美術館

夢二郷土美術館─お庭番ねこ「黑の助」

画像提供:夢二郷土美術館

竹久夢二《こたつ》夢二郷土美術館蔵

竹久夢二《こたつ》夢二郷土美術館蔵

竹久夢二《一力》夢二郷土美術館蔵

竹久夢二《一力》夢二郷土美術館蔵

大正浪漫を代表する画家 竹久夢二

数々の美人画を描いたことで知られる、大正浪漫を代表する画家・竹久夢二。彼の描く叙情的な女性たちは「夢二式美人」といわれ、独特の情感をたたえた美人画のスタイルを確立。書籍の装幀、詩文の挿絵、広告宣伝物、日用雑貨や浴衣など多くのデザインを手掛けた。また、画家やデザイナー、イラストレーターとしてだけでなく、詩、歌謡、童話などを創作する文学者としても活躍する多才な人物だった。

日本最大にして随一の夢二コレクションを所蔵する
夢二郷土美術館 本館(岡山市)

岡山県出身の竹久夢二は、上京した後も「すがりつきたいほど懐かしい」と、郷愁の念を募らせたという。夢二郷土美術館はそんな“夢二の里がえり”を願って、1966(昭和41)年、岡山市西大寺に創設された。その後1984(昭和59)年に夢二生誕100年を記念して日本三名園の一つである岡山後楽園の外苑に移設した夢二郷土美術館本館と、夢二が生まれ育った瀬戸内市邑久町おくちょうにある藁葺き屋根の生家とアトリエ兼住居を復元した少年山荘を合わせた「夢二郷土美術館 夢二生家記念館・少年山荘」という2つの施設で構成されている。

竹久夢二《西海岸の裸婦》夢二郷土美術館蔵

竹久夢二《西海岸の裸婦》夢二郷土美術館蔵

夢二作品を専門に収蔵した最初の美術館としても知られている同館。特に、屏風『こたつ』『一力』をはじめとする肉筆画の収蔵は随一で、最近新たに加わったという『西海岸の裸婦』も見どころの一つ。それらのコレクションの蒐集は、初代館長である松田もとい(当時両備バス社長)が大阪駅構内の古本屋で夢二の作品『加茂川』と『女』に出会い購入したことから始まった。現在、コレクションの総数は約3,000点以上。企画展を年4回開催し、各回のテーマに合わせた100点以上もの作品を展示している。

夢二郷土美術館 本館外観

夢二郷土美術館 本館外観

夢二が活躍した大正時代の風情がただよう赤煉瓦の本館は、倉敷アイビースクエアも手掛けた建築家・浦辺鎮太郎しずたろうによって設計された。
創設50周年を記念した2017年のリニューアルでは、岡山県出身のデザイナー・水戸岡みとおか鋭治の監修のもと、夢二の世界をより深く体感できる、充実した内装となった。特に、第6展示室でもある〈art café 夢二〉はカフェとミュージアムショップを兼ねた施設。夢二の信条である「暮らしの中にある芸術」がコンセプトとなっており、水戸岡が家具などをデザインした室内の随所に、夢二の木版画などを配した。メニューには夢二が好んだレーズン入りの焼き菓子・ガルバルジィを再現したスイーツセットや千屋牛のハッシュドビーフなど、こだわりの品々が揃っている。時代を越えて、竹久夢二と水戸岡鋭治のデザインとのコラボレーションが楽しめるのだ。

夢二生家記念館・少年山荘(瀬戸内市)

夢二生家記念館外観

夢二生家記念館外観

夢二生家記念館では、夢二が生まれ、数え年16歳まで暮らした築約250年の藁葺き屋根の家屋が作品とともに公開されている。嫁いでいく姉を思って夢二が窓枠に姉の名前を書いた鏡文字が残るこども部屋をはじめ、奥の間や土蔵なども展示室として利用。ふるさとをテーマに、季節に合わせて所蔵作品を展示している。
母屋に隣接する納屋を改装した「椿茶房」は、展示室とカフェ、ミュージアムショップを兼ねた場所。ここでは木版画や、作品をイメージしてつくられた和菓子から季節を感じることができるだろう。

