レビュー

[レビュー] 
笠間日動美術館 開館50周年

「夭折の画家たち -青春群像-」展示風景1

茨城県笠間市にある笠間日動美術館は、今年11月に開館50周年を迎えた。現在同館では、50周年を記念する展覧会「夭折の画家たち -青春群像-」が開催されている。その開幕から10日ほど経った10月11日、プレスを対象としたバスツアーが実施され、「美術屋・百兵衛ONLINE」のスタッフも参加した。このレビューでは、ツアーの模様をお伝えする。

かつて魯山人の住居だった
春風萬里荘

笠間日動美術館は、日本を代表するギャラリーである日動画廊の創業者・長谷川仁が1972(昭和47)年、郷里の茨城県笠間市に私財を投じて設立した美術館である。今回のバスツアーの出発地は、今も銀座にあるその日動画廊であった。午前11時に出発し、バスに揺られること約2時間。一行は笠間市下市毛の春風萬里荘に到着。ここは、笠間日動美術館の分館で、焼き物の町・笠間の市街地を包むようにして広がる緑濃い丘陵地に立っている。
春風萬里荘外観
1964(昭和39)年、洋画家・朝井閑右衛門と小説家・田村泰次郎が、長谷川仁とともに笠間を訪問。その際に「笠間にアトリエを作りたい」という作家たちの要望を伝えたことから「芸術の村」の構想が生まれた。その翌年、北大路魯山人が住居としていた約300平方メートルの茅葺き民家を北鎌倉より移築。「春風萬里荘」と名付けられ、「芸術の村」が開設される。
春風萬里荘入口
かつて馬屋だった場所をリノベーションした洋間には、暖炉や棚板、床に魯山人の意匠を使用。また、壁や天井には馬屋時代の面影が残されている。総タイル(陶器)の五右衛門風呂や廊下突き当たりにあるステンドグラスなど、この場所でしか見ることができないような貴重なものも少なくない。
春風萬里荘内観
現在、芸術の村には、洋画家、日本画家、彫刻家、陶芸家、染織家らの約40戸のアトリエが点在。また、春風萬里荘の前には広大な回遊式庭園があり、春は桜、秋は紅葉の名所として知られている。庭園をはじめとする豊かな自然の中、芸術家たちはそれぞれ制作に打ち込んでいるのだ。
滞在時間が約20分しかなかったため、すべてを見ることはできなかったが、建物の意匠や魯山人の器など素晴らしいものが多いと感じた。日を改めてもう一度訪問してみたいと思ったほどだ。

著名画家が愛用したパレットなど
ここでしか見ることのできないコレクション

約20分間かけて春風萬里荘内を見て庭園を散策した後、ツアーは笠間日動美術館へと向かった。丘陵地に位置する同館の敷地内にはパレット館、フランス館、企画展示館と3つの展示館が立ち並び、中心部には緑豊かな野外彫刻庭園が広がっている。その庭園にあるのは、木内克、本郷新、柳原義達、舟越保武ら、日本の具象彫刻界を代表する作家の秀作19体。竹林や四季折々の花樹を背景に、あでやかな美の競演を繰り広げている。
笠間日動美術館 野外彫刻庭園の写真
一般的に美術館では、絵画などの美術作品や関連資料を収蔵している。笠間日動美術館で特徴的なのは、世界的にも珍しいパレットのコレクション。同館の創設者である長谷川仁が、親交の深い画家たちから愛用のパレットを譲り受けたことがその始まりとなったらしい。日本人画家たちのものだけでなく、ピカソやダリなどのパレットもコレクションし、展示替えをおこないながら230点ほどが常時紹介されている。
笠間日動美術館 パレット館1F展示風景
展示品を見て気付くのは、ほとんどのパレットには絵具の跡が残っているだけでなく、その画家の好む主題が描かれていること。花、裸婦、風景、人物などユーモアあふれる何かが描かれており、見飽きることがない。例えば、向井潤吉のパレットには煮干しが描かれている。描いても描いても画商に巻き上げられる作家を、出涸らしであると揶揄したもの。当時の画廊と画家の親密度がわかるとともに、向井のウィットに富んだ人柄も感じられるではないか。また、パレットの配色からは、画家の創作の秘密をうかがい知ることもできる。特殊なツアーだけに駆け足での拝観となったが、有名画家のパレットを見る機会などほとんどないだけに、他館では出会うことのない面白さを感じられた。
向井潤吉のパレット写真
フランス館は、主に同館のフランス美術コレクションを常設展示する施設。2階では、日本の近代絵画に大きな影響を与えたヨーロッパ印象派からエコール・ド・パリへと続く、フランスゆかりの著名画家の作品が幅広く紹介されている。印象派の始祖モネに始まり、ドガ、ルノワール、ゴッホ、セザンヌ、ボナール、マチス、ピカソ、さらにエコール・ド・パリのシャガール、ローランサン、スーチン、フジタなど、綺羅星の如き作家たちの名画が並ぶ様子は壮観だ。また、1階には創設者を顕彰する意味を込めて設けられた長谷川仁・林子記念室、デッサン室、ミュージアムショップがある。スーラのコンテ、ルドンのパステル画、ドンゲンの水彩画など、小さいながらも珠玉の名品が展示されたデッサン室は、その中でも特に見逃せないだろう。

