コラム

わたしの気になる作家たち
No.18

-最近気になる若手日本画家-

今回は若手日本画家4人を取り上げ、制作にあたっての考え方や今後の方向について紹介する。そのうち3人はいずれも1997年生まれで東京藝術大学大学院美術研究科文化財保存学専攻保存修復日本画研究室出身。

まず1人目は平井将貴まさたかさん。彼の作品はアートスペース羅針盤、Gallery 美の舎、東京九段耀画廊などで見ており、とにかく精緻で上品な日本画という印象があるが、デザイン的な作品も面白い。
「最近は植物と櫛の二つを主なモチーフとして制作しています。日本画の伝統的な技法である裏打ちを用いて薄い和紙を何枚も貼り合わせることで、重層的な表現を試みています。また以前より工芸的な分野、特に箔と染料に興味があるので、最近は自分の絵柄と交えていろいろと試行錯誤を重ねているところです。その制作にあたっては『人』に関するものが背景にあることが多いです。人の姿や精神性、特に櫛の絵については女性をテーマとして制作しています。作品は構図や色彩の設定だけでなく、画材の選択やその使い方がその作家独自の言語のようなものを生み出し、その結果、モチーフの見た目以上のものを表現できると考えています。今後は日本画の画材について知識を深めながら、より気品のある絵を制作できるよう鍛錬を重ねていこうと思います」

 

平井将貴《凛々》画像

平井将貴《凛々》

平井将貴《玉兎》画像

平井将貴《玉兎》

平井将貴 Masataka Hirai
1997年神奈川県生まれ。2022年東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業、2024年東京藝術大学大学院美術研究科文化財保存学専攻保存修復日本画研究室修了。
展示歴:2020年 小石川傳通院観音堂にて立て絵馬展示・販売、2021年 まほろば展 (東京九段耀画廊/東京)、2021年・22年 羅針盤Selection Hope (アートスペース羅針盤/東京)、2021年 美の舎企画グループ展-こころのけしき- (Gallery 美の舎/東京)、2022年・23年 久月と十二の彩 (人形の久月 浅草橋総本店/東京)、2023年 新春まんぷく!お年賀展2023(FEI ART MUSEUM YOKOHAMA)

 

2人目は可児かに貴子たかこさん。この中では可児さんに注目したのが一番早く、2021年の銀座中央ギャラリーの私の推薦作家展に参加してもらっている。その後しばらく間があいたが、先ごろ耀画廊のグループ展で久しぶりに作品を見て改めて注目。
「私は日本画材を使い、空想の叙情的な世界観を描くことを目指しています。特に近年展開している“ストーンシリーズ”では、石のマチエールを組み合わせて作品を構成し、絵の具の筆跡や塗りを積層することで、完全な石ではなく風景画でもない表現を追求しています。具象と抽象の狭間にある曖昧な世界の中に、確かな美を見出したいと考えています」

可児貴子《岩窩》画像

可児貴子《岩窩》

可児貴子《海峡》画像

可児貴子《海峡》

可児貴子 Takako Kani
1997年東京都出身。2021年東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業、2023年東京藝術大学大学院美術研究科文化財保存学専攻保存修復日本画研究室修了。
受賞歴:2022年 芳泉文化財団研究助成採択、2023年 卒業・修了制作展 大学美術館買上賞、2024年 上野の森美術館大賞展賞候補入選

 

3人目は平片仁也さん。平片さんの作品は羅針盤、銀座画廊 美の起源、耀画廊などで見ているが、院展、上野の森美術館大賞展、雪梁舎フィレンツェ賞展などにも精力的に応募している。
「私は、日常でふと見かけるような素朴な風景・モチーフを題材に制作を行っています。絵の具を積層させるような厚塗りの表現だけではなく、画材それぞれの素材的な魅力を活かすため、和紙や岩絵具の質感をそのまま用いた表現や、墨の滲みや暈しといった偶然性の高い表現など、様々な表現技法を制作に取り入れています。制作にあたっては、素材や技法、構図・色・形といったものの中に物理的・精神的対比を見出し、それらの対比関係を意識的に画面内に作り出す事で心地の良い緊張感を持った作品を作りたいと思っています。近年では大学院で取り組んでいる古典絵画研究や素材研究で得られた知見を自らの制作に取り入れ、現代的要素と伝統的要素を一つの画面に両立させた新たな表現の方向性を模索しています」

