アートイベント

春風に誘われて……
アートイベント特集

穏やかな陽気に誘われて、どこかへ出かけたくなる季節がやってきた。昨年、一昨年と多くのイベントが自粛となっただけに、今年こそは思いっきりアートイベントを楽しみたいものだ。ここでは全国各地で開催される個性豊かなイベントから「瀬戸内国際芸術祭2022」「越後妻有 大地の芸術祭2022」「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2022」を紹介しよう。

瀬戸内国際芸術祭2022

岡山県と香川県で3年に1度、瀬戸内海の12の島と2つの港で開催される現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭」。その5回目の開催となる「瀬戸内国際芸術祭2022」の春会期が、4月14日(木)からはじまる。

木村崇人《カモメの駐車場》画像

木村崇人《カモメの駐車場》 Photo:Osamu Nakamura

瀬戸内国際芸術祭が目指すものは「海の復権」。美しい自然を抱く瀬戸内エリアでは、古くから多くの人々が交流し、文化や経済を育んできた。しかし、乱開発による環境破壊や過疎の問題などによって、それぞれの島が固有性を失い、人口は減少や高齢化の進展によって地域の活力が低下していく。そこで、芸術を通して島々に活力を取り戻し、さらには瀬戸内海が地球上のすべての地域の『希望の海』となることを目指し、芸術祭が開催されるようになったのだ。回を重ねるごとに、島の将来にも明るい展望が見えはじめ、今やそこに住むお年寄りたちには笑顔が戻りつつある。

ピピロッティ・リスト《あなたの最初の色(私の頭の中の解[ソリューション]―私の胃の中の溶液[ソリューション])》画像

ピピロッティ・リスト《あなたの最初の色(私の頭の中の解[ソリューション]―私の胃の中の溶液[ソリューション])》 Photo:Osamu Nakamura

今回の芸術祭でも、これまで同様に個性ある島々の魅力を発見し、「あるものを活かして新しい価値を生み出す」サイトスペシフィックなアートプロジェクトが展開される。また、アートと地域との関りを多角的に広げていくため、芝居や舞踏などのパフォーマンスも引き続き実施される。今回特に重視されているのが、「瀬戸内の里海・里山の隠れた資源の発掘・発信」。主催者と地域に精通した地元市町とが勉強会などを重ねながら、本土側も含めた新たなエリアにおける作品展開やイベントの開催を通じた来場者の周遊の促進などについて検討を進め、その成果などを踏まえて市町の地域計画に沿った新しい取組みが繰り広げられるだろう。

ターニャ・プレミンガー《階層・地層・層》画像

ターニャ・プレミンガー《階層・地層・層》 Photo:Kimito Takahashi

過去4回の芸術祭を通じて、瀬戸内エリアには数々の作品が設置され、その多くが今も訪れる人々を迎えてくれる。さらに今回新たに62の作品が加わり、13のイベントが実施されることになった(2022年1月31日現在)。そのため、はじめて瀬戸内国際芸術祭を見に行こうという人たちだけでなく、すでにこの芸術祭を体験したことがある人たちも、新たなアートに触れることができるのだ。

ヤノベケンジ《スター・アンガー》画像

ヤノベケンジ《スター・アンガー》 Photo:Kimito Takahashi

「瀬戸内国際芸術祭2022」の会期は春、夏、秋と3つに分けられている。春会期は4月14日(木)~5月18日(水)だが、夏会期は8月5日(金)~9月4日(日)、そして秋会期が9月29日(木)~11月6日(日)とまだまだ続く。全部あわせると105日間というロングランになるので、自分の予定と作品展示やイベント開催のスケジュールを考慮して、ベストなタイミングで現地を訪れよう。