開館50年記念
「夭折の画家たち -青春群像-」

企画展示館で開催されていたのが、このツアー時のメイン展示となる「夭折の画家たち -青春群像-」。青木繁や関根正二、中村つね、村山槐多かいた、佐伯祐三、岸田劉生、松本竣介など、将来を嘱望されながらも、若くしてこの世を去った画家たち。会場に並ぶ多彩な作品からは、新しい芸術の創造に生命を燃やす彼らの熱い思いが感じられた。
「夭折の画家たち -青春群像-」展示風景3
これだけの作品が収蔵・公開できるのも、館の母体が日動画廊という、日本で最も歴史のある洋画商だからであろう。多くの芸術家と親交を結び、まだ海の物とも山の物ともつかぬ頃から若手画家たちを支援してきたことが、現在の貴重なコレクションにつながっているのだ。特に松本竣介と佐伯裕三に関しては、個人的にかつて観た記憶がない作品に接することができ、非常に有意義な体験となった。
会期は12月18日までと、あと1ヶ月少々残っている。この展覧会をまだ観ていない方は、ぜひ現地に足を運んでいただきたい。
「夭折の画家たち -青春群像-」展示風景2

「没後55年 藤田嗣治展」など
来年も注目の展覧会が開催される

ツアーの最後に、長谷川徳七館長のあいさつ及び「夭折の画家たち -青春群像-」展開催の経緯などの記者発表がおこなわれた。
笠間日動美術館館長 長谷川徳七
そこで公表されたのが、2023年度の展示スケジュール。3月には「画家 岸田劉生の軌跡 油彩画、装丁画、水彩画などを中心に」、4月からは「生誕140年記念 北大路魯山人展」、そして9月から年末にかけての「没後55年 藤田嗣治展」など、来年も必見の展覧会が予定されている。また、4月にはパレット館5階に奥谷博記念室が新しくオープン。奥谷と川崎市岡本太郎美術館の土方明司館長とのギャラリートークも予定されている。
開館51年目となる2023年も、笠間日動美術館から目が離せそうにない。

[information]
開館50年記念 夭折の画家たち -青春群像-
・会期 2022年10月1日(土)~ 12月18日(日)
・会場 笠間日動美術館 企画展示館
・住所 茨城県笠間市笠間978-4
・時間 9:30〜17:00(入館受付は16:30まで)
・休館日 毎週月曜日
・入館料 大人1,000円、65歳以上800円、大学・高校生700円、中学生500円、小学生以下無料
・割引 20名以上の団体は各200円割引、障害者手帳をお持ちの方とその同伴者1名は各半額割引
・TEL 0296-72-2160
・URL http://www.nichido-museum.or.jp