展覧会

愛媛県美術館開館25周年記念
大竹伸朗展

会場
愛媛県美術館
会期
5/3(水・祝)~7/2(日)

二大国際展であるドクメンタやヴェネチア・ビエンナーレに参加するなど、世界的に高い評価を得ているアーティスト・大竹伸朗(1955〜)。彼が長年活動拠点としてきた愛媛県を舞台に、大回顧展が開催されている。
分野を限定することなく多彩な活動を展開してきた大竹は、消費され、忘却されてゆくようなあらゆる「もの」に着目し、1982年の彼の初個展から半世紀近くにわたり独創性に溢れる作品を手掛けてきた。

《憶景 14》 画像

《憶景 14》2018年

この展覧会は、2022年に東京国立近代美術館で立ち上げられたものだ。2006年に東京都現代美術館で開催された「全景1955–2006」以来、16年ぶりとなるこの大規模な回顧展では、これまでの創作活動が一挙に紹介される。その数はおよそ500点にのぼり、そこには、ライフワークである70冊を超える『スクラップブック』や記念碑的な立体大型作品、最初期の作品から近年の海外発表作、そしてコロナ禍に制作された新作『残景 0』(2022年)と小型エレキ・ギターの付属したスクラップブックなども含まれる。

《残景 0》 2022年 Photo:岡野圭

会場は、7つのテーマ──「自/他」「記憶」「時間」「移行」「夢/網膜」「層」「音」に基づき、構成されている。あえて時系列から切り離し、テーマをゆるやかにつなげたのは、時代順にこだわることなく大竹の作品世界に没入させる仕掛けだ。

自/他
自画像やこれまで大竹を形成してきた人物や風景などのイメージの群れがずらりとひしめく壁で始まる。9歳の頃の作品から近年の大作『モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像』(2012年)まで、大竹の創作活動の歳月を凝縮したセクション。

《ミスター・ピーナッツ》画像

《ミスター・ピーナッツ》 1978-81年 個人蔵

記憶
このセクションは「時憶」「憶景」「憶片」など、記憶に対する大竹の関心を示すシリーズを中心に構成される。「自/他」の共同作業によってゆらぎ変容する自己を繋ぎとめるのは記憶。たわいもない印刷物やゴミとされるようなものまで、ありとあらゆるものを貼り付け、作品に留めていく大竹の制作は、それ自体が忘却に抗う記憶術だと言えるだろう。その作品が喚起する光景は、大竹個人の記憶にとどまらず、物質に刻まれた記憶の可能性をも問いかける。

時間
そのときどきに形を変えるものとして「記憶」を捉えている大竹にとって、時間は他の物質と並ぶ素材のひとつ。このセクションでは30年もの時間をかけて変化した素材を用いた作品や、30分間の制限を設けて全く無計画に描きあげた作品などを紹介する。
時間は拾い、集め、貼り合わせて厚みを増す材料であり、ときには不確定な偶然を呼び寄せてくれる道具でもあるのだ。

《4つのチャンス》画像

《4つのチャンス》1984年

移行
半世紀近い活動を通じて作品の中に折りたたまれた「時間」は、大竹自身の様々な場所への移行によって彩られている。本セクションには、大竹が世界各地や、日本の津々浦々から集めたローカルな図像が現れる。模写や切り貼りによって、元々あった場から何かを転移させることで作品を成り立たせる大竹にとって、「移行」とは作者の身体的な移動だけでなく制作方法をも意味する。

夢/網膜
「移行」という制作方法を、物質的ではないやり方で試みたのが「網膜」シリーズ。捨てられたポラロイド写真が、漠然と思い描いていた夢のイメージを「あまりに忠実に再現している」ことを発見した大竹は、その上に透明な樹脂を乗せた。
樹脂のどろどろとした質感と写真の色彩は独立したまま重なり、観る者の目の網膜や脳の中で場所を移し、混ざり合うことで、作品が完成する。


「夢/網膜」において重なり合うのは実体のないイメージだが、大竹の制作の基本となるのは、物質の寄せ集めと切り貼り。
このセクションでは、印刷製本技術の粋を凝らした豪華本と、主に既製印刷物のカラーコピーを編集して綴じた手製本を一挙に紹介する。時に尋常でない数の層となる大竹の作品は、覆われて消えながらも残る下層の気配こそ重要だと大竹は言う。


大竹が積み重ねる「層」の素材は、音も含む。1982年の初個展よりも前から、大竹にとって音は最も重要な要素であり続けてきた。
このセクションでは、貴重な初期のサウンド・パフォーマンスや、ステージそのものを作品化した大作『ダブ平&ニューシャネル』(1999年)のほか、音にまつわる作品を紹介する。

《ダブ平&ニューシャネル》画像

《ダブ平&ニューシャネル》 1999年 公益財団法人 福武財団

 

『ニューシャネル』や『宇和島駅』をはじめ、宇和島ゆかりの作品も数多く手掛けてきた大竹。開館25周年を迎える愛媛県美術館を会場に、宇和島市、そして道後温泉本館(松山市)と連携した特別展示も実施される。地元ならではの展示内容だ。
大竹がその半生をかけて見つめてきた情景を、作品を通して追体験してほしい。