少年山荘外観

少年山荘外観

同じ敷地内に建つ「少年山荘」。この名前は夢二が名付けて晩年に自ら設計し東京に建てたアトリエ兼住居で、夢二唯一の建築作品といえる。彼が多くの作品を生み出した和洋折衷の建物を、1979年に次男・不二彦氏監修のもと、当時の姿を忠実に復元。夢二の人生・音楽・デザインをテーマにした展示をおこなっており、夢二が装丁を手掛けた「セノオ楽譜」が並ぶ空間では、作品にあわせて流れる音楽が大正浪漫を感じさせてくれる。

夢二をより多くの人に伝えるきっかけとなった
お庭番がしらねこ「くろの助」

「夢二のねこと黑の助」

「夢二のねこと黑の助」

夢二郷土美術館本館には、一風変わった案内役──“お庭番頭ねこ”がいる。そのオスの黒猫が美術館にやってきたのは2016年8月末。雨のなか出勤途中だった職員の一人が、美術館からほど近い交差点で、車に轢かれそうになっているところを保護したのがきっかけだった。まるで、同館が所蔵する竹久夢二の豆本『猫』から抜け出してきたかのような黒猫に、夢二の命日(9月1日)の数日前にやってきたことからも縁を感じた館長は、夢二の息子「虹之助こうのすけ」にちなんで「黑の助」と命名。美術館の庭に棲みついた子猫は同年12月24日正式に「夢二郷土美術館お庭番ねこ」に任命された。

夢二のねこ(豆本『猫』より)

夢二のねこ(豆本『猫』より)
夢二の没後に発行された子ども向けの木版画集で、夢二郷土美術館はその版木も所蔵している。

お庭番としての役割とは、「夢二のことを伝える伝道師」のようなもの。おとなしい性格で人懐こく、館長代理の小嶋ひろみ氏は「お迎えする役割をわかっているよう」だと語った。
2017年には、同館のリニューアルを手掛けたデザイナー・水戸岡鋭治によって、夢二が豆本『猫』に描いた黒猫と黑の助の双方をイメージしたマスコットキャラクターが誕生。また、本館内に夢二のいちごのデザインをあしらった執務室を設置した「お庭番ねこ〈黑の助〉ルーム」(第5展示室)と、別館の少年山荘2階に展示室「黑の助の部屋」が新設された。その後、「お庭番」として美術館で癒やしを届けてきた活躍が認められ、就任から5周年の2021年12月、「お庭番頭ねこ」に昇格。ミュージアムショップでは写真集などのグッズも発売された。
小嶋光信館長は美術館公式サイト「館長メッセージ」で、「今では美術館の中庭には白黒、茶トラ、黒の各1匹とグレーの2匹の地域猫が時々顔を出してお庭番の黑の助の手下も務めてくれるようになった」と綴っている。

お庭番頭ねこ「黑の助」

お庭番頭ねこ「黑の助」

現在は美術館本館に“気まぐれ出勤”しており、出勤状況は美術館のTwitterや、黑の助のInstagram等のSNSで紹介されている。出勤していない日には、黑の助そっくりの「影武者くん」が迎えてくれるようだ。
黑の助が美術館に来たことで、こどもや女性などの来館者も増えたようだ。黑の助をきっかけに来館して、はじめて竹久夢二のことを知ったという声もあった。その魅力で今後も様々な人を夢二の世界にいざなってくれるに違いない。夢二の描く美人画と凛々しい“お庭番頭ねこ”に会いに、ぜひ夢二郷土美術館へ足を運んでみてはいかがだろうか。

水戸岡鋭治デザイン「夢二黑の助バス」(岡山電気軌道)

水戸岡鋭治デザイン「夢二黑の助バス」(岡山電気軌道)
※感染症対策のため当面の間運休。詳細は美術館公式サイトをご確認ください。

企画展「竹久夢二×マツオヒロミ♥トキメキの大正浪漫♥/―時間旅行―」

チラシ画像

チラシ画像

大正浪漫を代表する詩人画家・竹久夢二の作品は時代を越えて今もアーティストやデザイナーに大きな影響を与えている。こどもの頃に夢二作品に出会ったことがきっかけでイラストレーターになったという岡山在住のマツオヒロミもその一人だ。夢二に影響を受けた女性画で人気を博した彼女は、本の執筆や書籍の装画などへと活動の幅を広げている。

