2022年1月28日(金)、大阪中之島美術館のプレス内覧会が開催された。
1階ホールで行なわれた会見では、菅谷富夫館長の挨拶に続き、開館記念展の担当学芸員である高柳有紀子氏と平井直子氏が開館記念「Hello! Super Collection 超コレクション展 ―99のものがたり―」の内容を解説。
次に質疑応答に入り、菅谷館長が取材陣からの質問に対し、「この時代に大阪という街が創り得たコレクションだと言える」と同館の収蔵品について一言で表した。
寄贈や購入により、30年にわたって少しずつ集められた作品ひとつひとつに、収集に至る背景や物語があるという。それらは、展覧会の副題にもある「99のものがたり」として、作品のそばに物語の一部を綴ったパネルが掲示されているほか、展覧会特設サイトから全て読むこともできる。副題のこの「99」は未完成であることを意味しており、100個目の“ものがたり”を来館者が紡ぐことで展覧会を完成させたいという想いが込められている。
山本發次郎コレクションから8点が展示されている佐伯祐三作品。中でもとりわけ高い人気を得ているのが《郵便配達夫》だ。
6000点あまりのコレクションの中から、満を持してそのエッセンスが披露される開館記念展。とはいえ、約400点におよぶ出展作を選び出すことは難しかったようで、実際に目にした濃密な展示からも「少しでも多くの作品を展示したい」という学芸員の熱意やこだわりが感じられた。
東西の名品が揃った圧巻のコレクション
第1章「Hello! Super Collectors」は、1983年に始まる大阪中之島美術館のコレクション形成史になぞらえた構成。美術館構想の契機となった「山本發次郎コレクション」をはじめ、初期に寄贈を受けた「田中徳松コレクション」「高畠アートコレクション」が紹介される。
また、1990年の美術館準備室の設置以降に積極的に収集された「大阪と関わりのある近代・現代美術」からは、小出楢重、北野恒富、前田藤四郎、吉原治良の代表作などが堪能できる。
同館が誇る近代・現代美術の代表的な作品を紹介する第2章「Hello! Super Stars」では、アメデオ・モディリアーニ《髪をほどいた横たわる裸婦》のほか、マックス・エルンスト、サルバドール・ダリ、ルネ・マグリットら、シュルレアリスム(超現実主義)の作品が一堂に会する。ニューヨーク・アートシーンからもマーク・ロスコ、フランク・ステラ、ジャン=ミシェル・バスキアらの名作が並ぶ、充実した展示となった。
第3章「Hello! Super Visions」は、グラフィック作品と家具作品などを中心に構成された、約200点という充実の展示。1859年製造のミヒャエル・トーネットの椅子からアール・ヌーヴォー、ポストモダンのデザインまで、19世紀後半から1980年代までのデザイン史をたどる。家具やポスター、プロダクトに加え、絵画や写真もあわせて展覧することで、前衛的なデザイン運動の流れを紹介する試みだ。
鑑賞時間の目安は約3〜4時間。展示室内はもちろん、各階のパッサージュ、4・5階の展望ロビーにベンチが設けられているので、途中で休憩しつつ、じっくりと作品世界に浸ることができるだろう。
より深い鑑賞を。──広がる楽しみ
この展覧会の音声ガイドのナビゲーターを務めるのは、女優であり“創作あーちすと”としても幅広く活躍するのん。大阪中之島美術館が所蔵する選りすぐりの作品の見どころをわかりやすく紹介するとともに、作品に秘められた「ものがたり」を紐解いてくれる。
筆者が鑑賞した中で最も音声ガイドの効果を感じられた作品は、大阪の盆の夕暮れ時を描いた木谷(吉岡)千種の《をんごく》だ。作家が画中の人物に重ねた想いが、文字と音声による解説の相乗効果でより鑑賞者に迫るようだった。
作品との出会いの中から生まれた来場者の「100個目のものがたり」は、展覧会特設サイトで紹介される予定だ。この“ものがたり”は美術館の公式twitter(@nakkaart2022)で展開中の「100個目のものがたり」のつぶやきの中からから館のスタッフがピックアップするほか、メール(99@nakka-art.jp)でも受け付けている。
美術館の楽しみ方は、作品鑑賞だけではない。ショッピングやグルメも館を訪れる目的のひとつになるだろう。
作品の図録や複製画をはじめ、ここでしか出会えないユニークなコラボグッズを販売するミュージアムショップ「dot to dot today」(2階)。デンマーク発のインテリアプロダクトブランドのショップ「HAY OSAKA」(1階、3月18日開業)には、ライフスタイル全体をコーディネートできるアイテムが揃う。
2022年度中には、大阪の名店「リュミエール」をはじめ数々のレストランを展開するリュミエールグループの新業態として、『美と健康のフランス料理』“lerestau K’art”と、『美と健康の“美味しいカフェ”』“Musée KARATO”が開業する予定だ。
そのほかにも、1階のホール、ワークショップルーム、2階の多目的スペース、親子休憩室、アーカイブズ情報室、芝生広場(屋外)など多彩な施設が人々の交流を後押ししてくれる。さらに、隣接する国立国際美術館(今後開通予定)や関西電力株式会社本店ビルとこの館の2階を歩行者用のブリッジで結ぶことで、人々の回遊性を高めているのだ。
会見で菅谷館長は、「“この美術館だからできた”という体験を通じて、大阪の未来に貢献したい」と語った。大阪中之島美術館は単なる美術鑑賞の場としてだけではなく、これから多くの物語を育む、特別な場所として愛され続けていくことだろう。
■大阪中之島美術館 開館記念 Hello! Super Collection 超コレクション展 ―99のものがたり―
・会期 2022年2月2日(水)~3月21日(月・祝)
・会場 大阪中之島美術館 4、5階展示室
・観覧料 一般1,500円、高大生1,100円〔日時指定事前予約《優先》制〕
・展覧会URL https://nakka-art.jp/exhibition-post/hello-super-collection/
・特設サイトURL https://nakka-art.jp/untold-99-stories/
■音声ガイド概要
・ナビゲーター のん(女優・創作あーちすと)
・解説ナレーター 土田大(声優)
・収録時間 約40分
・貸出料金 会場レンタル版:一人1台600円(税込)
アプリ配信版:配信料金610円(税込) ※期間限定配信、「聴く美術」アプリ(無料)ダウンロードが必要
[information]
大阪中之島美術館
・住所 大阪市北区中之島4-3-1
・電話 06-6479-0550(代表)
・時間 10:00〜17:00(入場は16:30まで)
・休館日 月曜日(祝日の場合は翌平日)
・URL https://nakka-art.jp
※詳細は大阪中之島美術館公式ホームページをご覧ください