コラム

心鏡 #19
2024年4月15日

文=小松美羽

小松美羽の個展風景(台北)

未来に待ち受ける困難へと立ち向かう
一筋の光になりますように

「私にとって、アートは魂や心を癒す薬」だと信じて制作している。このことはこの連載で何度も文字にしてきたと思う。お医者さんから出されるお薬も効きやすい人とそうでない人がいるように、私の作品が効く人もいれば効かない人もいる。
絵を見ても何も感じない人でも、音楽を聞くことで心が安まったりする人もいる。私のマネージングディレクターの星原さんはプロのヴァイオリニストであったので、音楽の基礎知識を持ち得た観点で美術鑑賞をしている姿を見ると、いろんな楽しみ方があるのだなーと感じる。

村山槐多《尿する裸僧》

村山槐多《尿する裸僧》

私が初めて行った美術館は残念ながら記憶にはないけれど、今でも村山槐多の作品が子供の心に「悲しみ」とか「命の尊さ」のようなものを伝えてくれたのを覚えている。

伊藤若冲《樹花鳥獣図屏風》画像

伊藤若冲《樹花鳥獣図屏風》(右隻)

神社仏閣巡りも大好きだったので境内に溢れる神獣の木彫を目の前に心が清らかな思いになった。19歳の頃に出会った伊藤若冲の絵は衝撃で、貧乏学生ながらも貯めたバイトのお給料を使って初めて一人で京都へと出かけた時には「ルーベンスの絵の前で亡くなったネロの気持ち」がなんとなく理解できた気がした。その後すぐに東京で行われた展覧会を訪れた際に、空海さんの神聖な存在を歓喜させる書の素晴らしさに出会った。東京にある美術学校に通っていたこともあり、当時は学割を利用してたくさんの美術展に足を運び西洋東洋の美術史含めて学ぶことが楽しくて仕方がなかった。

空海《風信帖》画像

空海《風信帖》(部分)

一丁前に大人になった今では、訪れた国々で美術館や博物館巡りをしながら、時に今の私の感受性が絵と溶け合う瞬間を感じている。また、教会に描かれているフレスコ画やその場所に残る祈りの光の跡、ステンドグラスから漏れる太陽の恵みに、絵画が担う役割の一片を学び取ることもできる。

最近では女性の作家に注目をする展覧会も増えてきていて、ヒルマ・アフ・クリントのような霊性と向き合った作家の再評価が進んでいて、私自身もロンドンのテート・モダン(Tate Modern)で開催されていた彼女の展覧会を拝見しながら、自分がどうして今世において女性として生まれ、筆をとっているのかを今一度親身に問われたような気がした。

Tate Modern(ロンドン)にて

テート・モダンでヒルマ・アフ・クリント作品を鑑賞する

数ヶ月前に初めてオーストリアのウィーンを訪れた時は、クラシックが好きだった母がよくカラヤンのアルバムを何度も車の中で流していたことを思い出した。その時は良き曲だな、とは思いつつも、その先の感情までは湧かなかった。しかし帰国後に改めてカラヤンの曲を聞いてみると、初めて心に染み渡る感じがした。母はこんな気持ちで聞いていたのだろうか。学びと経験をしてきた今だからこそやっと音が心に入ってきたのかもしれない。

穏やかな感情は、自分だけの大切な宝物だと気が付く。例えば誰かに向けた怒りの感情も正義心も、実は自分だけのものであって他人に分け与えていいものではないのかもしれない。だから感動の押し売りは良くないと思うこともあるが、あなたを感動させた素晴らしい感情は誰かにお裾分けすることで誰かを救うかもしれない。芸術との出会いは、自分で選択、または、出会えたように見えて本当はあっちから選ばれた結果なのかもしれない。そうやっていつの間にか芸術が特別じゃなくて当たり前になっていくのかもしれない。

まだまだ私が知り得ない未知の可能性を秘めているアートだからこそ、私は「パブリックアート」というものに少しずつ着目していった。
盛岡にある岩手教育会館では巨大な壁画を描かせていただいた。