平片仁也《むこうがわ》画像

平片仁也《むこうがわ》

平片仁也《卓上の植物》画像

平片仁也《卓上の植物》

平片仁也 Jinya Hirakata
1997年東京都出身。2021年東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業、2023年東京藝術大学大学院美術研究科文化財保存学専攻保存修復日本画研究室修了、現在博士課程在籍。
展示歴:2021年 東京藝術大学平成藝術賞 受賞作家展「未来の大芸術家たち」(平成記念美術館ギャラリー)、ギャラリーへ行こう2021(数寄和)、ROKUTEN(銀座画廊 美の起源)、再興第107回院展(東京都美術館)、羅針盤Selection Hope2022(アートスペース羅針盤)、平片仁也個展「巡る街角」(東京九段耀画廊)。
受賞歴:2019年 上野の森美術館大賞展入選、2023年 第25回雪梁舎フィレンツェ賞展佳作賞。

 

4人目は向井菜摘さん。向井さんは金沢美術工芸大学出身で荒木研究室にて「国宝平等院鳳凰堂内 西面扉絵 日想観」の学術的復元模写の制作研究に参加。日展に入選する一方、銀座中央ギャラリーの公募展などで積極的に発表していて、ユニークな技法の日本画の作品にも注目し、「The Artcomplex Center of Tokyo」での日本画6人展にも参加してもらった。
「ガラスやアクリル板といった素材と日本画を合わせて制作しています。主に海洋生物や水などをモチーフにしています。学生時代はとにかく描き込んでいく画風でしたが、試行錯誤を繰り返しその時に出会った文化財の中に使われていた様々な技法に新しい絵画の魅力を感じました。その土地の気候から生まれた色、偶然性から生まれる美しさに魅力を感じ、垂らし込みの技法にシフトを変えました。今でも悩むと文化財から学ばせてもらいます。今の和紙だけではなく、アクリル板やガラスに描くのも地元の文化財から着想を得ました」
「自然を相手にスケッチを重ねていく中で、今見ている情景を表現することに、先人たちは様々な試行錯誤を繰り返してきました。和紙や絹だけだはなく、木や石、様々なものに描き、技法を変化させながら、先人たちは自らの情景や思いを画面に表現し、芸術に自らの想いを託してきました。その思いに触れるたびに、新しい表現、素材に挑みたい思いが強くなりました。この自分の中にある情景をどう表現するか。先人たちの知恵や技術を吸収しながら、自らの『日本画』を表現していきたいと思います」

向井菜摘《海牛の住まうところ》画像

向井菜摘《海牛の住まうところ》

向井菜摘《蛇と瓢箪》画像

向井菜摘《蛇と瓢箪》

向井菜摘 Natsumi Mukai
1992年生まれ。2017年金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科絵画専攻日本画コース修士課程修了。
活動実績:2011年~2012年 荒木研究室にて「国宝平等院鳳凰堂内 西面扉絵 日想観」の学術的復元模写の制作研究に参加。KANABIクリエイティブ賞2012プロジェクト部門学長賞受賞。2019年 第6回日展入選(国立新美術館/東京)、2022年 Gates「food部門」審査員特別賞、2023年 第2回FEI PURO ART AWARD入選。2023年個展「幻想水族館」(ギャラリートネリコ/石川)。2024年 ACT企画‐山本冬彦推薦作家による‐日本画グループ展「春はやて2024」参加(The Artcomplex Center of Tokyo/東京)。

 

山本 冬彦
保険会社勤務などのサラリーマン生活を40余年続けた間、趣味として毎週末銀座・京橋界隈のギャラリー巡りをし、その時々の若手作家を購入し続けたサラリーマンコレクター。2012年放送大学学園・理事を最後に退官し現在は銀座に隠居。2010年佐藤美術館で「山本冬彦コレクション展:サラリーマンコレクター30年の軌跡」を開催。著書『週末はギャラリーめぐり』(筑摩新書)。