京都市立芸術大学では2024年2月7日(水)から2月11日(日)まで、「2023年度京都市立芸術大学作品展」が開催された。2023年10月に、43年間キャンパスを構えた沓掛から、京都駅すぐ東の崇仁地域へキャンパスを移転した同学。この作品展は、新キャンパスで開かれる初めての展覧会となった。
見どころ
同学作品展では、学部や修士の学び・研究の成果として、美術学部と大学院美術研究科修士課程に在籍する全学生の作品展示や研究発表がおこなわれる。今年は約700名の学生が自身の学びの成果を披露した。
さらに関連イベントとして、「総合芸術学・芸術学専攻研究論文公開発表」、特別アートワークショップ「うちゅう人を作ろう」、高校生等のための「作品展ギャラリートーク」が開催された。京都市立芸術大学を志望する高校生たちや、様々な層の来場者にとっても興味深い展覧会となったであろう。
学部生から修士課程の学生までの、日々の授業を通して制作した作品が展示されているのが本展の特徴だ。課題のテーマに対して、学生たちが考え、試行錯誤しながら作り上げてきた作品の中には鑑賞するだけでなく、手で触れたり参加したりと体感することができるものもあった。
ここからは、出展作をピックアップして紹介する。
日本画
大学院市長賞受賞作品。奥へと向かっていく道の構図が秀逸であり、木の生命力が力強く表現されている。
油画
壁にチョークで描かれた作品。「誰に見せるつもりもなくかつて日記に描きとめた絵を壁にプロジェクションし、何度もなぞり描いている。たったひとり部屋のなかで描いた小さな絵がこのような公的な場で何度も大きく描かれ、見られるなかで、絵は図像をそのままに存在を変えていく」。(作品キャプションより抜粋)
彫刻
市長賞受賞。パフォーマンス作品。回転する台車の上で、もう一つの台車を動かす。作者にインタビューしたところ、この作品は、座標としての台車を運ぶことで鑑賞者に別の空間を認識させることをねらったそうだ。その座標の点の運動は、「宇宙の中での地球の回転を連想させる」と語っていた。
版画
『Movebla Ateliero』は、階段脇のスペースををアトリエとして作者が占領し、そこに鑑賞者が侵入する作品。上の写真でカーペットなどが敷かれたスペースだ。公共の中に居場所を獲得しようとする作者と、外側から訪れた鑑賞者によって成立する。『質量を仮想する』は映像作品で、断続的な映像が次々と投影される(写真奥の画像)。
構想設計
同窓会賞受賞。インスタレーション作品。合わせ鏡に作品を投影することで、永久に反射し合い、連続する。「周期の異なる映像を同時に再生し、だんだんズレたのちにまた揃っていく。二つの鏡に投影された概念が周期の中である視点によって逆転する現象を起こす。人生、時間、星にはそれぞれ周期があり、1周して元に戻ることに注目した」。(作品キャプションより抜粋)
ビジュアル・デザイン
ユニークで可愛らしいキャラクター、「おなかの子」の物語を描いたイラストや絵本と、立体作品「おなかの子」の展示。
環境デザイン
市長賞受賞。中庭に吊り下げられたチュールと綿糸による、「余白」がテーマの作品。透過し、風に揺れるチュールという素材によって、空間は曖昧にぼやけ、そこに空白が生み出される。
プロダクト・デザイン
大学院市長賞受賞。「ひとめひとめ」は2018年に誕生した西院デイサービスセンターのオリジナルブランドで、刺し子を用いた作品の制作・販売をしている。水野は2020年からこのプロジェクトにデザインの分野で携わっており、展示を通してケアの現場におけるデザインの可能性を示した。
陶磁器
市長賞受賞。一見すると全て陶磁器の壺だが、図案を印刷して組み立てられたものなどが紛れ込んでいるというもの。二次元と三次元、古代の壺と現代の壺を組み合わせることで、異なる時空にある壺を解体し、再構築することを試みた作品となっている。
漆工
漆工学生の優れた作品に与えられる、平館賞受賞。漆の素材を生かした人体の造形や遠くを見つめる表情が繊細に表現されている。服や靴などの部分に異なる素材を組み合わせることによって、人物の存在感が強調されている。
染織
市長賞受賞。編みと映像による作品。吊り下げられた人型がくるくると回転し、影となって映像に投影される。手を組み合わせたような編みのモチーフが印象的だ。
「学び」の展覧会
本展では、会期中に授業の一貫としての講評が至るところでおこなわれる様子が印象的だった。学部1年生から大学院生までの全学年が参加することが特徴の本展が、学生たちの「学び」に重きを置いている展覧会であることの表れだといえる。授業で制作された、学びの成果の作品展示があるなど、学生たちの課題解決のプロセスを鑑賞者も知ることができる。さらに、体験型や参加型の作品も多くあり、展示方法も新キャンパスの空間を生かしたものであるなど、鑑賞者は空間のなかでインタラクティブに展示を体感することができただろう。学年や学科を超えた学生同士の交流、鑑賞者と作品の交流の中で生み出される「学び」の空間としての展覧会。それが学生たちにとって新たな刺激になったに違いない。
次のステップへ
新キャンパスに全面移転して初の展覧会。新たな京都市立芸術大学の節目にふさわしいものであった。学生たちは本展を通して得た学びを、次の作品制作に生かしていくことだろう。また、異なる専攻の作品が同じフロアで展示されるなど、ジャンルを横断した鑑賞が楽しめたことも興味深かった。本展覧会に合わせて学科・専攻を超えた対談がおこなわれるなど、相互に刺激し合おうという彼らの意欲が感じられる。鑑賞者や他の学生、作品との相互関係を通して磨かれていく作品たちは、学生たちの今後のさらなる進化を予感させた。
■2023年度 京都市立芸術大学 作品展
※この展覧会はすでに終了しています。
・会期 2024年2月7日(水)〜2月11日(日)
・会場 京都市立芸術大学
・URL https://kcua-sakuhinten.com
[information]
京都市立芸術大学
・住所 京都市下京区下之町57-1
・電話 075-585-2002(教務学生課 美術教務担当)
・URL https://www.kcua.ac.jp