妹島和世+西沢立衛/SANAA《直島港ターミナル》画像

妹島和世+西沢立衛/SANAA《直島港ターミナル》 Photo:Daisuke Aochi

「瀬戸内国際芸術祭2022」では、各地をめぐる各種ツアーも用意されている。例えば「ベーシックツアー」。チャーター船でゆっくりと島々を巡り、ガイドとともに作品を鑑賞しながら、その先に見えてくる島ごとの風景や歴史、文化などのより深い芸術祭の魅力を感じることができるものだ。また、アート、建築、食、歴史、文化などのテーマに沿った「スペシャルツアー」や芸術祭の公式イベントへ参加する「スペシャルツアー」もある。より詳細な情報が知りたい方は、公式サイトにアクセスしてほしい。

大巻伸嗣《Liminal Air - core -》画像

大巻伸嗣《Liminal Air - core -》 Photo:Yasushi Ichikawa

芸術祭で多くの作品を鑑賞しようとした場合に便利なのが、「作品鑑賞パスポート」だ。パスポートには、すべての会期で有効な「3シーズンパスポート」と春・夏・秋それぞれの会期のみ有効な「会期限定パスポート」があるので、目的に合わせて入手すれば良い。特に注目したいのが、「瀬戸芸デジパス」。オンラインで簡単に購入でき、現地で利用できる割引や、アプリの便利な機能も付いた優れものだ。App StoreおよびGoogle Playから購入可能。

TEAM 男気《タコツボル》画像

TEAM 男気《タコツボル》 Photo:Keizo Kioku

なお、来場者がよりスムーズに瀬戸内の旅を楽しめるよう、3月31日から「瀬戸内国際芸術祭2022公式アプリ」の配信がはじまった。これは、瀬戸内の島々に点在する作品ひとつひとつの情報を紹介したり、現在地から作品までの経路が検索できたりするなど様々な機能を搭載したもので、App StoreおよびGoogle Playで無料配信されている。アートの旅のお供として、ぜひ活用してみてはいかがだろうか。

鴻池朋子《物語るテーブルランナー in 大島青松園》画像

鴻池朋子《物語るテーブルランナー in 大島青松園》 Photo:Keizo Kioku

[information]
瀬戸内国際芸術祭2022
・会期 春会期:4月14日(木)〜 5月18日(水)、夏会期:8月5日(金)〜 9月4日(日)、秋会期:9月29日(木)〜 11月6日(日)
・会場 直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、沙弥島(春)、本島(秋)、高見島(秋)、粟島(秋)、伊吹島(秋)、高松港周辺、宇野港周辺
・作品鑑賞パスポート ①3シーズンパスポート:5,000円(16〜18歳は3,100円) ※全ての会期で有効 ※全会期中に芸術祭の参加作品(施設)を各1回鑑賞可能 ※ただし地中美術館、豊島美術館、その他一部の作品・イベントは別途料金が必要
②会期限定パスポート(春用・夏用・秋用):各4,200円(16〜18歳は2,600円) ※春用は春会期中、夏用は夏会期中、秋用は秋会期中に芸術祭の参加作品(施設)を各1回鑑賞 ※ただし地中美術館、豊島美術館、その他一部の作品・イベントは別途料金が必要
③デイチケット(01)1,800円 春用は春会期中、夏用は夏会期中、秋用は秋会期中の1日に限って芸術祭の参加作品(施設)を各1回鑑賞可能 ※ただし直島の作品(施設)、豊島美術館、その他一部の作品(施設)・イベントは、別途料金が必要
④デイチケット(02)3,200円 春用は春会期中、夏用は夏会期中、秋用は秋会期中の2日間に限って芸術祭の参加作品(施設)を各1回鑑賞可能 ※ただし直島の作品(施設)、豊島美術館、その他一部の作品(施設)・イベントは、別途料金が必要
作品鑑賞パスポートの詳細に関しては以下のURLを参照
https://setouchi-artfest.jp/visit/passport/
・公式サイト https://setouchi-artfest.jp

越後妻有 大地の芸術祭 2022

「大地の芸術祭2022」メインビジュアル画像

瀬戸内国際芸術祭より10年早く、2000年にはじまった「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」。それは、アートにより地域の魅力を引き出し、交流人口の拡大等を図る新潟県の10カ年計画「越後妻有アートネックレス整備構想」から生まれた。アートディレクター・北川フラムを中心に、地域活性事業の柱として考えられたイベントだ。