小松美羽《神獣讃歌「巖鷲幸呼来豊穣さんさ」》画像

小松美羽《神獣讃歌「巖鷲幸呼来豊穣さんさ」》 ※岩手教育会館壁画

今年は、台北ランタンフェスティバルにおいて「だれしも龍となる」という私の作品が巨大なランタンとなって、北門という遺跡の近くに設置された。旧正月に合わせて開催された大きなランタンのお祭りは、私が目指していたパブリックな場所に作品を置くという役割を果たしてくださった。連日、多くの方々がランタンを楽しまれているというお知らせをいただき喜びをもつ反面、さらに身を引き締めなくてはと思ったのだ。人から見て派手だと思われることは新たな結果を生み出し好意的にとる人との出会いも増えるが、好意的にとらない人もいる。ランタンの光のように、光と闇。表裏一体なのだ。だからこそ少しでも多くの人にアートの可能性を届けたかった。

台北の夜を彩った小松作品のランタン

小松の作品『だれしも龍となる』を元にして作られた巨大なランタンが台北の夜を彩った

ランタンが誰かの未来において待ち受ける困難に立ち向かう一筋の光になってほしい。その想いを理解してくださった台北市政府観光伝播局の皆様、キュレーターさん、現場の皆様、訪れた皆様に感謝。
何よりアートに興味のない方々にも台北ランタンフェスティバルを通して少しでも感情に作用するひとときが育まれたのなら本望だ。

台北ランタンフェスティバルの小松美羽

台北ランタンフェスティバルにて

 

話は変わって、パブリックアート計画を推進している中でFRPの立体作品「此花水龍」が大阪市此花区で3月27日に初めて設置となりお披露目となった。

小松美羽《此花水龍》画像

小松美羽《此花水龍》

最初にこの話のオファーの電話を受けたのが、ニューヨークから出る高速鉄道に乗車していたときで、ニューヨーク近郊にある巨大な立体作品が多く現代アートの宝庫として知られる美術館のディア・ビーコン(Dia:Beacon)へと向かっている最中だった。まさに私たちが進む次のステップが電話の向こうにあったのだ。有名なコレクターの川崎祐一さんからで、俳優で超ひらパー兄さんとしても知られる岡田准一さんが地元大阪の此花区にある正蓮寺川公園でのパブリックアート計画の第一弾をプロデュースすることになり、その作品を小松美羽さんにオファーしたいので繋いで欲しいと言われた!という内容だった。
帰国後、羽田からそのまま直行して岡田さんと川崎さんに再会し、岡田さんの熱いアートと地元への想いを伺った。その後、此花区を訪れ、区長から此花区の歴史や大阪の風土を教えていただいた。

作品発表会の模様

『konohana permanentale 100+』第一弾作品発表会の模様

すぐに水龍のイメージが湧いてきて、大阪からの帰りに東京駅の100円均一にて紙粘土を購入。粘土で立体を作ってイメージをすぐさま共有、たくさんの技術者の皆様のチームワークで立体は出来上がり、埼玉の工場にて立体自体に絵付けを施し、仕上げや台座なども無事に完了した。公園を彩る1体目のパブリックアート作品としてお披露目の日を無事に迎えた。今後は此花区アートプロジェクト『konohana permanentale 100+』(コノハナ ペルマネンターレ ヒャクプラス)プロジェクトにおいて100体のパブリックアートが置かれるという。
台北ランタンフェスティバルのランタンも、此花水龍ちゃんも、詳しく知りたい方は取材していただいた記事がネットでアップされているため、確認していただけると幸いです。

《此花水龍》と岡田准一、小松美羽

《此花水龍》をはさんで左が岡田准一、右が小松美羽

此花水龍が出来上がるまで、多くの人々にご理解、ご協力いただき設置することができました。此花区の皆様、岡田准一さん、ケンシアートの皆様、心よりありがとうございました。
皆様の心に触れるアートな出会いが、今年も多く訪れますように。

ニューヨークにて

ニューヨークの美術館にて(左:MoMA PS1、右:The Noguchi Museum)


●konohana permanentale 100+『此花水龍』については、下記のサイトもご参照ください。
「パブリックアート「此花水龍」が設置されました!」