竹久夢二装丁「セノオ楽譜〈蘭燈〉」

竹久夢二装丁「セノオ楽譜〈蘭燈〉」

現在、夢二郷土美術館本館と夢二生家記念館・少年山荘では、夢二とマツオヒロミが時空を越えてコラボレーションする展覧会が開催中。本館ではマツオが選んだ夢二作品を展示し、「もしマツオヒロミが夢二の開店した港屋絵草紙店店主だったら」というコンセプトのコーナーなどでは、彼女の視点から紹介する夢二の魅力に触れることができる。また、夢二の「セノオ楽譜〈蘭燈〉」からインスピレーションを受けて描き下ろした新作『FANTASIA』を含めた、マツオヒロミの初公開作品も見どころだ。

マツオヒロミ《FANTASIA》

マツオヒロミ《FANTASIA》

夢二生家記念館・少年山荘の企画展は、「時間旅行」がテーマ。夢二郷土美術館所蔵の夢二作品に加え、マツオが本展のために描き下ろした新作《青の思い出》が初公開される。夢二の故郷ならではの空間の中で、二人の作品を通して時を越えて旅するような体験を楽しもう。
また、この展覧会期間中には様々な関連イベントが開催される。一世を風靡した夢二芸術と、現代に色濃く残る大正浪漫の薫りを堪能してほしい。

マツオヒロミ《青の思い出》

マツオヒロミ《青の思い出》

 

[information]
企画展「竹久夢二×マツオヒロミ♥トキメキの大正浪漫♥」

・会期:2022年7月6日(水)〜9月25日(日)
・会場:夢二郷土美術館 本館

企画展「竹久夢二×マツオヒロミ ―時間旅行―」
・会期:2022年7月6日(水)〜10月2日(日)
・会場:夢二郷土美術館 夢二生家記念館・少年山荘

関連イベント

第12回 夢二郷土美術館「こども夢二新聞」募集
・募集期間:2022年7月16日(土)〜9月16日(金)
・結果発表、表彰式:10月16日(日)
・作品展示:10月16日(日)〜30日(日)
・対象:小学生〜高校生
・応募方法:A3タテ用紙に「竹久夢二」や「夢二郷土美術館」をテーマとした新聞を作成。裏面に、名前・住所・電話番号・学校名・学年を記入し、夢二郷土美術館本館までご郵送ください。
※応募作品は返却されません。
※入選者の名前・学校名は美術館のブログや新聞等に掲載されます。
※過去の入選作品 https://yumeji-art-museum.com/newspaper/

※その他のイベントは夢二郷土美術館公式サイトをご覧ください。

[information]
夢二郷土美術館 本館
・住所 岡山県岡山市中区浜2丁目1-32
・電話 086-271-1000
・時間 9:00〜17:00(カフェ営業 9:00〜16:00、入館は16:30まで)
・入館料 大人800円・中高大学生400円・小学生300円
(「竹久夢二×マツオヒロミ」展 限定ノベルティ付きチケット 大人1,300円、中高大学生900円、小学生800円)
[本館・夢二生家記念館・少年山荘 入館共通券]大人1100円・中高大学生550円・小学生400円
※岡山県内の65歳以上の方は1割引(要証明)
※障がい者手帳の提示で2割引・介助者一名は無料
※近隣施設との共通券あり(大人券のみ・当日限り有効)
・休館日 月曜日(月曜日が祝日・振替休日の場合は翌日休館)、年末年始
・URL  https://yumeji-art-museum.com/
■夢二郷土美術館 お庭番ねこ黑の助 Instagram https://www.instagram.com/kuronosuke.yumeji_art_museum/
■夢二郷土美術館 Twitter @YumejiArtMuseum https://twitter.com/YumejiArtMuseum

夢二郷土美術館 夢二生家記念館・少年山荘
・住所 岡山県瀬戸内市邑久町本庄2000-1
・電話 0869-22-0622
・時間 9:00〜17:00(カフェ営業 9:00〜16:00、入館は16:30まで)
・入館料 大人600円・中高大学生250円・小学生200円
(「竹久夢二×マツオヒロミ」展 限定ノベルティ付きチケット 大人1,100円、中高大学生750円、小学生700円)
※岡山県内の65歳以上の方は1割引(要証明)
※障がい者手帳の提示で2割引・介助者一名は無料
・休館日 月曜日(月曜日が祝日・振替休日の場合は翌日休館)、年末年始

・交通に関する詳細は、美術館公式サイト「アクセス・特別プラン」をご覧ください。
アクセス・特別プラン https://yumeji-art-museum.com/access/

 

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