コラム

わたしの気になる作家たち
No.15

ー垣根を超える作家たちー

日本の美術界はファインアートと商業アートに分かれていて、ファインアートの中でも日本画、洋画、版画、工芸など、商業アートでもイラスト、漫画、アニメなどのジャンルにそれぞれ分断されて発表や活動をしてきた。そんな中で最近はそれぞれのジャンルを超えて活動する作家が増えているが、今回はイラストなどの商業アートの世界からファインアートの世界に進出したり、両方の分野で活動している作家を紹介する。

一人目は田宮彩さん。田宮さんの作品は好きなテイストなので、何度か私の企画するグループ展に参加してもらっている。作品のジャンルは女性をモチーフにした美人画で、技法はPhotoshopとPainterによるデジタルだが、日本画調の風合いを出すために和紙なども併用している。当初はアクリル絵の具を使って動物などをモチーフにした作品を制作していたようだが、1990年代半ばくらいにデジタルに移行し、その後ペーター佐藤さんの主催する「女性」をテーマにしたコンペで賞をもらったのを境にデジタル美人画というスタイルで描き続けている。

田宮彩《紅夜》

「仕事では書籍の装丁画や小説の挿絵などを主に手掛けていますが、近年はファッションブランドとのコラボレーションなど意外な分野からのご依頼もいただきました。今後も美人画というスタイルで幅広い分野で活動していきたいと思います」と言う。

田宮彩《Venus Trap》

田宮 彩 Sai Tamiya
1970年 静岡生まれ
日本大学芸術学部デザイン学科ビジュアルコミュニケーションデザイン卒業
[賞歴]
日本大学国際関係学部 シンボルマーク最優秀賞
第3回 PATER大賞イラストコンペ PATER賞
[主な展覧会]
田宮彩 美人画展(ジェイ・スピリット ギャラリー/京都)
目利きが選ぶ my favorite 展 山本冬彦推薦(FEI ART MUSEUM YOKOHAMA/横浜)
風姿花伝(FEI ART MUSEUM YOKOHAMA/横浜)
不知火のころ(SUNABA Gallery/大阪)

 

二人目はItabamoeさん。あるグループ展で彼女の作品を見てファッション・イラスト画のような作品が気になって注目している作家。ファッションデザインを学んだのち、アパレルデザイナーとして勤務。その後、広告の世界に惹かれ2015年にイラストレーターに転身。
雑誌の挿絵から広告、企業とのコラボレーション商品等幅広く手がける傍ら、2021年から自身の内面と向き合いたい想いからアーティスト活動を開始したようだ。上品で色気が漂う女性を描くことを得意とし、時代と共に変遷する女性の現代のリアルタイムな姿を表現のベースにしているが、これはファッションデザイン画や女性誌等でのイラストレーター活動を通じて常に自身の創作活動には女性が媒体となっていたことに起因する。

Itabamoe《Entropy_001》

「最近は、生きていく上で起こる不可逆的要素(想定外なこと)を流れる絵の具に重ね、溶け出すような手法で表現している。これは現代社会を生きる上で、自身が表現する美しさへの儚さでもあり魅力にも通じていると考えている」とのこと。

Itabamoe《Entropy_006》

Itabamoe
1991年 静岡生まれ
2012年 文化服装学院 アパレルデザイン科卒業
[個展]
2021年 Leaked (galerie Le MONDE/東京)
2022年 Compliance?展 (Popularity GALLERY & STUDIO/東京)、ERROR (MAT/東京)
[グループ展]
2022年 independent Tokyo 2022(東京)、100人10 出展(東京)、ART021上海(contemporary tokyo/上海)、T.ART CON上海(contemporary tokyo/上海)、TIAF JEJU(contemporary tokyo/韓国済州島)
2023年 Study:大阪関西国際芸術祭 2023(contemporary tokyo/大阪)、京都×アートプロジェクト(MASATAKA CONTEMPORARY/東京)、ART CENTRAL(contemporary tokyo/香港)

 

三人目は西瓜みいさん。彼女の作品は「いい芽ふくら芽 in Tokyo 2023」で見て、面白いと思って購入したが、終了後オーディエンス賞を貰ったようだ。学生時代はアクリル、水彩をメインにアナログのみで制作を行なっていた。アナログならではの「実物にしかない特別感、暖かみ、面白さ」と、デジタル作画ならではの、画材も表現も多様に「なんでもできる可能性」を組み合わせたら今までにない表現ができるのではないかという思いから、2019年以降は、デジタル作画+アナログでの加筆という技法で制作を行なっている。

西瓜みい《ほしをのぞく》

「あなたの記憶に残れる女の子」をテーマに、どこかにいそうで実在しない、自身の理想の女の子を描いている。「イラストの面白さは『実在しないもの』を描けることだと感じているので、あくまでも実在はしない、でもどこかに居そうだと思わせるような表情、ファッション、仕草、そんな存在感を秘めた女の子をこれからも描いていきたいです」と話す。イラストの展示制作の他、MVやジャケットアートワーク制作、似顔絵イベントの出展も行なっている。

西瓜みい《青の魂》

西瓜 みい Mii Nishiuri
東京都出身
東洋美術学校卒業
2019年より作家活動を開始し、都内・愛知を中心にグループ展の展示や個展の開催
2019〜2022年 TATSUYA ART COMPETITION 上位入賞
2023年 いい芽ふくら芽 in Tokyo 2023 オーディエンス賞

 

四人目はeuropaさん。元々デジタル画で制作をしていたが、2年前より日本画での制作も開始した。絵画というよりもイラスト寄りの作風だが、日本画を描き始めてからは、イラストとも捉えられるし絵画とも捉えられる、その中間を目指しているとのこと。

europa《triangle》

「人物画ですが、人間の感情やこころを人の姿を通して描いています。物質としての人ではなく、こころなので、描く人物の姿も完全にリアルな人の形に近づけるよりも、多少デフォルメや自分のイメージを加えながら制作しています。SNS以外の場で作品発表する場合はアナログ作品の方が反応が良く、今後もデジタル、アナログともに制作は続けていきます。今はデジタル作品のジークレー印刷も品質が高く、印刷も作品として間違いなく成立していると思うので、今後はデジタル作品にアナログの技法を加えた作品も制作もしていく予定です。一方で日本画は日本画の特性を活かした作品を制作する必要がありますので、色の表現も深掘りしていきたいと思っています」と語る。

europa《夜明けまで》

europa
1987年 神戸市出身
日本画を意識した線画と着彩をデジタルで表現し、人のこころを女性像に託した作品を制作、2021年より日本画材を使用したアナログ作品の制作を開始
[個展]
2022年7月 europa 初個展 夜が明けるまで(ギャラリー日比谷/東京)
2023年7月 europa 個展(ギャラリー日比谷/東京)
[グループ展]
2023年4月 花のいろはⅣ(SUNABA Gallery/大阪)
2023年5月 山本冬彦が選ぶ若手作家小品展Ⅸ(銀座屋上ギャラリー枝香庵/東京)

 

山本 冬彦
保険会社勤務などのサラリーマン生活を40余年続けた間、趣味として毎週末銀座・京橋界隈のギャラリー巡りをし、その時々の若手作家を購入し続けたサラリーマンコレクター。2012年放送大学学園・理事を最後に退官し現在は銀座に隠居。2010年佐藤美術館で「山本冬彦コレクション展:サラリーマンコレクター30年の軌跡」を開催。著書『週末はギャラリーめぐり』(筑摩新書)。