星峠の棚田(松代エリア)画像

星峠の棚田(松代エリア)

越後妻有とは、新潟県南部に位置する十日町市と津南町の妻有郷からなる、信濃川中流域の盆地を中心に栄えたエリア。この地域は、北西の季節風、日本海に流れ込む暖流、そして背後にそびえる越後山脈の関係によって、平年でも積雪が2mを超え、人々は半年近く雪の中での生活を余儀なくされている。しかし一方では、その雪が年間を通じて徐々に溶けていくことで、いわば“自然のダム”として働く。それが下流へと進む水の量を一定に保つ役目を果たし、美しい自然の景観と美味な米に代表される豊かな実りをもたらすのだ。

マ・ヤンソン / MADアーキテクツ《Tunnel of Light》画像

マ・ヤンソン / MADアーキテクツ《Tunnel of Light》 photo Nakamura Osamu

ただ、日本の原風景を思わせるこの地域も、現在では都市への人口集中による過疎高齢化や、農業政策の転換などによる産業環境の変化などの課題に直面している。さらに2004年に発生した新潟県中越地震の影響もあって、地域文化の結晶ともいえる民家が空き家に、コミュニティの中心であった学校が廃校になり、その数は今も増え続けているのだ。そのため「大地の芸術祭」では、空き家や廃校などをアート作品として再生することで、地域の景観を維持し、記憶と知恵を未来に継承する試みもおこなわれている。

レアンドロ・エルリッヒ《Palimpsest 空の池》画像

レアンドロ・エルリッヒ《Palimpsest:空の池》(越後妻有里山現代美術館 MonET) photo Kioku Keizo

「トリエンナーレ」という名称からもわかるように、本来は2021年に第8回目が開催される予定だったが、新型コロナウイルス感染症対策のために1年間延期された。過去7回は7月から9月にかけて実施されていた「大地の芸術祭」。今年の「越後妻有 大地の芸術祭 2022」は4月29日(金・祝)から11月13日(日)までの145日間と長期にわたって開催され、「行ってよし、来られてよし」の誰もが楽しめる芸術祭として試みられる。

クリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマン《最後の教室》画像

クリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマン《最後の教室》 photo T. Kuratani

作品の数は計333作品で、うち新作、新展開の作品は123点。鑑賞可能な作品は春と夏のみ公開、夏から公開など時期によって異なるが、夏には可能な限りすべての作品が鑑賞できる予定だという。

イリヤ&エミリア・カバコフ《手をたずさえる塔》画像

イリヤ&エミリア・カバコフ《手をたずさえる塔》 photo Nakamura Osamu

新作のうち特に注目したいのが、イリヤ&エミリア・カバコフの『手をたずさえる塔』。世界中の人々が国や民族、階層、地域、年齢を超えて手をたずさえ、平和な世界であることを望んでつくられた作品だ。実は作者二人は共に現ウクライナのドニプロで生まれ、旧ソ連時代のロシアで過ごした(現在はアメリカ在住)。塔上のモニュメント部分の色は、写真では寂しげな青をしている。それが何かプラスの事象が起きた時には、生命力を暗示する緑や、はじまりを意味するピンク、太陽光の黄色に変化するようだ。制作されたのは昨年。つまり、ロシアのウクライナ侵攻以前だが、今回の事態に心を痛める二人は、悲しみを表す青の中に黄色を灯したいと語る。青がいつ希望の色に変わるのか、変えられるのかを見守っていきたい。また、新潟県出身の折り紙作家・布施知子が「うぶすなの家」に宿る精霊のようなものに対する尊敬を、白い紙を折ることで表現した新作『うぶすなの白』も見逃せない作品だ。

