新形而上絵画」まで、世界各地から集められた100点以上の作品でデ・キリコ芸術の全体像に迫る。

2. 初期の「形而上絵画」の作品も出品
デ・キリコの代名詞ともいえる「形而上絵画」。特に多くの画家に衝撃を与えた1910年代の作品も展示される。この時代の「形而上絵画」は世界中に散らばっており、まとめてみられる機会は貴重だ。

3. 彫刻や舞台芸術、挿絵など幅広い創作活動を紹介
デ・キリコの活動は絵画のみにとどまらず多岐にわたる。この展覧会では彼の手掛けた彫刻や挿絵、さらには舞台衣装のデザインなども展示し、その幅広い創作活動が紹介される。「形而上絵画」だけではない、デ・キリコのさまざまな魅力が発見できるだろう。

《17世紀の衣装をまとった公園での自画像》の前でポーズを取るジョルジョ・デ・キリコの画像

《17世紀の衣装をまとった公園での自画像》の前でポーズを取るジョルジョ・デ・キリコ 1968年 自宅のサロンにて
Photo: Walter Mori
(提供:ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団)

ジョルジョ・デ・キリコ
Giorgio de Chirico

イタリア人の両親のもと、ギリシャのヴォロスで誕生。父の死後、母、弟とともにミュンヘンへ移り、そこでフリードリヒ・ニーチェの哲学や、アルノルト・ベックリン、マックス・クリンガーらの作品に触れ、大きな影響を受けた。
1910年ごろから、後に自ら「形而上絵画」と名付けた作品群を描き始め、詩人で美術評論家のギヨーム・アポリネールの目に留まり、彼を介してシュルレアリストをはじめとした前衛画家たちに知られるようになり、大きな影響を与えていった。
1919年以降は伝統的な絵画に興味を抱くようになり、古典的な主題や技法を用いた作品を手がけた。一方、1920年代半ば以降はシュルレアリストたちと険悪な関係になり、他の前衛的な芸術家や批評家に対しても厳しい態度を取るようになる。
その後、過去に描いた「形而上絵画」の再制作や、「新形而上絵画」と呼ばれる新たな作品も生み出していく。こうした過去作の再制作や引用は、ときに「贋作」として非難されたが、ポップアートの旗手アンディ・ウォーホルは、複製や反復という概念を創作に取り入れたデ・キリコをポップアートの先駆けと見なして高く評価した。
弟や最愛の妻といった自身の芸術の理解者が身近にいたデ・キリコは、世間の評価に左右されることなく、90歳で亡くなるまで己の才能を信じて精力的に創作を続け、絵画や彫刻、挿絵、舞台美術など幅広い、数多くの作品を残している。

[information]
デ・キリコ展
・会期 2024年4月27日(土)~8月29日(木)
・会場 東京都美術館
・住所 東京都台東区上野公園8-36
・時間 9:30~17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
・休室日 月曜日、5月7日(火)、7月9日(火)~16日(火)
※ただし、4月29日(月・祝)、5月6日(月・休)、7月8日(月)、8月12日(月・休)は開室
・観覧料 一般2,200円、大学生・専門学校生1,300円、 65歳以上1,500円、高校生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※高校生、大学生・専門学校生、65歳以上の方、各種手帳をお持ちの方は、いずれも証明できるものの提示が必要
※土日祝および、8月20日(火)以降は日時指定予約制(当日の空きがあれば入場可)
※詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。
・TEL 050-5541-8600(ハローダイヤル)
・展覧会URL https://dechirico.exhibit.jp/
・美術館URL https://www.tobikan.jp/