特別展示

■大竹伸朗が手掛けた、「パフィオうわじま」ホール緞帳作品と道後温泉本館保存修理後期工事の素屋根テント膜作品の原画を、特別展示。
緞帳『のぞき岩』は「パフィオうわじま」1Fホールに設置。
※会期中特別公開を実施(詳細は随時HP等で告知)。
※大竹伸朗本人の著書・蔵書が閲覧できるスペシャルライブラリー「大竹文庫」を常設。詳しくは公式SNS(@ohtake_bunko)をご覧ください。
■現在、「みんなの道後温泉 活性化プロジェクト」の一環で、大竹伸朗が原画を手掛けた道後温泉本館の保存修理後期工事の素屋根テント膜作品を設置中。
※詳細は「みんなの道後温泉 活性化プロジェクト」HPでご確認ください。

関連プログラム

大竹伸朗《ダブ平&ニューシャネル》デモンストレーション演奏およびサイン会
・日時 7月2日(日) ①11:00~12:30/②14:00~15:30
・会場 大竹伸朗展第2会場(本館2F)および本館1Fエントランスホール
・定員 サイン会は各回先着50名
※どちらかひとつのみの参加も可
※デモンストレーション演奏への参加=申込不要、展覧会観覧券要
サイン会への参加=整理券要、対象商品を事前にご購入ください。
※各30分程度の演奏の後、サイン会を実施。ただし、演奏時間は変更する場合がありますので、ご了承ください。
※サイン会の整理券は、本館1階総合案内で当日配布
・整理券配布開始時間 ①10:00~ ②13:00~

■学芸員によるフロアレクチャー
・日時 6月18日(日) 14:00~ (1時間程度)
・講師 杉山はるか(当館専門学芸員)
・会場 大竹伸朗展展示会場(本館1F&2F)
※申込不要、展覧会観覧券要

■対話型鑑賞プログラム
・日時 6月4日(日)、18日(日)、7月2日(日) 各日11:00~11:30
・ナビゲーター 当館作品ガイドボランティア
・会場 大竹伸朗展展示会場等
※申込不要、会場が展示室内の場合は展覧会観覧券要

■鑑賞サポート
視覚障がい者の方の鑑賞をサポート。
※申込要(日時は相談の上決定)

■《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》蒸気排出バージョン ※日時限定公開
ドクメンタ(13)で初出品され、カッセルの公園内に屋外展示された本作品が蒸気を排出する情景を、日時を限定して公開。
・日時 5月7日~7月2日までの毎週日曜日 14:00~14:30
※時間は多少前後する可能性あり
・会場 大竹伸朗展展示会場(本館1F)
※申込不要、展覧会観覧券要

■NHK制作『21世紀のBUG男 画家 大竹伸朗』スペシャルトークイベント
作品《残景0》(2階第2会場「音」コーナーに展示)が完成するまでの創作過程や画家としての歩みを8Kスーパーハイビジョン映像で記録した、貴重なドキュメンタリー番組の制作担当者をゲストに迎え、画家本人と撮影の裏側や番組制作過程なども振り返るスペシャルトークイベントを開催。
・出演 大竹伸朗
・ゲスト 栗田和久(NHK放送センター チーフディレクター)、上原光紀(NHK放送センター アナウンサー)
・日時 6月10日(土) 15:00~17:00(受付は14:30~)
・会場 愛媛県美術館 西館1F講堂
・定員 100名
申込要。無料。

大竹伸朗 Shinro Otake

大竹伸朗 ポートレート

©︎Shinro Ohtake, photo by Shoko

1955年東京都生まれ。
主な個展に熊本市現代美術館/水戸芸術館現代美術ギャラリー(2019)、パラソルユニット現代美術財団(2014)、高松市美術館(2013)、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(2013)、アートソンジェセンター(2012)、広島市現代美術館/福岡市美術館(2007)、東京都現代美術館(2006)など。また国立国際美術館(2018)、ニュー・ミュージアム・オブ・コンテンポラリー・アート(2016)、バービカン・センター(2016)などの企画展に出展。ハワイ・トリエンナーレ(2022)、アジア・パシフィック・トリエンナーレ(2018)、横浜トリエンナーレ(2014)、ヴェネチア・ビエンナーレ(2013)、ドクメンタ(2012)、光州ビエンナーレ(2010)、瀬戸内国際芸術祭(2010、13、16、19、22)など多数の国際展に参加。また「アゲインスト・ネイチャー」(1989)、「キャビネット・オブ・サインズ」(1991)など歴史的に重要な展覧会にも多く参加している。
・作家サイト https://www.ohtakeshinro.com

[information]
愛媛県美術館開館25周年記念 大竹伸朗展
・会期 2023年5月3日(水・祝)~7月2日(日)
・会場 愛媛県美術館 本館 1階 企画展示室1・2、2階 常設展示室1・2
・住所 愛媛県松山市堀之内
・時間 9:40~18:00 ※ただし入館は17:30まで
・休館日 月曜日 ※ただし、6月5日(月)は開館し、6月6日(火)は休館。
・入館料 一般1,500円、高大生900円
※高齢者(65才以上)は当日一般料金から100円引き
※中学生以下、障がい者手帳等をお持ちの方とその介護者1名は無料
※本展期間中の、パフィオうわじま内「大竹文庫」オリジナルスタンプを押したブックリスト、または道後温泉本館の「熱景/NETSU-KEI」コラボレーション入浴券の半券をお持ちの方は一般1,300円、高大生700円で入場可。
・TEL 089-932-0010
・URL https://www.ehime-art.jp