鉢&田島征三《絵本と木の実の美術館》画像

鉢&田島征三《絵本と木の実の美術館》 photo Akimoto Shigeru

約762㎢の広大な土地を美術館に見立てて展開される大規模な芸術祭だけに、全てのエリアを観て回るのは簡単ではない。そのため、里山の自然とアートの両方を効率的に楽しめるお得なバスツアーも各種用意されているので、気になる方はぜひ公式サイトにアクセスしてほしい。

ジャン=リュック・ヴィルムート《カフェ・ルフレ》画像

ジャン=リュック・ヴィルムート《カフェ・ルフレ》(越後まつだい里山食堂) photo Yanagi Ayumi

うぶすなの家の手づくりランチ画像

うぶすなの家の手づくりランチ photo Sakamoto Isamu

この芸術祭の楽しみは、アートや自然だけではない。地域に根付いたさまざまな文化も大きな魅力。その中でも、ここでは特に「食」に注目したい。季節に合わせて、越後妻有の大地が育んだ里山の食材を活かした食事が味わえるのだ。例えば、まつだい「農舞台」内にある作品兼レストランの「越後まつだい里山食堂」では、アート空間を楽しみながら、まつだいの郷土の味や家庭料理にアレンジを加えた惣菜が並ぶ「里山ビュッフェ」を提供している。また、築80年を超え茅葺き屋根の古民家「うぶすなの家」で食べられるのは、地元の女性たちがつくる四季の家庭料理。アートと共に「食」も楽しもう。

内海昭子《たくさんの失われた窓のために》画像

内海昭子《たくさんの失われた窓のために》 photo T. Kuratani

[information]
越後妻有 大地の芸術祭 2022
・会期 2022年4月29日(金・祝)~11月13日(日) ※全145日間
※全期間を通じて火・水曜日は休み(GWは除く)
・会場 越後妻有地域(新潟県十日町市、津南町)
・時間 10:00~17:00(10・11月は10:00~16:00)
※各作品によって公開日・公開時間が異なる場合あり
・チケット 作品鑑賞パスポート:一般4,500円、大学・高校・専門3,500円、中学生以下無料(早期割料金は一般3,500円、大学・高校・専門2,500円、中学生以下無料)
※オンライン販売中(7月29日までは「早期割」料金で販売)
https://www.asoview.com/channel/ticket/9nqy9Vjt7P/ticket0000001409/
※有効期間は4月29日(金・祝)~11月13日(日)
※パスポートの提示で越後妻有地域の店舗で利用できる割引サービス等の特典あり
・公式サイト https://www.echigo-tsumari.jp

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2022

京都国際写真祭2022ポストカード画像

© The Guy Bourdin Estate 2022/Courtesy of Louise Alexander Gallery

写真家のルシール・レイボーズ、照明家の仲西祐介という二人によって2013年に誕生した「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」。世界屈指の文化都市・京都を舞台に開催される、日本でも数少ないこの国際的な写真祭では、国内外の重要作家の貴重な写真作品が、趣きのある歴史的建造物やモダンな近現代建築の空間で展示される。2021年には145,431人が来場するなど、これまでの9回の開催で約115万人が魅力的な作品の数々を楽しんだ。

そのKYOTOGRAPHIEは今年、記念すべき第10回を迎える。そして、その「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2022」のテーマは、10回目なのに何故か「ONE」。テーマに関して、レイボーズと仲西は次のように説明している。
「一即(すなわち)十」という言葉があります。一が単一性を、十は無限の数を現します。一つのもの(個)がそのものとして、他のすべて(全体)を自らに含みながら他と縁起の関係にある。このとき、この一つのものと他のすべてが同体の関係にある。こういう状態をイメージしてください
2022年、KYOTOGRAPHIEは個々の存在をCelebrate(祝祭)すると共に、その多様性について讃えたいと思います。そして皆さんと一緒にRestart(再起動)し、関係性をもう一度Reconnect(再接続)し、コロナ後の新しい世界へ向けてRevival(再生)していきたい、そう考えています。

両足院(建仁寺山内)の画像

会場:両足院(建仁寺山内)

