展覧会

東北へのまなざし 1930-1945

会場:東京ステーションギャラリー 会期:7/23(土)〜9/25(日)

陸奥みちのく」とも呼ばれる東北地方は、読んで字の如く「陸の奥」と位置付けられた地だ。そのため都からは、長らく未開の地のように思われてきたが、昭和初期にこの地をもう一度見つめ直そうとする人々がいた。東京ステーションギャラリーで7月23日から開催される「東北へのまなざし 1930-1945」展は、彼らが再発見した「東北」を紹介する展覧会である。

芹沢銈介 《日本民藝地図(現在之日本民藝)》 画像

芹沢銈介《日本民藝地図(現在之日本民藝)》部分 1941年 日本民藝館

 

それは、日本が戦争への道を歩んでいた1930年から40年代のこと。昭和モダンと呼ばれた都市文化が広がり、日本国内にとどまらず海外からの視線も交えて日本の生活や文化を評価しようとする活動が広がった。そうしたなかで、辺境の地と見られることが多かった東北地方が、実は豊かな文化を育み、生活の中に活かしていたことを見出したのが、ブルーノ・タウト、柳宗悦、シャルロット・ペリアンといった、先進的な「眼」を持った人々である。

ブルーノ・タウト、柳宗悦、シャルロット・ぺリアン、今和次郎……
彼らは一体、何を見ようとしたのか

──ブルーノ・タウトの東北探検

1933年に来日したドイツの建築家、ブルーノ・タウト(1880〜1938)。彼は仙台でデザイン規範を約半年間指導した後、高崎でも工芸品のデザインや指導に携わった。仙台滞在時を除き、東北を3度、旅している。

1936年2月には版画家・勝平得之かつひらとくしの案内で秋田を再訪。雪国の祭りや風物を楽しんだという。本展覧会では、タウトの秋田の旅を年表形式で追うとともに、彼がデザインした工芸品から、日記やアルバム、原稿に至るまで幅広く展覧される。タウトの東北での足跡を辿ろう。

ブルーノ・タウト《椅子(規範原型 タイプC)》画像

ブルーノ・タウト(原型指導)《椅子(規範原型 タイプC)》 1933年原型指導 仙台市博物館

 

──民藝の宝庫、東北

民衆的工藝を略した「民藝」を提唱した、柳宗悦(1889〜1961)。手工芸品の中に「生活に即した」「健康的な」独自の美を見出した彼は、1927年から44年までの間に20回以上も東北を訪れている。

《刺子足袋(宮城県)》 画像

《刺子足袋(宮城県)》 1940年頃 日本民藝館

 

後進的とみなされてきた東北は、柳にとって「驚くべき富有な地」であり、「民藝の宝庫」だったという。厳しい寒さに耐えるために生まれた道具は、究極の「用の美」を備えた逸品だったのだろう。本展では柳と共に活動した染色家・芹沢銈介せりざわけいすけ(1895〜1984)や板画家・棟方志功むなかたしこう(1903〜1975)の作品なども展示される。

芹沢銈介《けら(陸奥)》画像

芹沢銈介『手仕事の日本』挿絵原画より《けら(陸奥)》1945年 日本民藝館

 

──もう一つの手工芸品、こけし

素朴なこけしや郷土玩具を収集する動きは、民藝運動に呼応するように広まった。本来、子どもが楽しむものだったこけし。しかし、童画家の武井武雄が自らのこけしコレクションも収めた『日本郷土玩具集』を1930年に出版すると、大人たちの趣味としても人気を見せるようになった。

ところで、こけしと一口に言っても、土地によって少しずつ違う特徴を持っていることはご存知だろうか。特に温泉地で多く作られているこけしは、その表情やスタイルに差があるのだ。本展では、それらを系統別に展示するという、他では滅多に見かけない工夫も為されている。

《こけし(木地山系)》 画像

《こけし(木地山系)》 1925-41年頃 原郷のこけし群 西田記念館

 

──「雪調せっちょう」ユートピア

積雪地方農村経済調査所、通称「雪調せっちょう」。これは農林省が山形県新庄に設置したもので、雪害の研究と対策をおこなうとともに、副業の推進や農産物加工を進化させるべく、取り組みをおこなった組織である。その中で柳は陶芸家・濱田庄司(1894〜1978)ら、民藝運動に関わる者とともに東北各地で講習会や品評会を催しながら、東北の民藝を盛り立てた。

フランスのデザイナーであるシャルロット・ペリアン(1903〜1999)は山形の素材とモダンデザインを融合させた家具を試作。また、建築学者で民俗学研究者の今和次郎こんわじろう(1888〜1973)は、雪害を受けにくい屋根を設計した。雪国で生き抜くための機知に溢れていながら、それまでのイメージを覆すモダンなデザインを生み出したのだ。

今和次郎《積雪地方農村経済調査所雪国試験農家家屋 透視図》画像

今和次郎《積雪地方農村経済調査所 雪国試験農家家屋 透視図》1937年 工学院大学図書館

 

 

暮らし、機能、たくましさ

青森で生まれ育った今和次郎の視線と、タウトや柳、ペリアンなどの外部からの視線が交わること。それがこの展覧会の見どころだといえる。また同時に興味深い構造となっているのは、鑑賞者の視線によって“時間”という要素が加えられることだ。外部からの視線によって、「機能的で美しいモノ」が再発見された東北だったが、現代に生きる私たちは何を見つけることができるだろう。便利になったもの、損なわれてしまったもの、そして私たちの生活に通ずるもの、それらを比較しながら考えてみてほしい。

ぜひこの展覧会に足を運び、「東北へのまなざし」を向けてみよう。そこにはきっと、長い冬をものともしない、人間の豊かでたくましい生活があるはずだ。

 

[information]
東北へのまなざし 1930-1945
・会期 2022年7月23日(土)~9月25日(日) ※会期中一部展示替えあり
    前期:7月23日(土)~8月21日(日)
    後期:8月23日(火)~9月25日(日)
・会場 東京ステーションギャラリー
・住所 東京都千代田区丸の内1-9-1
・電話 03-3212-2485
・時間 10:00~18:00(金曜日は20:00まで) ※入館は閉館30分前まで
・休館日 月曜日(8/15、9/19 は開館)
・入館料 一般1,400円、高校・大学生1,200円、中学生以下無料
※障がい者手帳等持参の方は100円引き(介添者1名は無料)
◎新型コロナウイルス感染拡大防止のため開催内容が変更になる場合があります
◎最新情報・チケット購入方法は美術館公式サイトでご確認ください
・URL https://www.ejrcf.or.jp/gallery/