4月9日に開幕した「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2022」。今回メインプログラムである20世紀の巨匠や気鋭の作家など約20人による10の展示は、「京都文化博物館 別館」「京都市美術館 別館」「出町桝形商店街」「DELTA/KYOTOGRAPHIE Permanent Space」「ASPHODEL」「誉田屋源兵衛 黒蔵、奥座敷」「嶋䑓しまだいギャラリー」「琵琶湖疏水記念館、蹴上インクライン」「y gion」「両足院(建仁寺山内)」「HOSOO GALLERY」など様々な会場でおこなわれている。

京都文化博物館 別館の画像

会場:京都文化博物館 別館

京都文化博物館 別館(重要文化財/旧日本銀行京都支店)ではギイ・ブルダン(1928-1991)、京都市美術館 別館ではアーヴィング・ペン(1917-2009)が鑑賞できる。ブルダンとペンという世界的に知られる写真家二人の作品を見ることができる貴重な機会だ。
画家として活動をスタートしたブルダンは、マン・レイなどシュルレアリストの影響を受けて実験的に写真制作をおこなった。また、フランス「VOGUE」などのファッション誌で活躍したほか、シャネルをはじめとするブランドの広告も手がけている。2006年には、東京都写真美術館で彼の国内初となる写真展も開催された。一方、フィラデルフィア工芸美術館学校で学んだペンは、ニューヨークを拠点に各国の「VOGUE」誌面や広告を中心として革新的なファッションイメージの写真を撮り続けた。さらには印象的なポートレート、魅力的な静物写真なども手がけている。1964年以降には、19世紀の版画技法であるプラチナ・パラジウム・プリントに20世紀の素材を用いた複雑な技法を開発したことでも有名だ。

マイムーナ・ゲレーシ《Green Transition- Beyond the border》画像

マイムーナ・ゲレージ《Green Transition- Beyond the border》 2019年 © Maïmouna Guerresi, Courtesy Mariane Ibrahim Gallery

嶋臺ギャラリーは、1883(明治16)年につくられた京都の伝統的町家。ここで開催中の「Rûh|Spirito」では、マイムーナ・ゲレージの作品が展示されている。ゲレージは写真、彫刻、ビデオ、インスタレーションなど多角的に活動しているアーティストだ。人間の精神性と内なる神秘的な次元との関係についての深い視点を表現したその作品に映る人々は、まるで神秘的な身体に立ち返るための神聖な棲家であり、人類が交差する場所のようにも見える。

イサベル・ムニョス《無題》画像

イサベル・ムニョス《無題》、〈Japan〉シリーズより、2017年 © Isabel Muñoz

スペインを代表する女性写真家の一人、イサベル・ムニョスの作品は、老舗帯匠である誉田屋源兵衛 黒蔵、奥座敷で展示されている。2017年春のKYOTOGRAPHIEでムニョスが誉田屋で展示した際、誉田屋源兵衛当主の山口源兵衛が見せた織物や古布に感動。日本の根源的な存在に興味を持ち、「日本の起源を探究したい」と日本を被写体とした作品の制作を決意した。今回の「BORN-ACT-EXIST」では、彼女が奄美大島でダンサーの田中泯と山口源兵衛を撮影した写真と映像作品が紹介される。また、ムニョスがスペインで制作したプラチナプリントを誉田屋の職人が裁断し、糸に紡いで織り上げられた山口源兵衛作の3本の帯も初公開。

鷹巣由佳作品画像

©️ Yuka Takasu

かつてスナックやバーがひしめく雑居ビルだった建物がリノベーションされ、クリエイティブ空間へと生まれ変わったy gion。ここで鑑賞できるのが、KYOTOGRAPHIE2021 ポートフォリオレビューで「Ruinart Japan Award」を受賞したグラフィックデザイナー鷹巣由佳の作品である。主にヨーロッパとアジアの旅と日常の境界線や、言葉にできない何かを、様々な視点で表現を試みてきた鷹巣。紙を中心に布やアクリルなど様々な素材を用い、AI等の身近な先端技術と、偶然や確率考現学的観点から「予期せぬ予期」を探る作品制作をしている。

サミュエル・ボレンドルフ作品画像

© Samuel Bollendorff

サミュエル・ボレンドルフの「人魚の涙」展は、琵琶湖疏水記念館および蹴上インクラインで開催中である。いずれも明治維新以降の京都の歴史、特に産業の歴史を語る上で重要な施設。フォトジャーナリストであるボレンドルフは、病院、学校、警察、刑務所などの社会問題を取り上げる一方で、環境汚染など目に見えない問題にも取り組んでいる。2018年には世界を一周し、化学、鉱業、原子力産業など、21世紀に人間によって汚染された世界各国の地域に焦点を当てたシリーズ〈Contaminations〉を制作。その後も海を汚染するマイクロプラスチックに関する作品〈Contaminations –Tears of Mermaid〉を制作し、今回のKYOTOGRAHIEで日本初公開となる。

地蔵ゆかり《ZAIDO》画像

地蔵ゆかり《ZAIDO》 © Yukari Chikura

レイボーズと仲西、そしてポリーヌ・ベルマール(インディペンデント・キュレーター、写真史家、元マグナム・フォト カルチュラルディレクター、元ニューヨーク国際写真センター キュレーター)が共同でキュレーションし、将来的に活躍が期待される10人の日本人女性写真家の作品を紹介する「10/10 現代日本女性写真家たちの祝祭」がおこなわれているのは、西陣織の老舗「細尾」が運営するHOSOO GALLERY。

Momo Okabe《ILMATAR》画像

Momo Okabe, ILMATAR, 2017 ©︎ Momo Okabe

KYOTOGRAPHIEの10周年を記念しておこなわれるこの展覧会は、作家ひとりひとりの独自の視点や考察を世界に向けて紹介するもの。それぞれの個展は、京都在住の建築家・小西啓睦氏が考案した、汎用性と持続性に優れた自然素材の構造体によって構成される。この構造体と作品は、巡回にも対応できるよう移動または複製できる仕組みになっているらしい。

清水はるみ《mutation / creation》画像

清水はるみ《mutation / creation》 ©︎ Harumi Shimizu

そのほか、奈良原一高の作品が両足院(建仁寺山内)で、プリンス・ジャスィ作品は出町桝形商店街とDELTA/KYOTOGRAPHIE Permanent Space、ASPHODELで展示されている。

また、今年もサテライトイベントとして「KG+」が開催されている。これは、今後の活躍が期待される写真家やキュレーターの発掘と支援を目的として2013年に始まり、 KYOTOGRAPHIE同様に今年で10回目を迎えた公募型アートフェスティバル。KYOTOGRAPHIEとの連携・同時開催を通して、KG+参加アーティストに写真家やアーティスト、国内外のキュレーターやギャラリストとの出会いの場と情報発信の機会を提供する。さらに参加型のプログラムを実施し、来場者や市民が写真芸術文化に親しむ環境をつくるものだ。

春の観光シーズンを迎え、見どころの多い京都。市内各所にあるKYOTOGRAPHIEとKG+の会場を巡り、アートとしての写真に触れてみるのもいいだろう。

[information]
KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2022
・会期 2022年4月9日(土)〜 5月8日(日)
・会場 京都文化博物館 別館、京都市美術館 別館、出町桝形商店街、DELTA/KYOTOGRAPHIE Permanent Space、ASPHODEL、誉田屋源兵衛 黒蔵、奥座敷、嶋䑓ギャラリー、琵琶湖疏水記念館、蹴上インクライン、y gion、両足院(建仁寺山内)、HOSOO GALLERY、堀川御池ギャラリー
・チケット パスポートチケット:一般5,000円、学生3,000円
※会期中、全会場に各1回入場可
※その他、単館チケットあり
※無料会場2ヶ所はコロナ安心登録カードでも入場可能
※パスポートチケットは以下の販売サイトより購入可能
https://store.kyotographie.jp/products/2022-passport
・公式サイト https://www.kyotographie.jp

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